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166 フィードとの交渉
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翌日、昼過ぎにライラの予告通りミストの使節団が館を訪ねた。
「我々が期待していた以上のご活躍。王からくれぐれも、感謝の念を伝えてほしいと言われております。
ありがとうございます」
ミスト王国外交の責任者、フィード伯爵が深く頭を下げる。
「勝手に作戦を遂行して申し訳ない。
少人数での隠密行動でしたから、万一漏れたら面倒なことになると判断しました」
俊也は「信用しきってはいないよ」という館の意思を暗に示した。
「いやいや。糧道を断つという、お話は聞いておりましたが、一番面倒な魔導師を一掃していただきました。
今後五十年は、ナームから侵攻してくることはできないでしょう。
そして五十年もすれば、わが王国とナームの国力差は、いっそう大きくなります」
「ナームとは、停戦協定を結んだんですか?」
「さようです。
講和条約を締結して国交を開いても、こちらにうまみはありません。
停戦という形にとどめる方が無難だと、王は判断しました」
「保障は、ナビス平原と賠償金?」
フィードは俊也の言葉に少し身構えた。
その通りだが、何を要求する?
王からは、たいていの線まで妥協するという許しは出ているが。
俊也は、フィード伯爵の身構える気配を読み取った。
「別になんにも要求しませんよ。もちろん、くれるものはもらいますが。
いや、一つだけ。
研修生たちの自由を保証する。
その確約はいただきたい。
気づいているでしょ?
私は女にめっぽう弱い。情を通じたら放っておけない。
ただし、研修生たちが、ミスト有事に立ち上がることは邪魔しません。
この度の有事にも、三人をとどめるのが大変でした。
あの子たちの愛国心は本物です。
そして、あの子たちが立ち上がるとき、やはり私は放っておけません」
フィードは、想定外の要求にとまどった。
育った魔導師は、ミスト国内で確保したい。そして彼女らの子供たちも。
フィードが逡巡するのは予想通り。俊也は言葉を続ける。
「はっきり言います。
私は研修生や私の血が通う子供たちと、絶対戦いたくないんです。
だから、私の目が届く手もとに置いておきたい。
基本的に我々は、イスタルトに属します。
ミストとイスタルトの関係は、今のところ良好ですが、そこは国と国。
双方の国益によっては、対立もありえます」
「しかし……」
ルラはフィードに言葉をかぶせる。
「研修生三名は、まだ妊娠しておりません。
ミストにお返しするなら、今しかありません。
親バカになった俊也は、何をするかわかりませんよ。
子どもと母親のために。
俊也が行動に出たら、私たちは無条件で俊也に従います」
グサリと一太刀。脅迫には脅迫で倍返しだ!
フィードは思う。参った。館の魔導師たちの実力は、はっきりと証明されている。
「ミストとの協力関係を、永続的に継続する。
その確約はいただけますか?」
フィードは妥協案を示した。
「そんな確約なんてできません。
国家とは利己的な生き物です。
状況によっては、どう姿勢が変わるかわかりません。
ロン王がご健在なうちは、よき友でいられると信じております。
指導者が代われば、軍事独裁に走らないと、あなたにも断言できないでしょ?
私が確約できるのは、個人的に研修生たちの命と意思を守る。
それだけです」
その通りだと、フィードは思った。
彼は、愚かな指導者が、国家を滅ぼした例を嫌というほど知っている。
現にナームのミント王。賢明で理性的なロン王でなければ、ナームは滅ぼされていた。
フィードは考え込んだ。どういった方法が一番得か。
だが、答えは最初から分かっている。この男と館の魔導師たちを敵にしないこと。
そして、ミストが間違えさえしなければ、この男は味方でいてくれる。
「わかりました。
私の独断では、確約できませんが、王に強く進言いたします。
この館の方々と友好を継続するため、研修生の自由意思を認める。
それが最善である。
それでよろしいですか?」
「はい。けっこうです。ユーノ、三人を呼んで」
「はい」
ユーノは俊也の言葉に従い、三人を呼びに行った。
「ところで、今回は何人で作戦を遂行したのですか?」
フィードが聞く。
「密偵さんとは、まだ話してないんですね?
私を含め、イスタルトの非貴族出身者四名です。
それと、ミーナさん。
それ以外の者は、直接戦闘に参加していません」
たったの五人で!
フィードは度肝を抜かれた。
「はっきり言えば、俊也一人でも可能でした。
実際魔導師部隊をせん滅したのは俊也一人です。
この人、怖いですよ」
エレンは、にっこり笑ってプレスをかける。
「物資の集積所を、破壊したのは別動隊ですが、ミスト軍がご覧になった魔法の火力は、ミーナさんとミネットです。
我が夫は、ミーナさんとミネットの心意気、つまり、祖国を守りたい。
その意思を最優先しました。
くれぐれもロン王にお伝えください。
ミーナさんとミネットは、よく戦った、と。
祖国のために」
フラワーは、しみじみと語った。
「はい。たしかに伝えます」
この館の住人は善。フィードはそう判断した。
ただし、悪意を向ける者には、これ以上なく凶悪な牙を剥く。
「それともう一つ。
我が夫は、貴国の密偵さんがお気に入りです。
できれば、当地にて継続的な勤務を。
その密偵さんには、口が軽くなるようですよ」
ルラが苦笑を浮かべながら言う。
俊也は正直に報告している。魔法陣の口封じサービスと、密偵さんのポイント稼ぎに協力したと。
「ロン王もそのつもりです。ご自由に」
フィードは表情を和らげて答えた。
フィードは理解した。この館の住人とは「普通」に付き合えばいいのだ。
こちらが「普通」である限り、頼もしい友人でいてくれる。
その後、フィードは確認した。研修生たちの意思と魔法の上達ぶりを。
研修生たちは、「可能なら一生ここで暮らしたい」と、はっきり告げた。
俊也の「たらし」技術は、相当なもののようだ。
そして、驚くほどの上達ぶり。
フィードも魔法の心得がある。普通では絶対ありえないことは、はっきりわかった。
ただし、彼はミーナとの面会は求めなかった。多分惜しくなるだろうから。
戦闘に参加した者から聞いていた。明らかに上級魔導師が味方してくれたと。
ミスト軍の戦闘といえば、逃げ惑う敵兵を追い払うことだけだった。
国運をかけた戦争なのに、死者はゼロだった。その功績だけでも、研修生を与えるおつりがくる。十分すぎるほどの。
ナームからせしめた賠償金、五分の一置いてきたが、それも「極秘で雇った魔導師」への功労金としては安すぎる。
彼らの欲のなさは、すがすがしいほどだった。
「我々が期待していた以上のご活躍。王からくれぐれも、感謝の念を伝えてほしいと言われております。
ありがとうございます」
ミスト王国外交の責任者、フィード伯爵が深く頭を下げる。
「勝手に作戦を遂行して申し訳ない。
少人数での隠密行動でしたから、万一漏れたら面倒なことになると判断しました」
俊也は「信用しきってはいないよ」という館の意思を暗に示した。
「いやいや。糧道を断つという、お話は聞いておりましたが、一番面倒な魔導師を一掃していただきました。
今後五十年は、ナームから侵攻してくることはできないでしょう。
そして五十年もすれば、わが王国とナームの国力差は、いっそう大きくなります」
「ナームとは、停戦協定を結んだんですか?」
「さようです。
講和条約を締結して国交を開いても、こちらにうまみはありません。
停戦という形にとどめる方が無難だと、王は判断しました」
「保障は、ナビス平原と賠償金?」
フィードは俊也の言葉に少し身構えた。
その通りだが、何を要求する?
王からは、たいていの線まで妥協するという許しは出ているが。
俊也は、フィード伯爵の身構える気配を読み取った。
「別になんにも要求しませんよ。もちろん、くれるものはもらいますが。
いや、一つだけ。
研修生たちの自由を保証する。
その確約はいただきたい。
気づいているでしょ?
私は女にめっぽう弱い。情を通じたら放っておけない。
ただし、研修生たちが、ミスト有事に立ち上がることは邪魔しません。
この度の有事にも、三人をとどめるのが大変でした。
あの子たちの愛国心は本物です。
そして、あの子たちが立ち上がるとき、やはり私は放っておけません」
フィードは、想定外の要求にとまどった。
育った魔導師は、ミスト国内で確保したい。そして彼女らの子供たちも。
フィードが逡巡するのは予想通り。俊也は言葉を続ける。
「はっきり言います。
私は研修生や私の血が通う子供たちと、絶対戦いたくないんです。
だから、私の目が届く手もとに置いておきたい。
基本的に我々は、イスタルトに属します。
ミストとイスタルトの関係は、今のところ良好ですが、そこは国と国。
双方の国益によっては、対立もありえます」
「しかし……」
ルラはフィードに言葉をかぶせる。
「研修生三名は、まだ妊娠しておりません。
ミストにお返しするなら、今しかありません。
親バカになった俊也は、何をするかわかりませんよ。
子どもと母親のために。
俊也が行動に出たら、私たちは無条件で俊也に従います」
グサリと一太刀。脅迫には脅迫で倍返しだ!
フィードは思う。参った。館の魔導師たちの実力は、はっきりと証明されている。
「ミストとの協力関係を、永続的に継続する。
その確約はいただけますか?」
フィードは妥協案を示した。
「そんな確約なんてできません。
国家とは利己的な生き物です。
状況によっては、どう姿勢が変わるかわかりません。
ロン王がご健在なうちは、よき友でいられると信じております。
指導者が代われば、軍事独裁に走らないと、あなたにも断言できないでしょ?
私が確約できるのは、個人的に研修生たちの命と意思を守る。
それだけです」
その通りだと、フィードは思った。
彼は、愚かな指導者が、国家を滅ぼした例を嫌というほど知っている。
現にナームのミント王。賢明で理性的なロン王でなければ、ナームは滅ぼされていた。
フィードは考え込んだ。どういった方法が一番得か。
だが、答えは最初から分かっている。この男と館の魔導師たちを敵にしないこと。
そして、ミストが間違えさえしなければ、この男は味方でいてくれる。
「わかりました。
私の独断では、確約できませんが、王に強く進言いたします。
この館の方々と友好を継続するため、研修生の自由意思を認める。
それが最善である。
それでよろしいですか?」
「はい。けっこうです。ユーノ、三人を呼んで」
「はい」
ユーノは俊也の言葉に従い、三人を呼びに行った。
「ところで、今回は何人で作戦を遂行したのですか?」
フィードが聞く。
「密偵さんとは、まだ話してないんですね?
私を含め、イスタルトの非貴族出身者四名です。
それと、ミーナさん。
それ以外の者は、直接戦闘に参加していません」
たったの五人で!
フィードは度肝を抜かれた。
「はっきり言えば、俊也一人でも可能でした。
実際魔導師部隊をせん滅したのは俊也一人です。
この人、怖いですよ」
エレンは、にっこり笑ってプレスをかける。
「物資の集積所を、破壊したのは別動隊ですが、ミスト軍がご覧になった魔法の火力は、ミーナさんとミネットです。
我が夫は、ミーナさんとミネットの心意気、つまり、祖国を守りたい。
その意思を最優先しました。
くれぐれもロン王にお伝えください。
ミーナさんとミネットは、よく戦った、と。
祖国のために」
フラワーは、しみじみと語った。
「はい。たしかに伝えます」
この館の住人は善。フィードはそう判断した。
ただし、悪意を向ける者には、これ以上なく凶悪な牙を剥く。
「それともう一つ。
我が夫は、貴国の密偵さんがお気に入りです。
できれば、当地にて継続的な勤務を。
その密偵さんには、口が軽くなるようですよ」
ルラが苦笑を浮かべながら言う。
俊也は正直に報告している。魔法陣の口封じサービスと、密偵さんのポイント稼ぎに協力したと。
「ロン王もそのつもりです。ご自由に」
フィードは表情を和らげて答えた。
フィードは理解した。この館の住人とは「普通」に付き合えばいいのだ。
こちらが「普通」である限り、頼もしい友人でいてくれる。
その後、フィードは確認した。研修生たちの意思と魔法の上達ぶりを。
研修生たちは、「可能なら一生ここで暮らしたい」と、はっきり告げた。
俊也の「たらし」技術は、相当なもののようだ。
そして、驚くほどの上達ぶり。
フィードも魔法の心得がある。普通では絶対ありえないことは、はっきりわかった。
ただし、彼はミーナとの面会は求めなかった。多分惜しくなるだろうから。
戦闘に参加した者から聞いていた。明らかに上級魔導師が味方してくれたと。
ミスト軍の戦闘といえば、逃げ惑う敵兵を追い払うことだけだった。
国運をかけた戦争なのに、死者はゼロだった。その功績だけでも、研修生を与えるおつりがくる。十分すぎるほどの。
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