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130 SA新撰組燃ゆ 2
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ブルーとアンリは、一軒の民家から出てきた男に目をつけた。やけにすっきりした顔だから、その家で男が何をしたのか、想像はつく。
ブルーはアンリに目配せ。アンリは小さくうなずき、男が通り過ぎようとするとき、物陰からよろよろと出た。
「ん? うげっ……」
男がアンリに気がとられた瞬間、ブルーが飛び出して素早く当身をくらわす。内臓破裂が起こらない程度の力加減、さすがのブルーも身につけた。
アンリが倒れ掛かってきたその男を背負い、物陰に姿を隠す。
ブルーは周囲を警戒し、アンリは男を背負ったまま仲間の元へ走る。
その間、およそ十秒。雪に囲まれ、静まりかえった町に、起こった小さな異変は、何事もなかったようだった。
街で一番大きい宿。一階は酒場も兼ねている。
アンが魅了の魔法で、捕虜を尋問したところ、盗賊団は全員この宿で集まっているとのこと。
全部で二十二名。ブルーとアンリに拉致された捕虜は、なんと盗賊団のボスだった。
もう息をしていない。街外れに放置された死体を見たら、ボスを生かしたまま、拘束する気になれなかった。
その死体はすべて男だった。盗賊団に抵抗したか、抵抗する可能性がある者は、皆殺しにされたのだ。
「あ~、やっと着いた。
すみません。旅の者です。
犬ぞりが立ち往生しちゃって。
お礼はしますから、手を貸していただけませんか?」
リラもどきが、酒場にたむろする盗賊団に愛想を振りまく。侍らされた若い五人の女は、一様に生気が薄い。
エレンもどきと、フラワーもどきも、にっこり笑って頭を下げる。
スゲー! この三人、何者?
盗賊団は鼻の下を伸ばし、侍らせた女をどかせ集まってくる。
「お嬢さん、こんな季節に旅? なんか事情でも?」
一人が聞く。
「ごめんなさい。お話しできない事情なんです。
でなければ、女三人でこの季節に、旅なんてしません。
お礼は…金貨二枚でいかがでしょう?」
盗賊団は互いに目を見合す。この三人、多分貴族の娘だ。色々お礼をしてもらえそう!
「いいよ。手は何人ぐらい?」
盗賊Aは可能な限り善良さを装い、そう聞いた。
「できるだけ多くの人に、お願いしたいんです。
そりが斜面に落ちちゃって」
「そうかい? じゃ支度をするからちょっと待ってて。
寒かっただろ?
暖炉にあたりなよ」
下心満載の盗賊Aは、精一杯の愛想をふりまく。
「ありがとうございます。
あ~、親切な人たちでよかった」
ルラもどきは二人を促し、暖炉のそばへ。
一階にいるのは全部で十五人。
残りの六人は、上の部屋でよろしくやっているのだろう。
盗賊たちは喜々としてブーツをはき、防寒の上着を着込む。
上着を着ないのは二名。女たちの見張りに残るのだろう。
「じゃ、そりに案内して」
盗賊Aが言う。
「おねがいしま~す!
エレン、フラワー、私が案内するから、あなたたちは残ってていいよ」
ルラもどきはそう言って、盗賊たちを外へ連れ出した。
エレンとフラワーもどきは、残った見張りに近づく。
「ねえ。私と仲良くしよう」
エレンもどきは、盗賊Bに手を伸ばす。フラワーもどきは盗賊Cに。
魅入られたように、BとCは近づく。
「アイススピア!」
次の瞬間、BとCの心臓に氷の槍が突き刺さる。
エレンもどきとフラワーもどきは、小さな火の球となって消えた。
女たちは上げそうになった悲鳴を、両手で押さえた。
よくわからないが、救援がきたことはわかったから。
そして次の瞬間。外で銃撃の音がけたたましく響いた。
二階からブルーとアンリが下りてきた。
「もう大丈夫だよ。カントの新撰組が助けに来たから」
ブルーが女たちに笑顔をむけた。
アンリは店の入り口に向かう。彼女の右手には、血濡れた脇差が握られていた。
「じゃあ、荼毘(だび)にふします。名残惜しいでしょうが下がって下さい」
ユーノが沈鬱な声で言う。
親しい者の死体を見つけ、悲嘆に暮れていた町の者は、泣きはらした顔で死体から離れていく。
隊士たちは、集めた薪を死体の上に置く。
「黙とう!
ヘブンファイア!」
ユーノが渾身の魔法を放つ。
薪と死体は、灼熱の炎で、あっという間に焼き尽くされた。骨も残っていない。
このスペースは、街の共同墓地になる。
「盗賊たちを地獄へ送ります。
ヘルファイア!」
ユーノは積み上げられた盗賊たちの死体に、怒りの魔法を放つ。
「これで我々の仕事は終わった。
隊士を五人残す。
復興に役立ててくれ」
ブルーはそう言って、魔法陣に入った。
「え~っと、お前。
お前は恋人の元へ帰れ。
他の者は雪が溶けるまで、ここでお手伝いをしろ。
ローラン」
ブルーに促され、ローランは転移魔法を発動。
恋人がいる隊士は、ちょっぴり後悔しながら魔法陣に入った。
残るやつら、超おいしい思いをするに違いない。この街の若い男は、ほとんど殺されてしまったから。
ひょっとしたら、局長級にもてるのでは?
リア充隊士は、大いなる未練を残しながら転移した。
ブルーはアンリに目配せ。アンリは小さくうなずき、男が通り過ぎようとするとき、物陰からよろよろと出た。
「ん? うげっ……」
男がアンリに気がとられた瞬間、ブルーが飛び出して素早く当身をくらわす。内臓破裂が起こらない程度の力加減、さすがのブルーも身につけた。
アンリが倒れ掛かってきたその男を背負い、物陰に姿を隠す。
ブルーは周囲を警戒し、アンリは男を背負ったまま仲間の元へ走る。
その間、およそ十秒。雪に囲まれ、静まりかえった町に、起こった小さな異変は、何事もなかったようだった。
街で一番大きい宿。一階は酒場も兼ねている。
アンが魅了の魔法で、捕虜を尋問したところ、盗賊団は全員この宿で集まっているとのこと。
全部で二十二名。ブルーとアンリに拉致された捕虜は、なんと盗賊団のボスだった。
もう息をしていない。街外れに放置された死体を見たら、ボスを生かしたまま、拘束する気になれなかった。
その死体はすべて男だった。盗賊団に抵抗したか、抵抗する可能性がある者は、皆殺しにされたのだ。
「あ~、やっと着いた。
すみません。旅の者です。
犬ぞりが立ち往生しちゃって。
お礼はしますから、手を貸していただけませんか?」
リラもどきが、酒場にたむろする盗賊団に愛想を振りまく。侍らされた若い五人の女は、一様に生気が薄い。
エレンもどきと、フラワーもどきも、にっこり笑って頭を下げる。
スゲー! この三人、何者?
盗賊団は鼻の下を伸ばし、侍らせた女をどかせ集まってくる。
「お嬢さん、こんな季節に旅? なんか事情でも?」
一人が聞く。
「ごめんなさい。お話しできない事情なんです。
でなければ、女三人でこの季節に、旅なんてしません。
お礼は…金貨二枚でいかがでしょう?」
盗賊団は互いに目を見合す。この三人、多分貴族の娘だ。色々お礼をしてもらえそう!
「いいよ。手は何人ぐらい?」
盗賊Aは可能な限り善良さを装い、そう聞いた。
「できるだけ多くの人に、お願いしたいんです。
そりが斜面に落ちちゃって」
「そうかい? じゃ支度をするからちょっと待ってて。
寒かっただろ?
暖炉にあたりなよ」
下心満載の盗賊Aは、精一杯の愛想をふりまく。
「ありがとうございます。
あ~、親切な人たちでよかった」
ルラもどきは二人を促し、暖炉のそばへ。
一階にいるのは全部で十五人。
残りの六人は、上の部屋でよろしくやっているのだろう。
盗賊たちは喜々としてブーツをはき、防寒の上着を着込む。
上着を着ないのは二名。女たちの見張りに残るのだろう。
「じゃ、そりに案内して」
盗賊Aが言う。
「おねがいしま~す!
エレン、フラワー、私が案内するから、あなたたちは残ってていいよ」
ルラもどきはそう言って、盗賊たちを外へ連れ出した。
エレンとフラワーもどきは、残った見張りに近づく。
「ねえ。私と仲良くしよう」
エレンもどきは、盗賊Bに手を伸ばす。フラワーもどきは盗賊Cに。
魅入られたように、BとCは近づく。
「アイススピア!」
次の瞬間、BとCの心臓に氷の槍が突き刺さる。
エレンもどきとフラワーもどきは、小さな火の球となって消えた。
女たちは上げそうになった悲鳴を、両手で押さえた。
よくわからないが、救援がきたことはわかったから。
そして次の瞬間。外で銃撃の音がけたたましく響いた。
二階からブルーとアンリが下りてきた。
「もう大丈夫だよ。カントの新撰組が助けに来たから」
ブルーが女たちに笑顔をむけた。
アンリは店の入り口に向かう。彼女の右手には、血濡れた脇差が握られていた。
「じゃあ、荼毘(だび)にふします。名残惜しいでしょうが下がって下さい」
ユーノが沈鬱な声で言う。
親しい者の死体を見つけ、悲嘆に暮れていた町の者は、泣きはらした顔で死体から離れていく。
隊士たちは、集めた薪を死体の上に置く。
「黙とう!
ヘブンファイア!」
ユーノが渾身の魔法を放つ。
薪と死体は、灼熱の炎で、あっという間に焼き尽くされた。骨も残っていない。
このスペースは、街の共同墓地になる。
「盗賊たちを地獄へ送ります。
ヘルファイア!」
ユーノは積み上げられた盗賊たちの死体に、怒りの魔法を放つ。
「これで我々の仕事は終わった。
隊士を五人残す。
復興に役立ててくれ」
ブルーはそう言って、魔法陣に入った。
「え~っと、お前。
お前は恋人の元へ帰れ。
他の者は雪が溶けるまで、ここでお手伝いをしろ。
ローラン」
ブルーに促され、ローランは転移魔法を発動。
恋人がいる隊士は、ちょっぴり後悔しながら魔法陣に入った。
残るやつら、超おいしい思いをするに違いない。この街の若い男は、ほとんど殺されてしまったから。
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