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59 公爵への報告

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 二か月ほど後のこと。ユーノは定期連絡を取るため、マサラを連れて王都へ跳んだ。文書で連絡はとっているが、複雑な話は直接会った方が手っ取り早い。

封印されたルラの部屋では、リラーナ宰相が待ち受けていた。

「宰相、お久しぶりです。さっそく『湖の館』で、変化があったことをお知らせします。
『アオガタ商会』を発足しました。代表はルラさんの名前になっておりますが、実質は俊也さんが、経営の采配をふるっております。

業務内容の中心は、水と植物魔石の卸、宝石の加工ですが、俊也さんの故国と、わずかながら取引を行いました。

業務実績はいたって順調。加工済みの宝石、いくつかお渡ししているようですから、品質はお分かりだと思います。

中でも一番硬いダイアモンド。
猫又ナイト先生が、一瞬でブリリアントカットを施します。
ナイト先生の条件は、巫女の誰かが、一日中身につけるだけですから、人件費はほとんどゼロに近いです。

王国で研磨された石に比べ、おおよそ十倍の値がつきます。
販売用の宝石には、なにがしかの付与効果を付けています。十倍も当然かと。
俗に言えば、ぼろ儲けということになります。

出荷量は絞っておりますから、今のところ取引相手にしか、我が商会の名は知られておりません」
 
宰相は、苦笑交じりにうなずいた。
「つまり、仕送りは、今後不要だということだな?」
 公爵の渋ちんぶり発動。

「いただけるなら、もちろんいただきます。王国との絆は、保っておきたいですから」
 ユーノはルラの指示に逆らった。ルラは『関りはできるだけ持ちたくない』という意向だった。
 
エレンとフラワーが、直ちに反対した。

『絞り取れるだけ絞り取ればいいの』
 ユーノはエレンとフラワーに賛成だった。三幹部多数決で、「もらえるものはもらおう」の方針は固まった。

「さすがユーノだ。ルラは断れと言ったはずだが」

「私もさすがとしか申し上げられません。王都を去る前、いただいたご餞別で、個人的な財力は十分と言えますが、なるべく個人の財産は使いたくありません。

次に、重要な報告です。
巫女の仲間を二人増やしました。

なにせ妊婦が四人。ルマンダさんのお腹は、多少ふくらんできましたが、後の方は、依然として妊娠初期のまま。
いつ出産できるか、見当もつかない状態です。

よって、俊也さんが欲求不満気味となっておりました。
それを鎮める意味もありますが、なにより料理係が深刻な状況となりました。

みんなルマンダさんの教えを受けながら、全力で取り組んでいたのですが、私たちには悲しいほど料理の才能が欠けているのです。

ルマンダさんのレシピ通り調理したつもりでも、不思議なことに、ゲテモノとしか言えない物体が、出来上がってしまいます。

私たちはこう想像しています。魔力量の高い者が、料理を習わないまま成長すれば、料理不能者の呪いがかかる。

心からご忠告申し上げます。
貴族のご子弟に、幼いころ料理を教え込むべきです。
一度身に付けてしまったら、呪いはかからないと判明しました。

新しく巫女に採用した、ブリリアンさんとアンリさんは、俊也さんの寵愛を立て続けに受け、急成長しました。それでも料理上手のままです。

また、奇しくも二人は、既存の巫女勢力に、不足する部分を、補ってくれる天性がありました。
今では立派な戦力となっております」
 
宰相は、また苦笑しながらうなずいた。
「実は内心心配していた。俊也君のあれが、夜泣きしているのではないかと。
私も妻と四人の側室を持つ身だ。
妊娠初期と後期に、無理をさせられないことは分かっている。
もう新しい巫女候補は不要か? 
高い魔力を持つ子を、より多くもうけるのは、貴族たちの悲願だ。

私は三人が限界だった。
もちろん、もう少し頑張るつもりだが…、コホン…余計なことを言ってしまった。

正直を言えば、巫女になりたいという貴族の息女が、うるさいほどなのだ。
ダイニーが浮かれすぎて、もらしてしまった。エレンを含め、もう四人の巫女が懐妊したと。
妊娠が公になったのは、エレンだけだが」
 
今度はユーノが苦笑する番だった。四人の巫女妊娠の噂が広まれば、そうなるということは分かっていたが。

「巫女選びの基準を変えました。すなわち、魔力量に関わらず、俊也さんお気に入りで、人間的に問題のない女性は巫女に迎える。
現に俊也さんは、魔力量ほぼゼロの嫁を、地球で持ちました。
頻繁に地球へ通っております。
新人さんたちのおかげで『夜泣き』の方はご心配無用です」

「そうか。適当に断わっておこう。
魔力量は別として、人間的に問題がありそうな女性ばかりだから。
料理不能者の呪いは、もれなくかかっていそうだし。
重大になるかもしれない話を、シャネルから耳にした。
ポナンと彼の部下のことだ。
やつが魔法学校総長を、罷免された事情は、知っていよう?」

「はい。宰相やシャネル様、ダイニー様が、勇退を強く勧告されたとか。
ルラさんたちの入学に合わせて。
その深い事情は存じませんが、悪い噂はいろいろ耳にしております。
たとえば、なぜ大魔導師が、ポナン様だけなのか。
これ以上は私の口から申せません」

 公爵は苦い顔でうなずいた。
「証拠はない。だが私は確信している。ポナンは嫉妬深い。
特に魔導の能力に関しては、異常ともいえる。
ポナンと彼への狂信者たちが暗殺した。
それは間違いないと思っている。
ポナンたちは、貴族の領地を巡って、魔法を教え、生計を立てていることは存じておろう? 

さすがに私たち三人の領地は訪れないが、今はガウム子爵領に滞在し、シャネル領内を密かに探っている。
商売をしているなら、いずれは発見されると思っていた方がよい。
特に館で研磨した宝石は目立つであろう。

四人もが妊娠し、今は巫女の力が十分に発揮できない状況だ。
万一ということもある。くれぐれも油断なきよう」
 
宰相の話を聞き、ユーノとマサラの表情はさっと引き締まった。

「さっそく対策を立てます。他に何か?」

「これは絆金だ。邪魔にはなるまい」
 宰相は重い袋を渡した。王を脅して出させた金貨だ。

実は後宮で大騒動が起こっていた。

王が馬車から見染めた町娘を、密かに囲っていることが、妃や側室たちにばれてしまった。

貴族の娘なら、妃や側室は表面上文句を言えない。だが、平民の娘となったら話は違う。

寝室に王を入れなくなった。また、妃や側室たちの怒りを恐れ、その町娘は姿を隠した。

王は宰相に相談した。王はキャノンがうずいて仕方ないから。

宰相は急きょ「湖の館」から宝石をとりよせ、妃や側室たちをなだめた。

もちろん宰相は、王から代価を請求した。これ以上、王の信頼を厚くする必要はない。宰相は王が無能だから、彼に仕えているだけだ。

その代価の「半分」が、渡した袋の中身だ。バラまいた宝石の市価倍程度。

宰相は全く抜け目のない男だという一つの裏話。

「遠慮なく頂きます。では……」  
 
マサラ、ユーノの順で転送された。残された宰相の顔に、不安はなかった。

戦力が四人減っても、油断がなければ問題はないだろう。ユーノの成長ぶりを見届け、宰相はそう確信したから。

俊也や巫女たちには、いささかの野心も感じられない。もったいない、とも思う。

俊也が手当たりしだい、高魔力の女を食べ、戦力に加えていったら、二三年もすれば、世界征服が達成できるほどの戦力を持てるだろう。

俊也はこう言うに違いないが。「世界を征服してどうするんですか? 俺にはそんなめんどくさいこと、できません」。

その通りだと思う。全く賢明な男だ。それがあの男の、最大の能力かもしれない。
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