執事なんかやってられるか!!! 生きたいように生きる転生者のスローライフ?

Gai

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第111話 条件と感謝

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「アル、お前からの依頼、受けるよ」

「本当かい!!!!!」

「本当だ。嘘じゃない、だから落ち着け」

アルフォンスに自身の短剣を製作してほしい頼み込んだ。
正直なところ、完全に断られると予想していた。

アルフォンスとしては、是非とも自身の短剣をバトムスに造ってほしい。
バトムスが鍛冶師として半人前……それは、アルフォンスもなんとなく解っている。
それでも、友人であるバトムスに造ってほしいという強い思いがあった。

「ご、ごめん」

「いや、俺としてもそこまで喜んでくれるのは嬉しいよ。ただ、少し条件がある」

「依頼金額の上乗せかい?」

「そうじゃない。それは十分だ。俺の頼みは、せっかくアルにわざわざ王都からクレステントに来てもらって悪いが、数日間……もしかしたらそれ以上、朝から夕方ごろまで俺はアルと共にいれない」

「っ……今すぐ、それらの素材を造る、という訳にはいかないんだね」

「無理だな」

アルフォンスの言葉を、バトムスは無理だと……絶対に無理だと即答した。

自身で語った通り、バトムスは鍛冶師としてまだまだ半人前。
それでも、多少なりとも解ることはある。

(今の俺が最高値を出せたとして、ようやく悪くない短剣が造れるかって話だ)

最高値を常に出してこそ一流ではないのか。
その考えはよく解っているが、バトムス自身がまだまだ半人前だと認めているため、そこは考慮してほしく……最高値に至れるまで、流れを引き上げなければならない。

「まず、普段使ってる素材で幾つか短剣を造る。その後、普段使ってない素材を使って短剣を造る」

「? 途中で、練習……に使う素材のランクを変えるのかい?」

鍛冶、製作について詳しくないアルフォンスだが、素材のランクを変えるのは感覚に変な影響をもたらすのではないかと思えた。

「最初の数回か、それ以上かで短剣を造る感覚を極限まで研ぎ澄ませたい。それでな、アル……さっきも言ったけど、俺はまだまだ半人前なんだ」

「う、うん」

「だからな、こういった素材を使って武器を造ったことは、まだ一度もないんだよ」

挑戦しなければ、壁を乗り越えることは出来ない。
それはバトムスも解らなくはない。
ただ……絶対にゴミが出来上がると解っていて、貴重という訳ではないが、半人前が手を出す様な素材を無駄にしたくない。

「つまり、これらの素材と同等の素材を使用することで、無理矢理にでも慣れる、ということだろうか」

「えぇ。その通りです、ゴルドさん」

「そうなんだね……じゃあ「安心しろ。練習に使う素材なら持ってる」っ!!」

言おうとした内容を先回りされてしまったアルフォンス。

(ったく。生産者としては嬉しいけど、一応……卵? としても、客に練習用の素材を買ってもらうのは)

自分にもプライドがある!!! と語れるほど、己の中に芯はないと思っている。
それでも、既にある素材の為に、友人に金を出させるわけにはいかなかった。

「いや、しかし、今回の頼みは……その、僕の我儘だ」

「さっきはあれこれ言ってしまったけど、俺としては嬉しい我儘だ」

「っ!! バトムス……」

「いずれは挑戦しなきゃいけない壁に、今ぶつかるってだけの話だ。だから、そこに関してはそんな心配しなくて良い」

「………………バトムス、本当にありがとう」

感謝の言葉を告げると、アルフォンスは座った状態とはいえ……腰を折った。

「ばっ!!! ……ったく…………俺が言うのはあれかもしれないけど、アル……お前、王子だろ」

「そうだね。でも、友達が我儘を受け入れてくれたんだ。頭ぐらい下げないとね」

「……そうかよ。んじゃ、そういう訳だ。だから、出来上がるまでは……あれだ。せっかくアブルシオ辺境伯家に来たんだから、お嬢の相手でもしてやってくれ」

バトムスとしては、決してルチアの背を押して将来的にはアルフォンスと、なんて考えは欠片もない。

ただ、それ以外に勧める選択肢がなかった。

「ふふ、そうだね。そうさせてもらうよ」

「おぅ、そうしてくれそうしてくれ。んで、シエル。わざわざ鍛冶場にいる必要はないから、訓練するなりエルリック師匠かジョラン師匠の元に行くんだぞ」

「うっ……わ、分かったよ」

シエルとしては丸一日……は無理でも、鍛冶場で同席しようと考えていたが、見事に阻止された。
妹分としては親分の命令を断れず、素直に従ってこれから数日間、朝から夕方までの過ごし方を考える。




「バトムス君」

「ゴルドさん……どうかしましたか?」

アルフォンスがルチアの元へ向かう中、鍛冶場へ向かうバトムスに声を掛けるゴルド。
すると……いきなり九十度に綺麗に腰を折った。

「本当に、感謝する」

「ご、ゴルドさんまで勘弁してくださいよ」

立場が上の者に、年齢が上の者に腰を折りながら感謝の言葉を伝えられ慣れておらず、焦ってしまう。

それでも、ゴルドはバトムスに感謝の言葉を、意を、深く伝えたかった。

「実際のところ、アルフォンス様の頼みは我儘を越えて無茶だという事は、私も理解している。だからこそ、君の懐の大きさに……感謝の意を伝えたかった」

「…………分かりました。その意、確かに受け取りました」

(……なんと、頼もしい表情を浮かべてくれることか)

無責任なことは、口に出来ない。
それでも……ゴルドは、バトムスならやってくれると思えた。
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