スキル『箱庭』を手にした男ののんびり救世冒険譚〜ハズレスキル? とんでもないアタリスキルでした〜

夜夢

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第49話 シーサーペント捕獲

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 嵐が去り一週間ぶりに空に蒼が戻った。レイはアリスに告げ嵐が過ぎた町に出た。

「凄いな、あれだけの嵐があったのに被害ゼロだなんて!」

 町はぬかるみこそあるものの、建物には被害がなく、住民達はすでに嵐の前と同じ生活に戻っていた。

 ただし被害は建物ではなく、他の部分に現れていた。

「あ~、やっぱり畑はダメになったか」
「毎年の事だからねぇ。収獲は終わらしといたし、乾いたら耕してまた植えたら良いさね」
「そうだなぁ。やれやれ、今年は散々だな。備蓄足りるかね」
「足りないだろうねぇ。他所から買うしかないさね。きっと税金上がるんだろうさね」

 例年ならば漁で次の作物が収獲できるようになるまで繋ぐ事はできるが、今年は海に出られないため外から食糧を買うしかない。空は晴れやかだったが住民の様子は曇り続けていた。

「国は助けちゃくれないのかねぇ」
「中枢もまだ混乱してるんだろうさね。なにせ大臣、副大臣、それに連なってた貴族諸々消えちまったさねぇ。残ってるのはアリス様のように国王派の貴族達だけさね。まったく、大臣も余計な事してくれたよ」

 国はまだ新体制に入ったばかりだ。大臣派の貴族達がしていた悪事の洗い出しなどまだまだやる事は山積みだ。ヴェルデがレイを囲おうとした理由はここにある。

 ここは王城。ヴェルデは大量の要望書を前になり唸り声をあげていた。

「お、終わらねぇっ! 片付けても片付けても新しい書類に埋もれるっ!」
「お前の処理能力が低いからだろう筋肉バカめ。ほら、追加だ」
「オルスてめぇぇっ! 手伝えや!」
「それらは王の決裁が必要な書類のみだ。こちらはもっと多く書類を捌いている。叫ぶ暇があるなら手を動かせ」
「くそがぁぁっ! オルス、レイの動向は?」
「彼は今ルーベルにいる」
「ルーベルに? よし、ならルーベルの要望は後回しだな。あいつに任せときゃ勝手に解決だ!」
「お前……いつかレイに刺されるぞ」
「俺は何もお願いしてないだろ。レイが国内を見て回りたいって言ったんだ。あいつは困っている奴を見過ごせないだろうからな」
「それが漫遊を許可した理由か。背中が透けてるぞお前」
「ハッハー! 使えるモンは何でも使うんだよ! エルドニアは人材不足なんだよクソッタレ!」

 ヴェルデは恨み節を吐きながら書類と格闘していた。

 一方、レイは港に向かい海を眺めていた。

「まだ荒れてるな。これじゃ大型船ならともかく小舟じゃ波に飲まれて進めもしないか。もう何日か様子を見るしかないか。そろそろ室内での筋トレも飽きてきたし……今日からは砂浜で脚力でも鍛えようかな」

 この呟きに監視していたコード4が反応した。

「そ、そんな! あの美しい胸筋や上腕二頭筋、そして滴る汗がもう見れないなんてぇぇぇっ」

 屋敷内での監視からは外されたが屋敷外では継続して監視を任されていた。この監視はコード4にしかできない。

「アタシのスキル【知られざる者】は発動中誰にも知覚されなくなるっス。明日からは浜辺でトレーニングっスか。これは楽しみっス!」

 町の様子を確認したレイは領主館に戻りアリスに尋ねた。

「戻りました。やはりまだ海には出られそうにありませんね」
「はい。数日は無理でしょう。ルーベルには大型船はありませんし」
「ですよね。しばらくは海の様子を見つつ、浜辺で訓練してますよ」
「はい。海をが穏やかになるまで何もできませんし、何をするかはレイ様にお任せいたしますわ」

 その翌日、レイは朝から浜辺を走っていた。

「むっ、乾いた砂浜ってこんなに走りにくいのかっ。これは脚に効くなっ!」
「はぁはぁ……レイ様の舞い散る汗! 最高っス!」

 コード4は朝から絶好調だった。レイ監視されているとも知らず、日が真上に昇るまでトレーニングを続けた。

「はぁはぁ……っ、よし……ここまでにしよう。ふぅ……」

 砂浜に腰を下ろし海を眺める。

「スキルで強くなっても肉体が弱くちゃ話にならない。よっと」
「っ!! 今のは……アイテムボックス!?」

 レイはおもむろに収納から水を取り出し口に含んだ。コード4はそれを見逃さない。

「スキル箱庭はまさか空間系スキルっスか? 今確かに何もない空間から水を取り出したっスよね……。アイテムボックスは支援系スキル。戦闘には使えないにしてもフォールガーデンが簡単に手放すわけがないっス。まさか容量が小さい? それとも知らずに手放した? もし後者ならフォールガーデンはアホっス。これはアリス様に報告っスね。ん? 誰かくるっス……」

 休んでいたレイの近くに老人が近寄った。

「お主は旅人かの?」
「え? あ、はい。冒険者です」
「そうかい。大方魚目当てで来たんじゃろうが残念じゃったな」
「あの、あなたは……」

 光る頭を撫でながら老人は言った。

「ワシはルーベルで漁師らをまとめとるボルゴじゃ」
「漁師達の頭目ですか。僕はレイです」
「レイか。悪い事は言わん。しばらく魚は獲れん。どこか別の町……魚が食いたいなら西側のカサンドラにでも行くとええ。ここにいるだけ無駄じゃよ」
「シーサーペントがいるからですか?」
「……そうじゃ。あれらがいる限り海には出られん。国が動いてくれん今あれらが去るまで待つしかないのじゃ。それが一年先になるか十年先になるかわからんがの。じゃあの、レイ」

 それだけ告げ、ボルゴは力なくトボトボと去っていった。

「そっか、出産が終わってもそのまま育てるかもしれないのか。大変だな、早く助けてあげなきゃ」

 レイは水を飲み干し領主館へと戻るのだった。 
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