92 / 166
第92話 思ってるよりも強い
しおりを挟む
騎士的な戦い方をしなくても良いのか。
それはバトムスにとって、非常に重要な内容だった。
他の孫たちと戦うと決まってから…………それよりも前から、バトムスは真正面からでも戦えるように訓練を積んできた。
だが、戦いに関してバトムスの本質は騎士ではなく、戦士でもなければ勇者でもない。
分類するなら、斥候に近い。
罠を張り、トラッシュトークをぶつけ、相手の心を揺さぶる。
心だけではなく体勢までブレたところで、止めの一撃を与える。
バトムスが得意とする戦い方は、そういった内容である。
「あぁ、それで構わない」
「……本当に構わないの?」
「勿論だ。まぁ、あいつらも多少の文句は言うとは思うが、心の内では解っている筈だ」
ただの執事ではなく、戦う執事となれば襲われた際の最優先は主を守り、逃がすこと。
その為ならば毒を使うことは珍しく、過去のそういった戦う執事の中には、冒険者などからも恐れられるほどの毒使いもいた。
「とはいえ、バトムスであれば真正面から戦っても勝てるとは思うが」
「歳は俺とあまり変わらないんでしったけ」
「あぁ」
「…………でも、俺より才能がある奴がいても全然おかしくないと思うんで、可能なら真正面から戦わないですよ」
多くの者から見れば、才能の塊ではないのか? と思われる。
しかし、バトムスの場合は転生者というアドバンテージと本人の戦闘訓練や鍛冶、錬金術などに関して楽しむという姿勢が重なっているからこそ、早熟しているだけ。
決して才能がゼロという訳ではないが、ずば抜けた才能マンでもない。
「そうか……お前らしい考えだな」
既に孫がそういうタイプだと知っているため、やはりゼペルは戦い方に関してあぁしろこうしろとは言わない。
(……本当に出来ればこうしてほしい、みたいな事を言わないってのは、俺が執事候補としては全く訓練してないっていうことを伝えてるのか?)
バトムスの予想通り、ゼペルは友人たちにバトムスの事を執事候補として自慢していた訳ではない。
ただ、本当に凄い孫として自慢していた。
「えっとさ、ちなみに売り言葉で買い言葉的な流れになったら、相手の立場を気にせず言い返したりしなくても良いのかな?」
「それも構わないぞ」
実際のところ、家で勝負しようとすれば雇い主の方まで遡っていくと……バトムスの方は辺境伯家。
バトムスがルチアの執事候補として参加したパーティーでは、まだ上手く自身が居る世界の立ち位置を理解出来ていない三馬鹿が辺境伯家の令嬢であるルチアを侮辱するような真似をした。
ただ……実際のところ、アブルシオ辺境伯家と喧嘩したい家など、そうそういない。
実家が執事家系や騎士家系などではなく、貴族であったとしても……基本的に男爵家か子爵家の令息。
「バトムスは執事候補として社交界に参加していないから解らないかもしれないが、アブルシオ辺境伯家は貴族の世界でも上位に位置する力を持つ家なんだ」
「そ、そうなんですね」
実際のところ、バトムスも多少は理解している。
ルチアというお転婆お嬢が第五とはいえ、正真正銘の王子であるアルフォンスの婚約者候補として上がっている時点で、実家の格が高くなければあり得ないということぐらいは解る。
ただ、ゼペルが孫に伝えた通り……本当にバトムスが思っている以上に、貴族の世界でアブルシオ辺境伯家は強い力を有している。
そのため、他の孫たちと言い争い、暴言ぶつけ合い戦になったとしても、それが原因で祖父や両親の雇い主であるギデオンに迷惑を掛けることにはならない。
だから安心して戦ってくれと伝えられ、バトムスの中に残っていた緊張感は完全に消えた。
それから約五日間……ギデオンが二人の為にと馬車と護衛を用意していたお陰で、何事もなく、あっという間に目的の街であるフィーズに到着。
(……クレステントに比べればそこまで大きくないな)
幾つもの街を見てきた訳ではない。
故郷であるクレステント、社交界に参加する為に訪れた都市。
その二つしか知らないものの、それらと比べれば確かに大きくはない。
とはいえ、決して全体的にレベルが低いという都市でもない。
「すまない、揺り籠という宿が何処にあるか教えてもらっても良いかな」
揺り籠というのは、今回孫馬鹿たちが集めると決めた宿の名前。
尋ねられた門兵は相手が相手ということもあり、迅速に……丁寧な対応で揺り籠までの道のりを伝えた。
数分後、到着した宿、揺り籠はあまり知識のないバトムスから見ても、それなりに小奇麗と感じる外装をしていた。
(派手過ぎず、でもボロっちい感じはしない……なんか、癒される? 感じだな)
内装に関しても外装と同じく派手過ぎず、しかし貧相ではない。
丁度良い小奇麗さを有しており、来客たちに落ち着きを与える空間となっていた。
「お早い到着ですね、ゼペル」
貰ったカギの部屋に移動する前に、一階の食堂で紅茶を飲んでいた老人がゼペルに声をかけた。
それはバトムスにとって、非常に重要な内容だった。
他の孫たちと戦うと決まってから…………それよりも前から、バトムスは真正面からでも戦えるように訓練を積んできた。
だが、戦いに関してバトムスの本質は騎士ではなく、戦士でもなければ勇者でもない。
分類するなら、斥候に近い。
罠を張り、トラッシュトークをぶつけ、相手の心を揺さぶる。
心だけではなく体勢までブレたところで、止めの一撃を与える。
バトムスが得意とする戦い方は、そういった内容である。
「あぁ、それで構わない」
「……本当に構わないの?」
「勿論だ。まぁ、あいつらも多少の文句は言うとは思うが、心の内では解っている筈だ」
ただの執事ではなく、戦う執事となれば襲われた際の最優先は主を守り、逃がすこと。
その為ならば毒を使うことは珍しく、過去のそういった戦う執事の中には、冒険者などからも恐れられるほどの毒使いもいた。
「とはいえ、バトムスであれば真正面から戦っても勝てるとは思うが」
「歳は俺とあまり変わらないんでしったけ」
「あぁ」
「…………でも、俺より才能がある奴がいても全然おかしくないと思うんで、可能なら真正面から戦わないですよ」
多くの者から見れば、才能の塊ではないのか? と思われる。
しかし、バトムスの場合は転生者というアドバンテージと本人の戦闘訓練や鍛冶、錬金術などに関して楽しむという姿勢が重なっているからこそ、早熟しているだけ。
決して才能がゼロという訳ではないが、ずば抜けた才能マンでもない。
「そうか……お前らしい考えだな」
既に孫がそういうタイプだと知っているため、やはりゼペルは戦い方に関してあぁしろこうしろとは言わない。
(……本当に出来ればこうしてほしい、みたいな事を言わないってのは、俺が執事候補としては全く訓練してないっていうことを伝えてるのか?)
バトムスの予想通り、ゼペルは友人たちにバトムスの事を執事候補として自慢していた訳ではない。
ただ、本当に凄い孫として自慢していた。
「えっとさ、ちなみに売り言葉で買い言葉的な流れになったら、相手の立場を気にせず言い返したりしなくても良いのかな?」
「それも構わないぞ」
実際のところ、家で勝負しようとすれば雇い主の方まで遡っていくと……バトムスの方は辺境伯家。
バトムスがルチアの執事候補として参加したパーティーでは、まだ上手く自身が居る世界の立ち位置を理解出来ていない三馬鹿が辺境伯家の令嬢であるルチアを侮辱するような真似をした。
ただ……実際のところ、アブルシオ辺境伯家と喧嘩したい家など、そうそういない。
実家が執事家系や騎士家系などではなく、貴族であったとしても……基本的に男爵家か子爵家の令息。
「バトムスは執事候補として社交界に参加していないから解らないかもしれないが、アブルシオ辺境伯家は貴族の世界でも上位に位置する力を持つ家なんだ」
「そ、そうなんですね」
実際のところ、バトムスも多少は理解している。
ルチアというお転婆お嬢が第五とはいえ、正真正銘の王子であるアルフォンスの婚約者候補として上がっている時点で、実家の格が高くなければあり得ないということぐらいは解る。
ただ、ゼペルが孫に伝えた通り……本当にバトムスが思っている以上に、貴族の世界でアブルシオ辺境伯家は強い力を有している。
そのため、他の孫たちと言い争い、暴言ぶつけ合い戦になったとしても、それが原因で祖父や両親の雇い主であるギデオンに迷惑を掛けることにはならない。
だから安心して戦ってくれと伝えられ、バトムスの中に残っていた緊張感は完全に消えた。
それから約五日間……ギデオンが二人の為にと馬車と護衛を用意していたお陰で、何事もなく、あっという間に目的の街であるフィーズに到着。
(……クレステントに比べればそこまで大きくないな)
幾つもの街を見てきた訳ではない。
故郷であるクレステント、社交界に参加する為に訪れた都市。
その二つしか知らないものの、それらと比べれば確かに大きくはない。
とはいえ、決して全体的にレベルが低いという都市でもない。
「すまない、揺り籠という宿が何処にあるか教えてもらっても良いかな」
揺り籠というのは、今回孫馬鹿たちが集めると決めた宿の名前。
尋ねられた門兵は相手が相手ということもあり、迅速に……丁寧な対応で揺り籠までの道のりを伝えた。
数分後、到着した宿、揺り籠はあまり知識のないバトムスから見ても、それなりに小奇麗と感じる外装をしていた。
(派手過ぎず、でもボロっちい感じはしない……なんか、癒される? 感じだな)
内装に関しても外装と同じく派手過ぎず、しかし貧相ではない。
丁度良い小奇麗さを有しており、来客たちに落ち着きを与える空間となっていた。
「お早い到着ですね、ゼペル」
貰ったカギの部屋に移動する前に、一階の食堂で紅茶を飲んでいた老人がゼペルに声をかけた。
143
あなたにおすすめの小説
異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました
雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。
気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。
剣も魔法も使えないユウにできるのは、
子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。
……のはずが、なぜか料理や家事といった
日常のことだけが、やたらとうまくいく。
無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。
個性豊かな子供たちに囲まれて、
ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。
やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、
孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。
戦わない、争わない。
ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。
ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、
やさしい異世界孤児院ファンタジー。
劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?
はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、
強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。
母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、
その少年に、突然の困難が立ちはだかる。
理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。
一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。
それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。
そんな少年の物語。
猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める
遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】
猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。
そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。
まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。
ゲームちっくな異世界でゆるふわ箱庭スローライフを満喫します 〜私の作るアイテムはぜーんぶ特別らしいけどなんで?〜
ことりとりとん
ファンタジー
ゲームっぽいシステム満載の異世界に突然呼ばれたので、のんびり生産ライフを送るつもりが……
この世界の文明レベル、低すぎじゃない!?
私はそんなに凄い人じゃないんですけど!
スキルに頼りすぎて上手くいってない世界で、いつの間にか英雄扱いされてますが、気にせず自分のペースで生きようと思います!
才がないと伯爵家を追放された僕は、神様からのお詫びチートで、異世界のんびりスローライフ!!
にのまえ
ファンタジー
剣や魔法に才能がないカストール伯爵家の次男、ノエール・カストールは家族から追放され、辺境の別荘へ送られることになる。しかしノエールは追放を喜ぶ、それは彼に異世界の神様から、お詫びにとして貰ったチートスキルがあるから。
そう、ノエールは転生者だったのだ。
そのスキルを駆使して、彼の異世界のんびりスローライフが始まる。
転生貴族の領地経営〜現代日本の知識で異世界を豊かにする
初
ファンタジー
ローラシア王国の北のエルラント辺境伯家には天才的な少年、リーゼンしかしその少年は現代日本から転生してきた転生者だった。
リーゼンが洗礼をしたさい、圧倒的な量の加護やスキルが与えられた。その力を見込んだ父の辺境伯は12歳のリーゼンを辺境伯家の領地の北を治める代官とした。
これはそんなリーゼンが異世界の領地を経営し、豊かにしていく物語である。
お前には才能が無いと言われて公爵家から追放された俺は、前世が最強職【奪盗術師】だったことを思い出す ~今さら謝られても、もう遅い~
志鷹 志紀
ファンタジー
「お前には才能がない」
この俺アルカは、父にそう言われて、公爵家から追放された。
父からは無能と蔑まれ、兄からは酷いいじめを受ける日々。
ようやくそんな日々と別れられ、少しばかり嬉しいが……これからどうしようか。
今後の不安に悩んでいると、突如として俺の脳内に記憶が流れた。
その時、前世が最強の【奪盗術師】だったことを思い出したのだ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる