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131 事故の顛末(てんまつ)
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俊也はロビーで朝刊を読んでいた。
あの事故から一週間。
毎日気をつけて、朝刊に目を通しているが、犯人逮捕の記事はまだ見ない。
交通事故だから、載っていないのか、あるいは、まだ逮捕されていないのか。
あの写真と指紋。逮捕は時間の問題だと思っていたが、難航しているのかもしれない。
さてと、今日は卒業検定。後一頑張り。
俊也は新聞を元のラックに返し、部屋へ帰ろうとした。
「青形、ちょっといいか?」
エレベーターから降りてきた太田に、呼び止められた。
「いいけど」
検定までには、まだ十分時間がある。俊也は太田と共にソファーへ帰った。
「言いにくいんだけど、金貸してもらえね?
お前、うまくいけば今日で卒業だろ?」
あ~、ためてたバイト代、足りなくなったんだ?
俊也は特訓のおかげか、今まですべてパスしてきた。
教習で合格をもらえなければ、乗り直しとなり、宿泊代金は追加されるシステムだ。
太田は俊也が入学した二日後だったが、落ちまくっていると聞いた。
「いくら?」
太田には全く義理はない。だが、袖すりあうも他生の縁という。
金額次第では、融通する気になっていた。
「五万! 必ず返す。もちろん借用書も書く」
「落ちる気満々だな」
俊也は財布をケツポケットから出す。万札を五枚数えようとしたら…、
「人の財布見るなよ」
太田は、俊也の財布を覗きこんでいた。
「わり~。さすが青年実業家は違う」
「現金主義なんだ。ほら、先に借用書」
俊也は楽天主義から苦労性に、完全ジョブチェンジしていた。
常に十万程度の現金は持ち歩いている。クレジットカードは持っていないし。
持たない、というより持てないが、多分正しいはずだ。
職業が国王では、審査に通らないだろう。
太田はカウンターへ行った。
「すみません。何か紙、もらえます? なんでもいいです」
紙? あ~、借用書?
五万円、無事帰ってくるだろうか? 苦労性属性の俊也は、かなり不安になった。
卒業検定も無事合格。後は学科試験を残すのみ。俊也はルンルン気分で教習所を出ようとした。
「青形君」
呼び止められ、振り返ると藤原先生だった。
「おかげさまで、教習全部終わりました。
お世話になりました」
俊也は礼を尽くす。
「気になってると思うから。時間大丈夫?」
「はい大丈夫です」
多分あのひき逃げ事件のことだろう。そう思って俊也は了承した。
「結論から言う。今朝犯人は逮捕された。
あの車、ある主婦の家の車だった。
その車のキーと車を、犯人は黙って持ち出した。
主婦は困ってしまった。犯人とは公にできない関係があったから。
夫への言い訳のため、仕方なく盗難届を出したわけ。
盗難届の供述が不自然だったから、警察が追及したの。
警察に教えてもらったのはそこまで。
多分主婦の家庭、崩壊だろうね」
俊也は深くため息をついた。奥さん、少なくとも浮気相手は選びましょうよ。
「わかりました。すっきりしたとは言えませんが」
俊也は席を立とうとした。
「私、やっぱり幸せなの? めんどくさいしがらみ、一切ない」
藤原教官は、どこか寂しそうな笑顔でそう言った。
「やっとめんどくさいしがらみに帰れます。
俺、幸せですよ」
そう言って俊也は教習所を出て行った。
俊也はビジネスホテルに帰った。太田がロビーでいた。
「青形! 頼む、後二万貸してくれ!
また終了検定落ちちゃったよ。
飯代もかかるし、卒業しても、次のバイト代が入るまで……」
なんか、やたらめんどくさい、しがらみが増えたようだ。
俊也はあきらめて財布を出した。
あの事故から一週間。
毎日気をつけて、朝刊に目を通しているが、犯人逮捕の記事はまだ見ない。
交通事故だから、載っていないのか、あるいは、まだ逮捕されていないのか。
あの写真と指紋。逮捕は時間の問題だと思っていたが、難航しているのかもしれない。
さてと、今日は卒業検定。後一頑張り。
俊也は新聞を元のラックに返し、部屋へ帰ろうとした。
「青形、ちょっといいか?」
エレベーターから降りてきた太田に、呼び止められた。
「いいけど」
検定までには、まだ十分時間がある。俊也は太田と共にソファーへ帰った。
「言いにくいんだけど、金貸してもらえね?
お前、うまくいけば今日で卒業だろ?」
あ~、ためてたバイト代、足りなくなったんだ?
俊也は特訓のおかげか、今まですべてパスしてきた。
教習で合格をもらえなければ、乗り直しとなり、宿泊代金は追加されるシステムだ。
太田は俊也が入学した二日後だったが、落ちまくっていると聞いた。
「いくら?」
太田には全く義理はない。だが、袖すりあうも他生の縁という。
金額次第では、融通する気になっていた。
「五万! 必ず返す。もちろん借用書も書く」
「落ちる気満々だな」
俊也は財布をケツポケットから出す。万札を五枚数えようとしたら…、
「人の財布見るなよ」
太田は、俊也の財布を覗きこんでいた。
「わり~。さすが青年実業家は違う」
「現金主義なんだ。ほら、先に借用書」
俊也は楽天主義から苦労性に、完全ジョブチェンジしていた。
常に十万程度の現金は持ち歩いている。クレジットカードは持っていないし。
持たない、というより持てないが、多分正しいはずだ。
職業が国王では、審査に通らないだろう。
太田はカウンターへ行った。
「すみません。何か紙、もらえます? なんでもいいです」
紙? あ~、借用書?
五万円、無事帰ってくるだろうか? 苦労性属性の俊也は、かなり不安になった。
卒業検定も無事合格。後は学科試験を残すのみ。俊也はルンルン気分で教習所を出ようとした。
「青形君」
呼び止められ、振り返ると藤原先生だった。
「おかげさまで、教習全部終わりました。
お世話になりました」
俊也は礼を尽くす。
「気になってると思うから。時間大丈夫?」
「はい大丈夫です」
多分あのひき逃げ事件のことだろう。そう思って俊也は了承した。
「結論から言う。今朝犯人は逮捕された。
あの車、ある主婦の家の車だった。
その車のキーと車を、犯人は黙って持ち出した。
主婦は困ってしまった。犯人とは公にできない関係があったから。
夫への言い訳のため、仕方なく盗難届を出したわけ。
盗難届の供述が不自然だったから、警察が追及したの。
警察に教えてもらったのはそこまで。
多分主婦の家庭、崩壊だろうね」
俊也は深くため息をついた。奥さん、少なくとも浮気相手は選びましょうよ。
「わかりました。すっきりしたとは言えませんが」
俊也は席を立とうとした。
「私、やっぱり幸せなの? めんどくさいしがらみ、一切ない」
藤原教官は、どこか寂しそうな笑顔でそう言った。
「やっとめんどくさいしがらみに帰れます。
俺、幸せですよ」
そう言って俊也は教習所を出て行った。
俊也はビジネスホテルに帰った。太田がロビーでいた。
「青形! 頼む、後二万貸してくれ!
また終了検定落ちちゃったよ。
飯代もかかるし、卒業しても、次のバイト代が入るまで……」
なんか、やたらめんどくさい、しがらみが増えたようだ。
俊也はあきらめて財布を出した。
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