【R18】猫は異世界で昼寝した

nekomata-nyan

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6 そのころ日本では

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 同じころ、日本では穏やかな師走の朝を迎えていた。

ルラの住む王都イスタリアとの時差はおおよそ半日。季節は約半年の違いがある。

俊也の妹、朝陽(あさひ)が、こっそり兄の部屋のドアを開けた。
こっそりベッドに近づく。

「おきろ~! あれ?」
 布団をはぐと、ベッドには白猫のぬいぐるみがいるだけだった。

「寒いよ~。布団掛けて」
 えっ……。朝陽は兄とナイトがいない以上に驚いた。

「どうか布団をかけてください。
お願い!」
 朝陽は震える手で布団をかけた。

慌てて階段を駆け降りる。


「お、お母さん……」
 キッチンで味噌汁を作る、母親にむしゃぶりついた。

「どうしたの?」
 母親はコンロを消して、娘に聞いた。

「お兄ちゃんとナイトがいない」
 朝陽は震える声で言った。ぬいぐるみがしゃべったことは、話す勇気がなかった。

「トイレじゃない? ナイトはどこか遊びに出かけてるんでしょ?」

「そうかもしれないけど……。私の言葉、信じてくれる?」

「はいはい。信じますよ」
 母親は炊飯器の蓋を開けて、杓子で炊きたてご飯を混ぜる。

「兄さんのベッドに、白猫のぬいぐるみがいて…しゃべったの。
寒いから布団を掛けてって」

「ナイト、前から怪しいと思ってたのよ。
しゃべったり、白のぬいぐるみになる程度なら朝飯前。
そんな感じしない?」

「確かにそんな感じはするけど。じゃ、兄さんは?」

「だから、トイレでしょ? もう一度呼んできて」
 母親は相手にしなかった。ナイトが普通の猫でないことは、薄々気づいていたが、そこは俊也の母親。

俊也の超楽天主義は、母親譲りだった。

「こわいよ~! お母さん、付いてきて」

「もう、しょうがないわね。あなた~、起きてる?」

「ああ、起きてるぞ」
 父親の声が寝室から聞こえた。

母親はしり込みする朝陽の背中を押して、二階へ上った。

三十秒後、母親の盛大な悲鳴が家中に響き渡った。


 俊也の両親と妹が、ベッドの横に並んで座っていた。

「それで、俊也とナイトは、どこへ行ったのでしょうか?」
 父親の和也がぬいぐるみに聞く。ぬいぐるみは、ちゃんと猫ポーズで座っている。

「多分イスタルト王国だと思う。
ビリヤードって知ってるでしょ?」
 青形家一同うなずく。

「私が手玉だと考えてちょうだい。
私がイスタルトから飛んできて、物体化する。
私に当たった猫と俊也? 
その人たちが、転移魔法の魔法陣出口にはじかれた。そういうことだと思う。
私、ただのぬいぐるみだったんだけど、ルラの愛情を一身に注がれていた。
だからある程度、イスタルトの記憶があるの。
ルラは天才級の魔導師だから、知らないうちに、多少の魔力が蓄えられていたのかもしれない。
あ、名前はプリンよ」
 家族三人は納得しきれないが、とりあえずうなずく。

「そのナイト? 絶対普通の猫じゃないでしょ? 
ありえないほどの魔力の持ち主。
当たった衝撃で魔力が伝播(でんぱ)されたらしい。
魔法のぬいぐるみになっちゃった、といったところ?」 

「あの~、プリンちゃん、兄さんとナイトは大丈夫なの?」
 十歳の朝陽は、ナイトの異常ぶりを最も素直に受け入れていた。だからそれほど驚かなかった。

「なんとなく大丈夫な気がする。
なんとなく私の主人ともうまくいってる気がする。
起きてるときは……、おやすみなさい。
布団掛けてね」
 プリンは大きな猫目をあけたまま、眠ってしまったようだ。

『起きてるときは』どうなの? と、三人とも気になったが、どうやら俊也もナイトも生きているようだ。
三人とも仕事や学校がある。とりあえず出かけることにした。


母親の美佐枝は、会社に着いてすぐ、学校に電話をかけた。息子が急に発熱し、数日間休む旨(むね)を告げた。

担任は俊也急病の知らせを受け、うるさいほど「受験大丈夫そうですか?」という感じのことを聞いてきた。美佐枝は「多分大丈夫だと思います」と繰り返すしかなかった。

本当に大丈夫だろうか?
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