【R18】猫は異世界で昼寝した

nekomata-nyan

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43 このプレートが目に入らぬか! 

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 俊也たちが、町の手前にさしかかったとき。

「あ~れ~、どなたかお助け下さいませ!」
 単に「助けて~」と娘は叫んでいるだけだが、ブルーの脳内妄想ではそう聞こえる。

「おっと、マジできましたよ~。
御老公、いかがいたしますか?」
 俊也は「誰が御老公だよ」と、内心再び突っ込みながら、
「様子見」
 と淡白に応える。

この二人には、身体に対する加減というものが、まだ十分身に付いていない。

俊也はゆうべ、イザベルのお相手を生身で勤め、しみじみと思い知らされている。

青あざ、噛み痕多数。大人しい方のイザベルでこれだから、俊也モードでブルーのお相手は少し怖い。

幸い彼女は、もっぱらレジモードだ。

なんて思っている場合じゃない。

あの女の子、囲まれちゃったよ。あの男たち、どう見ても正義の味方じゃないよね?

「いざさん、ちょっとだけ懲らしめてやりなさい」
 俊也は軽い攻撃を命じる。

「青さんは? ね、ね、青さんは!」
 ブルーは猛烈に抗議する。

「ちょっとだけ、マジで誓う?」
「マジで誓う!」
「では、最小限で懲らしめてやりなさい」
「ラジャー!」
 ブルーは生き生きと突撃した。


 ドスッ、ボコッ、ガス、ボキ……。

結果は……、死者が出なかったようだからよしとしよう。

俊也はがっくりと肩を落とした。俊也に暴走娘たちを抑える力はない。



 俊也の予想より、事態はめんどくさくなった。「手ごめ」にされかけたはずの、町娘が姿を消していた。

もっとも「手ごめ」目的だと俊也は思っていなかった。

十人では数が多すぎる。ちらっと見ただけだが、あの女性はとくに際立った容貌でもなかったし。

何より、目立つ町の入り口で「てごめ」もないだろう。

あの男たちは、他に目的があったのではないかと想像していた。

その十人は、町唯一の病院でうめいているはずだ。


そして、めんどくさい事態とは、俊也たちの方がケンカをふっかけた、と見られていることだった。

被害の状況を鑑みたら、うなずけなくもないが、なんとなく作為が働いている予感。


三人は逮捕され尋問を受けている。尋問しているのは、シャネル侯爵の私兵だ。

ここは私兵の駐屯基地で、警察機能も代行している。

「まず住所と名前を聞こう」
 多分責任者だろう。偉そうにふんぞり返ったおっさんが言った。

「ゆえあって、姓名と住所は明かせません。
シャネル侯爵から特命を受け、この地に滞在しております。
これがその証拠です」
 俊也はいきなりミツバアオイのインローならぬ、ガラスプレートを出した。
 もったいぶって、番組終了間際まで出さないという、お約束はない。

そのシャネル家の紋章が刻まれたプレートの中には、魔石が埋められ、魔力を持った者には侯爵のメッセージが聞ける。

無用のトラブルを避けるため、侯爵が与えてくれたものだ。使用したらシャネル侯爵に伝わるはずだから、かっこ悪くて、本当なら使いたくなかったのだが。

このおっさん、多分あの連中から鼻薬をかがされている。

「確かにシャネル家の紋章はあるが、贋造したのではないか?」
 責任者はプレートを確かめる。

「失礼ながら、魔力はお持ちですか?」
 俊也が聞く。

「残念ながら魔力は持ってない」
 責任者はそっぽを向いて応える。この世界では、魔力を持っていない方が珍しく、引け目に感じているようだ。

「いざさん、投影を」
「はい、御老公」
 まだそのノリ続ける? 反省は不十分のようだ。まあ、いいけど。俊也は苦笑してフォロー。

「ゴローコー、とは私の世をしのぶ仮の名です。
魔法を発動する者はイザサン、赤毛の者はアオサンと呼びならわしております」

「では……」
 いざさんは、ライトとスピークの魔法を使って、壁にシャネル侯爵の姿を映した。


『シャイン・シャネルである。このプレートを持つ者は余の盟友である。
シャネル侯爵領において、一切の自由を余が保証している。
この者と、従者の自由は侵してはならぬ。
なお、余のメッセージを聞きし者は、一層の緊張を持って任務にあたるべし』
 
責任者は、最後の言葉で、侯爵の計算通りの誤解をした。

こいつ…この方は、巡検察官に近い立場だろう。いや、侯爵が『盟友』と呼んだからには、さらに重い任務を帯びた方だ。

巡検察官とは、身分を隠し、領内を巡る監督官だ。要衝に置かれた兵を、監督する任を帯びている。

「失礼ながら、当地に不穏な動きでもあるのでしょうか?」
 責任者はびくびくしながら聞く。思い当たることは、…それほどないのだが。

「わからぬ。当地で滞在しているのは、とある事情で供の者が四名、活動しにくい状況にあるからだ。
この街に来て、偶然若い娘に救いを求められた。
その娘に筋骨隆々の男が、十名襲おうとしていた。
事情はわからぬが、弱い者の味方をしたくなるのは、人情というもの。
間違っておるか?」
 俊也は可能な限り、威厳を取り繕い弁明した。

先入観というものは恐ろしい。責任者は、なんとなく俊也が超偉く見えてきた。

「もちろん、間違っておりません!」
 責任者は、すかさず応えた。

「ならよい。
供の者はひのえ熊との戦闘を終えたばかりで、気が立っておる。
やり過ぎたことは認める。
怪我の保障は……」

「とんでもございません! あの者たちは山師のグループです。
新しい鉱脈を探し、生計を立てております。
税はきちんと払っているので、多少の目こぼしは……」

 はは~ん……、やっぱりね。俊也は大体のストーリーが見えてきた。

「つまり、そのグループは、目に余る寸前のことをやってきたと? 
ずいぶん大きな目を持っておることだな。
襲われた女性の見当も、ついておるだろう? 
想像にすぎないが、その女性はどこからか少しずつ鉱物を持って帰り、生計を立てている。
違うか?」

俊也は襲撃者が「山師」と聞いて、即座に推理した。つまり、おそらくあの娘は、鉱物採集に関する特殊能力を持っており「山師」グループは、その「能力」を欲しがっていたのではないか?

「お、恐れ入りました! 
その通りです。今後思い切り目を小さくします! 
寛大なご処置を!」
 その責任者は極限まで腰を折り、頭を下げた。

「まあよい。今後はそのように計らえ。その女性の名前はなんという?」

「ブリリアンと申します。姓はあるのか不明です」
 この世界で平民は姓を持っていない。たとえば、ルマンダの母親は姓を持たない平民出身だ。

貴族たちは平民の女を、愛妾とするのは恥とする。だから表には絶対出さないと、俊也は聞いていた。ルマンダが父親の姓名を知らないのはそのためである。

「ブリリアンのねぐらに案内せよ。多分住所不定であろうが」
 俊也はブリリアンを、保護するべきだと判断した。この街では、超貴重な獲物であるはずだから。

「おおせのとおり、住所はわかりません。
ただ、その者がよく立ち寄る場所はわかります。
アンリ、ラブミーテンダーへご案内しろ。
くれぐれも粗相のないように」
 アンリと呼ばれた女性兵は、緊張の面持ちで「はい!」と敬礼した。

容疑者の二人が女性だったから、女性兵を警備につけたのだろう。この責任者、そこそこは気がまわると俊也は判断した。
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