現世で死んだ俺は新たな世界へと生まれ変わる途中で邪神に拐われました。ありがとう! 感謝します邪神様っ!

夜夢

文字の大きさ
26 / 227
第2章 改革

01 最初の問題

しおりを挟む
 あの演説から一ヶ月、聖地ユグドールはその名を魔都デルモートとその名を変え、邪神教団が支配する町となっていた。
 
 そしてここはデルモートがある国【グラムヘイズ王国】の王都【グラム】。王は円卓の間に貴族達を集め、邪神教団に占拠された聖地ユグドールをどうしたものかと話し合っていた。

「あの地は我が国の領地、邪神教団に支配されるなど認められん。即刻討伐するべきだ!」
「討伐と言われましてもねぇ……。聖神教の四騎士ですら邪神教に敗れたと言うではありませんか」
「聖神教徒約七百万があの地で散ったそうだ。対し、我が国の兵力は百万程度。討伐など不可能ではないか」
「ならこのまま邪神教にかの領地を占拠させたままにしておくのか? そんな事が許されてたまるか! 神はゼウス様のみである。邪神などを崇拝している邪神教団など我が国には必要ない!」

 一向に話は進まない。小国グラムヘイズには邪神教団に対抗する力などなかった。

「やるなら勝手にやれば良い。我が領は関わらんからな」
「臆したか!」
「バカな。私は抗う意思など最初からないと言うだけだ。強き者に従う。当たり前の事だろう。それが邪神教だろうと聖神教だろうと構わん。家族が無事に暮らせるのならばな」
「不敬なっ! 邪神なんぞに従ったら神罰が下るぞ!」
「はっはっは! 下せるものなら下してみるが良い。いもしない神などどうでも良い。むしろすでに神が降臨しておる邪神教の方が優れておるのではないか? 王よ、あれに逆らったが最後、末は聖神教と同じ。よく考えて行動して下されよ」
「むぅ……」

  王は貴族達の言葉を受け考える。

「……邪神教団が危険な組織だと言う事はわかっておる。そこでだ、ワシはあえて邪神教団と取引をしようと思う」
「「「「なっ!?」」」」

 貴族達は自分の耳を疑った。一人を除いて。その一人とは先ほどから邪神教団を擁護するような発言をしていた貴族だ。彼は魔都デルモートと領地が隣接している貴族だ。彼はすでに邪神教団と関わっていた。

「素晴らしい案かと。国益を考えますれば、邪神教団とは良い関係を構築した方がよろしいかと」
「正気か! 王よ、再考を!」
「考えた末の答えだ。財務卿、発言したまえ」
「はっ」

 王は財務卿に命じ、この場にいる貴族を含めた今年度の税収を語らせた。

「最後に魔都デルモート、今年度の納税額は……どこよりも多く、その……一億ゴールドとなっており……」
「「「「一億ゴールド!?」」」」

 集まった貴族達は度肝を抜かれていた。

「な、何かの間違いだろう!」
「そうだ! 一億だなんて間違いに決まっている!」

 この国は五つの領地に分かれている。魔都デルモートは六つ目になるが、これまでは聖神教に貸与されており税収も見込めなかった。だが、ジェイドは税金を納めたのである。

「本当だ。この一億の内、半分は彼の地にある冒険者組合から納められ、残る半分は邪神教団で魔王と呼ばれておるジェイドなる者が現れ納めたそうだ」
「バカな……。我らの納めた五倍はあるぞ……」
「いったいどこからそんな金が……」

 そこで隣接する領地の貴族が言った。

「魔物の素材ですよ」
「なに?」
「魔王ジェイド様は彼の領地にある北の森……、通称絶望の森で高ランクの魔物を狩っては冒険者組合に卸しているそうですよ。そしてそれで得た金を教団の運営資金に回しているとか。彼の町デルモートには貧民が一人もいないそうです」
「ひ、一人もだと? どう言う事だ」
「魔王ジェイド様は貧民のための養護施設を建てたそうですよ。入るためには教団に入団する必要がありますが、入ってしまえば毎日三食きちんと採る事ができ、才能も開花させてもらえるとか。今彼の地には優秀な人材が山のように生まれつつあります」

 その話を聞いたある貴族が男に詰問する。

「貴様、ずいぶん詳しいのだな。しかも先ほどからやけに邪神教団の肩を持つではないか。まさか……」
「はい。私も邪神教徒ですよ。それがなにか?」
「き、貴様っ! 悪に屈したか!」
「悪? ははははっ、ご冗談を。邪神教は民を幸福に導く素晴らしい団体ですぞ? 魔王ジェイド様は納めずとも良い税金を納め、この国に一番貢献している。民は飢える事なく手に職をつけてもらえる。貴殿方の領地で同じ真似が出来ますかな? 無理でしょう?」
「ぐ……ぬ……!」

 貴族達は二の句をつげなかった。

「王よ、ここは正式に彼の地を魔王ジェイド様に与え、我が国の貴族として迎えてはどうでしょうか?」
「な、何を言っている! 邪神教に屈すると言うのか!」
「むぅ……」

 王は悩んでいた。そこを男が畳み掛ける。

「今は我が国に納税しておりますが、独立しないとも限りません。それならばまだ良い。最悪隣国と組まれては我が国の領地を失う事になりかねませんぞ」
「……【エンブラント王国】か。そのような動きがあるのか? 」
「はい。エンブラント王国の使者が邪神教団の大神殿を視察に来たそうです」
「……そうか」

 エンブラント王国はグラムヘイズ王国と隣接している国であり、魔都デルモートはそのエンブラント王国と唯一隣接している領地でもある。エンブラント王国とグラムヘイズ王国の規模はほぼ同等である。

「取り込むならば今の内。エンブラント王国側に回られでもしたら戦になる事必至。彼を貴族に迎え、正式に領主としてはいかがかと」
「戦は不味い。聖神教団すら壊滅においやった邪神教団が隣国に回られては我が国は確実に滅ぶ。……あいわかった。その者に伝えよ。王が直接話したいと望んでいるとな。頼めるか?」
「畏まりました。私めにお任せください」

 こうして話し合いは終わった。その数日後、この貴族はジェイドの待つ大神殿へと向かうのであった。




 
しおりを挟む
感想 792

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

戦場の英雄、上官の陰謀により死亡扱いにされ、故郷に帰ると許嫁は結婚していた。絶望の中、偶然助けた許嫁の娘に何故か求婚されることに

千石
ファンタジー
「絶対生きて帰ってくる。その時は結婚しよう」 「はい。あなたの帰りをいつまでも待ってます」 許嫁と涙ながらに約束をした20年後、英雄と呼ばれるまでになったルークだったが生還してみると死亡扱いにされていた。 許嫁は既に結婚しており、ルークは絶望の只中に。 上官の陰謀だと知ったルークは激怒し、殴ってしまう。 言い訳をする気もなかったため、全ての功績を抹消され、貰えるはずだった年金もパー。 絶望の中、偶然助けた子が許嫁の娘で、 「ルーク、あなたに惚れたわ。今すぐあたしと結婚しなさい!」 何故か求婚されることに。 困りながらも巻き込まれる騒動を通じて ルークは失っていた日常を段々と取り戻していく。 こちらは他のウェブ小説にも投稿しております。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

初期スキルが便利すぎて異世界生活が楽しすぎる!

霜月雹花
ファンタジー
 神の悪戯により死んでしまった主人公は、別の神の手により3つの便利なスキルを貰い異世界に転生する事になった。転生し、普通の人生を歩む筈が、又しても神の悪戯によってトラブルが起こり目が覚めると異世界で10歳の〝家無し名無し〟の状態になっていた。転生を勧めてくれた神からの手紙に代償として、希少な力を受け取った。  神によって人生を狂わされた主人公は、異世界で便利なスキルを使って生きて行くそんな物語。 書籍8巻11月24日発売します。 漫画版2巻まで発売中。

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

宍戸亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

地獄の手違いで殺されてしまったが、閻魔大王が愛猫と一緒にネット環境付きで異世界転生させてくれました。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作、面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 高橋翔は地獄の官吏のミスで寿命でもないのに殺されてしまった。だが流石に地獄の十王達だった。配下の失敗にいち早く気付き、本来なら地獄の泰広王(不動明王)だけが初七日に審理する場に、十王全員が勢揃いして善後策を協議する事になった。だが、流石の十王達でも、配下の失敗に気がつくのに六日掛かっていた、高橋翔の身体は既に焼かれて灰となっていた。高橋翔は閻魔大王たちを相手に交渉した。現世で残されていた寿命を異世界で全うさせてくれる事。どのような異世界であろうと、異世界間ネットスーパーを利用して元の生活水準を保証してくれる事。死ぬまでに得ていた貯金と家屋敷、死亡保険金を保証して異世界で使えるようにする事。更には異世界に行く前に地獄で鍛錬させてもらう事まで要求し、権利を勝ち取った。そのお陰で異世界では楽々に生きる事ができた。

処理中です...