【R18】猫は異世界で昼寝した

nekomata-nyan

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122 とんでもジゴロだったんだ!

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 小学校から歩いて五分。

俊也は昔よく行った喫茶店に、三人を連れて行った。

手作り感がある日替わりランチで、昼食時はいつも満席になる。
今は十一時半。少し早いので、まだ店はすいていた。

「いらっしゃい。俊也君、朝陽ちゃん、ずいぶん久しぶりだね」
 奥さんが四人に水を置いた。この店は夫婦で営んでいる。俊也は顔なじみだが、夫婦の名前は知らない。

「お久しぶりです」
 俊也と朝陽はちょこんと頭を下げる。

「カナちゃんは?」
 奥さんはお盆を胸に抱えて聞く。長い休みには、よく三人でこの店を利用したから。

「今日はプールの監督当番帰りです。この子はなっちゃん。
朝陽の友達で、メガネ美人さんは、二人の担任の先生です。
俺がなっちゃんに、手を出さないか心配しているようです」
 阿部先生は、頬をそめてうつむく。

阿部先生は思う。その紹介の仕方、ちょっと露骨すぎない? 

フフ、だけど、メガネ美人か。年下の男の子に、そういうふうに言われるの、悪くないな。

「そうなんだ? 今日のランチ、冷やしそうめんメインなんだけど、それでいい?」
 さすが接客業。奥さんは見事に流してオーダーをとる。

「それで」
 四人は口をそろえてオーダー完了。奥さんは「ランチ四つ」と、旦那さんに呼びかける。

「ねね、さっそくお兄さんの武勇伝! 
何人の女性と付き合った?」
 俊也の隣席を、いち早く奪取した菜摘が聞く。

「十四五人?」
 静香をカウントすべきか少し迷ったが、俊也はわりと正直に答えた。

「過去形じゃなくて、みんな現在進行形。
お兄ちゃん、十四人は知ってるけど、十五人目ってどんな女?」
 朝陽があきれ顔で聞く。

「え~っと、絵が大好きな女性? 
画廊を経営してたんだけど、俺がつぶしちゃった」
 
阿部先生は、いっそうの顰蹙の目で俊也をにらんだ。

明るく活動的な引きこもりニートで、十五股進行中? 
しかも、小学生も守備範囲。画廊の経営者を引っ掛けて、店を食いつぶした? 
つまり、ヒモ属性? 

なんという男だ! 

まてよ、最近店じまいした画廊の経営者……。

「その画廊、銀座朝日? 経営者は朝日野静香さん?」
 俊也はびっくり。

「知ってるんですか?」
「あの静香様を食べちゃったの! 
高校時代の先輩よ! 
みんなのマドンナだったんだから!」
阿部先生は、美術部で静香の後輩だった。今でも交流がある。

男嫌いの静香様が、どうしてこんな男と?

「阿部先生、一応公共の場ですから」
 興奮する阿部先生を、朝陽はなだめた。

「あっ、ごめん。
どうして静香さんと、知り合ったんですか?」
 阿部先生は疑いの目で俊也をにらみつける。

「絵の取引ですよ。そうか、静香さんともエッチしてたんだ?」
 静香と兄の、連絡係をしていた朝陽は、兄をにらむ。

向かいの二人ににらまれ、はなはだ居心地の悪い俊也だった。

隣席の小学生は、なんだか目をぎらつかせているし。

「すげ~……。十五股で女を食い物にしている? 
お兄さん、尊敬します」

「尊敬するな!」
 
朝陽と阿部先生は、口をそろえて叫んだ。


 なっちゃんの追及に、俊也は抽象レベルでいきさつを説明した。
妹の担任と友人に「令和のジゴロ」の印象を、可能な限り払拭させたかった。

「つまり、ひっかけたわけじゃなくて、相手から関係を要求された?」
俊也は「特殊能力」の説明抜きで、理解は難しいと思っていたが、阿部先生はなんとか意をくんでくれた。

「そういうことです。一人は俺がスカウトしましたが、体までは要求してません」

「なんか不純。みんなお兄さんの体が、目当てだったんだ? 
お兄さんもみんなの体が目当て」
 なっちゃんは、率直に感想を述べた。

「極論すればそうなるね。もちろん状況の必然性…つまり、俺の嫁たちは、俺とセックスする必要があったんだ。生きるために。
カナは全然状況が違うけど。
静香さんは生きていくための変化? 
それを望んでたと思う。
彼女は何人かの男性とめぐり会ってきたと思う。
だけど、一緒に生きるには、状況が許さなかったんだろうね。
阿部先生、静香さんは、取締役のご令嬢だと聞きましたが、でっかい企業なんでしょ?」
 
阿部先生は意外だった。静香さんの出自知らなかったんだ?

「静香さん、言わなかったんですか? だったら私の口からは……」
 阿部先生はとまどう。
この男、モーニングホールディングスまで、食い物にしようと考えないだろうか? 
そんな心配があったから。

そう考えて、ふと矛盾に気づいた。
静香さん、どうして店を閉める必要があったのだろう? 

もともと半分以上趣味で、画廊を経営していたと聞いていたから。
バックには彼女の父親が付いている。少々の赤字でも、びくともしないはずだ。

「まあ、どうでもいいんですけど。
家が彼女の負担になってるんじゃないかな。
そんな気がしただけです。
たとえば、彼女が夫を選んだら、嫌でも後継者争いに巻き込まれてしまう。
彼女はロマンチストだから、後継者争いに興味を示す、野心満載の男は嫌だった。
かといって、生活能力の低い男も、それはそれで困る。
俺は最初から圏外だから、安心して『変化』の対象に選べた。
そんなふうに想像してるんですが」
 
俊也の分析に、阿部先生は納得した。

もちろん静香の家の、詳しい事情は知らない。だが、今の分析で、静香の「男嫌い」は説明できる。

高校時代、彼女は意識的に男を避けていたように思える。

だが「恋バナ」には結構食いついていた。何を隠そう、阿部先生は、何度も彼女に「恋バナ」を相談していたから。「あの男はダメ」と、バッサバッサ斬り捨ててくれた。

今にして思い当たる。彼女は言い寄る男を、斬り捨てた結果の「男嫌い」だったのだ。

阿部先生は思った。後で静香さんに連絡してみるかな? 

この男との関係、もっと知りたい。


 食事を終え、俊也兄妹と菜摘が別れるのを確認し、阿部先生は学校へ帰った。
職員室でさっそく静香にメールで連絡を入れる。

『私の教え子に、青形朝陽という子がいます。お兄さんの俊也さんと少しお話しました。
静香さんと親しいと聞いたんですが』
 すぐさま返信があった。

『面白い人でしょ? なんかメロメロになっちゃった。あの人の子供産みたい、なんて思う今日この頃。
結婚は全然する気ないけどね』
 阿部先生の、スマホを持つ手は震えた。

『静香さん、まさか本気じゃないでしょ? 静香さんは十五番目ですよ!』

『知ってるよ。それが何か? 
本気も本気。この前してもらった。
うまく妊娠してたらいいんだけど』

『お説教します! 今どこですか?』
『お~、さすが教員だ。部屋にいるよ。よかったらおいで』
『すぐ行きます! 逃げないでください』
『おお怖っ! 待ってるよ』
 阿部先生は、午後から登校日に提出させた、生徒の宿題を点検する予定だった。

そんなのどうでもいい! 阿部先生は急いで帰り支度をし、静香のマンションを目指した。
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