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16 美少女BBAがやってきた
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朝陽にスマホで呼び出され、カナは慌てて飛んできた。
「はあ、はあ……。お兄ちゃん、無事だったのね。顔を見てほっとした」
玄関で迎えた俊也を見て、カナは脱力した。彼女のショートにまとめた黒髪は、軽く乱れていた。
丸い顔に一重まぶた。美人判定したら微妙だが、クラスで一番の人気者。カナも朝陽も、いわば庶民派アイドルというイメージ。カナは一人っ子だから、俊也・朝陽兄妹とは、まるで家族のように付き合ってきた。
「心配させてごめん。寒いだろ? まあ入って」
俊也は心から頭を下げた。リビングへ誘う。
「朝陽、インスタントでいいからコーヒー頼める?」
「ちょっと、カナちゃん、聞いてよ。
お兄ちゃん、私やカナちゃんに黙って、事実婚しちゃったんだって。
相手は美魔女だそうよ。四十八歳のBBA(ババアの略。若者のヘイト用語)。
どう思う?」
朝陽は兄の依頼を無視し、告げ口する。
「事実婚! 同棲ってこと?」
カナは柳眉を吊り上げて詰め寄る。
「まあ、そうなんだけど……。朝陽、余計なこと言わないでいいから、コーヒー頼む」
朝陽は全然ウソを言ってないから、俊也は強く出られない。もともと力関係は、はるかに妹優勢だったし。
「余計なことじゃないでしょうが!
実の妹と妹もどきよ!
私はカナちゃんしか、お兄ちゃんの嫁と認めない!」
「朝陽、落ち着いて。詳しい話を聞こう」
カナは自分の高ぶりを抑えながら言った。お兄ちゃんの嫁なんて意識したことはなかったが、無性に悔しい。
朝陽は兄をにらみつけ、キッチンへ向かった。カナちゃんはコートも着てなかった。温かい飲み物が欲しいだろう。
俊也とカナは、向かい合う形で、気まずくソファーに腰掛けた。
朝陽がドリップで淹れたコーヒーを運んで来た時、俊也はいきさつをかいつまんで話していた。
少し冷静になった朝陽は、黙ってコーヒーを配り、ドスンと兄の隣に腰掛ける。
全く信じられない話だが、状況は信じるしかないということを示している。俊也はどうしてルラと大人の階段を上ったのか、という部分にさしかかった。
朝陽が拒否した部分だ。朝陽が一番信じられなかった部分でもある。
お兄ちゃんが出会ったばかりの女性と、すぐエッチしちゃうような男ではないと信じていた。
お兄ちゃんはお調子者だが、面識が浅い女性に対しては慎重な人だった。
本人いわく。「頑張って話そうと思ったら、空回りしちゃう」。自意識過剰で、ついおどけてしまう。
それが自分でも分かっているから、若い女性を避けていると朝陽は分析していた。
朝陽は今日十一歳になったばかりだが、年齢にふさわしくない鋭い感性も持っていた。
「侍女のルマンダという人で、実験しようと思ったみたい。ルラ以外の人間でも、変身するのかってこと。
ルラは学究肌の女だから」
「ルマンダっていう人、若いの?」
朝陽は低い声で聞く。
「百歳近いらしい」
「百歳! マジBBAじゃん!」
朝陽は、またしてもヘイト発言。
「一応断っておくけど、高い魔力を持つ人間は、主に貴族階級なんだけど、平均年齢が三百歳ぐらいだって。
ルラはカナちゃんとほとんど変わらない感じ。
ルマンダは三十前後の見た目。
うらやましいことに、若い季節が信じられないほど長い」
なんですと! 朝陽もカナもびっくり。
若さのアドバンテージ消えた~……。
「で、お兄ちゃんはどうなるわけ?」
衝撃から立ち直ったカナが聞く。
「見当もつかない」
朝陽とカナはコクコクとうなずく。それはそうだろう……。
「で、ルマンダなんだけど……」
衝撃発言、つまり、俊也はルマンダとのセックスを切り出した。
蒼白になった二人は、「フケツ!」と言い残し、リビングを出ていった。
だよね~……。だが、妹たちに(俊也はカナも妹認定している)、嘘をつきたくなかった。いつかは引き合わせようと思っていたから。
『すまぬ。俺の性格が反映したと思う。さかった若い雌猫を見たら、手当たりしだい食べちゃうから』
俊也は猫又ナイトの言葉に、奇妙に納得してしまった。なるほどね~……。
据え膳食わぬは男の恥、そのイズムは野性に共通する。
この後、フォローできるだろうか? 俊也はあちらの世界に帰りたくなった。
朝陽の部屋。二人はべそをかきながら、朝陽のベッドに座っていた。
「カナちゃん、どう思う?」
朝陽が力なく振る。
「許せない! だけど、話してくれたのは誠実だと思う。お兄ちゃんらしい」
カナはマジでそう思った。異世界での出来事だ。黙っていれば、ばれるわけない。
悔しいが、私や朝陽ちゃんに責める権利もない。お兄ちゃん、もうすぐ十八になるし。
恋愛の自由を責める自分たちの方が理不尽なのだ。
朝陽のスマホにメールが入った。
『ごめん。それしか言えない。
父さんと母さんに顔を見せたら帰る。二度と帰らないから。
さようなら。
カナちゃんにも謝っておいて』
「どうしよう……。お兄ちゃん、二度と帰らないって!」
朝陽が泣き顔で叫ぶ。
「どうしてよ! 怒ったのかな?
……怒るのも当然だ。
私たちに、お兄ちゃんを縛る権利はない」
カナはうつむく。なぜだか涙がこぼれてきた。「妹」として、祝福するべきなのだ。
だけど、できない。カナは初めて気づいた。私は男性としてのお兄ちゃんが大好きなのだ。
二人はどよ~んとして、沈黙の海に沈んだ。
十分ほど経っただろうか。ドアがノックされた。二人は、はっとしてドアを見る。
「開けようか?」
朝陽はカナを見る。カナは力なくうなずく。まだ心の整理がついていない。できれば今、顔を合わせたくなかったのだが。
「ルラデス。アケテクダサイ」
たどたどしいが、澄んだ言葉が聞こえた。朝陽はびっくりしてドアを開けた。
「ゴメンナサイ。ミンナワタシガワルインデス」
金色に光る髪が、深く頭を下げていた。兄のセーターを着、ジーンズをはいていた。
上も下もぶかぶか。くるぶしと手首で、何度も無理やり折り返していた。
ちなにみ、ルラは裸で飛んできた。猫又ナイトが生物と非生物のミックスはないと、伝え忘れていたからだ。
「私たちこそ、ひどい態度とってごめんなさい。
どうか頭をあげて」
ルラはコケティッシュな服装ながら、どこか高貴なオーラを放っていた。
朝陽は会ったらイジメてやると思っていたが、とてもイジメられる雰囲気ではなかった。
ルラはゆっくり頭を上げた。
朝陽は一歩退き、カナは背を反らした。
朝陽とカナは思った。よくこんなとんでもない美少女、抱く気になれたものだ。
お兄ちゃん、案外大物かもしれない。あ、四十八歳だった。BBAなんて、無茶苦茶失言でした。
ルラは俊也の両親が帰ってくるまで、この家に残ることにした。大事な問題が発生するはずだという、俊也の言葉もあったし。
「やっぱり思ったとおりだ。小さな山でも、一発で吹き飛ばしたらひどいことになる。
予定のデモンストレーション、だめだよ」
俊也はくるんと椅子を向け、そう言った。机には奇妙な機械が置いてあった。俊也はカタカタと指を動かし、手のひらより小さい道具をカチカチさせていた。
開いた機械の画面には、山の図面と記号が映されていた。ルラは大いに好奇心が刺激されたが、作業の妨げにならないよう、質問を控えていた。
「やっぱりね。そうじゃないかとも思ったんだけど。
できるだけ派手にやりたいんだけど、無理があるよね?」
ルラは具体的なイメージを描けなかったが、大岩を破壊する程度の魔法は使ったことがある。
確かに岩の破片が飛び散り、ひどいことになった。どうせならと思って提案したが、大恥をかいてしまった。
「ちょっぴり抜けてるところが、かわいいよ」
俊也は苦笑気味に慰めた。ルラは思う。可愛いなんていうほめ言葉、いつ聞いただろう?
ルラはコツンと頭を叩いた。「美人」には美人なりの悩みがある。明らかに贅沢な悩みだが。
「で、その機械はなんなの?」
ルラは抑えていた質問をした。
「これはパーソナルコンピュータ。略してパソコン。持っていきたいんだけど、電源がね。
一々こっちへ充電しに帰るわけにいかないし。
使い道はいろいろ。
一種の魔法の機械と考えてもらっていい…、忘れてた。
プリン」
呼びかけに応え、プリンは「は~い!」と駆け寄った。俊也は指輪をプリンの口から取り出す。
「この指輪、カットと研磨し直す。
そのとき、分割した方がいいと思う。
でかすぎて目立つから売りにくいはずだ。
かまわない?」
「そんなことできるんだ? いいよ。ダイヤ、超硬いから加工しにくいの」
俊也は思う。これで向こうへ持って帰る物の資金は、調達できそうだ。朝陽とカナちゃんは、ルラと会わせたとたん、態度は軟化した。
カナちゃんは、伊東のおじさんにも頼んでくれると言っていた。俊也は自分の異世界転移の件だけは、話していいと許可を与えている。
部屋のドアがノックされた。どうぞ、と俊也が応えると、カナが紙袋を「どうぞ」と差し出した。ルラの着替え購入を頼んでいたのだ。
「ありがとう。指輪が売れたら、お礼はするから」
「いいよ、お礼なんて。
お父さんも商売だし、あんなでかいダイヤだもん。きっと断らない。
ルラさん、着方わかるかな?」
「着方教えてくれるって」
俊也は日本語がわからないルラに通訳。
「アリガトゴザイマス」
ルラは笑顔で丁寧に頭を下げた。これは到底かなわない。カナは再び敗北感に打ちしおれた。
ルラはセーターを脱いだ。俊也のTシャツを着ていた。でかくはないが、少し上向きの乳房の形がなんとなくわかる。
きれいな形だ…って、なんでお兄ちゃんがいるのよ!
「お兄ちゃん、出ていきなさいよ」
カナは俊也をにらむ。
「だって、ルラは日本語わからないし、今さらだろ?」
「そうなんだけど……。じゃあ、いいよ」
カナは、この二人は肉体的につながっていると改めて実感した。
俊也が遠く感じられた。失踪している時よりも。
「これ、ブラという下着。向こうの国にもあるの?」
「ないみたいだよ」
俊也はカナの質問に即答する。
「Tシャツ、脱いで」
俊也が通訳し、ルラはためらいなくTシャツを脱いだ。ぷるん。二つのおっぱいがこぼれ出た。
なんというか、気品あるおっぱい?
形といい、乳首や乳輪の色といい。
カナはルラの上半身ヌードに見とれた。容貌も相まって、完全なる芸術作品だ。
おっぱい丸出しでも、ルラと俊也は平生だった。
裸を見せることも日常化している。カナはそれも合わさって徹底的に打ちのめされた。
なんだか逆にすっきりした。
ルラの背後に回り、ブラをあてがった。前にかがみ、カップをトップに合わせるように指示。
そして、ホックを止める。俊也は通訳しながら、興味津々の目で過程を見守る。
カナはかすかに笑った。裸は慣れてるけど、ブラをつけるシーンは初めてなんだ?
まあ、向こうにはないらしいから当然か。
カナは必要ないと思ったが、一応おっぱいを両手で整形する。巨乳ではないが、たしかな重量感。うらやましい……。
「この下着、ホットテックというの。薄いけど温かいよ」
もう指導は必要ないだろう。カナは黒の下着を渡した。
ルラはその下着を身につけ、乱れた髪をかき上げた。
一瞬真っ白なうなじがのぞき、すぐ金色の髪が隠した。
なんの装飾もない薄い下着だが、ボディーラインをいっそうすっきり見せた。
はぁ~……と、ため息をつきながら、カナは黒のセーターを渡し、上半身完了。
そして真白の木綿パンツを渡す。ルラはジーンズを脱ぐ。カナはびっくり。
ノーパンだった。下は……、まあまあ生えそろっている。この世界で言えば、多分十七、八歳に相当するだろう。
下もやっぱり金色なんだ……。
お兄ちゃんの下着は貸せないよね。
カナはルラに厚めのタイツ、ストレッチジーンズをはかせ、着替え完了……って。
ジー……。俊也はジーンズのファスナーを上げてやった。
二人とも全然ためらいが感じられなかった。服越しだが、最重要ポイントに軽く触れたのに。
もう参っちゃったよ。お兄ちゃん、よかったねと心から祝福したい気分になった。
ルラが屈伸しながら何か言っている。
「とても動きやすいって。同じもの何着か欲しいそうだけど、もう俺の財布からから。
サイズのメモ、残しておいて」
「はいはい。前金、いくらくらい必要?
用意するよう連絡する」
カナはさっぱりした表情で聞く。
「ソーラーパネルセット、運べるかな?」
俊也は独り言のようにつぶやく。
「そうなんだ! それならたいていの物、運べるな。新しいパソコンも買おう!」
また独り言。そうか、猫又ナイトと相談してるんだ。カナは納得。
「悪いけど、出来るだけ多い方が。
透明度抜群で二十カラット以上あると思う。傷もなし」
「了解! また明日の夜に来る。
ルラさん、忙しいそうだけど、また来てね。
さようなら」
カナはそう言い残し、部屋を去った。
「はあ、はあ……。お兄ちゃん、無事だったのね。顔を見てほっとした」
玄関で迎えた俊也を見て、カナは脱力した。彼女のショートにまとめた黒髪は、軽く乱れていた。
丸い顔に一重まぶた。美人判定したら微妙だが、クラスで一番の人気者。カナも朝陽も、いわば庶民派アイドルというイメージ。カナは一人っ子だから、俊也・朝陽兄妹とは、まるで家族のように付き合ってきた。
「心配させてごめん。寒いだろ? まあ入って」
俊也は心から頭を下げた。リビングへ誘う。
「朝陽、インスタントでいいからコーヒー頼める?」
「ちょっと、カナちゃん、聞いてよ。
お兄ちゃん、私やカナちゃんに黙って、事実婚しちゃったんだって。
相手は美魔女だそうよ。四十八歳のBBA(ババアの略。若者のヘイト用語)。
どう思う?」
朝陽は兄の依頼を無視し、告げ口する。
「事実婚! 同棲ってこと?」
カナは柳眉を吊り上げて詰め寄る。
「まあ、そうなんだけど……。朝陽、余計なこと言わないでいいから、コーヒー頼む」
朝陽は全然ウソを言ってないから、俊也は強く出られない。もともと力関係は、はるかに妹優勢だったし。
「余計なことじゃないでしょうが!
実の妹と妹もどきよ!
私はカナちゃんしか、お兄ちゃんの嫁と認めない!」
「朝陽、落ち着いて。詳しい話を聞こう」
カナは自分の高ぶりを抑えながら言った。お兄ちゃんの嫁なんて意識したことはなかったが、無性に悔しい。
朝陽は兄をにらみつけ、キッチンへ向かった。カナちゃんはコートも着てなかった。温かい飲み物が欲しいだろう。
俊也とカナは、向かい合う形で、気まずくソファーに腰掛けた。
朝陽がドリップで淹れたコーヒーを運んで来た時、俊也はいきさつをかいつまんで話していた。
少し冷静になった朝陽は、黙ってコーヒーを配り、ドスンと兄の隣に腰掛ける。
全く信じられない話だが、状況は信じるしかないということを示している。俊也はどうしてルラと大人の階段を上ったのか、という部分にさしかかった。
朝陽が拒否した部分だ。朝陽が一番信じられなかった部分でもある。
お兄ちゃんが出会ったばかりの女性と、すぐエッチしちゃうような男ではないと信じていた。
お兄ちゃんはお調子者だが、面識が浅い女性に対しては慎重な人だった。
本人いわく。「頑張って話そうと思ったら、空回りしちゃう」。自意識過剰で、ついおどけてしまう。
それが自分でも分かっているから、若い女性を避けていると朝陽は分析していた。
朝陽は今日十一歳になったばかりだが、年齢にふさわしくない鋭い感性も持っていた。
「侍女のルマンダという人で、実験しようと思ったみたい。ルラ以外の人間でも、変身するのかってこと。
ルラは学究肌の女だから」
「ルマンダっていう人、若いの?」
朝陽は低い声で聞く。
「百歳近いらしい」
「百歳! マジBBAじゃん!」
朝陽は、またしてもヘイト発言。
「一応断っておくけど、高い魔力を持つ人間は、主に貴族階級なんだけど、平均年齢が三百歳ぐらいだって。
ルラはカナちゃんとほとんど変わらない感じ。
ルマンダは三十前後の見た目。
うらやましいことに、若い季節が信じられないほど長い」
なんですと! 朝陽もカナもびっくり。
若さのアドバンテージ消えた~……。
「で、お兄ちゃんはどうなるわけ?」
衝撃から立ち直ったカナが聞く。
「見当もつかない」
朝陽とカナはコクコクとうなずく。それはそうだろう……。
「で、ルマンダなんだけど……」
衝撃発言、つまり、俊也はルマンダとのセックスを切り出した。
蒼白になった二人は、「フケツ!」と言い残し、リビングを出ていった。
だよね~……。だが、妹たちに(俊也はカナも妹認定している)、嘘をつきたくなかった。いつかは引き合わせようと思っていたから。
『すまぬ。俺の性格が反映したと思う。さかった若い雌猫を見たら、手当たりしだい食べちゃうから』
俊也は猫又ナイトの言葉に、奇妙に納得してしまった。なるほどね~……。
据え膳食わぬは男の恥、そのイズムは野性に共通する。
この後、フォローできるだろうか? 俊也はあちらの世界に帰りたくなった。
朝陽の部屋。二人はべそをかきながら、朝陽のベッドに座っていた。
「カナちゃん、どう思う?」
朝陽が力なく振る。
「許せない! だけど、話してくれたのは誠実だと思う。お兄ちゃんらしい」
カナはマジでそう思った。異世界での出来事だ。黙っていれば、ばれるわけない。
悔しいが、私や朝陽ちゃんに責める権利もない。お兄ちゃん、もうすぐ十八になるし。
恋愛の自由を責める自分たちの方が理不尽なのだ。
朝陽のスマホにメールが入った。
『ごめん。それしか言えない。
父さんと母さんに顔を見せたら帰る。二度と帰らないから。
さようなら。
カナちゃんにも謝っておいて』
「どうしよう……。お兄ちゃん、二度と帰らないって!」
朝陽が泣き顔で叫ぶ。
「どうしてよ! 怒ったのかな?
……怒るのも当然だ。
私たちに、お兄ちゃんを縛る権利はない」
カナはうつむく。なぜだか涙がこぼれてきた。「妹」として、祝福するべきなのだ。
だけど、できない。カナは初めて気づいた。私は男性としてのお兄ちゃんが大好きなのだ。
二人はどよ~んとして、沈黙の海に沈んだ。
十分ほど経っただろうか。ドアがノックされた。二人は、はっとしてドアを見る。
「開けようか?」
朝陽はカナを見る。カナは力なくうなずく。まだ心の整理がついていない。できれば今、顔を合わせたくなかったのだが。
「ルラデス。アケテクダサイ」
たどたどしいが、澄んだ言葉が聞こえた。朝陽はびっくりしてドアを開けた。
「ゴメンナサイ。ミンナワタシガワルインデス」
金色に光る髪が、深く頭を下げていた。兄のセーターを着、ジーンズをはいていた。
上も下もぶかぶか。くるぶしと手首で、何度も無理やり折り返していた。
ちなにみ、ルラは裸で飛んできた。猫又ナイトが生物と非生物のミックスはないと、伝え忘れていたからだ。
「私たちこそ、ひどい態度とってごめんなさい。
どうか頭をあげて」
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朝陽は会ったらイジメてやると思っていたが、とてもイジメられる雰囲気ではなかった。
ルラはゆっくり頭を上げた。
朝陽は一歩退き、カナは背を反らした。
朝陽とカナは思った。よくこんなとんでもない美少女、抱く気になれたものだ。
お兄ちゃん、案外大物かもしれない。あ、四十八歳だった。BBAなんて、無茶苦茶失言でした。
ルラは俊也の両親が帰ってくるまで、この家に残ることにした。大事な問題が発生するはずだという、俊也の言葉もあったし。
「やっぱり思ったとおりだ。小さな山でも、一発で吹き飛ばしたらひどいことになる。
予定のデモンストレーション、だめだよ」
俊也はくるんと椅子を向け、そう言った。机には奇妙な機械が置いてあった。俊也はカタカタと指を動かし、手のひらより小さい道具をカチカチさせていた。
開いた機械の画面には、山の図面と記号が映されていた。ルラは大いに好奇心が刺激されたが、作業の妨げにならないよう、質問を控えていた。
「やっぱりね。そうじゃないかとも思ったんだけど。
できるだけ派手にやりたいんだけど、無理があるよね?」
ルラは具体的なイメージを描けなかったが、大岩を破壊する程度の魔法は使ったことがある。
確かに岩の破片が飛び散り、ひどいことになった。どうせならと思って提案したが、大恥をかいてしまった。
「ちょっぴり抜けてるところが、かわいいよ」
俊也は苦笑気味に慰めた。ルラは思う。可愛いなんていうほめ言葉、いつ聞いただろう?
ルラはコツンと頭を叩いた。「美人」には美人なりの悩みがある。明らかに贅沢な悩みだが。
「で、その機械はなんなの?」
ルラは抑えていた質問をした。
「これはパーソナルコンピュータ。略してパソコン。持っていきたいんだけど、電源がね。
一々こっちへ充電しに帰るわけにいかないし。
使い道はいろいろ。
一種の魔法の機械と考えてもらっていい…、忘れてた。
プリン」
呼びかけに応え、プリンは「は~い!」と駆け寄った。俊也は指輪をプリンの口から取り出す。
「この指輪、カットと研磨し直す。
そのとき、分割した方がいいと思う。
でかすぎて目立つから売りにくいはずだ。
かまわない?」
「そんなことできるんだ? いいよ。ダイヤ、超硬いから加工しにくいの」
俊也は思う。これで向こうへ持って帰る物の資金は、調達できそうだ。朝陽とカナちゃんは、ルラと会わせたとたん、態度は軟化した。
カナちゃんは、伊東のおじさんにも頼んでくれると言っていた。俊也は自分の異世界転移の件だけは、話していいと許可を与えている。
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「ありがとう。指輪が売れたら、お礼はするから」
「いいよ、お礼なんて。
お父さんも商売だし、あんなでかいダイヤだもん。きっと断らない。
ルラさん、着方わかるかな?」
「着方教えてくれるって」
俊也は日本語がわからないルラに通訳。
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ルラはセーターを脱いだ。俊也のTシャツを着ていた。でかくはないが、少し上向きの乳房の形がなんとなくわかる。
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「お兄ちゃん、出ていきなさいよ」
カナは俊也をにらむ。
「だって、ルラは日本語わからないし、今さらだろ?」
「そうなんだけど……。じゃあ、いいよ」
カナは、この二人は肉体的につながっていると改めて実感した。
俊也が遠く感じられた。失踪している時よりも。
「これ、ブラという下着。向こうの国にもあるの?」
「ないみたいだよ」
俊也はカナの質問に即答する。
「Tシャツ、脱いで」
俊也が通訳し、ルラはためらいなくTシャツを脱いだ。ぷるん。二つのおっぱいがこぼれ出た。
なんというか、気品あるおっぱい?
形といい、乳首や乳輪の色といい。
カナはルラの上半身ヌードに見とれた。容貌も相まって、完全なる芸術作品だ。
おっぱい丸出しでも、ルラと俊也は平生だった。
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なんだか逆にすっきりした。
ルラの背後に回り、ブラをあてがった。前にかがみ、カップをトップに合わせるように指示。
そして、ホックを止める。俊也は通訳しながら、興味津々の目で過程を見守る。
カナはかすかに笑った。裸は慣れてるけど、ブラをつけるシーンは初めてなんだ?
まあ、向こうにはないらしいから当然か。
カナは必要ないと思ったが、一応おっぱいを両手で整形する。巨乳ではないが、たしかな重量感。うらやましい……。
「この下着、ホットテックというの。薄いけど温かいよ」
もう指導は必要ないだろう。カナは黒の下着を渡した。
ルラはその下着を身につけ、乱れた髪をかき上げた。
一瞬真っ白なうなじがのぞき、すぐ金色の髪が隠した。
なんの装飾もない薄い下着だが、ボディーラインをいっそうすっきり見せた。
はぁ~……と、ため息をつきながら、カナは黒のセーターを渡し、上半身完了。
そして真白の木綿パンツを渡す。ルラはジーンズを脱ぐ。カナはびっくり。
ノーパンだった。下は……、まあまあ生えそろっている。この世界で言えば、多分十七、八歳に相当するだろう。
下もやっぱり金色なんだ……。
お兄ちゃんの下着は貸せないよね。
カナはルラに厚めのタイツ、ストレッチジーンズをはかせ、着替え完了……って。
ジー……。俊也はジーンズのファスナーを上げてやった。
二人とも全然ためらいが感じられなかった。服越しだが、最重要ポイントに軽く触れたのに。
もう参っちゃったよ。お兄ちゃん、よかったねと心から祝福したい気分になった。
ルラが屈伸しながら何か言っている。
「とても動きやすいって。同じもの何着か欲しいそうだけど、もう俺の財布からから。
サイズのメモ、残しておいて」
「はいはい。前金、いくらくらい必要?
用意するよう連絡する」
カナはさっぱりした表情で聞く。
「ソーラーパネルセット、運べるかな?」
俊也は独り言のようにつぶやく。
「そうなんだ! それならたいていの物、運べるな。新しいパソコンも買おう!」
また独り言。そうか、猫又ナイトと相談してるんだ。カナは納得。
「悪いけど、出来るだけ多い方が。
透明度抜群で二十カラット以上あると思う。傷もなし」
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さようなら」
カナはそう言い残し、部屋を去った。
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