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220 王の押し売り

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 俊也は館三幹部を伴い、イスタルト王宮へ跳んだ。
目的は「イスタルトのご隠居」を担ぎ出すこと。

これまでさんざん利用されたのだ。一番暇な方を利用しようという魂胆だ。

俊也は、簡単に王即位を言祝(ことほ)いだ後、こう切り出した。
「我が王、そろそろ先王の偉大さが、身にしみてお分かりになられたころと存じます」
 皮肉たっぷりの言い種(ぐさ)に、王は苦笑した。
だが、一面正鵠を得ている。

「たしかに。色欲を満たすことだけで満足できていた。
今さらながら思う。
イスタルトの王として、あの方ほどふさわしい方はいなかった。
で?」
 王は話を促す。

その心は、この男、絶対おもしろそうなことを企んでいる、だった。

「イスタルト王は、政治、軍事に野心を抱いてはならない。
世界最強国の政治システムとしては、理想に近いと愚考いたします。
畏れながら、我が王は、色欲で満足できるお方ではないと、拝察いたします。
つまり、お暇を持て余しておられるのではないかと」

「そなたの申す通り。で?」
 王は身を乗り出す。

「商いはいかがでしょう?」
「商い? 余に何をさせたい?」

「王がイスタルトで商いをするのは、なにかと障りが多いはず。
アルスの病巣は、有力貴族と、二大豪商の癒着にあると聞いております。
アルスの経済を牛耳る。
おもしろいと、お思いになりませんか?」
 王は俊也の思惑が読めた。

アルスとタクトの不仲は、イスタルト王にとって頭痛の種の一つ。
経済を押さえる形で、柔らかく実質支配し、近隣国の安定を図れということだ。

「具体的に申せ」
「はい……」
 俊也は練り上げたプランを王に語った。

詳細を聞かされ、王は口をあんぐり。

「館の魔法技術は、そこまで進んでいるのか……」
「館外で利用する気は、ありませんでしたが、かわいい嫁のため。
仕方ないと判断しました」

「よかろう。やれ」
 王は悪い笑顔を浮かべ、承認した。
「はい」
 俊也は王に深く頭を下げた。


「時に婿殿。余は少々もてあましておる。
先王の遺産だ」
 王はいっそう悪い顔をして言う。

「先王の遺産?」
「二十五人もの未亡人だ。
先王の妃。下手な貴族に嫁がせるわけにいかないし、元王妃として、身を立てさせるには、はっきり言って金がかかる。
何人か引き受けてくれないか? 
そなたの条件は心得ておる。
美人で総明。
しかも変な野心を持たぬ女。
お勧めは……」
「我が王、もう許して下さい!」
 館三幹部は心から訴えた。


 結論から言えば、許してもらえなかった。俊也はまんざらでもなさそうな表情だし。
 どんだけ新しい女好きなんだよ! 幹部嫁はそう思ったが、いつものことなので仕方ないとあきらめた。

 王は選んだ元王妃のリストを示す。

 なるほど、子爵家出身者ばかり……。伯爵家出身で、しかも王妃ともなれば、気位が高くなるのが普通だ。
 また、伯爵家なら、そこそこ条件を整えれば、実家も引き受けるだろう。とても「喜んで」とは言えないだろうが。

「俊也、このメンバーなら、引き受けてもいいんじゃない?
畏れ多くも先の王が選んだ女性。全員美人よ」
 ルラが寛容の精神を示す。おなじくリストを一瞥したエレンとフラワーもうなずく。

「そう? 仕方ないな~」
 つい緩んでくる頬を、引き締める俊也だった。


 王宮内の小部屋。小部屋といっても全然小ではない部屋。王の選んだ五人の元王妃が、すでに集合していた。

 俊也と館三幹部は、嫁とり面接に臨む。
「我が王から、すでにお話はあったかと思います。
まず最初にうかがいます。
我が夫の嫁となること、少しでもためらいがある方は、お申し出ください」
 ルラは五人の元妃を見渡しながらそう言った。

「異存はございません。
率直に申し上げます。わたくしたち五人とも、実家は子爵家です。
国庫から年金は下りるとのことですが、正直大きな負担を、実家に押し付けることとなりましょう」
 最年長のカタリナが言う。他の四人もうなずいて同意を示す。実家の経済事情を思いやる。「気立てがよい」という王の言葉に嘘はないようだ。

「結構です。
では、我が夫の嫁として、絶対譲れない条件をお伝えします。
一つ。我が夫には、大きな秘密があります。
それを第三者に絶対明かさないこと。
一つ。夫やわたくしたちが使用する魔法についてです。
普通の魔法とは違っています。
その魔法に関して、これも第三者に絶対明かさないこと。
最後に。夫の嫁となる以上、厳しく貞節は守ってください。
その三点を守ってさえいただけたら、大きな問題がない限り、すべての自由を保証いたします。
事実、どの嫁も自己規範に則って、自由に暮らしております」
 ルラの言葉に、元妃たちは目を輝かせる。彼女たちが心から望んでいること。それは「自由」だ。
家の意向に従い、前王の妃となった。
妃となったら、ほとんどの自由は厳しく縛られてきた。
 そして、このままなら、元王妃として気ままにふるまえないまま老いていく。

「どうかわたくしたち五人に、自由をお与えくださいませ!」
「お願いします!」
 カタリナの哀願に、他の四人は深く頭を下げ同意を示した。

 まあ、よしとするしかないか……。ルラを始め、館三幹部はそう思った。三人は後宮の暮らしが、どのようなものだったか、容易に想像がついていた。
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