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72 二度目の弾劾裁判
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翌日の土曜、ルマンダの個展の件で、かわいそうな俊也は、ルンルン気分で現地妻の家に通った。
気の毒なことに、彼の第一声は「ただいま」だった。
「へ~、あなたが『お兄ちゃん』なんだ?
話があるから、二階へ来なさい。
ただいま、だってさ。
ふん」
彼を待ち受けていたのは、強烈な怒りと憎悪を秘めた琴音だった。
彼女の背後で、カナは両手を合わせていた。
「彼女、私の友達の琴ちゃん。全部話しちゃったの」
カナは琴音の怒りにおびえながら、俊也の耳元で、そうささやきかけた。
「カナ!」
「はい。ごめんなさい!」
カナは、イマイチ割り切れないものを感じながら、言葉を慎むことにした。
どうしてあんなに怒ってるんだろう? その疑問は一層深まった。
琴音はゆうべから、泊まり込んでいた。カナは勢いに負けて、つい正直に答えてしまったから。
「俊也さんなら、明日帰ってくるけど」。
俊也はわけがわからないまま、琴音の前で正座させられていた。
妹の弾劾を、受けた時を思い出した。あの時より、はるかに厳しい法廷に立たされた気分だ。
この検事、間違いなく「死刑」を求刑する。
「まず最初に言いたい。カナとは別れる気だったんでしょ?
どうしてカナを受け入れちゃったの?
その時は、十人の嫁がいたんでしょ!
しかも新人二人をお持ち帰り?」
俊也もカナも、神妙にその言葉を受け入れるしかなかった。
お互い、関係を持つことは、無理しまくりだと分かっていたから。
「その通りだと思います。すべては俺の中の男が原因です。
カナちゃんは妹のつもりでいたのに、強烈に意識してしまいました。
カナちゃんは俺に好意を持ってくれる、一人の女性だと」
琴音は少しひるむ。
カナの方が、関係を迫ったということは聞いていた。十人の嫁がいると知って、カナは猛烈な対抗心がわいたという。
その気持ちもなんとなくわかる。
「不誠実でしょ! 十人プラス二人? それに現地妻のカナ?
どう回してるのよ!」
琴音は方向がずれたかな、と思いながらも問いただした。
「なんとか満足させているつもりなのですが、俺の思い上がりでしょうか?」
琴音はカナを見る。
「ごめん。セックス自体に全然不満はない」
カナにそう答えられて、琴音はいっそうたじろぐ。
そうなんだ? そんなにすごいんだ……、って違うだろうが!
「カナが不安に思っていること、わかってるの!」
琴音は切り札を出した。
「わかってるつもりです。
第一に寿命の問題。
俺のほとんどの嫁たちは、どれほど長生きするかわかりません。
カナちゃんは、多分この世界の、平均寿命プラスあるかどうか。
間違いなく真っ先に老います。
もう一つ。俺の嫁のほとんどは、いわゆる高貴の家柄です。
俺も庶民だからわかります。
彼女たちは、その家柄ゆえの、オーラめいたものを感じさせます。
平民は思わずひれ伏すような。
だけど、彼女たちは、そんな自分を娼婦に等しいと思い込んでます。
家の呪縛、あなたは想像できますか?
彼女たちのほとんどは、最初打算百パーセントで、俺と関係を持ちました。
俺は不純だと思いません。
結ばれる動機付けとしてアリだと思います。
逆に、不利益だと分かってて結ばれる方が危険です。
例外はルラとルマンダだけだと思います。
ルラは俺を転移させた責任。
ルマンダは長く男に触れなかった寂しさ。
なんと言われようと、俺は誇りに思ってます。
動機を別として、彼女たちを呪縛から解放したことを。
お姫様って、つらいんですよ。
少なくとも、ぼんやり生きてきた俺よりずっと」
琴音は言葉につまった。この男、ただのヤリチン男じゃないのでは?
いいや、絶対許せない!
「どうして全部分かってて、カナを抱いたの!」
「だって、拒めますか?
奇天烈極まりない事態に巻き込まれた俺を、なおかつ慕ってくれる。
そんな女を拒めますか?
理屈では分かってました。
拒むべきだと。
だけど、俺は強烈にカナが愛しかった。
抱きたいと思った。
カナもそれを望んでました。
抱いた以上、俺はカナに責任を持たなければなりません。
カナも抱かれた責任を、持ってもらうべきだと思いました。
間違ってるかもしれません。
だけど、俺は間違っているとは思いません。
カナが、別れると言うなら、俺は引き留めることはできませんが。
カナ、後悔してる?」
俊也はカナを見つめた。
「後悔してないと言えばウソになる。
だけど、初めてカナと呼んでくれたね?
どうして『カナちゃん』だったの?」
俊也は、全く思いがけない方向から問われ、混乱した。
完全に無意識だったから。
じっくり考える。
「軽蔑しないで。大義名分が立つシスコンそのものだったから。
ごめん。俺は君の夫だ。君は俺の妹じゃない。
君より覚悟がなかったのは俺だ」
俊也は深く頭を下げた。
「琴ちゃん、お騒がせしてごめん。超すっきりした。
私は俊也さんの嫁。
それ以外の何物でもない。
お願いだから、頭を上げて下さい」
カナも深く、俊也に頭を下げた。
「バカみたい……。私は一体何なのよ」
琴音は泣き笑い状態になった。心にぽっかり空洞が空いたような気がした。
カナは完全に私から切り離された。そう実感したから。
彼女はカナが大好きだった。それこそ性を超越したレベルで。
気の毒なことに、彼の第一声は「ただいま」だった。
「へ~、あなたが『お兄ちゃん』なんだ?
話があるから、二階へ来なさい。
ただいま、だってさ。
ふん」
彼を待ち受けていたのは、強烈な怒りと憎悪を秘めた琴音だった。
彼女の背後で、カナは両手を合わせていた。
「彼女、私の友達の琴ちゃん。全部話しちゃったの」
カナは琴音の怒りにおびえながら、俊也の耳元で、そうささやきかけた。
「カナ!」
「はい。ごめんなさい!」
カナは、イマイチ割り切れないものを感じながら、言葉を慎むことにした。
どうしてあんなに怒ってるんだろう? その疑問は一層深まった。
琴音はゆうべから、泊まり込んでいた。カナは勢いに負けて、つい正直に答えてしまったから。
「俊也さんなら、明日帰ってくるけど」。
俊也はわけがわからないまま、琴音の前で正座させられていた。
妹の弾劾を、受けた時を思い出した。あの時より、はるかに厳しい法廷に立たされた気分だ。
この検事、間違いなく「死刑」を求刑する。
「まず最初に言いたい。カナとは別れる気だったんでしょ?
どうしてカナを受け入れちゃったの?
その時は、十人の嫁がいたんでしょ!
しかも新人二人をお持ち帰り?」
俊也もカナも、神妙にその言葉を受け入れるしかなかった。
お互い、関係を持つことは、無理しまくりだと分かっていたから。
「その通りだと思います。すべては俺の中の男が原因です。
カナちゃんは妹のつもりでいたのに、強烈に意識してしまいました。
カナちゃんは俺に好意を持ってくれる、一人の女性だと」
琴音は少しひるむ。
カナの方が、関係を迫ったということは聞いていた。十人の嫁がいると知って、カナは猛烈な対抗心がわいたという。
その気持ちもなんとなくわかる。
「不誠実でしょ! 十人プラス二人? それに現地妻のカナ?
どう回してるのよ!」
琴音は方向がずれたかな、と思いながらも問いただした。
「なんとか満足させているつもりなのですが、俺の思い上がりでしょうか?」
琴音はカナを見る。
「ごめん。セックス自体に全然不満はない」
カナにそう答えられて、琴音はいっそうたじろぐ。
そうなんだ? そんなにすごいんだ……、って違うだろうが!
「カナが不安に思っていること、わかってるの!」
琴音は切り札を出した。
「わかってるつもりです。
第一に寿命の問題。
俺のほとんどの嫁たちは、どれほど長生きするかわかりません。
カナちゃんは、多分この世界の、平均寿命プラスあるかどうか。
間違いなく真っ先に老います。
もう一つ。俺の嫁のほとんどは、いわゆる高貴の家柄です。
俺も庶民だからわかります。
彼女たちは、その家柄ゆえの、オーラめいたものを感じさせます。
平民は思わずひれ伏すような。
だけど、彼女たちは、そんな自分を娼婦に等しいと思い込んでます。
家の呪縛、あなたは想像できますか?
彼女たちのほとんどは、最初打算百パーセントで、俺と関係を持ちました。
俺は不純だと思いません。
結ばれる動機付けとしてアリだと思います。
逆に、不利益だと分かってて結ばれる方が危険です。
例外はルラとルマンダだけだと思います。
ルラは俺を転移させた責任。
ルマンダは長く男に触れなかった寂しさ。
なんと言われようと、俺は誇りに思ってます。
動機を別として、彼女たちを呪縛から解放したことを。
お姫様って、つらいんですよ。
少なくとも、ぼんやり生きてきた俺よりずっと」
琴音は言葉につまった。この男、ただのヤリチン男じゃないのでは?
いいや、絶対許せない!
「どうして全部分かってて、カナを抱いたの!」
「だって、拒めますか?
奇天烈極まりない事態に巻き込まれた俺を、なおかつ慕ってくれる。
そんな女を拒めますか?
理屈では分かってました。
拒むべきだと。
だけど、俺は強烈にカナが愛しかった。
抱きたいと思った。
カナもそれを望んでました。
抱いた以上、俺はカナに責任を持たなければなりません。
カナも抱かれた責任を、持ってもらうべきだと思いました。
間違ってるかもしれません。
だけど、俺は間違っているとは思いません。
カナが、別れると言うなら、俺は引き留めることはできませんが。
カナ、後悔してる?」
俊也はカナを見つめた。
「後悔してないと言えばウソになる。
だけど、初めてカナと呼んでくれたね?
どうして『カナちゃん』だったの?」
俊也は、全く思いがけない方向から問われ、混乱した。
完全に無意識だったから。
じっくり考える。
「軽蔑しないで。大義名分が立つシスコンそのものだったから。
ごめん。俺は君の夫だ。君は俺の妹じゃない。
君より覚悟がなかったのは俺だ」
俊也は深く頭を下げた。
「琴ちゃん、お騒がせしてごめん。超すっきりした。
私は俊也さんの嫁。
それ以外の何物でもない。
お願いだから、頭を上げて下さい」
カナも深く、俊也に頭を下げた。
「バカみたい……。私は一体何なのよ」
琴音は泣き笑い状態になった。心にぽっかり空洞が空いたような気がした。
カナは完全に私から切り離された。そう実感したから。
彼女はカナが大好きだった。それこそ性を超越したレベルで。
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