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142 不倫の代償
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王は職務を終え、後宮へ向かった。
ロン王には正妃に加え、五人の側室がいる。六人のいずれも子をなしていない。
唯一妊娠したのが、ミーナ王妃だった。その王妃も「流産」してしまったが。
彼の大きな悩みの一つは、王位継承者がいないことだった。
これは王国にとって、かなり深刻な問題だ。彼が継承者をこれまで指名しなかったのは、王妃が一度妊娠した事実があったからだ。
自分の子孫以外を後継者に指名し、その後、子が生まれたら国が乱れる大きな原因を作ってしまう。
だが、いよいよ真剣に後継者を考えなければならない。
どうやら自分は「種なし」と考えた方がよさそうだ。
あの慎重な伯爵が、ためらいつつも、あの情報を漏らしたのは、覚悟を迫る意味が強いと、王は読んでいる。
王には二人の弟がいたが、独立戦争時に戦死し、二人とも独身だった。両親も他界している。
つまり、後継者を指名しないまま自分が死んでしまえば、ミーナ妃が女王となるしかない。
ミーナ妃の血筋は、武門の家柄。
独立戦争時、最大限に貢献した。いよいよとなったら、妃の家に王位をつがせてもいいかと王は思っていたが、当然考えは変わった。
さて、ミーナ、どうしたものやら……。
王は久しぶりに、正妃の部屋を訪れた。
「あら…。どうもお久しぶりでございます」
ミーナ妃は、多少驚いたものの、悠然と王を迎えた。
王妃の実年齢は七十歳。だが、いまだ若々しく見え、容貌は衰えることを知らない。
彼女は目も髪も栗色だ。
そして、彼女の血筋も、王の血筋も、金髪碧眼の持ち主は誰一人いない。
「ナームとの国境近くの村で、魔法を使うひのえ熊が出たそうだ」
王はソファーに腰を下ろす。
「まあ……。それは大変」
王妃は向かいのソファーに座る。
「アルフのような、弓の名手がいてくれたら、簡単に退治できるだろうが」
王は「失踪」した、王妃の兄の名を上げた。
アルフはミーナの次兄で、ミストでも有数の魔法戦士だった。
「お飲み物は?」
王妃は全く表情を変えずそう言った。
王は思う。大したタマだ。
「よい。アルフのような誠実な男が、どうして国を去ったのかな?
今でもわからないのだが」
「それは前にも申し上げたはずですが。
侍女と深い仲になり、父上から勘当を申し渡されたからです」
王妃は笑顔さえ浮かべて応えた。
「カントの地に、奇妙な魔導師グループが住みついていること、聞いておるか?」
「噂では。なんでもイスタルト三大貴族のご令嬢が、そろって巫女になっておられるとか」
「ある奇妙な男が、十人の巫女を従え、王都から移り住んだそうだ。
巫女はカントで三人増えた。
一番新しい巫女の名前はミネット。
金髪碧眼で、美しい娘らしいぞ。
全くうらやましいことだ」
「王も側室を増やせばよろしいのです」
王妃は軽く流す。
「知っておるか? 金髪碧眼はイスタルト三大貴族の特徴だ。
イスタルト貴族の中でも数はいない」
「さようでございますか」
「お前の魔法の師、なんと言ったかな? ダイニー家次男の」
「マーク。マーク・ダイニー様です。
美しい金髪と青い目を持った方。
わたくし、どういたしましょうか?
実家だけには、これ以上迷惑をかけたくありません。
わたくしの不始末で、次兄にとりかえしのつかない迷惑をかけたのですから」
さすがにミーナ妃の表情はこわばっていた。
「いい度胸だ。
もう少ししらばっくれると思ったが。
お前とお前の縁者を、ミストの後継者にするわけにいかない」
「わかりました。
すべてわたくしが悪いのです。
くれぐれも病死ということで……」
悲壮な表情のミーナ妃に、ロン王は冷たく笑った。
「自害しろとは言わぬ。
わしが選ぶ娘たちと共にカントへ行け。
お前の娘が待っているぞ。
娘たちは、子をなしたらミストに返してもらう。
俊也という者にこう伝える。
三人の娘たちの魔力を高め、子をなす。
それがミネットの母親を助ける条件。
俊也はお人よしらしいから、多分受けるはずだ」
王妃は蒼白になり、無言で立ち上がった。
「自害は許さぬ!
お前はわしを裏切り、王妃としての責任を果たさなかった。
せめてミストに貢献しろ。
お前が捨てた娘は、お前を許さないかもしれぬ。
それはお前が受けなければならない罰だ。
お前の実家、オズモン家をわしは失いたくない。
実家に迷惑をかけたという自覚があるなら、お前に死ぬことは許されぬ。
わかるな?」
そう言い捨て、王は部屋を出て行った。
翌日、王の親書を携えたフィード伯爵は、馬を飛ばしカントを目指した。そして王妃は、実家へ宿下がりした。
ロン王には正妃に加え、五人の側室がいる。六人のいずれも子をなしていない。
唯一妊娠したのが、ミーナ王妃だった。その王妃も「流産」してしまったが。
彼の大きな悩みの一つは、王位継承者がいないことだった。
これは王国にとって、かなり深刻な問題だ。彼が継承者をこれまで指名しなかったのは、王妃が一度妊娠した事実があったからだ。
自分の子孫以外を後継者に指名し、その後、子が生まれたら国が乱れる大きな原因を作ってしまう。
だが、いよいよ真剣に後継者を考えなければならない。
どうやら自分は「種なし」と考えた方がよさそうだ。
あの慎重な伯爵が、ためらいつつも、あの情報を漏らしたのは、覚悟を迫る意味が強いと、王は読んでいる。
王には二人の弟がいたが、独立戦争時に戦死し、二人とも独身だった。両親も他界している。
つまり、後継者を指名しないまま自分が死んでしまえば、ミーナ妃が女王となるしかない。
ミーナ妃の血筋は、武門の家柄。
独立戦争時、最大限に貢献した。いよいよとなったら、妃の家に王位をつがせてもいいかと王は思っていたが、当然考えは変わった。
さて、ミーナ、どうしたものやら……。
王は久しぶりに、正妃の部屋を訪れた。
「あら…。どうもお久しぶりでございます」
ミーナ妃は、多少驚いたものの、悠然と王を迎えた。
王妃の実年齢は七十歳。だが、いまだ若々しく見え、容貌は衰えることを知らない。
彼女は目も髪も栗色だ。
そして、彼女の血筋も、王の血筋も、金髪碧眼の持ち主は誰一人いない。
「ナームとの国境近くの村で、魔法を使うひのえ熊が出たそうだ」
王はソファーに腰を下ろす。
「まあ……。それは大変」
王妃は向かいのソファーに座る。
「アルフのような、弓の名手がいてくれたら、簡単に退治できるだろうが」
王は「失踪」した、王妃の兄の名を上げた。
アルフはミーナの次兄で、ミストでも有数の魔法戦士だった。
「お飲み物は?」
王妃は全く表情を変えずそう言った。
王は思う。大したタマだ。
「よい。アルフのような誠実な男が、どうして国を去ったのかな?
今でもわからないのだが」
「それは前にも申し上げたはずですが。
侍女と深い仲になり、父上から勘当を申し渡されたからです」
王妃は笑顔さえ浮かべて応えた。
「カントの地に、奇妙な魔導師グループが住みついていること、聞いておるか?」
「噂では。なんでもイスタルト三大貴族のご令嬢が、そろって巫女になっておられるとか」
「ある奇妙な男が、十人の巫女を従え、王都から移り住んだそうだ。
巫女はカントで三人増えた。
一番新しい巫女の名前はミネット。
金髪碧眼で、美しい娘らしいぞ。
全くうらやましいことだ」
「王も側室を増やせばよろしいのです」
王妃は軽く流す。
「知っておるか? 金髪碧眼はイスタルト三大貴族の特徴だ。
イスタルト貴族の中でも数はいない」
「さようでございますか」
「お前の魔法の師、なんと言ったかな? ダイニー家次男の」
「マーク。マーク・ダイニー様です。
美しい金髪と青い目を持った方。
わたくし、どういたしましょうか?
実家だけには、これ以上迷惑をかけたくありません。
わたくしの不始末で、次兄にとりかえしのつかない迷惑をかけたのですから」
さすがにミーナ妃の表情はこわばっていた。
「いい度胸だ。
もう少ししらばっくれると思ったが。
お前とお前の縁者を、ミストの後継者にするわけにいかない」
「わかりました。
すべてわたくしが悪いのです。
くれぐれも病死ということで……」
悲壮な表情のミーナ妃に、ロン王は冷たく笑った。
「自害しろとは言わぬ。
わしが選ぶ娘たちと共にカントへ行け。
お前の娘が待っているぞ。
娘たちは、子をなしたらミストに返してもらう。
俊也という者にこう伝える。
三人の娘たちの魔力を高め、子をなす。
それがミネットの母親を助ける条件。
俊也はお人よしらしいから、多分受けるはずだ」
王妃は蒼白になり、無言で立ち上がった。
「自害は許さぬ!
お前はわしを裏切り、王妃としての責任を果たさなかった。
せめてミストに貢献しろ。
お前が捨てた娘は、お前を許さないかもしれぬ。
それはお前が受けなければならない罰だ。
お前の実家、オズモン家をわしは失いたくない。
実家に迷惑をかけたという自覚があるなら、お前に死ぬことは許されぬ。
わかるな?」
そう言い捨て、王は部屋を出て行った。
翌日、王の親書を携えたフィード伯爵は、馬を飛ばしカントを目指した。そして王妃は、実家へ宿下がりした。
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