執事なんかやってられるか!!! 生きたいように生きる転生者のスローライフ?

Gai

文字の大きさ
93 / 166

第93話 見抜かれる

しおりを挟む
「シャルプか。お前こそ早い到着だな」

「遅れるよりは良いかと思って」

「それもそうだな」

シャルプと呼ばれた男性は、ゼペルと同じく一目で執事だと解るような雰囲気を有しており、服装も執事のそれ。
モノクルを付けており、非常に知的な雰囲気を漂わせている。

「先に紹介しようか。こっちが私の孫、バトムスだ」

「初めまして、シャルプさん。アブルシオ辺境伯家に仕える従者の子、バトムスと申します。よろしくお願いします」

「これはこれは、丁寧な挨拶をありがとう」

この瞬間、元々優れた眼を有しているシャルプは、直ぐにバトムスの普通ではない様子に気付いた。

(聞いていた話以上に、丁寧な挨拶。どこか情報と食い違っている様な……いや、隠していたとも思えませんね)

前回の孫自慢大会に発展してしまったぷち同窓会よりも以前に行った茶会でも、バトムスという孫に関しては色んな意味で驚かされていると……とても執事には向いてないと説明されていた。

だが、今しがた目の前で行われた挨拶はとても丁寧なものであり、執事候補としては頭を下げる角度なども含めて、文句なしと言えた。

(……例の社交界で行動が全て、ということなのでしょうか)

あれこれ考えつつも、シャルプは自身の孫に挨拶を促す。

「初めまして、ネルドと申します。以後お見知りおきを、バトムス君。ゼペルさん」

「どうも…………?????」

バトムスより少々簡潔ではあるが、それでも礼儀正しい挨拶であり……これから競い合いうバトムスに対し、多少のライバル視はあれど、激しく敵視しているわけではない。

ただ、バトムスはネルドを見て違和感を感じた。

(男……じゃない、よな?)

短髪で、ピシッと整えられている。
執事たちの孫自慢大会という事もあり、バトムスと同じく子供用の執事服を着ている。

しかし、顔はどこか中性的であり、バトムスの知り合いの中だとアシェルに似ている。
そして……対面すれば、どうしても女性だと解る香が漂ってくる。

「おっと、そうだね。先に言っておこうか。ネルドは女の子なんだ」

「そうなんですね。男装執事、ということでしょうか」

「うん、そういったタイプに分類されるね」

珍しくはあれど、片手で数えられるほどの例しかない、という訳ではない。

当然ながら、女性であっても男性に劣らない戦闘力を持つ者は珍しくない。
そして、令嬢によっては傍にいる者が同性の方が落ち着く。
ただ……同じ令嬢、もしくは令息と相対した時、傍にいる者が執事という体を取っている方が、圧を与える場合もある。

「………………」

「? 私の顔に何か付いてるでしょうか」

「いや、そこら辺の令息よりもモテそうだなって思って」

男装執事としてやっていける。
現時点でそう判断出来るほど、女性だと解りつつも……キリッとした凛々しさも持ち合わせているネルド。

バトムスは多くの令息を知っているわけではないが、前回ルチアの執事候補として社交界に参加した際の記憶はそれなりに残っている。
その記憶を掘り返した上で、大多数の令息よりはモテるであろうと確信を持って言えた。

「……褒め言葉として受け取っておきます」

「お、おぅ」

地雷だったかもしれない。
しかし、バトムスからすれば特に嫌味を込めて伝えた訳ではない。

「ゼペル、どうせなら一緒に飲みませんか」

「……そうだな」

これから孫たちが行うのは、家門の行く末が掛かった決闘などではない。
特に疑う必要はなく、二人はシャルプとネルドと共に紅茶と軽食を楽しんだ。

「ゼペルから話を聞いているけど、バトムス君は本当に執事になるつもりはないのかな」

「はい。正直、自分の性に合ってないと言いますか、失礼なのは承知の上なのですが……こう、あまり心が乗らないと言いますか」

「ふむ…………そうなんだね」

やはり、裏で得た情報と繋がっていくと感じるシャルプ。
まだ八歳の子供でありながら、しっかりと言葉を選んでいる。

根は真面目、とは感じられない。
長年執事として行動してきたシャルプの眼は、バトムスの根っこを見破っていた。
ただ……だからこそ、その歳で丁寧に言葉を選べていることに感心し、根っこに上手く仮面を被せられていることに驚きを感じていた。

(心構えや思考力といった意味では、とてもまだ八歳とは思えませんね…………あれだけ、ゼペルが余裕を持っていて、尚且つ自慢する時はあれだけ自慢してきた理由が解りますね)

中身が普通ではない。
それが解っただけでも、シャルプからすれば大きな収穫。

戦闘面に関してはまだ解らないことが多いものの、何かしら飛び抜けた面があると予想出来る。

(せめて、戦う前にネルドに一言伝えておかなければなりませんね)

圧倒的な才を持つ者の風格、生まれながらにして強者である者の雰囲気などはない。
それでも、ただ頭が回る切れ者……それだけとは思えない雰囲気を感じ取るものの、シャルプは可愛い孫が絶対に勝てないとは思っていなかった。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました

雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。 気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。 剣も魔法も使えないユウにできるのは、 子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。 ……のはずが、なぜか料理や家事といった 日常のことだけが、やたらとうまくいく。 無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。 個性豊かな子供たちに囲まれて、 ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。 やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、 孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。 戦わない、争わない。 ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。 ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、 やさしい異世界孤児院ファンタジー。

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?

はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、 強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。 母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、 その少年に、突然の困難が立ちはだかる。 理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。 一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。 それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。 そんな少年の物語。

猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める

遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】 猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。 そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。 まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。

ゲームちっくな異世界でゆるふわ箱庭スローライフを満喫します 〜私の作るアイテムはぜーんぶ特別らしいけどなんで?〜

ことりとりとん
ファンタジー
ゲームっぽいシステム満載の異世界に突然呼ばれたので、のんびり生産ライフを送るつもりが…… この世界の文明レベル、低すぎじゃない!? 私はそんなに凄い人じゃないんですけど! スキルに頼りすぎて上手くいってない世界で、いつの間にか英雄扱いされてますが、気にせず自分のペースで生きようと思います!

才がないと伯爵家を追放された僕は、神様からのお詫びチートで、異世界のんびりスローライフ!!

にのまえ
ファンタジー
剣や魔法に才能がないカストール伯爵家の次男、ノエール・カストールは家族から追放され、辺境の別荘へ送られることになる。しかしノエールは追放を喜ぶ、それは彼に異世界の神様から、お詫びにとして貰ったチートスキルがあるから。 そう、ノエールは転生者だったのだ。 そのスキルを駆使して、彼の異世界のんびりスローライフが始まる。

転生貴族の領地経営〜現代日本の知識で異世界を豊かにする

ファンタジー
ローラシア王国の北のエルラント辺境伯家には天才的な少年、リーゼンしかしその少年は現代日本から転生してきた転生者だった。 リーゼンが洗礼をしたさい、圧倒的な量の加護やスキルが与えられた。その力を見込んだ父の辺境伯は12歳のリーゼンを辺境伯家の領地の北を治める代官とした。 これはそんなリーゼンが異世界の領地を経営し、豊かにしていく物語である。

お前には才能が無いと言われて公爵家から追放された俺は、前世が最強職【奪盗術師】だったことを思い出す ~今さら謝られても、もう遅い~

志鷹 志紀
ファンタジー
「お前には才能がない」 この俺アルカは、父にそう言われて、公爵家から追放された。 父からは無能と蔑まれ、兄からは酷いいじめを受ける日々。 ようやくそんな日々と別れられ、少しばかり嬉しいが……これからどうしようか。 今後の不安に悩んでいると、突如として俺の脳内に記憶が流れた。 その時、前世が最強の【奪盗術師】だったことを思い出したのだ。

処理中です...