【R18】猫は異世界で昼寝した

nekomata-nyan

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101 男なら一度はやってみたい? 国家への宣戦布告

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 翌日の朝、両親や朝陽が出かけた後を見計らい、俊也は日本に転移した。

お伴はローランとユーノ。昼時前にタクシーで国会議事堂へ。

国会は開催されているから、野辺総理は絶対いるはず。

「スミマセン、ノベソウリニ、コノテガミワタシテクダサイ。
ネコノテカラダトイエバ、ワカリマス。
ネコノテノユウジンデハナク、クレグレモネコノテト、オツタエクダサイ」
 ローランが、一生懸命練習した日本語で伝える。
猫又ナイトを入れた籠をかかえるユーノは、吹き出しそうになるのをこらえ、うつむいて肩を震わせている。
じゃんけんでこの重要な役を獲得したのはローランだった。

負けたのはローランだけど。

「君ね、総理は今国会で忙しいんだよ。パスポート、持ってる?」
 守衛の警官は困惑して言う。何人だろうか? 東洋系と北欧系? 

それにしても、きれい…いや。職務中だ。日本国の警官として威厳、威厳。

日本国を代表した警官は威儀を正す。

「ハハ~ン? ワタシ、ニホンゴ、ワカリマセン。ソウリニ、ツタエテクダサイ。
ネコノテガキタト」 
 ローランは、冷や汗を流しながら演技を進行する。

日本語の聞き取りはできるから、余計に厳しい。

この役は絶対ユーノのキャラだよ!

「あのね~、国会中に総理と面会なんて、絶対無理。悪いけど帰りなさい」
 当然警官は相手にしない。

「おい! いいから総理に連絡しろ! 秘書でもいい。
猫の手が来たと言えば絶対わかる!」
 ネコ籠の中の猫又ナイトが、ドスを利かせて言う。

「お嬢さん、腹話術?」
 警官はたらりと冷や汗を流す。

こんな女の子が、あんな太い声を出せるとは思えない。

いや、ニューハーフ? なんとかアイ、っていう子、太い声が出せたような……。

「いいから連絡しろ! 厚労大臣でもいいし、民自党四役なら誰でもいい。
お前、今俺を追い返したなら後悔するぞ。
猫の手が来たと伝えろ。
猫の手の友人じゃなくて猫の手だ。
間違えるな!」 
 
猫が……しゃべってる? 腹話術じゃない! 猫がしゃべってる! 

そうか、トリックだよね? うん、トリック、トリック。

『TB×のモータリングで~す』

こんな展開見たことあるぞ、…って、全然しゃれになんね~ぞ! 
こちとら桜の代紋背負ってるんだよ~!

「帰らないと拘束するよ!」
 警官Aは、桜の代紋を背負いながら、こんなかわいい子たちに、すごめない自分が悲しい。

「コーソク? コーソクイハン、ワルイコト? 
オ~、ワルイコト!」
 テンパったローランは、あらぬことを口走った。

「&%$#%&‘&」
 俊也は、守衛にスマホを渡すよう、イスタルト語でユーノに指示した。

「ネコマタサマ、ノベニデンワシロ、イウタ。ワタシカケカタ、ワカリマセ~ン」
 ユーノは、たどたどしく通訳する。

はあ? うふ、だけど、退屈な勤務中に、こんなかわいい子たちとお話できて、なんか役得。

警官はしゃべる猫を忘れ、スマホを受け取った。
一応アドレスを見てみる。

あらまあ、確かにノベチャンと書かれたアドレスに、ケー番が入っている。

まさかね……。うん。これも勤務の一つだ。怪しいこの二人に、何か関係するかも……。

実のところ退屈していた警官は、そのケー番をコールした。

『はい。首相秘書の野本です。
猫の手の友人さんですね? 
首相は今、国会に出席しておりますが、伝言なら承ります。
もうすぐ休憩となりますので』

「あわわわ…私、国会警備担当、警視庁の山本巡査です。
猫の手の友人ではなく、猫の手だという女の子二人と…猫一匹が、門の前に来ております」

『友人ではなく…猫の手? 
しばらくお待ちください。
私、至急お迎えにまいります。
くれぐれも粗相のないようにお願いします』

「はい……。よろしくお願いします」
 
警官はわけがわからないまま、通話を切った。


「野辺君、忙しいところすまなかったね。私が猫の手だ。握手は不要だ」
 猫又ナイトは、高そうなソファーにチョコンっと座って、ノベチャンを見上げた。

「はあ……。あなたが猫の手だったんですか? ハハハ、本当に猫の手だったんだ?」
 
ノベチャンは、頭が混乱していた。魔法関係だから、猫がしゃべっても仕方ないか。
うん、仕方ない……。

「私は魔法王国、シュンヤーダの特任大使を命じられた。
そのカラ笑い、失礼ではないかね?」
 猫又の俊也は、不快を装う。

「はっ、…すみません!
今日はどのようなご用件でしょう? 
……魔石、とか?」
 さすが政治家。変わり身は超早い。

「魔石はまだ探索中だ。そう友人が伝えただろ?」
 猫の表情を伝えるのは難しい。爪を立てるわけにもいかない。ナイト苦心の不興演技。

「はい。さようですね。…で?」 

「場合によっては、日本国に宣戦布告する。
この雑誌を見ろ!」
 ユーノが雑誌を三冊、テーブルに置く。

『八百長か、本物か? ネット上で大論争! 渦中の女子高生二人激撮!』
 
他の雑誌も大体同様。カナと琴音が盗撮されている。
一応目線は黒く塗られているが。

「日本では犯罪者でも、未成年のプライバシーは保護される。
カナと琴音は犯罪者か! 
犯罪者にも劣るのか! 
カナの家は、かつて私が住んでいた家の近所だ。
その縁で、彼女の父親に、政府との窓口を依頼した。
カナとは前から仲がよかったから、シュンヤーダにも招いた。
王妃たちも、魔法を見せたり教えもした。
カナには、少しだが魔力があること、あのネット配信の通りだ。
まさか見てない、なんていうことはないだろうな?」

「あっ、はい。必ず見ます!」
 ノベチャンには、何のことだかよくわからなかったが、とりあえず逆らってはまずいことはわかる。

「カナと琴音のプライバシーは、大きく侵害された。
カナと琴音は、我が王国の友人である。
その友人の人権を脅かす行為は、我が王国への重大な侮辱である。
我が王国は、断じて許しがたしの結論を得た。
よって明日未明、国会議事堂を破壊する。
せいぜい自衛隊を、警備につけることだな。
戦車でも並べるか?」
 俊也は、できるだけさりげなく脅しをかける。怒りをぶつけるより、冷静にすごまれる方が、はるかに怖い。そんな計算があった。

「本気でおっしゃっているのですか!」

「本気だ。
我が王国は、貴国を友人と思っていた。
それなりに誠意も尽くしたつもりだ。
恩を仇で返されるとは思わなかった。
大変残念だ。
…そうだ、国会議事堂だけでは、仲介した私の面目が立たない。
スカイツリーか、レインボーブリッジか……。
両方いっちゃおうかな~。
これが転移魔法だ。せっかくだから、ゆっくりお見せしよう」
 ナイトは二本の尻尾で、二つの魔法円を描き、それぞれ清浄魔法をかけ、結界を張る。

打ち合わせ通り、ローランとユーノを転送する。

「これで魔法は本物とわかっただろう? 
一切のトリックなしだ。
戦車を並べても、無駄だということもわかったな? 
忠告する。明日の未明……、いや、せっかくだから、国民に見てもらおうか。
明日の十時、国会議事堂、十時十分、スカイツリー、十時二十分、レインボーブリッジを破壊する。
すべての責任は貴国にあり! 
野辺、もののふらしく腹を切れ! 
さすれば許そう」
 
そんな~……。冷や汗、たら~り……。猫又俊也、迫真の演技に、ノベチャンは、すっかり飲まれていた。

「申し訳ありません! 出版社には厳重注意を言い渡します」
 ノベチャンは、深く頭を下げた。

「厳重注意? なめてんの? 
謝罪記者会見を開け! その誠意の示し方によっては考えてもいい。
さらば」
 ナイトは手順を経て、元我が家へ転移した。


 野辺首相は、茫然として三人?を見送った。あの魔法、絶対マジだ。
布も石もあの「友人」が言った通りの効果があった。
魔法は、もう信じるしかないんだ。

予告通り破壊されたら、被害額は計り知れない。コ〇ナでうんとお金使っちゃったし。

もう鼻血も出ないよ。

ドアがノックされた。
「どうぞ」
 ノベチャンは力なく応えた。

「失礼します。
…本当に消えてますね。
大変失礼ですが、聞かせていただきました。
首相、これはチャンスです」
 野本第一秘書は、意気込んでそう言った。

「はあ? 頭大丈夫?」
 ノベチャンは、もうどうでもいいと思った。このままの支持率なら、次はない。

「全部正直に話すんですよ。国会で。
そして潔く詫びるんです。誠意の示し方によっては、と言いましたよね? 
記者会見より、誠意を示せる大舞台があるでしょ。
再開の冒頭で深く陳謝するんです。
本当に悪いのは、あの雑誌社です。
ですが、首相は非難してはならない。
国民の不始末の全責任は、この野辺にあり。
シュンヤーダの皆様、そして二人の被害者の方々、深くお詫び申し上げます。
どうです。男でしょ! 
きっと国民はあなたを見直します。
ノベ、潔い。男じゃないか。
自分が悪いことしてないのに、謝るがミソです。
今までは、悪いことしてたのに誤魔化す、で今のあり様です。
やりましょう! 
詳しいことは改めて記者会見、でいい。
男を見せて、ヒーローになりましょう。
議事堂とスカイツリー、レインボーブリッジ。
頭を下げる価値はあります!」
 野本第一秘書は力説した。

「うん。やろう!」
 ノベチャンの頭の中には、ケンさんが殴り込む花道と、国会での自分が重なった。

「野本君、自分、武器用ですから。原稿よろしく。さあ~、飯だ飯だ」

記者は忠告したい。ノベクン、よく聞いたらずいぶんひどい言われようだよ。
どうして秘書が話の内容を知っていたかにも、気が回らない。
野本秘書は、そんなノベチャンがわりと好き。思うように動くから。

ノベチャンが、お昼をとる間に秘書は、原稿を書き上げた。

猫の手君、前々から思っていた。君はひどいペテン師だ。

有能なこの秘書は、猫又ナイトと打ち合わせ済みだった。
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