【R18】猫は異世界で昼寝した

nekomata-nyan

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132 猟師の娘って誰だっけ?

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 約三週間の出張を終え、俊也は湖の館へ転移する。

季節が真逆というのは微妙。カントの山並みや街は、まだ雪に埋もれていた。
八月も終わり近く、それでも猛暑が続く日本で、どんなにカントの冬が恋しかったか。
だが、いきなりの気温変化は、さすがにこたえる。

「ただいま。お~寒!」
 猫又ナイトに変化していた俊也は、暖炉の前へ。

「お帰り」
 帰るコールを受けていた妊婦嫁三人は、ナイトのそばに集まる。
代表してルラがナイトを抱え、鼻ツンを施す。

部屋は暖炉で暖まっていたが、いきなりの素っ裸。俊也はぶるっと身震い。手早く着衣する。

魔法が使えたら、一瞬で着替えができるのだが、相変わらず俊也形態は、魔法不能者だ。
変身も相変わらず意志では不可能だ。

嫁たちに言わせたら、すべては「思い込み」だそうだが、できないものはできないと、俊也は開き直るしかない。

「何か変わったことは?」
 俊也は誰にともなく聞く。

「例の盗賊討伐は、聞いてるでしょ? 作戦は百パーセント成功。
ただ、新撰組が、やたら気に入られちゃったみたい。
エルウィンの人たちにとって英雄だから。
カントに帰ってくるかな?」
 エレンがそう報告する。

「五人置いてきたんだってね? 
いい判断だと思うけど。
結局男は何人殺された?」
 
大勢の男が殺されていたという報告は、受けていたが、数は聞いていなかった。

「古い死体が五十人。
不意に仕掛けられたそうだけど、抵抗したんでしょうね。新しい死体は八十人。
傷はなかった。つまり、拘束されて餓死や凍死で亡くなった。
カントなら屈強な男が多いから、なんとでもなったんだろうけど、エルウィンは農業牧畜の街だから」
 フラワーが眉をひそめて言う。

「エルウィンだから狙ったんだろうね。
そうか、百三十人か。あの街の人口、千人程度? 
力のありそうな男は、ほぼ全滅?」

「周辺の村に逃げてた男が二百人程度。
それだけ数がそろってたら、なんとかなるはずなんだけど」
 ルラが憤りをこめて言う。

「なんともできないから逃げたんだよ」
 俊也は男として一応弁護する。荒事の専門に立ち向かう勇気がなかったのだ。
抵抗した者が、殺される現場も見ているはずだし。

「帰ってきて、街の人に白い目で見られてるそうよ」
 エレンが苦々しげに言う。

俊也は思う。男はつらい! 
俊也形態でも、もっと力をつけよう。変身しなければ、エルウィンの軟弱男とさほど変わらない。

悲しいことに、自分自身には、魔力や肉体強化の裏技は発揮できない。
 

 翌朝、俊也はシャベルを担いで館の外に出た。

「俊也さん、お久しぶりです。今朝はどうしたんですか?」
 元村人六人衆の一人、ブレイブがそう聞いた。

彼をはじめ元村人たちは、雪かきに励んでいる。ゆうべは一晩中雪が降り続いた。

「体を鍛えなきゃと思って。さ~、やるぞ~!」
 俊也はシャベルで雪をすくう。日本で買った一輪車に雪を放り込む。

「猫又さんに変身して、魔法を使ったら一発じゃないですか?」
 ニーナが不思議そうな顔で言う。

「たしかにそうなんだけどね。
俺、人間の姿じゃなんにもできないし」
 俊也は苦笑して応える。

「ニーナ、館の魔導師さんが、雪を魔法で溶かさないのは、俺たちの体を鍛えるためだ。
魔法がダメな俺たちには体しかない。それと同じ」
 ブレイブが言う。

「だけど、俊也さんには頭があるでしょ? 
マサラさんやエンランさんがいつも言ってるじゃない。
館の中で一番怖いのは俊也さんの頭だって」

「そうかもしれないけど、俊也さんは男だ。
男は力を女に見せたい生き物なんだよ」
 
よく言った、ブレイブ。その通りだ。

だけど、雪、案外重くね?


 二時間後、俊也はソファーに横たわっていた。腕と腰が……。

「だから言ったでしょ? 無理はしない方がいいよって。リカバー!」
 ルラが苦笑して回復魔法をかけてくれる。悲鳴を上げていた筋肉や関節が、あっというまに楽になる。

俊也はしみじみ思う。王国で医療が発達しないはずだ。
あちらの世界で、本気で金もうけしようと思ったら簡単だ。ヒールやリカバーの魔法だけでも、食うに困らない。
その事情はこちらの世界でも同じ。

だが、館が誇る治癒魔法は門外不出。最高水準の治癒魔導師が、何人もいることは秘密にしている。

なぜなら、治癒魔法を求める人で収集がつかなくなるから。

できるだけ目立たないように生きたい館の住人にとって、それは絶対避けなければならない。

唯一の例外がアンリだ。

彼女は巡回の途中、乞われれば治癒魔法を施す。

彼女はカント生まれのカント育ち。俊也もアンリだけには認めている。

だから、カントの街の人はこう思っている。

力だけのブルー、力と治癒魔法のアンリ。

下の世界とは、ほとんど没交渉の他の嫁と違い、二人はカントの街の人にとって、欠かせない存在となっている。

ブルーの名誉のために断わっておく。ブルーも中級程度の治癒魔法なら使えるようになっている。
めんどくさいからやらないだけだ。ちょっとした傷や筋肉痛程度なら、すぐさま回復できるが、症状によってはやたら時間がかかるから。

一度やれる子だとばれてしまえば、自然と頼られるようになる。活動派のブルーにとって、じっと治癒魔法をかけ続けることなど、拷問に等しい。

「ふたこぶイノシシ、獲ったドー!」
 玄関からブルーの勇ましい声が聞こえる。

「俊也さ~ん! ほめてほめて! 私が弓で仕留めたんです!」
 ミネットが意気揚々と俊也に駆け寄る。

「そうかそうか。うん、よくやった」
 俊也はミネットの頭をくしゃくしゃっとかき回す。

「魔法で動けなくしてからね」
 イザベルが苦笑してチクる。ミネットはかわいくテヘペロを決める。

「今夜はシシ鍋だ~! ルラさん、カナちゃんも呼ぼうか?」
 ブルーが提案する。

「そうだね。俊也、カナちゃん、どっちでいるの?」
 ルラが聞く。カナは俊也が大使館にいるときは、たいてい大使館で過ごしている。
俊也は昨日一度大使館に帰っているから、どちらにいるかわからない。

「自宅の方。昨日帰る前に送った。ルマンダ、野菜の余裕ある?」
 俊也は料理長ルマンダに振る。彼女はつわりの症状が消え、料理長に復帰している。

「そうですね。白菜は足りなくなるかな。ルラ様、野菜の仕入れも頼んでおいてください。白菜は多めに」
 日本はありがたい国だ。冬場、こちらでは入手しにくい生鮮食品も、簡単に手に入る。

「了解。またあの子、くっついてくるのかな?」
 ルラの言う「あの子」とは、琴音のことだ。

カナから、こちらや大使館に行くという情報をキャッチしたら、もれなく付いてくる。

俊也はなし崩しでお相手しているが、どうしようかと迷っている。琴音自身、まだ将来について決めかねているようだし。

あちらの世界で、もう一人できた愛人は、マンションを引き払い、堂々と大使館に住みついている。もちろん静香のことだ。

彼女は現在こちらへ呼べない。彼女の希望通り、一発で妊娠している可能性があるから。ほぼ順調だった生理が、とんでいるらしい。

「ブルー、シシ肉、大使館にも送って。アンリかアンがどうにかしてくれると思う」
 大使館には一週間交代で、最低二人の嫁が常駐している。

プール遊びにはまったマサラとエンランも、今は大使館にいる。静香の実家には、なんとプールがあるそうだ。

俊也はしきりに誘われているが、静香の妊娠が確定するまで挨拶に行く気がしない。妊娠が確定したら、覚悟を決めるしかないけど。

「了解。ミネット、あんたが仕留めたんだ。あんたが解体しろ」
 ブルーがニンマリしながら言う。
「え~……」
 ミネットは明らかに不満顔。そうか、ミネット、獲物を解体したことなかったんだ?

「猟師の娘って誰だっけ?」
 俊也はまとわりついたままのミネットの頭を、またくしゃくしゃっと。

「そうですよね。仕留めた者が最後まで責任を持って」
 ミネットは決然と立ち上がった。肉の量、少し減るかもしれない。
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