幕末の剣士、異世界に往く~最強の剣士は異世界でも最強でした~

夜夢

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第二章 極東の国ヤマト

第49話 魔王

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 魔王【ヘルズ】。ヤマトより遥か南にある島国を本拠地とし、全ての魔族を統べ魔物を操っている王。魔王ヘルズは力による支配ではなく、知識と人柄で魔族達を率いていた。

「ふむ、誰か」
「はっ!」
「しばらく姿が見えない奴がいる。確か妖魔師団に配属されていた……あぁ 確か名を【エンローザ】と言っていたな。行方を知らぬか?」
「直ちに確認して参りますっ!」
「頼むよ」

 魔王は執務室に向かい、通り掛かりの魔族は妖魔師団にエンローザの行方を確認しに向かった。

「エンローザ? ああ、あいつなら今ヤマトだろ?」
「……はい?」
「え? なんか魔王様に命令されたんじゃねぇの?」
「魔王様に? なら魔王様が行方を気にするのはおかしくないか?」
「「……」」

 妖魔師団の副団長は団長に伺いに向かった。

「んん? エンローザ? 彼女なら魔王様の命令でヤマトに向かったのではないのですか?」
「えぇ? まさか団長さんも知らない!? おかしいですよね?」
「……一度魔王様に確認しに行きましょう」

 妖魔師団長すら居場所を知らなかった。妖魔師団長は魔王の執務室に向かいエンローザの件を改めて確認した。

「え? エンローザには何も頼んでない……ですか?」
「もちろんだ。そもそも師団長の君を飛ばして直々に依頼する事などありえんよ」
「いや……えぇ? ならエンローザはヤマトまで何をしに?」
「ヤマト? ああ、あの未開の地にいるのか」

 魔王は魔眼を使用し、ヤマトを覗き見た。

「いた──って何をしているのだエンローザ!」
「どうされました?」
「緊急事態だ。俺はヤマトに向かう。妖魔師団長、各師団長と連携し後を任せる」
「あ、魔王様!?」

 魔王は何もない場所に空間を開き、その中に消えた。

「緊急事態? 何があったのでしょうか……」

 その頃大江戸城では……。 

「ぐぐぐ……があぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」
「ふふふ、どう? 力が溢れるでしょう? あはっ、あははははははっ!」
《グルルル……ガアァァァァァァッ!!》

 綱吉の妻に扮したエンローザは侍を地下室に呼び魔物へと改造していた。

「魔核を移植された人間は魔物になるのよ。これで私に逆らう愚か者を排除してきなさい」
《グルルル……》

 魔物となり知性と理性を失ってもエンローザのスキル【洗脳】があれば操る事は容易い。

「さあ、残るあなた方も偉大なる魔王様の配下にしてあげましょう」
「そこまでだ、エンローザ!」
「え? あ──」

 突如地下室に空間が開き魔王ヘルズが姿を現した。

「ま、魔王様ぁぁぁぁぁぁっ!」
「エンローザ、貴様一体何をしていた!」
「はいっ! 私は魔王様のためにこの未開の地、ヤマトを手に入れようと!」
「愚か者がっ!」
「ひっ!?」

 魔王はエンローザを威圧した。

「勝手な真似をするな! 侵略行為は禁じていたはずだ!」
「し、しかし魔王様!」
「なんだ、意見があるなら言ってみろ」

 エンローザは震えながら自分の意見を述べた。

「わ、私達魔族の住む土地は狭く、繁殖もままなりません。私は魔族の住む土地を増やすために……」
「そのために未開の地であるヤマトに侵略を? この愚か者がっ!!」

 魔王はエンローザの胸ぐらを掴み持ち上げる。

「俺達魔族が過去人間にどうされたか忘れたのかっ!」
「うっ──ぐっ──!」
「人間は弱い生き物だ。だが集まればとんでもない力を発揮する。中には恐ろしいまでの力を持つ者や魔族の天敵まで生まれる。魔族は人間と敵対してはならんのだ! なぜそれがわからぬっ!」
「で……ではっ! 私達はあの狭い土地でいつまで我慢すれば良いのですかっ! 作物もろくに育たず、荒れ果てた土地……! 私はもう我慢なりませんっ!」
「それでもだ! 人間に手を出してはならん。ようやくここまで増えたのだ、また減らすわけにはいかん。人間とは争わず融和を……」
「融和? 人間が魔族と融和などするわけがありませんっ! 魔族と人間は不倶戴天の敵! 魔王様もわかっているでしょうっ!」

 魔王はエンローザを開いた空間に放り投げる。

「ま、魔王様何をっ!」
「そこで反省しろ。ヤマトの件は俺が何とかする」
「そんな! 魔王さ──」

 魔王は空間を閉じた。そして背後にある気配に向け声を掛けた。

「そこにいるのはわかっている。出てくると良い」
「へぇ」

 扉の向こう、そこにいたのは総一朗だった。総一朗は入り口の陰に立ち様子を伺っていた。

「まさか綱吉がすでに死んでいたとは思わなかったよ。そして俺の予想通り黒幕がいた」

 総一朗は刀の柄に手をかけ魔王に近付いていく。

「あんたが魔族の王様か?」
「ああ。俺が魔族達の王、魔王ヘルズだ。お前は?」
「俺は侍だ。名を沖田総一朗という。さて、魔王様。今あんたが空間に放り込んだ女、そいつを渡しちゃくれねぇか?」
「断る」

 二人が睨み合う。

「断るって……人間の国を滅茶苦茶にしておいてそんな話が通ると思うか?」
「それは申し訳ないと思っている。だがエンローザも魔族のためを思ってしたのだ。今後この国には手を出させないと約束する。だから見逃せ」
「……ふぅ、そんな口約束じゃ信用ならねぇな。約束を反故にするなんざよくある話だ」
「ふむ。言い訳にはならんが、魔族は数が少ない。その上荒れ果てた大地で細々と暮らしている。とても人間の国に攻め入るような戦力はないのだ」
「戦力ねぇ。あんたが暴れたら十分じゃないか?」
「俺は戦をする気はない。知性ある者として、できたら対話で解決したい派だ」
「……そうかい。まあ、今は見逃してやるよ。次また人間に手を出してきたら潰す。それで良いよな?」

 そう言った総一朗は本当の力を見せつけた。

「……ああ。恩に着るよ。今後こちらから手を出す事はないと約束する。ああ、もし良かったら俺の国でも見てみないか?」
「は?」
「招待しようじゃないか。お前、この国を乗っ取るつもりなのだろう?」
「……まぁな」
「その後で良い。是非とも俺の国を見にきてくれ。お前がこの国を手に入れた時またくる。俺には全て見えているからまたな、総一朗」

 そう言い、魔王は空間を開き姿を消した。

「……ふぅ、ヤバイなあいつ。俺よりちょっと強かったか?」

 総一朗は背中に冷たい汗をかいていた。

 そして領地へと戻った魔王は、妖魔師団長にエンローザを返し、しばらく謹慎させるように告げ、執務室に戻った。

「あの男……面白い奴だな。人の身で俺に近い力を有しているとは……。しかもあの腰の刀は黒天ではないか。もし白天も揃っていたら……俺はあの場で死んでいたかもしれんな……。くくくくっ、面白い。どうやら俺にもしっかり魔族の血が流れていたようだ。はは、はははははっ!」

 魔王は総一朗との出会いになぜか喜び声高らかに笑うのだった。
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