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70 館流レクリエーション

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 昼食が終わり、両親は日本へ帰った。カナと朝陽は、嫁たちが午後からトレーニングをすると聞き、見学することにした。
本格的な魔法は、まだ見たことがない。

「お兄ちゃん、これ何? まっすぐな道、っていうか、スキーの直滑降コースができてるみたいだけど」
 朝陽が素朴な疑問を投げかける。平らにならされた空き地に、枝の払われた丸太が、数本置かれていた。その先、傾斜地の地表は、五メートル程度の幅で開かれ、ふもとまでつづいているようだ。
丸太を滑らせているのだろう。半円状のへこみが、スキーのコースとは違っているが。

「館流ジェットコースター? 直滑降だけどスリル満点で、一挙に下へ降りられる。ブルーの趣味」
 俊也が応える。

「乗ってみる? 楽しいよ」
 ブルーが、にやにやしながら言う。俊也が通訳。

ブルーを始め、古参嫁はかろうじて日本語の聞き取りはできる。

朝陽とカナは考えた。要するに森の中を滑っていくんだ? あの大木に乗って。

この館のある山は、なだらかな丘陵という感じだが、加速がつけば冗談じゃね~ぞ、という種類のスリルが味わえそうだ。

「ブレーキ、ついてないよね?」

「もちろん。下の池に飛び込むの。今はその手前で枝に飛び移ってる。もう秋の終わりだから」
 ブルーの説明を俊也が通訳。

「謹んでお断りします」
 朝陽とカナは、口をそろえて応えた。


 メンバーとお客二人は、湖から二百メートルほど離れた広場に案内された。

ここが訓練場だという。どんな訓練をするのかと、お客は興味津津。アンリが設置された釣鐘を三度たたく。

「鐘を三度たたいたら、これからやるぞっていう合図。下の人がびっくりするから」
 俊也が説明する。二人はよくわからなかったが、とりあえずうなずく。

「まずは私から。魔法使わなかったら、どうしても腕がなまるから」
 ルラが一歩前に進む。杖で空中に円を描く。真中に手のひらを当てるしぐさ。

「風刃乱舞百、威力マシマシ!」
 円が光ったと思ったら、突風が起こった。

目には当然見えないが、巻きあがる土煙と舞散る木々や木の葉、なぎ倒される木々でわかる。風の刃を起こしているのだ。

「風刃乱舞百、威力マシマシ」
 エレンとフラワーが、同時に魔法を発動したようだ。角度を変えているので、木々はいっそう細かく切り刻まれる。

「ファイアーボール! 威力マシマシ!」

「インプロージョン威力マシマシ!」

「スコール、威力マシマシ!」
 
嫁たちが次々と魔法を放っていく。見ている二人は、もうわけがわからなくなっていた。

ただ、どうして鐘を鳴らすのか、その意味だけは、はっきりわかった。


「もう一山削っちゃったから、今はこの辺を開拓してるの」
 ルラはそう言って、また魔法円を描く。手のひらを当てて、

「ヒートウエイブ!」

「クールウエイブ!」
 また嫁たちが、一斉に魔法を放つ。土煙を抑えるため、スコール魔法で水浸しになった土地が乾く。

凸凹だが、野球場ほどの平地となった。

「さあ、みんな、最後の仕事よ」
 ルラの掛け声により、作業に移った。


「力仕事、根気勝負の仕事。どっちを選ぶ?」
 俊也は客人の肩を叩いてそう聞いた。

「力仕事じゃない方」
 客人二人はそう答えた。

「ついてきて」


 俊也が案内したのは、さっきの現場の十メートルほど下。大きな水たまりだった。
現場から流れた濁流をためているようだ。

「宝探し~、熊手でこっちへかいて。こんなふうに」
 水たまりの中、ぽっかり水面から出た平らな岩に、俊也は飛び移る。

向こう側は、湧き水がせせらぎを作っていた。底には目の粗い「ふるい」のような物が設置されている。

俊也は熊手を使って石や土をかき集め、スコップで水たまりの底を浅くさらい、「ふるい」に乗せる。

「やってみる?」
 
俊也はどちらにともなく振る。二人は「宝探し」の意味が呑み込めた。

朝陽が元気よく岩に飛び移り、熊手を受け取った。

「浅いところを軽くだよ」
 
朝陽はうなずき、熊手を使う。

「あんまり乗せると重いから。探してみろよ」

俊也は滑車の鎖を引き上げ、「ふるい」を持ち上げる。カナも岩に飛び移った。

「これって……」
 カナは紫色がのぞく石をつまみ上げた。

「アメジストみたいだね。後で研磨してみよう。君の誕生石だ」
 俊也はアメジストらしき原石を受け取り、腰に吊るした革袋に入れた。

フフ、俊也さんなら知ってるよね。誕生石くらい。そう思うものの、カナは嬉しくなった。

ちなみに、さっきの訓練場では、アンがダウジングを実行中。この湖の近辺は、良質の魔石が採れる地質だった。

「力仕事」とは、アンが探り当てた魔石や宝石類の原石を、掘り出したり、岩を砕く作業だ。

「力」を使う者もいれば「魔力」を使う者もいる。

「魔力」行使の場合は、魔力量の微妙な調整が必要だ。
これはこれで、格好のトレーニングともなる。
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