職業『精霊使い』に覚醒したら人類圏から追放されました(完結)

夜夢

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第4章 東の大陸編

08 商業国家ユーテリア

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 青龍達を隠れ里に向かわせ、一人国境を通過しユーテリアに入ったアーレスは最初の村を見て呆れていた。

「酷いな……。餓死者、浮浪者の山だ」

 道には埋葬されずに朽ちかけた遺体が無数に転がり、建物はボロボロ、畑も荒れ果てており、村はとても人が住めるような状態になかった。そんな村にアーレスが入るとすぐにまだ動ける村人が物乞いにやってきた。

「あんた旅人か? なあ、何でも良いから食いもん持ってねぇか? 頼むから持ってたら少し分けちゃくれないか?」
「私にもちょうだいよぉ……っ。もう何日も泥水しか飲んでないのっ! このままじゃ死んじゃうわ……」
「お母さん……お腹空いたよぉ……。私もお兄ちゃんみたいに死んじゃうの……?」
「あぁぁ……、大丈夫だからね……っ。今あのお兄さんが何かくれるから……!」

 アーレスは人間が嫌いだが、ここまで酷い状況にある人間を見過ごす事はできないようだった。

「……わかったから一列に並べ。今から食事を提供してやる。食い終わったら話を聞かせろよ」
「あ、あぁぁぁ……ありがてぇっ! 飯を食わしてきあれたら何でも話すよっ!」

 そしてアーレスはボロ家のキッチンを借り、寸胴鍋で魚介のミルクスープを作り、オーブンでパンを焼く。それに薄くスライスした肉を焼いた物と野菜を炒めた物を大皿に盛り、村人全部が満腹になるまで提供してやった。

「うめぇ……っ! うめぇよっ!」
「あぁ、久しぶりの食事だわ……っ!」
「お母さんっ、これもっと食べたい!」
「まだあるみたいだから沢山お食べ……っ。あのお兄さんに感謝しながらね」
「うんっ!」

 村人達は一心不乱に料理にかぶりつき、限界寸前だった身体に栄養を補給していった。

「さて、食べた所で少し話を聞かせてもらおうか。なぜこの村はこんなに貧しいんだ? 国は何をしている?」
「なぜ……か。あんたには全部聞いてもらいてぇ。多少愚痴も混じるが勘弁してくれ」

 そうして最初にアーレスにすがった男がゆっくりと事情を口にし始めた。

「まず、なぜ貧しいか。理由はあれだ、重税だ」
「税金か」
「ああ。ユーテリアが商業国家なのは知ってるよな」
「ああ」
「今の王は元商人でな、昔はクソみたいな商売ばかりしててよ……、金を儲けるためならなんでもする野郎だった。でだ、そんなクズ野郎が王になっちまったもんだからよ、当然国は分裂しちまったんだ」
「富める者と貧しき者か」
「いや。それもあるが、商人か一般人かでわかれたんだ。商人は税金免除、一般人は何をするにも税金がかかるんだよ。土地がありゃ固定資産税、物を買うには消費税、挙げ句煙草には煙草税だぜ? 最近は酒に酒税までかけてよ……。俺達村人は商人に何もかも奪われちまったんだ」

 どうやらここまで悲惨な状況にある理由は王を筆頭とする商人達による搾取が原因らしい。

「この国の王はバカなのか? いくら金があっても消費者がいないと経済は回らないだろうに」
「商人が取引してんのは他国の人間だ。奴らはここを商人だけの国にしたいらしくてな……。こうやって一般人が死んだり他国に逃げ出すのを待ってんのさ」
「……そうか、目的は無人になった土地か!」
「ああ。奴らは無人になった場所をいったん更地にしてよ、娯楽施設を建設してやがんだ」
「娯楽施設?」
「ああ。ここから南に行った所に村があったんだがよ、首都に近いのもあってかなり追い込みが掛けられてたんだ。そして瞬く間に無人にされ、今じゃ巨大カジノが建てられてんのさ」
「カジノ……」

 アーレスは話を聞き王の狙いを推測していく。

《なるほど。クソみたいな手段で商人以外を駆逐し、国全体を観光地に変えようとしているようだな。村に残っているのは逃げる手段がない者だろうな》

 そう考えていると男がアーレスに言った。

「あんた旅人だろ? 悪い事は言わねぇ。こんな国はさっさと出た方が良いぜ」
「ふむ。なぜだ?」
「たかった俺達が言うのも今さらだが……。本当は他人への施しは禁じられてんだ。破った場合は国に財産を全て没収されちまうんだよ」

 そこでアーレスは何か思い付いたのか、悪い笑みを浮かべた。

「へぇ。国にね。それは商人が没収しにくるのか?」
「いや、王が金で集めた元傭兵やら冒険者、それに闇ギルドの連中だな」
「闇ギルド?」
「ああ。闇ギルドは金さえ払えば殺しから誘拐、人身売買までなんでもする請け負う犯罪者の集まりだ。逆らったが最後、捕まった数日後にはバラバラにされて川に捨てられて終わりだ」

 どうやら潰すに価する国のようだ。聞けば聞くだけ悪事しか出てこない。王を筆頭に、この国に存在する商人の中に善人は一人も存在しないようだ。

「この国は本当にどうしようもない国だな。あんたらは逃げないのか?」
「逃げる金も行き先もないのさ。俺だけじゃねぇ。ここに残っている村人、他の町や村、集落に住む人間はみんな同じ境遇にあるのさ」
「金……か。ふむ……」

 アーレスは村人を見渡し、元気になった男達を集めた。

「お前らに今から食糧と金を渡す」
「「「「えっ!?」」」」

 男達は突然渡された物資に驚く。

「な、なんだいこれは?」
「それを持って町や村を回れ。そして貧しい者を全てここに集めるんだ」
「な、なにをするつもりだ?」

 アーレスはニヤリと笑い男達に向けこう告げた。

「革命だよ革命。貧しき者達を集めてレジスタンスを結成するのさ」
「「「「か、革命だって!?」」」」
「ああ。お前ら……このままで良いのか? 不当に搾取され、商人の言いなりになる人生で満足かよ? 男だったら悔しくてたまらないよな?」

 すると男達は渡された皮袋を握り立ち上がった。

「い、良いわけねぇっ! お、俺はやるぞ! この兄さんに全て賭けるぜ!」
「お、俺もやる! 商人どもに一泡吹かせられんならな!」
「で、でも奴らにバレたら……」

 アーレスは日和る男にこう告げる。

「安心しろ。お前らが数人連れて戻るまでにはここに砦が完成してる予定だ。それと、畑も復活させておいてやる。お前らは何も心配せずに同じ境遇の者を集めろ。ただし大っぴらにやるなよ? ひっそりと商人どもにバレないようにだ」
「わ、わかった。だから数人分なんだな?」
「そうだ。毎日少しずつ集めてこい。まずは女子どもを優先だ。わかったら行け」
「「「「おうっ!!」」」」

 そうして男達はまず各自近くの村や集落へと駆けた。その間にアーレスは魔法で強固な外壁を作り、畑も綺麗に整備し、女達に種を植えさせた。

「あの……今から種を蒔いても収穫はまだまだ……」
「大丈夫だ。この土は俺の土魔法で生み出した土だからな。土にこもってる魔力は十分、そして……」

 アーレスは種蒔きを終えた畑に向かい手をかざす。

「時魔法【グロウアップ】!」
「えっ!? め、芽が!? って思ったらもう!? え、えぇぇぇぇぇぇっ!?」

 一瞬で作物が育ちきり、瞬く間に収穫が可能となった。
 
「さあ、皆で収穫だ。収穫した作物は種を取ってまた植えるんだ。これを数回繰り返してまずは食糧問題を解決しよう」
「す、凄い……。あなたいったい何者?」
「ただの旅人だ。さて、次は建物を復活させに向かうとするか」

 畑を女達に任せ、アーレスはボロボロになった建物を一軒ずつ今度は時間を巻き戻して新築の状態にして回った。

「うわぁ~、お兄ちゃんの魔法凄いっ!」
「私の家新しくなっちゃった!」
「す、すげぇぇぇぇぇっ!」

 そう驚く子ども達にアーレスは更に驚く事実を加えた。

「新しくなっただけじゃないぞ? 全ての家に状態を保存する時魔法【キープ】をかけてある。これでいつまでも新しいままになるんだ」
「な、なんでそんな事できるの? お兄ちゃんって魔法使い?」
「……いや、俺は精霊使いだ。全ての精霊は俺の味方って事さ」
「精霊使い? 凄いんだねっ精霊使いって!」
「ああ、まだ全ての精霊には会っていないけどな。さあ、そろそろ夜になる。皆を集めて食事にしようか」
「うんっ!」

 こうしてアーレスは着々と商業国家を潰すための計画を進めていくのだった。
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