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161 ミーナの焦燥

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 すっかり陽が落ちた、第四魔法練習所。

ミーナは杖で魔法陣を描く。魔法の公式を埋め込む。

「ファイアウオール!」
 五十メートルほど向こう。幅・高さ三メートル、長さ三十メートルほど、炎の壁が生まれる。

対騎馬戦において、足止めにきわめて有効な魔法だ。
だけど、遅い……。

ミーナは王宮に上がってからも、魔力操作の修行を、たゆまず行ってきた。したがって、魔力量が爆発的に増えた今、かつてなら有頂天になれるほどの魔導師となれた。

客観的に見て、先の王妃、アンナ様に匹敵するほど。
だが、館の嫁たちと、どうしても比べてしまう。あの連続して放てる発動方を知りたい。

館外に漏れてしまったら脅威となる。それはわかるのだが。

ミスト人の私を、信用しろという方が無理か。

今日はこのへんで、やめておこう。魔力が相当消耗している。

「ミーナさん、気持ちはわかりますが、集中力が切れかけて練習しても、身につきませんよ」
 ローランが、心配して様子を見にきた。

「そうですね。もうふらふらだし。
戦いが近いかと思ったら、つい」
 ミーナは疲れた笑顔で応える。

「俊也さん、帰ってきてますよ。
今、研修生の三人にお説教です。
足手まといだ。君たちを守ろうとしたら、自分や嫁たちが危険だ。
超落ち込んでますから、なにか言ってあげてください。
私たちが言えば、慰めとしか聞こえないと思います」

「まっすぐな子たちですから。貴族には珍しいほど。
だけど、事実は事実です」

「ご自分にもあの三人にも、厳しすぎるんじゃないですか?」

「わたくしは、自分に甘過ぎたのです。
恋に恋し、思いつめて道を踏み外しました。
後宮へ上がってしまったら、もうあの方に会えない。
せめて一夜でも……。
結果を考えない衝動は罪です」

 ローランは、一つため息をついた。このまま戦場に送っていいものだろうか?
 無茶をしそうな気がする。

「俊也さんは、自分の好みに合う女性に求められたら、必ず応えてきました。
一度抱いちゃったら、とことん守ろうとしますよ。
どんな無理をしてでも。
俊也さん、そんな自分が分かってるから、あの三人を戦場に送らないんです。
今のミーナさん、俊也さんにとって、あの三人以上に危険だと思います」

 ミーナはローランの言葉に、頭を殴られた気分だった。
そう。俊也さんなら、わたくしを守ろうとする。

文字通り命がけで。

「俊也さんに悪いことをしましたね。こんな価値のない女に……」

「価値は自分で決めるものじゃありませんよ。
少なくとも、俊也さんにとって、あなたは価値ある女です。
ご自分の命をおろそかにしないでください。
俊也さんに、価値を認められたあなたの責任です。
帰りましょうか?」

 ミーナは思う。一本取られてしまった。わたくしの半分ほどしか生きていない女の子に。

「そうですね。無茶はしません。俊也さんのために」

「そうですよ。愛する誰かのために。
一番わかりやすくて、確かな指針です」
 ミーナはうなずき、ローランと肩を並べ、坂道を登り始めた。

そうね、わたくしは俊也さんを愛し始めている。……もっと生きたい。
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