【R18】猫は異世界で昼寝した

nekomata-nyan

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16 美少女BBAがやってきた

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 朝陽にスマホで呼び出され、カナは慌てて飛んできた。

「はあ、はあ……。お兄ちゃん、無事だったのね。顔を見てほっとした」
 玄関で迎えた俊也を見て、カナは脱力した。彼女のショートにまとめた黒髪は、軽く乱れていた。

丸い顔に一重まぶた。美人判定したら微妙だが、クラスで一番の人気者。カナも朝陽も、いわば庶民派アイドルというイメージ。カナは一人っ子だから、俊也・朝陽兄妹とは、まるで家族のように付き合ってきた。

「心配させてごめん。寒いだろ? まあ入って」
 俊也は心から頭を下げた。リビングへ誘う。

「朝陽、インスタントでいいからコーヒー頼める?」

「ちょっと、カナちゃん、聞いてよ。
お兄ちゃん、私やカナちゃんに黙って、事実婚しちゃったんだって。
相手は美魔女だそうよ。四十八歳のBBA(ババアの略。若者のヘイト用語)。
どう思う?」
 朝陽は兄の依頼を無視し、告げ口する。

「事実婚! 同棲ってこと?」
 カナは柳眉を吊り上げて詰め寄る。

「まあ、そうなんだけど……。朝陽、余計なこと言わないでいいから、コーヒー頼む」
 朝陽は全然ウソを言ってないから、俊也は強く出られない。もともと力関係は、はるかに妹優勢だったし。

「余計なことじゃないでしょうが! 
実の妹と妹もどきよ! 
私はカナちゃんしか、お兄ちゃんの嫁と認めない!」

「朝陽、落ち着いて。詳しい話を聞こう」
 カナは自分の高ぶりを抑えながら言った。お兄ちゃんの嫁なんて意識したことはなかったが、無性に悔しい。

朝陽は兄をにらみつけ、キッチンへ向かった。カナちゃんはコートも着てなかった。温かい飲み物が欲しいだろう。

俊也とカナは、向かい合う形で、気まずくソファーに腰掛けた。


 朝陽がドリップで淹れたコーヒーを運んで来た時、俊也はいきさつをかいつまんで話していた。

少し冷静になった朝陽は、黙ってコーヒーを配り、ドスンと兄の隣に腰掛ける。

全く信じられない話だが、状況は信じるしかないということを示している。俊也はどうしてルラと大人の階段を上ったのか、という部分にさしかかった。
朝陽が拒否した部分だ。朝陽が一番信じられなかった部分でもある。

お兄ちゃんが出会ったばかりの女性と、すぐエッチしちゃうような男ではないと信じていた。

お兄ちゃんはお調子者だが、面識が浅い女性に対しては慎重な人だった。

本人いわく。「頑張って話そうと思ったら、空回りしちゃう」。自意識過剰で、ついおどけてしまう。
それが自分でも分かっているから、若い女性を避けていると朝陽は分析していた。

朝陽は今日十一歳になったばかりだが、年齢にふさわしくない鋭い感性も持っていた。


「侍女のルマンダという人で、実験しようと思ったみたい。ルラ以外の人間でも、変身するのかってこと。
ルラは学究肌の女だから」

「ルマンダっていう人、若いの?」
 朝陽は低い声で聞く。

「百歳近いらしい」

「百歳! マジBBAじゃん!」
 朝陽は、またしてもヘイト発言。

「一応断っておくけど、高い魔力を持つ人間は、主に貴族階級なんだけど、平均年齢が三百歳ぐらいだって。
ルラはカナちゃんとほとんど変わらない感じ。
ルマンダは三十前後の見た目。
うらやましいことに、若い季節が信じられないほど長い」
 なんですと! 朝陽もカナもびっくり。

若さのアドバンテージ消えた~……。

「で、お兄ちゃんはどうなるわけ?」
 衝撃から立ち直ったカナが聞く。

「見当もつかない」
 朝陽とカナはコクコクとうなずく。それはそうだろう……。

「で、ルマンダなんだけど……」
 衝撃発言、つまり、俊也はルマンダとのセックスを切り出した。

蒼白になった二人は、「フケツ!」と言い残し、リビングを出ていった。

だよね~……。だが、妹たちに(俊也はカナも妹認定している)、嘘をつきたくなかった。いつかは引き合わせようと思っていたから。


『すまぬ。俺の性格が反映したと思う。さかった若い雌猫を見たら、手当たりしだい食べちゃうから』
 俊也は猫又ナイトの言葉に、奇妙に納得してしまった。なるほどね~……。
据え膳食わぬは男の恥、そのイズムは野性に共通する。

この後、フォローできるだろうか? 俊也はあちらの世界に帰りたくなった。



 朝陽の部屋。二人はべそをかきながら、朝陽のベッドに座っていた。

「カナちゃん、どう思う?」
 朝陽が力なく振る。

「許せない! だけど、話してくれたのは誠実だと思う。お兄ちゃんらしい」
 カナはマジでそう思った。異世界での出来事だ。黙っていれば、ばれるわけない。

悔しいが、私や朝陽ちゃんに責める権利もない。お兄ちゃん、もうすぐ十八になるし。

恋愛の自由を責める自分たちの方が理不尽なのだ。
 
朝陽のスマホにメールが入った。

『ごめん。それしか言えない。
父さんと母さんに顔を見せたら帰る。二度と帰らないから。
さようなら。
カナちゃんにも謝っておいて』

「どうしよう……。お兄ちゃん、二度と帰らないって!」
 朝陽が泣き顔で叫ぶ。

「どうしてよ! 怒ったのかな? 
……怒るのも当然だ。
私たちに、お兄ちゃんを縛る権利はない」
 カナはうつむく。なぜだか涙がこぼれてきた。「妹」として、祝福するべきなのだ。

だけど、できない。カナは初めて気づいた。私は男性としてのお兄ちゃんが大好きなのだ。

二人はどよ~んとして、沈黙の海に沈んだ。


 十分ほど経っただろうか。ドアがノックされた。二人は、はっとしてドアを見る。

「開けようか?」
 朝陽はカナを見る。カナは力なくうなずく。まだ心の整理がついていない。できれば今、顔を合わせたくなかったのだが。

「ルラデス。アケテクダサイ」
 たどたどしいが、澄んだ言葉が聞こえた。朝陽はびっくりしてドアを開けた。

「ゴメンナサイ。ミンナワタシガワルインデス」
 金色に光る髪が、深く頭を下げていた。兄のセーターを着、ジーンズをはいていた。
上も下もぶかぶか。くるぶしと手首で、何度も無理やり折り返していた。

ちなにみ、ルラは裸で飛んできた。猫又ナイトが生物と非生物のミックスはないと、伝え忘れていたからだ。

「私たちこそ、ひどい態度とってごめんなさい。
どうか頭をあげて」
 ルラはコケティッシュな服装ながら、どこか高貴なオーラを放っていた。
朝陽は会ったらイジメてやると思っていたが、とてもイジメられる雰囲気ではなかった。

ルラはゆっくり頭を上げた。

朝陽は一歩退き、カナは背を反らした。

朝陽とカナは思った。よくこんなとんでもない美少女、抱く気になれたものだ。

お兄ちゃん、案外大物かもしれない。あ、四十八歳だった。BBAなんて、無茶苦茶失言でした。


 ルラは俊也の両親が帰ってくるまで、この家に残ることにした。大事な問題が発生するはずだという、俊也の言葉もあったし。

「やっぱり思ったとおりだ。小さな山でも、一発で吹き飛ばしたらひどいことになる。
予定のデモンストレーション、だめだよ」
 俊也はくるんと椅子を向け、そう言った。机には奇妙な機械が置いてあった。俊也はカタカタと指を動かし、手のひらより小さい道具をカチカチさせていた。

開いた機械の画面には、山の図面と記号が映されていた。ルラは大いに好奇心が刺激されたが、作業の妨げにならないよう、質問を控えていた。

「やっぱりね。そうじゃないかとも思ったんだけど。
できるだけ派手にやりたいんだけど、無理があるよね?」
 ルラは具体的なイメージを描けなかったが、大岩を破壊する程度の魔法は使ったことがある。
確かに岩の破片が飛び散り、ひどいことになった。どうせならと思って提案したが、大恥をかいてしまった。

「ちょっぴり抜けてるところが、かわいいよ」
 俊也は苦笑気味に慰めた。ルラは思う。可愛いなんていうほめ言葉、いつ聞いただろう? 
ルラはコツンと頭を叩いた。「美人」には美人なりの悩みがある。明らかに贅沢な悩みだが。

「で、その機械はなんなの?」
 ルラは抑えていた質問をした。

「これはパーソナルコンピュータ。略してパソコン。持っていきたいんだけど、電源がね。
一々こっちへ充電しに帰るわけにいかないし。
使い道はいろいろ。
一種の魔法の機械と考えてもらっていい…、忘れてた。
プリン」
 呼びかけに応え、プリンは「は~い!」と駆け寄った。俊也は指輪をプリンの口から取り出す。

「この指輪、カットと研磨し直す。
そのとき、分割した方がいいと思う。
でかすぎて目立つから売りにくいはずだ。
かまわない?」

「そんなことできるんだ? いいよ。ダイヤ、超硬いから加工しにくいの」
 
俊也は思う。これで向こうへ持って帰る物の資金は、調達できそうだ。朝陽とカナちゃんは、ルラと会わせたとたん、態度は軟化した。

カナちゃんは、伊東のおじさんにも頼んでくれると言っていた。俊也は自分の異世界転移の件だけは、話していいと許可を与えている。
 

部屋のドアがノックされた。どうぞ、と俊也が応えると、カナが紙袋を「どうぞ」と差し出した。ルラの着替え購入を頼んでいたのだ。

「ありがとう。指輪が売れたら、お礼はするから」

「いいよ、お礼なんて。
お父さんも商売だし、あんなでかいダイヤだもん。きっと断らない。
ルラさん、着方わかるかな?」

「着方教えてくれるって」
 俊也は日本語がわからないルラに通訳。

「アリガトゴザイマス」
 ルラは笑顔で丁寧に頭を下げた。これは到底かなわない。カナは再び敗北感に打ちしおれた。
 
ルラはセーターを脱いだ。俊也のTシャツを着ていた。でかくはないが、少し上向きの乳房の形がなんとなくわかる。

きれいな形だ…って、なんでお兄ちゃんがいるのよ!

「お兄ちゃん、出ていきなさいよ」
 カナは俊也をにらむ。

「だって、ルラは日本語わからないし、今さらだろ?」

「そうなんだけど……。じゃあ、いいよ」
 
カナは、この二人は肉体的につながっていると改めて実感した。
俊也が遠く感じられた。失踪している時よりも。

「これ、ブラという下着。向こうの国にもあるの?」

「ないみたいだよ」
 俊也はカナの質問に即答する。

「Tシャツ、脱いで」
 俊也が通訳し、ルラはためらいなくTシャツを脱いだ。ぷるん。二つのおっぱいがこぼれ出た。
 なんというか、気品あるおっぱい? 
形といい、乳首や乳輪の色といい。

 カナはルラの上半身ヌードに見とれた。容貌も相まって、完全なる芸術作品だ。

おっぱい丸出しでも、ルラと俊也は平生だった。

裸を見せることも日常化している。カナはそれも合わさって徹底的に打ちのめされた。

なんだか逆にすっきりした。

ルラの背後に回り、ブラをあてがった。前にかがみ、カップをトップに合わせるように指示。
そして、ホックを止める。俊也は通訳しながら、興味津々の目で過程を見守る。

カナはかすかに笑った。裸は慣れてるけど、ブラをつけるシーンは初めてなんだ?

まあ、向こうにはないらしいから当然か。

カナは必要ないと思ったが、一応おっぱいを両手で整形する。巨乳ではないが、たしかな重量感。うらやましい……。

「この下着、ホットテックというの。薄いけど温かいよ」
 もう指導は必要ないだろう。カナは黒の下着を渡した。
ルラはその下着を身につけ、乱れた髪をかき上げた。

一瞬真っ白なうなじがのぞき、すぐ金色の髪が隠した。

なんの装飾もない薄い下着だが、ボディーラインをいっそうすっきり見せた。

はぁ~……と、ため息をつきながら、カナは黒のセーターを渡し、上半身完了。

そして真白の木綿パンツを渡す。ルラはジーンズを脱ぐ。カナはびっくり。

ノーパンだった。下は……、まあまあ生えそろっている。この世界で言えば、多分十七、八歳に相当するだろう。

下もやっぱり金色なんだ……。

お兄ちゃんの下着は貸せないよね。

カナはルラに厚めのタイツ、ストレッチジーンズをはかせ、着替え完了……って。

ジー……。俊也はジーンズのファスナーを上げてやった。

二人とも全然ためらいが感じられなかった。服越しだが、最重要ポイントに軽く触れたのに。

もう参っちゃったよ。お兄ちゃん、よかったねと心から祝福したい気分になった。
 
ルラが屈伸しながら何か言っている。

「とても動きやすいって。同じもの何着か欲しいそうだけど、もう俺の財布からから。
サイズのメモ、残しておいて」

「はいはい。前金、いくらくらい必要? 
用意するよう連絡する」
 カナはさっぱりした表情で聞く。

「ソーラーパネルセット、運べるかな?」
 俊也は独り言のようにつぶやく。

「そうなんだ! それならたいていの物、運べるな。新しいパソコンも買おう!」
 また独り言。そうか、猫又ナイトと相談してるんだ。カナは納得。

「悪いけど、出来るだけ多い方が。
透明度抜群で二十カラット以上あると思う。傷もなし」

「了解! また明日の夜に来る。
ルラさん、忙しいそうだけど、また来てね。
さようなら」
 カナはそう言い残し、部屋を去った。

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