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88 妊婦さん達の愚痴
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そのころ館では……、
「まあ、そうぼやかないでください。みなさんは存在だけで主役なんだから」
カナが一生懸命妊婦さんたちを慰めていた。
妊婦さんたちが、あまりにも暇そうだからこちらへ来た。
ぬいぐるみのプリンは、ナイトが持ってきた魔石が装備され絶好調。
こちらへ呼びかけることもできる。
三人は今日カナが差し入れた、チートもののコミックスを読んでいた。
自分たちは異世界で活躍する主人公、俊也の脇を彩る重要女性キャラであるはず。
たまにお色気を振りまき、物語のアクセントを果たす。
ところが出番がめっきり減っている。それもこれも妊娠したことと、主治医俊也の過剰な管理が原因。
三人は、日常会話はもとより、コミックスならそれほど苦労しないで読める。漢字の勉強はまだ不十分だが。
カナは時々意味を聞かれ、説明に困ってしまう。
俊也さんならたちどころに答えられるけど。
家庭教師の俊也さんは、いつも言っていた。『漢字は、ばらして覚えろ』
つまり、部首の持つ意味を徹底して知ること。同音異義語や書き取り名人の王道だ。
形声文字の場合、一方は単に音を表すだけだ。そしてさらに言った。
『訓読み』を徹底しろ。
漢字に強くなれる秘訣だと。難しそうに見える抽象的な漢字熟語でも、漢字自体の意味を知っていればすぐわかる。
たしかに、とカナは納得したものの、俊也さん推奨の漢和辞典は、超めんどくさい。
結果、日本人なのに日本語を知らない、擬似おバカキャラの出来上がり。
時間を戻そう。要するに妊婦三人は、こう訴えたいわけだ。
「自分たちは主役クラスでしょ? だけど、なんなのよ。妊娠してから、まるでモブキャラすれすれじゃない!」
実際に小説にしたら、そうなるだろうとカナは思う。
だって、目立ったことは全然してないのだから、描きようがない。
カナの耳に、どこからか「そうなんだよ」という声が聞こえてきた。
「ここは、ガツンと存在感を見せたらどうですか? 今は動けないから…、たとえば株とか先物取引とか。
父は大儲けできましたけど。いち早く金相場に手を出して。
あれって、エレンさんが言い出したと聞きました」
「ああ、父上はなかなかの商才を持ってるの。父上が言ってた。
経済が沈滞したら、堅いものに人より早く目をつけろ。
金相場を口にしたのは俊也さんだし。
俊也さんもぼろ儲けしたみたい。
お父さん、まさか『買い』を続けてないよね?
相場は天井が見える前に売り。
それも金言だと思うよ」
「もちろんです。父は俊也さんのいいなりです。とっくに売り抜けてます。
だけど、未練たらたらみたいです。
金相場は、まだ上がってますから」
「ダメダメダメ! なんでも同じ。『まだいける』が一番危険なの。見切りだよ、見切り」
ファンタジーの重要キャラが、やけに脂ぎった会話、申し訳ありません。
エレンは父親の血を受け継いで、商売、特に「相場」に興味があるのです。
いわゆる「先物取引」というやつ。この世界では、貴族や官僚に商法の制約はないので、情報を得やすい貴族たちは、サイドビジネスでぼろ儲けできるのです。
特に三大貴族の立場ともなったら、一番おいしいところを、いち早く食べられるのです。
富める者はますます富む。いつの世も、どの世界にも共通することです。
我が心の友、庶民の皆様、悲しいですね。
「なんとか売れないかな? 金」
ヒロイン、ルラがつぶやく。おいおい、という声がどこかから聞こえたかもしれない。
「俊也さんなら、なんとかするかもしれませんが……。税務署に目をつけられたら厄介ですよ。『特別功労者』で目立っちゃったから。
極秘扱いでもやっぱりね」
カナが苦笑して言う。
「俊也には秘密なんだよね。私達の裏金(うらきん)」
「ウラキン?」
カナはルラの言った意味がわからない。
もしかしてピーの裏? あれって結構いいみたいだけど。
なわけないか……。カナは擬似おバカキャラすれすれだった。
俊也に言わせたら、そこが一番安心できるらしい。
「こっちではお金に全然困ってないの。あっちで俊也が困ったとき、旦那様、これをお使い下さい。
わたくしが蓄えたものです。
カッコいいと思わない?」
「華岡青洲の妻!」
ルラの言葉に、カナが乗る。それは麻酔の実験台になった妻。山内一豊(やまのうちかずとよ)の妻と、言えたらカッコよかったのにね、とどこかから声が聞こえる。
不在の俊也に代わり、記者つっこみどころの満載の会話だった。
「外国で売れば? 私が行けたらどうとでもなるけど、アンを特訓して付ける?」
フラワーが提案する。
「そうだよ! 転移魔法を使えば、出入国の足がつかない。
売れさえすれば勝ち! カナちゃん、俊也をごまかして、外国で魔法陣作らせるの!」
私が法律、のルラは大乗り気。
「それってヤバすぎないですか? 裏ルートと取引ってことになりますよ。
金の板や延べ棒、みんなシリアルナンバーがついてるから。
それに、パスポート持ってなかったら、何かがあったとき、困りますよ」
カナが異議を申し立てる。
「じゃ、飛行機で行けばいいじゃない。金と現金だけ魔法で送れば、全然問題なし!」
「問題大ありです。俊也さんは、公明正大がモットーですから。
俊也さんは、政府でさえ…政府だからかもしれないけど、ペテンにかけますが、法は犯してません!」
だよね……。カナの毅然とした言葉に、ぐうの音も出ない三人の妊婦だった。
「まあ、そうぼやかないでください。みなさんは存在だけで主役なんだから」
カナが一生懸命妊婦さんたちを慰めていた。
妊婦さんたちが、あまりにも暇そうだからこちらへ来た。
ぬいぐるみのプリンは、ナイトが持ってきた魔石が装備され絶好調。
こちらへ呼びかけることもできる。
三人は今日カナが差し入れた、チートもののコミックスを読んでいた。
自分たちは異世界で活躍する主人公、俊也の脇を彩る重要女性キャラであるはず。
たまにお色気を振りまき、物語のアクセントを果たす。
ところが出番がめっきり減っている。それもこれも妊娠したことと、主治医俊也の過剰な管理が原因。
三人は、日常会話はもとより、コミックスならそれほど苦労しないで読める。漢字の勉強はまだ不十分だが。
カナは時々意味を聞かれ、説明に困ってしまう。
俊也さんならたちどころに答えられるけど。
家庭教師の俊也さんは、いつも言っていた。『漢字は、ばらして覚えろ』
つまり、部首の持つ意味を徹底して知ること。同音異義語や書き取り名人の王道だ。
形声文字の場合、一方は単に音を表すだけだ。そしてさらに言った。
『訓読み』を徹底しろ。
漢字に強くなれる秘訣だと。難しそうに見える抽象的な漢字熟語でも、漢字自体の意味を知っていればすぐわかる。
たしかに、とカナは納得したものの、俊也さん推奨の漢和辞典は、超めんどくさい。
結果、日本人なのに日本語を知らない、擬似おバカキャラの出来上がり。
時間を戻そう。要するに妊婦三人は、こう訴えたいわけだ。
「自分たちは主役クラスでしょ? だけど、なんなのよ。妊娠してから、まるでモブキャラすれすれじゃない!」
実際に小説にしたら、そうなるだろうとカナは思う。
だって、目立ったことは全然してないのだから、描きようがない。
カナの耳に、どこからか「そうなんだよ」という声が聞こえてきた。
「ここは、ガツンと存在感を見せたらどうですか? 今は動けないから…、たとえば株とか先物取引とか。
父は大儲けできましたけど。いち早く金相場に手を出して。
あれって、エレンさんが言い出したと聞きました」
「ああ、父上はなかなかの商才を持ってるの。父上が言ってた。
経済が沈滞したら、堅いものに人より早く目をつけろ。
金相場を口にしたのは俊也さんだし。
俊也さんもぼろ儲けしたみたい。
お父さん、まさか『買い』を続けてないよね?
相場は天井が見える前に売り。
それも金言だと思うよ」
「もちろんです。父は俊也さんのいいなりです。とっくに売り抜けてます。
だけど、未練たらたらみたいです。
金相場は、まだ上がってますから」
「ダメダメダメ! なんでも同じ。『まだいける』が一番危険なの。見切りだよ、見切り」
ファンタジーの重要キャラが、やけに脂ぎった会話、申し訳ありません。
エレンは父親の血を受け継いで、商売、特に「相場」に興味があるのです。
いわゆる「先物取引」というやつ。この世界では、貴族や官僚に商法の制約はないので、情報を得やすい貴族たちは、サイドビジネスでぼろ儲けできるのです。
特に三大貴族の立場ともなったら、一番おいしいところを、いち早く食べられるのです。
富める者はますます富む。いつの世も、どの世界にも共通することです。
我が心の友、庶民の皆様、悲しいですね。
「なんとか売れないかな? 金」
ヒロイン、ルラがつぶやく。おいおい、という声がどこかから聞こえたかもしれない。
「俊也さんなら、なんとかするかもしれませんが……。税務署に目をつけられたら厄介ですよ。『特別功労者』で目立っちゃったから。
極秘扱いでもやっぱりね」
カナが苦笑して言う。
「俊也には秘密なんだよね。私達の裏金(うらきん)」
「ウラキン?」
カナはルラの言った意味がわからない。
もしかしてピーの裏? あれって結構いいみたいだけど。
なわけないか……。カナは擬似おバカキャラすれすれだった。
俊也に言わせたら、そこが一番安心できるらしい。
「こっちではお金に全然困ってないの。あっちで俊也が困ったとき、旦那様、これをお使い下さい。
わたくしが蓄えたものです。
カッコいいと思わない?」
「華岡青洲の妻!」
ルラの言葉に、カナが乗る。それは麻酔の実験台になった妻。山内一豊(やまのうちかずとよ)の妻と、言えたらカッコよかったのにね、とどこかから声が聞こえる。
不在の俊也に代わり、記者つっこみどころの満載の会話だった。
「外国で売れば? 私が行けたらどうとでもなるけど、アンを特訓して付ける?」
フラワーが提案する。
「そうだよ! 転移魔法を使えば、出入国の足がつかない。
売れさえすれば勝ち! カナちゃん、俊也をごまかして、外国で魔法陣作らせるの!」
私が法律、のルラは大乗り気。
「それってヤバすぎないですか? 裏ルートと取引ってことになりますよ。
金の板や延べ棒、みんなシリアルナンバーがついてるから。
それに、パスポート持ってなかったら、何かがあったとき、困りますよ」
カナが異議を申し立てる。
「じゃ、飛行機で行けばいいじゃない。金と現金だけ魔法で送れば、全然問題なし!」
「問題大ありです。俊也さんは、公明正大がモットーですから。
俊也さんは、政府でさえ…政府だからかもしれないけど、ペテンにかけますが、法は犯してません!」
だよね……。カナの毅然とした言葉に、ぐうの音も出ない三人の妊婦だった。
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