【R18】猫は異世界で昼寝した

nekomata-nyan

文字の大きさ
72 / 230

72 二度目の弾劾裁判

しおりを挟む
 翌日の土曜、ルマンダの個展の件で、かわいそうな俊也は、ルンルン気分で現地妻の家に通った。

気の毒なことに、彼の第一声は「ただいま」だった。

「へ~、あなたが『お兄ちゃん』なんだ? 
話があるから、二階へ来なさい。
ただいま、だってさ。
ふん」
 彼を待ち受けていたのは、強烈な怒りと憎悪を秘めた琴音だった。

彼女の背後で、カナは両手を合わせていた。

「彼女、私の友達の琴ちゃん。全部話しちゃったの」
 カナは琴音の怒りにおびえながら、俊也の耳元で、そうささやきかけた。

「カナ!」

「はい。ごめんなさい!」
 カナは、イマイチ割り切れないものを感じながら、言葉を慎むことにした。

どうしてあんなに怒ってるんだろう? その疑問は一層深まった。

琴音はゆうべから、泊まり込んでいた。カナは勢いに負けて、つい正直に答えてしまったから。

「俊也さんなら、明日帰ってくるけど」。



 俊也はわけがわからないまま、琴音の前で正座させられていた。
妹の弾劾を、受けた時を思い出した。あの時より、はるかに厳しい法廷に立たされた気分だ。

この検事、間違いなく「死刑」を求刑する。

「まず最初に言いたい。カナとは別れる気だったんでしょ? 
どうしてカナを受け入れちゃったの? 
その時は、十人の嫁がいたんでしょ! 
しかも新人二人をお持ち帰り?」
 俊也もカナも、神妙にその言葉を受け入れるしかなかった。

お互い、関係を持つことは、無理しまくりだと分かっていたから。

「その通りだと思います。すべては俺の中の男が原因です。
カナちゃんは妹のつもりでいたのに、強烈に意識してしまいました。
カナちゃんは俺に好意を持ってくれる、一人の女性だと」
 琴音は少しひるむ。

カナの方が、関係を迫ったということは聞いていた。十人の嫁がいると知って、カナは猛烈な対抗心がわいたという。

その気持ちもなんとなくわかる。

「不誠実でしょ! 十人プラス二人? それに現地妻のカナ? 
どう回してるのよ!」
 琴音は方向がずれたかな、と思いながらも問いただした。

「なんとか満足させているつもりなのですが、俺の思い上がりでしょうか?」
 
琴音はカナを見る。

「ごめん。セックス自体に全然不満はない」
カナにそう答えられて、琴音はいっそうたじろぐ。

そうなんだ? そんなにすごいんだ……、って違うだろうが!

「カナが不安に思っていること、わかってるの!」
 琴音は切り札を出した。

「わかってるつもりです。
第一に寿命の問題。
俺のほとんどの嫁たちは、どれほど長生きするかわかりません。
カナちゃんは、多分この世界の、平均寿命プラスあるかどうか。
間違いなく真っ先に老います。
もう一つ。俺の嫁のほとんどは、いわゆる高貴の家柄です。
俺も庶民だからわかります。
彼女たちは、その家柄ゆえの、オーラめいたものを感じさせます。
平民は思わずひれ伏すような。
だけど、彼女たちは、そんな自分を娼婦に等しいと思い込んでます。
家の呪縛、あなたは想像できますか? 
彼女たちのほとんどは、最初打算百パーセントで、俺と関係を持ちました。
俺は不純だと思いません。
結ばれる動機付けとしてアリだと思います。
逆に、不利益だと分かってて結ばれる方が危険です。
例外はルラとルマンダだけだと思います。
ルラは俺を転移させた責任。
ルマンダは長く男に触れなかった寂しさ。
なんと言われようと、俺は誇りに思ってます。
動機を別として、彼女たちを呪縛から解放したことを。
お姫様って、つらいんですよ。
少なくとも、ぼんやり生きてきた俺よりずっと」
 琴音は言葉につまった。この男、ただのヤリチン男じゃないのでは? 

いいや、絶対許せない!

「どうして全部分かってて、カナを抱いたの!」

「だって、拒めますか? 
奇天烈極まりない事態に巻き込まれた俺を、なおかつ慕ってくれる。
そんな女を拒めますか? 
理屈では分かってました。
拒むべきだと。
だけど、俺は強烈にカナが愛しかった。
抱きたいと思った。
カナもそれを望んでました。
抱いた以上、俺はカナに責任を持たなければなりません。
カナも抱かれた責任を、持ってもらうべきだと思いました。
間違ってるかもしれません。
だけど、俺は間違っているとは思いません。
カナが、別れると言うなら、俺は引き留めることはできませんが。
カナ、後悔してる?」
 俊也はカナを見つめた。

「後悔してないと言えばウソになる。
だけど、初めてカナと呼んでくれたね? 
どうして『カナちゃん』だったの?」
 俊也は、全く思いがけない方向から問われ、混乱した。
完全に無意識だったから。

じっくり考える。

「軽蔑しないで。大義名分が立つシスコンそのものだったから。
ごめん。俺は君の夫だ。君は俺の妹じゃない。
君より覚悟がなかったのは俺だ」
 俊也は深く頭を下げた。

「琴ちゃん、お騒がせしてごめん。超すっきりした。
私は俊也さんの嫁。
それ以外の何物でもない。
お願いだから、頭を上げて下さい」
 カナも深く、俊也に頭を下げた。

「バカみたい……。私は一体何なのよ」
 琴音は泣き笑い状態になった。心にぽっかり空洞が空いたような気がした。

カナは完全に私から切り離された。そう実感したから。

彼女はカナが大好きだった。それこそ性を超越したレベルで。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します

ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!! カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...