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51 そうだ! マスクを…
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俊也はカナとともに日本へ帰った。身近な者に、「抵抗力強化」魔法を施すためだ。俊也は今まで腰を上げなかった。
現在両親は、テレワークしているから、大丈夫だと思っていた。要するに日本での嫁となった、カナの両親が心配だった。
カナが猫又ナイトの事情を話すということで、俊也は超限定の施術出張に出たわけ。ついでに両親も念のために。
もちろんカナと朝陽には、あちらで念入りに魔法をほどこした。
俊也もカナも「変身」のことまでは、カナの両親に話していなかった。
カナの日本嫁認知に関しては、とりあえず高校卒業まで待つ、ということで意見は一致した。
俊也には言わなかったが、日本でのセックス効果を、どうしてもカナは確かめたかった。ルラは「マリョク、ジュウブンノイチデモ、タブン、ダイジョウブ」と言ってくれたが、未検証事案は絶対確認する必要がある、とは表向きの言葉。
「早くもう一度だかれた~い」
が、本音だった。もちろん不満が残るようなら、カナは通い妻になるつもりだ。
俊也とカナは、別荘に迎えた新人の衣服を購入するため、買物へでかけた。
もう陽は傾きかけている。
カナは大満足。日本へ帰ってすぐ、エッチのお試しをした。結果、問題ないことが判明。
まだ体のほてりが生々しく残っている。それは俊也の魔力の影響とは、別種のものだろう。二度目の体験で、落ち着いて快感を味わえた。
なんだか、大人の女になれた気分。
両親が帰る前に、買物を済ませておく必要がある。俊也が施術のため、猫又ナイトスタイルに変身したら、両親にどんな反響があるかわからないから。
「オジサンたち、忙しいみたいだね。店はどうしてるの?」
俊也は周辺の気配に戸惑いながら聞いた。まるで清潔なゴーストタウンだ。川沿いの開きかけた桜も、寂寥感を深める。
花見のドンチャン騒ぎはいただけないが、見る人のいない桜もかわいそうだ。
「店は閉めたままよ。店の賃貸料と、社員二人の給与分八十パーセント。金策が大変なの。もう貯え付きそうだから」
俊也はどこか他人事だった「ウイルス騒動」が、身にしみて実感できた。だが資金を融通できるだけの現金は持っていない。
無理に融通しても、すぐに尽きてしまうだろう。根本的な解決手段はないものだろうか?
もちろん全面解決は不可能だ。せめて嫁の実家だけでも助けたい。
「今、日本で不足しているのは?」
俊也は「ウイルス騒動」の真っ最中にいるカナに聞いた。
「身近なところではマスクね。医療従事者の防御装備なんかも不足してるみたい。
マスク、もう大手のスーパーやドラッグストアにも全然ない」
だろうね……。俊也が予想した通りだった。
「私の手作りマスク、付け心地、どう?」
正直言えばどうかと思う。デザインが。白地にナイトが、刺繍されている。カナちゃんは黒地にプリン。
もうカナちゃんや俺の家族には不要になるだろうが、マスクを着けてないと白眼視されるらしい。もちろん、今も二人は距離を保っている。ソーシャルディスタンス、だそうだ。
強いて言えばそれが最大の不満。
「このマスク、ポケットが付いてるね。何が入ってるの?」
「ガーゼよ。プリン見てたら、超かわいいでしょ? 私も作りたくなって、ガーゼいっぱい買っておいたの。
私の性格が幸いして、まだガーゼはたくさんある。
唾液の飛散は、ある程度抑えられるそうだから」
ポケット付きのマスク……。そうだ、これならいける!
「カナちゃん、オジサンたちが帰ったら、ある程度説明しておいて。
手作りマスクの中に、ある布を入れる。
その布が入っていたら、多分百パー口鼻からの感染は防げる。
急いであっちへ帰る。
買い物は悪いけど任せた。
夜の八時にはカナちゃんちへ行く。
じゃ、よろしく」
取り残されたカナは、呆然と見送った。だが、思い直した。俊也さん、何か思いついたようだ。
私にできること。彼を信じて待つ。ワ~オ、私って、なんてけなげな女!
カナはひっそりと静まる歩道を、ルンルン気分で歩きはじめた。
彼女の世界は変わった。
二日後、大学の医学系研究室や、薬品会社の研究室に封筒が舞い込んだ。中身は一葉の便せんと、ラップで包まれた布きれだった。
便せんには下記の内容が記されていた。
取り急ぎご依頼申し上げます。私は自分探しの旅に出、とある一族と出会いました。
詳しくは申せませんが、同封の布をマスクの中に挟んだら、ウイルスをはじめ、雑菌類を完全殺菌する効果が実現するそうです。
つまり、口や鼻からウイルスを体内から拡散させたり、口鼻をとおして外部から感染することはないと、一族の長は語っております。
私自身、半信半疑ですから、至急この布に、ウイルスを付着させる実験を試みて下さい。
家長の言葉が正しければ、瞬間的に死滅するそうです。
ただ、家長が私の故国日本をはじめ、世界の惨状を心から憂いているのは本当です。
どうかだまされたと思って実験してください。結果がよければ、下記のメールアドレスにご連絡ください。
手作業に負いますから、量産化は不可能であることだけは、お断りしておきます。
したがって、くれぐれもマスコミへの公表はお控えください。収拾がつかない混乱が予想されます。
もちろん政府への連絡はかまいません。週に二千枚程度なら可能だということです。
草々
研究者各位
猫の手の友人より
追伸 メアド jewelry.ito@×××
㈲ジュエリーイトー 代表取締役 伊藤修三宛
「どう思う?」
「とりあえず、だまされたつもりでやってみよう。
猫の手でもすがりたい気分なんだから」
奇(く)しくも、研究者のジョークは的を射ていた。
現在両親は、テレワークしているから、大丈夫だと思っていた。要するに日本での嫁となった、カナの両親が心配だった。
カナが猫又ナイトの事情を話すということで、俊也は超限定の施術出張に出たわけ。ついでに両親も念のために。
もちろんカナと朝陽には、あちらで念入りに魔法をほどこした。
俊也もカナも「変身」のことまでは、カナの両親に話していなかった。
カナの日本嫁認知に関しては、とりあえず高校卒業まで待つ、ということで意見は一致した。
俊也には言わなかったが、日本でのセックス効果を、どうしてもカナは確かめたかった。ルラは「マリョク、ジュウブンノイチデモ、タブン、ダイジョウブ」と言ってくれたが、未検証事案は絶対確認する必要がある、とは表向きの言葉。
「早くもう一度だかれた~い」
が、本音だった。もちろん不満が残るようなら、カナは通い妻になるつもりだ。
俊也とカナは、別荘に迎えた新人の衣服を購入するため、買物へでかけた。
もう陽は傾きかけている。
カナは大満足。日本へ帰ってすぐ、エッチのお試しをした。結果、問題ないことが判明。
まだ体のほてりが生々しく残っている。それは俊也の魔力の影響とは、別種のものだろう。二度目の体験で、落ち着いて快感を味わえた。
なんだか、大人の女になれた気分。
両親が帰る前に、買物を済ませておく必要がある。俊也が施術のため、猫又ナイトスタイルに変身したら、両親にどんな反響があるかわからないから。
「オジサンたち、忙しいみたいだね。店はどうしてるの?」
俊也は周辺の気配に戸惑いながら聞いた。まるで清潔なゴーストタウンだ。川沿いの開きかけた桜も、寂寥感を深める。
花見のドンチャン騒ぎはいただけないが、見る人のいない桜もかわいそうだ。
「店は閉めたままよ。店の賃貸料と、社員二人の給与分八十パーセント。金策が大変なの。もう貯え付きそうだから」
俊也はどこか他人事だった「ウイルス騒動」が、身にしみて実感できた。だが資金を融通できるだけの現金は持っていない。
無理に融通しても、すぐに尽きてしまうだろう。根本的な解決手段はないものだろうか?
もちろん全面解決は不可能だ。せめて嫁の実家だけでも助けたい。
「今、日本で不足しているのは?」
俊也は「ウイルス騒動」の真っ最中にいるカナに聞いた。
「身近なところではマスクね。医療従事者の防御装備なんかも不足してるみたい。
マスク、もう大手のスーパーやドラッグストアにも全然ない」
だろうね……。俊也が予想した通りだった。
「私の手作りマスク、付け心地、どう?」
正直言えばどうかと思う。デザインが。白地にナイトが、刺繍されている。カナちゃんは黒地にプリン。
もうカナちゃんや俺の家族には不要になるだろうが、マスクを着けてないと白眼視されるらしい。もちろん、今も二人は距離を保っている。ソーシャルディスタンス、だそうだ。
強いて言えばそれが最大の不満。
「このマスク、ポケットが付いてるね。何が入ってるの?」
「ガーゼよ。プリン見てたら、超かわいいでしょ? 私も作りたくなって、ガーゼいっぱい買っておいたの。
私の性格が幸いして、まだガーゼはたくさんある。
唾液の飛散は、ある程度抑えられるそうだから」
ポケット付きのマスク……。そうだ、これならいける!
「カナちゃん、オジサンたちが帰ったら、ある程度説明しておいて。
手作りマスクの中に、ある布を入れる。
その布が入っていたら、多分百パー口鼻からの感染は防げる。
急いであっちへ帰る。
買い物は悪いけど任せた。
夜の八時にはカナちゃんちへ行く。
じゃ、よろしく」
取り残されたカナは、呆然と見送った。だが、思い直した。俊也さん、何か思いついたようだ。
私にできること。彼を信じて待つ。ワ~オ、私って、なんてけなげな女!
カナはひっそりと静まる歩道を、ルンルン気分で歩きはじめた。
彼女の世界は変わった。
二日後、大学の医学系研究室や、薬品会社の研究室に封筒が舞い込んだ。中身は一葉の便せんと、ラップで包まれた布きれだった。
便せんには下記の内容が記されていた。
取り急ぎご依頼申し上げます。私は自分探しの旅に出、とある一族と出会いました。
詳しくは申せませんが、同封の布をマスクの中に挟んだら、ウイルスをはじめ、雑菌類を完全殺菌する効果が実現するそうです。
つまり、口や鼻からウイルスを体内から拡散させたり、口鼻をとおして外部から感染することはないと、一族の長は語っております。
私自身、半信半疑ですから、至急この布に、ウイルスを付着させる実験を試みて下さい。
家長の言葉が正しければ、瞬間的に死滅するそうです。
ただ、家長が私の故国日本をはじめ、世界の惨状を心から憂いているのは本当です。
どうかだまされたと思って実験してください。結果がよければ、下記のメールアドレスにご連絡ください。
手作業に負いますから、量産化は不可能であることだけは、お断りしておきます。
したがって、くれぐれもマスコミへの公表はお控えください。収拾がつかない混乱が予想されます。
もちろん政府への連絡はかまいません。週に二千枚程度なら可能だということです。
草々
研究者各位
猫の手の友人より
追伸 メアド jewelry.ito@×××
㈲ジュエリーイトー 代表取締役 伊藤修三宛
「どう思う?」
「とりあえず、だまされたつもりでやってみよう。
猫の手でもすがりたい気分なんだから」
奇(く)しくも、研究者のジョークは的を射ていた。
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