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第一章 最初の国エルローズにて
第11話 再びヴェロームへ
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翌朝、総一朗は一人で雑貨屋を訪ねていた。四人は昨夜オーク肉と安酒ですっかりできあがってしまいまだ夢の中だ。
「いらっしゃ──って、なんだ兄さんかい。ダンジョンはどうだった?」
「ああ、中々面白かったよ。目的の半分は果たしたからな」
「半分?」
そう言い、総一朗はカウンターに肉を移し、自分には必要のない装備品を詰めた魔法の袋(小)を置く。
「こ、これは魔法の袋か!」
「ああ。中に俺が使わない武器やら防具も入ってる。買い取ってもらえるか?」
「ば、ばか言っちゃいけねぇ。こんな小さな雑貨屋に魔法の袋を買い取れる資金なんてあるわけねぇだろ!? 売りたいなら王都にある商会にでも行かなきゃよ」
「なに? ここでは売れんのか」
「ああ。俺の店じゃ有り金全部かき集めても足りねぇよ」
それを聞き総一朗は肩を落とした。
「……そうか。ならその中にある物で買い取ってもらえる物はあるか?」
「あ、ああ。それくらいならなんとか……。ちっと中身見るぜ?」
「ああ」
店主は袋に自分の魔力を流し中にある物を確認する。
「おいおいおい……、兄さんいったい何階まで降りたんだよ!? 魔剣とまではいかねぇがそこそこの武器がてんこ盛りじゃねぇか!」
「地下四十階だ。そこのボスを倒して戻ってきたんだよ。ちょっとヴェロームの町に用ができてな」
「はぁ~……。兄さん、滅茶苦茶つえぇんだな」
「そうか? まぁ余裕だったけどよ」
「ははっ、ああ、ちっと待ってくれ。買い取りたい物だけ選ばせてもらってもいいか?」
「ああ、なるべく早く頼む」
「あいよ。んじゃ……【鑑定】」
「ほう?」
店主はスキル【鑑定】を使い物の価値を正しく判断し、売れそうな物だけを脇に寄せていく。
「うちで買い取れるのはここまでだ。総額黒金貨三枚、どうだ?」
「構わん。どうせ使わないものだからな」
「ありがてぇ。こいつらが売れたらまた買い取るからよ。兄さんさえ良ければまた売りに来てもらえるか?」
「ああ。ヴェロームもちょっと立ち寄るだけだからな。用が済んだらまたここに戻ってくるつもりだ」
「うっし、なら黒金貨三枚だ。受け取ってくれ」
「おう」
総一朗は不要品を売り払い黒金貨三枚を手にした。そして少し身軽になり宿へと戻る。時刻は昼の少し前。四人も既に起きてきていた。
「ああ、お待ちしておりました。用事は済みました?」
「ああ。今から向かうのか?」
「はい。その予定ですがもう向かってもよろしいですか?」
「ああ。あ、いやもうちょっと待っててくれ。すぐに戻る」
「あ、はい」
総一朗は再び宿を出ると今度はターニャの家を訪ねた。
「は~い。あ、総一朗さん!」
「よ。お袋さんは元気になったか?」
「はいっ! 薬が効いて元気になりました!」
「そうか、それは良かったな」
「はいっ! 全部総一朗さんのおかげです! ありがとうございました!」
そう元気に頭を下げるターニャに総一朗は魔法の袋から包みを二つ取り出し手渡した。
「あの……これは?」
「昨日までダンジョンに行っててな。これはそこで手に入れたオーク肉だ」
「オ、オーク肉!? 最低金貨一枚はする高級肉じゃないですか!? ひぇっ……」
「ターニャは少し細すぎるからな。これでも食って少し身をつけろよ」
「い、いくらですか?」
「ばか、くれてやるよ。子供が遠慮すんなよ。俺はこれからヴェロームに行く。ま、用が済んだらまたここに戻るがな。戻ってきたらまた話でもしようぜ」
「……はいっ! 必ず!」
そうして総一朗は宿へと戻る。ターニャはその背中をずっと見ていた。
「総一朗……さん。かっこいいなぁ……」
「ターニャ? お客様?」
「あ、お母さん! まだ横になってなきゃダメだよ~」
「はいはい。あら、その包みはなに?」
「プレゼントだって。ここまで護衛してくれた総一朗さんからもらったの」
「ふふっ、そう……。良かったわね、ターニャ」
「うんっ!」
そうして二人は家の中に入り、母親は中身がオーク肉だと知るとふらふらとベッドに倒れ込むのだった。
その頃総一朗は四人と合流し村の入り口へと向かっていた。
「ではヴェロームに参りましょうか」
「ああ」
五人は街道を通り一路ヴェロームの町へと向かう。
「なぁ、この黒いのなんとかしてくれないか」
「も、申し訳ありませんっ! こら、ちゃんと自分で歩かないか!」
「やだ。体力は肉を食べるために残しておく必要がある。総一朗からはまだまだ肉をもっている匂いを感じる」
黒装束の女は総一朗にべったりとくっついて離れなかった。そんな黒装束の女にリーダーの男が言った。
「肉って……。宿で散々食べたじゃないか」
「足りない。あれのためなら私は悪魔に魂を売り渡しても良い」
その言葉に総一朗が突っ込む。
「お前の魂は肉以下かよ」
「肉のためなら何を敵にしても構わない」
「やれやれだな……」
そんなペースで進むものなので閉門には間に合いそうもなくなってしまった。夜は魔物が活発になるそうで、町は門を閉めるのだそうだ。なので今夜は野宿する事となった。
「総一朗、お肉!」
「わかったから俺の上から退け。膝の上にいられたら何も出来ないだろうが」
「多少なら触っても大丈夫」
「だから十年後に出直してきな」
「むぅぅぅっ!」
総一朗はむくれる黒装束の女を地面に下ろし焚き火に鉄の串で編んだアミを置く。そしてその上にスライスしたオーク肉をのせていった。
「肉っ!」
黒装束の女は肉を見てすぐに機嫌が良くなった。
「好きなだけ食え。明日でお別れだからな」
その言葉にリーダーの男が寂しげな表情を浮かべた。
「……そうですね。総一朗さんには本当にお世話になりました。この恩はいつか必ずお返しします」
「まぁ、期待しないで待ってるわ。そんな事より自分のしたい事を優先しな。俺達が出会ったのも何かしら縁があったからだろう。その縁が大きなものであれば俺達はまた必ず再会するだろうし、小さけりゃこれまでだ。人と人との出会いなんてそんなもんだろ」
「……難しい事を言いますねぇ」
こうして野営をした翌日朝、五人はヴェロームの町へと到着するのだった。
「いらっしゃ──って、なんだ兄さんかい。ダンジョンはどうだった?」
「ああ、中々面白かったよ。目的の半分は果たしたからな」
「半分?」
そう言い、総一朗はカウンターに肉を移し、自分には必要のない装備品を詰めた魔法の袋(小)を置く。
「こ、これは魔法の袋か!」
「ああ。中に俺が使わない武器やら防具も入ってる。買い取ってもらえるか?」
「ば、ばか言っちゃいけねぇ。こんな小さな雑貨屋に魔法の袋を買い取れる資金なんてあるわけねぇだろ!? 売りたいなら王都にある商会にでも行かなきゃよ」
「なに? ここでは売れんのか」
「ああ。俺の店じゃ有り金全部かき集めても足りねぇよ」
それを聞き総一朗は肩を落とした。
「……そうか。ならその中にある物で買い取ってもらえる物はあるか?」
「あ、ああ。それくらいならなんとか……。ちっと中身見るぜ?」
「ああ」
店主は袋に自分の魔力を流し中にある物を確認する。
「おいおいおい……、兄さんいったい何階まで降りたんだよ!? 魔剣とまではいかねぇがそこそこの武器がてんこ盛りじゃねぇか!」
「地下四十階だ。そこのボスを倒して戻ってきたんだよ。ちょっとヴェロームの町に用ができてな」
「はぁ~……。兄さん、滅茶苦茶つえぇんだな」
「そうか? まぁ余裕だったけどよ」
「ははっ、ああ、ちっと待ってくれ。買い取りたい物だけ選ばせてもらってもいいか?」
「ああ、なるべく早く頼む」
「あいよ。んじゃ……【鑑定】」
「ほう?」
店主はスキル【鑑定】を使い物の価値を正しく判断し、売れそうな物だけを脇に寄せていく。
「うちで買い取れるのはここまでだ。総額黒金貨三枚、どうだ?」
「構わん。どうせ使わないものだからな」
「ありがてぇ。こいつらが売れたらまた買い取るからよ。兄さんさえ良ければまた売りに来てもらえるか?」
「ああ。ヴェロームもちょっと立ち寄るだけだからな。用が済んだらまたここに戻ってくるつもりだ」
「うっし、なら黒金貨三枚だ。受け取ってくれ」
「おう」
総一朗は不要品を売り払い黒金貨三枚を手にした。そして少し身軽になり宿へと戻る。時刻は昼の少し前。四人も既に起きてきていた。
「ああ、お待ちしておりました。用事は済みました?」
「ああ。今から向かうのか?」
「はい。その予定ですがもう向かってもよろしいですか?」
「ああ。あ、いやもうちょっと待っててくれ。すぐに戻る」
「あ、はい」
総一朗は再び宿を出ると今度はターニャの家を訪ねた。
「は~い。あ、総一朗さん!」
「よ。お袋さんは元気になったか?」
「はいっ! 薬が効いて元気になりました!」
「そうか、それは良かったな」
「はいっ! 全部総一朗さんのおかげです! ありがとうございました!」
そう元気に頭を下げるターニャに総一朗は魔法の袋から包みを二つ取り出し手渡した。
「あの……これは?」
「昨日までダンジョンに行っててな。これはそこで手に入れたオーク肉だ」
「オ、オーク肉!? 最低金貨一枚はする高級肉じゃないですか!? ひぇっ……」
「ターニャは少し細すぎるからな。これでも食って少し身をつけろよ」
「い、いくらですか?」
「ばか、くれてやるよ。子供が遠慮すんなよ。俺はこれからヴェロームに行く。ま、用が済んだらまたここに戻るがな。戻ってきたらまた話でもしようぜ」
「……はいっ! 必ず!」
そうして総一朗は宿へと戻る。ターニャはその背中をずっと見ていた。
「総一朗……さん。かっこいいなぁ……」
「ターニャ? お客様?」
「あ、お母さん! まだ横になってなきゃダメだよ~」
「はいはい。あら、その包みはなに?」
「プレゼントだって。ここまで護衛してくれた総一朗さんからもらったの」
「ふふっ、そう……。良かったわね、ターニャ」
「うんっ!」
そうして二人は家の中に入り、母親は中身がオーク肉だと知るとふらふらとベッドに倒れ込むのだった。
その頃総一朗は四人と合流し村の入り口へと向かっていた。
「ではヴェロームに参りましょうか」
「ああ」
五人は街道を通り一路ヴェロームの町へと向かう。
「なぁ、この黒いのなんとかしてくれないか」
「も、申し訳ありませんっ! こら、ちゃんと自分で歩かないか!」
「やだ。体力は肉を食べるために残しておく必要がある。総一朗からはまだまだ肉をもっている匂いを感じる」
黒装束の女は総一朗にべったりとくっついて離れなかった。そんな黒装束の女にリーダーの男が言った。
「肉って……。宿で散々食べたじゃないか」
「足りない。あれのためなら私は悪魔に魂を売り渡しても良い」
その言葉に総一朗が突っ込む。
「お前の魂は肉以下かよ」
「肉のためなら何を敵にしても構わない」
「やれやれだな……」
そんなペースで進むものなので閉門には間に合いそうもなくなってしまった。夜は魔物が活発になるそうで、町は門を閉めるのだそうだ。なので今夜は野宿する事となった。
「総一朗、お肉!」
「わかったから俺の上から退け。膝の上にいられたら何も出来ないだろうが」
「多少なら触っても大丈夫」
「だから十年後に出直してきな」
「むぅぅぅっ!」
総一朗はむくれる黒装束の女を地面に下ろし焚き火に鉄の串で編んだアミを置く。そしてその上にスライスしたオーク肉をのせていった。
「肉っ!」
黒装束の女は肉を見てすぐに機嫌が良くなった。
「好きなだけ食え。明日でお別れだからな」
その言葉にリーダーの男が寂しげな表情を浮かべた。
「……そうですね。総一朗さんには本当にお世話になりました。この恩はいつか必ずお返しします」
「まぁ、期待しないで待ってるわ。そんな事より自分のしたい事を優先しな。俺達が出会ったのも何かしら縁があったからだろう。その縁が大きなものであれば俺達はまた必ず再会するだろうし、小さけりゃこれまでだ。人と人との出会いなんてそんなもんだろ」
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