142 / 230
142 不倫の代償
しおりを挟む
王は職務を終え、後宮へ向かった。
ロン王には正妃に加え、五人の側室がいる。六人のいずれも子をなしていない。
唯一妊娠したのが、ミーナ王妃だった。その王妃も「流産」してしまったが。
彼の大きな悩みの一つは、王位継承者がいないことだった。
これは王国にとって、かなり深刻な問題だ。彼が継承者をこれまで指名しなかったのは、王妃が一度妊娠した事実があったからだ。
自分の子孫以外を後継者に指名し、その後、子が生まれたら国が乱れる大きな原因を作ってしまう。
だが、いよいよ真剣に後継者を考えなければならない。
どうやら自分は「種なし」と考えた方がよさそうだ。
あの慎重な伯爵が、ためらいつつも、あの情報を漏らしたのは、覚悟を迫る意味が強いと、王は読んでいる。
王には二人の弟がいたが、独立戦争時に戦死し、二人とも独身だった。両親も他界している。
つまり、後継者を指名しないまま自分が死んでしまえば、ミーナ妃が女王となるしかない。
ミーナ妃の血筋は、武門の家柄。
独立戦争時、最大限に貢献した。いよいよとなったら、妃の家に王位をつがせてもいいかと王は思っていたが、当然考えは変わった。
さて、ミーナ、どうしたものやら……。
王は久しぶりに、正妃の部屋を訪れた。
「あら…。どうもお久しぶりでございます」
ミーナ妃は、多少驚いたものの、悠然と王を迎えた。
王妃の実年齢は七十歳。だが、いまだ若々しく見え、容貌は衰えることを知らない。
彼女は目も髪も栗色だ。
そして、彼女の血筋も、王の血筋も、金髪碧眼の持ち主は誰一人いない。
「ナームとの国境近くの村で、魔法を使うひのえ熊が出たそうだ」
王はソファーに腰を下ろす。
「まあ……。それは大変」
王妃は向かいのソファーに座る。
「アルフのような、弓の名手がいてくれたら、簡単に退治できるだろうが」
王は「失踪」した、王妃の兄の名を上げた。
アルフはミーナの次兄で、ミストでも有数の魔法戦士だった。
「お飲み物は?」
王妃は全く表情を変えずそう言った。
王は思う。大したタマだ。
「よい。アルフのような誠実な男が、どうして国を去ったのかな?
今でもわからないのだが」
「それは前にも申し上げたはずですが。
侍女と深い仲になり、父上から勘当を申し渡されたからです」
王妃は笑顔さえ浮かべて応えた。
「カントの地に、奇妙な魔導師グループが住みついていること、聞いておるか?」
「噂では。なんでもイスタルト三大貴族のご令嬢が、そろって巫女になっておられるとか」
「ある奇妙な男が、十人の巫女を従え、王都から移り住んだそうだ。
巫女はカントで三人増えた。
一番新しい巫女の名前はミネット。
金髪碧眼で、美しい娘らしいぞ。
全くうらやましいことだ」
「王も側室を増やせばよろしいのです」
王妃は軽く流す。
「知っておるか? 金髪碧眼はイスタルト三大貴族の特徴だ。
イスタルト貴族の中でも数はいない」
「さようでございますか」
「お前の魔法の師、なんと言ったかな? ダイニー家次男の」
「マーク。マーク・ダイニー様です。
美しい金髪と青い目を持った方。
わたくし、どういたしましょうか?
実家だけには、これ以上迷惑をかけたくありません。
わたくしの不始末で、次兄にとりかえしのつかない迷惑をかけたのですから」
さすがにミーナ妃の表情はこわばっていた。
「いい度胸だ。
もう少ししらばっくれると思ったが。
お前とお前の縁者を、ミストの後継者にするわけにいかない」
「わかりました。
すべてわたくしが悪いのです。
くれぐれも病死ということで……」
悲壮な表情のミーナ妃に、ロン王は冷たく笑った。
「自害しろとは言わぬ。
わしが選ぶ娘たちと共にカントへ行け。
お前の娘が待っているぞ。
娘たちは、子をなしたらミストに返してもらう。
俊也という者にこう伝える。
三人の娘たちの魔力を高め、子をなす。
それがミネットの母親を助ける条件。
俊也はお人よしらしいから、多分受けるはずだ」
王妃は蒼白になり、無言で立ち上がった。
「自害は許さぬ!
お前はわしを裏切り、王妃としての責任を果たさなかった。
せめてミストに貢献しろ。
お前が捨てた娘は、お前を許さないかもしれぬ。
それはお前が受けなければならない罰だ。
お前の実家、オズモン家をわしは失いたくない。
実家に迷惑をかけたという自覚があるなら、お前に死ぬことは許されぬ。
わかるな?」
そう言い捨て、王は部屋を出て行った。
翌日、王の親書を携えたフィード伯爵は、馬を飛ばしカントを目指した。そして王妃は、実家へ宿下がりした。
ロン王には正妃に加え、五人の側室がいる。六人のいずれも子をなしていない。
唯一妊娠したのが、ミーナ王妃だった。その王妃も「流産」してしまったが。
彼の大きな悩みの一つは、王位継承者がいないことだった。
これは王国にとって、かなり深刻な問題だ。彼が継承者をこれまで指名しなかったのは、王妃が一度妊娠した事実があったからだ。
自分の子孫以外を後継者に指名し、その後、子が生まれたら国が乱れる大きな原因を作ってしまう。
だが、いよいよ真剣に後継者を考えなければならない。
どうやら自分は「種なし」と考えた方がよさそうだ。
あの慎重な伯爵が、ためらいつつも、あの情報を漏らしたのは、覚悟を迫る意味が強いと、王は読んでいる。
王には二人の弟がいたが、独立戦争時に戦死し、二人とも独身だった。両親も他界している。
つまり、後継者を指名しないまま自分が死んでしまえば、ミーナ妃が女王となるしかない。
ミーナ妃の血筋は、武門の家柄。
独立戦争時、最大限に貢献した。いよいよとなったら、妃の家に王位をつがせてもいいかと王は思っていたが、当然考えは変わった。
さて、ミーナ、どうしたものやら……。
王は久しぶりに、正妃の部屋を訪れた。
「あら…。どうもお久しぶりでございます」
ミーナ妃は、多少驚いたものの、悠然と王を迎えた。
王妃の実年齢は七十歳。だが、いまだ若々しく見え、容貌は衰えることを知らない。
彼女は目も髪も栗色だ。
そして、彼女の血筋も、王の血筋も、金髪碧眼の持ち主は誰一人いない。
「ナームとの国境近くの村で、魔法を使うひのえ熊が出たそうだ」
王はソファーに腰を下ろす。
「まあ……。それは大変」
王妃は向かいのソファーに座る。
「アルフのような、弓の名手がいてくれたら、簡単に退治できるだろうが」
王は「失踪」した、王妃の兄の名を上げた。
アルフはミーナの次兄で、ミストでも有数の魔法戦士だった。
「お飲み物は?」
王妃は全く表情を変えずそう言った。
王は思う。大したタマだ。
「よい。アルフのような誠実な男が、どうして国を去ったのかな?
今でもわからないのだが」
「それは前にも申し上げたはずですが。
侍女と深い仲になり、父上から勘当を申し渡されたからです」
王妃は笑顔さえ浮かべて応えた。
「カントの地に、奇妙な魔導師グループが住みついていること、聞いておるか?」
「噂では。なんでもイスタルト三大貴族のご令嬢が、そろって巫女になっておられるとか」
「ある奇妙な男が、十人の巫女を従え、王都から移り住んだそうだ。
巫女はカントで三人増えた。
一番新しい巫女の名前はミネット。
金髪碧眼で、美しい娘らしいぞ。
全くうらやましいことだ」
「王も側室を増やせばよろしいのです」
王妃は軽く流す。
「知っておるか? 金髪碧眼はイスタルト三大貴族の特徴だ。
イスタルト貴族の中でも数はいない」
「さようでございますか」
「お前の魔法の師、なんと言ったかな? ダイニー家次男の」
「マーク。マーク・ダイニー様です。
美しい金髪と青い目を持った方。
わたくし、どういたしましょうか?
実家だけには、これ以上迷惑をかけたくありません。
わたくしの不始末で、次兄にとりかえしのつかない迷惑をかけたのですから」
さすがにミーナ妃の表情はこわばっていた。
「いい度胸だ。
もう少ししらばっくれると思ったが。
お前とお前の縁者を、ミストの後継者にするわけにいかない」
「わかりました。
すべてわたくしが悪いのです。
くれぐれも病死ということで……」
悲壮な表情のミーナ妃に、ロン王は冷たく笑った。
「自害しろとは言わぬ。
わしが選ぶ娘たちと共にカントへ行け。
お前の娘が待っているぞ。
娘たちは、子をなしたらミストに返してもらう。
俊也という者にこう伝える。
三人の娘たちの魔力を高め、子をなす。
それがミネットの母親を助ける条件。
俊也はお人よしらしいから、多分受けるはずだ」
王妃は蒼白になり、無言で立ち上がった。
「自害は許さぬ!
お前はわしを裏切り、王妃としての責任を果たさなかった。
せめてミストに貢献しろ。
お前が捨てた娘は、お前を許さないかもしれぬ。
それはお前が受けなければならない罰だ。
お前の実家、オズモン家をわしは失いたくない。
実家に迷惑をかけたという自覚があるなら、お前に死ぬことは許されぬ。
わかるな?」
そう言い捨て、王は部屋を出て行った。
翌日、王の親書を携えたフィード伯爵は、馬を飛ばしカントを目指した。そして王妃は、実家へ宿下がりした。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
貞操逆転世界に転生したのに…男女比一対一って…
美鈴
ファンタジー
俺は隼 豊和(はやぶさ とよかず)。年齢は15歳。今年から高校生になるんだけど、何を隠そう俺には前世の記憶があるんだ。前世の記憶があるということは亡くなって生まれ変わったという事なんだろうけど、生まれ変わった世界はなんと貞操逆転世界だった。これはモテると喜んだのも束の間…その世界の男女比の差は全く無く、男性が優遇される世界ではなかった…寧ろ…。とにかく他にも色々とおかしい、そんな世界で俺にどうしろと!?また誰とも付き合えないのかっ!?そんなお話です…。
※カクヨム様にも投稿しております。内容は異なります。
※イラストはAI生成です
ヤンデレ王子を闇落ちから救ったら愛執まみれの独占欲に囚われました
大江戸ウメコ
恋愛
幼い頃に精霊の祝福である未来視の力が開花し、「夫である第二王子ナハルドに殺される」という己の運命を知った伯爵令嬢ツィーラ。この悲惨な未来を変えるべく、ツィーラは彼を避けようとしたが、ひょんなことから婚約者に選ばれてしまった! ならば、ナハルドが将来闇落ちしないよう、側で彼を支えることを決意する。そんな努力の甲斐あって、ツィーラへの好意を隠さず伝えてくるほど、ナハルドとの関係は良好になった。だけど、彼の並々ならぬ執着心のすべてを、ツィーラはまだ知らなくて――
転生?したら男女逆転世界
美鈴
ファンタジー
階段から落ちたら見知らぬ場所にいた僕。名前は覚えてるけど名字は分からない。年齢は多分15歳だと思うけど…。えっ…男性警護官!?って、何?男性が少ないって!?男性が襲われる危険がある!?そんな事言われても…。えっ…君が助けてくれるの?じゃあお願いします!って感じで始まっていく物語…。
※カクヨム様にも掲載しております
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
ドマゾネスの掟 ~ドMな褐色少女は僕に責められたがっている~
桂
ファンタジー
探検家の主人公は伝説の部族ドマゾネスを探すために密林の奥へ進むが道に迷ってしまう。
そんな彼をドマゾネスの少女カリナが発見してドマゾネスの村に連れていく。
そして、目覚めた彼はドマゾネスたちから歓迎され、子種を求められるのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる