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第2章 改革
09 ミューズ子爵
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シャロン・ミューズ。先の戦で国に多大なる貢献をした武人。その武人は今自分の領地に戻らずここ大神殿で信者達に剣の指導を行っていた。
「脇が甘いさねっ! そんなんじゃ戦場で真っ先に殺られるよっ!」
「ひぎぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!?」
「何度言えばわかるんだいっ! そんな握りじゃ剣に力が乗らないって言ったじゃないかいっ!」
「ほぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」
「あんたはやる気あんのかいっ! フル装備で訓練場百周っ! 倒れたら尻に剣をぶっ刺すからね!」
「らめぇぇぇぇぇっ!」
物凄いスパルタだ。そして生き生きしてやがる。
「ああ、ジェイドかい。アタシの領地はどうだった?」
「ああ、うん。良い土地だったよ。ブラウン領だった場所とここを結ぶ中継地点としちゃ最高な条件の場所だった。ミューズ領で三つの領地の民が交流できるようにしたよ」
「そうかい。ま、難しい事はあんたに任せるさね。ほらそこっ! 誰が休んで良いって言った! 死ぬまで走らせるよっ!」
可哀想だが信者が強くなるなら受け入れよう。
「おや? あんたは筋が良いねぇ。それに中々良い男じゃないか。無愛想だがね」
「はぁっはぁっ……。ふぅっ……」
「コルド? お前も訓練受けてたの?」
蒼騎士は大量の汗を布で拭いながら俺に言った。
「ああ。俺は今までスキルに頼りきった戦い方しかしていなかったからな。彼女から学ぶ事は多い。聖神教徒との戦いでは大して役に立てなかったからな。こうして自分を磨き直しているのさ」
「……本音は?」
蒼騎士は剣を握り締め叫んだ。
「……妹がっ! 俺の天使がだ! 「お兄ちゃん、私ジェイドのお嫁さんになる~。だって強いでしょ? ジェイドなら私を一生守って優しくしてくれそ~」などと……! 俺は決意した! お前より強くなり妹を守ると! お前に妹はやれんっ! 俺は必ずお前より強くなって見せるっ!」
相変わらずのシスコンぶりだった。
「ほう、熱いねぇ。そんな表情もできるんじゃないか。よし、あんたにはアタシの全てを叩き込んであげるさね。アタシについてこられるかい?」
「はいっ、師匠っ!」
「よし、なら体力作りからさね。疲れた状態で訓練場百周! 行ってきなっ!」
「はいっ!」
蒼騎士はどこに向かってるんだろうな。
「いやぁ、ここは良いねぇ。アタシの血が疼くさね」
「ははは。っていやいや!? いつまでいるんですか!? まさかずっといる気じゃ……」
「ん? いちゃ不味いのかい? 領地はあんたにくれてやったんだ。アタシは帰る場所もない。そんな老人を追い出そうとでも言うのかい? およよ……」
「……本音は?」
「若者を剣で叩き潰すのが楽しくて帰りたくない!」
最悪だった。
「……ほどほどにして下さいよ? 絶対壊しちゃダメっすからね?」
「かっかっか。壊したら遊べなくなるだろう? 壊さないようにギリギリ痛めつける。それが武人よ。いやぁ、楽しい楽しい」
爵位が上の相手には迂闊に逆らえない。残る二人の貴族の件もあるし、ここは信者に涙を飲んでもらうとしよう。
「本当に頼みますよ? では俺はこれで」
「あいよ」
俺は涙目で救済を訴える信者を尻目に、邪神の所へと向かった。
「デルモート」
「ん? ジェイドか。どうしたのじゃ?」
俺は会うなり邪神に頭を下げた。
「デルモート、頼みがある」
「なんじゃ、急に」
「最近あちこちに飛び回る事が多くてさ、ろくに狩りをする時間もない。そこでだ、こう……あちこち往き来できるスキルなんてものが欲しいなぁと」
「ふむ、スキルか。あちこち往き来するとなると……【転移】か。欲しいか?」
「欲しい! なんとしても移動時間を短縮したい!」
邪神はニヤリと笑みを浮かべる。
「そうじゃな~、妾はそろそろ新しいスイ~ツが食べたいの~う。最近ラインナップがマンネリしてはおらんかの~う?」
「スイーツか。そう言えば最近増やしてなかったな」
邪神は言った。
「新しいスイーツで妾を満足させたら【転移】を与えようではないか。信者の数も大分増えた。妾のスキル【スキル付与】も使用可能となっておる。欲しければ妾を満たしてみせよ! 何でも簡単に手に入ると思ったら大間違いじゃぞ」
結果、簡単に手に入った。
「ふぉぉぉぉぉぉぉっ!? こ、これはなんじゃっ!」
「フルーツパフェにございます。旬のフルーツをふんだんに用い、下からフレーク、チョコソース、生クリーム、バニラアイスを重ねていきました。また、これには異なるバージョンもあり、飽きさせない工夫も可能となっております」
「はぁっ……はぁっ……! な、なんという……。いかん、いかんぞジェイドォォォォォッ! またあの運動地獄が見えてしまうっ!」
「はははは、これは大きいサイズです。小さいサイズにすればそれほど気にしなくても大丈夫でしょう。ああ、でも食べ過ぎは禁物ですが」
「くぅぅぅぅっ! 持っていけぃ! スキル付与【転移】!」
俺は邪神からスキル【転移】を付与してもらった。これで移動が大分楽になる。
「作り方はシェフに仕込んでおきます。それではごゆっくりと御堪能下さいませ」
「ふぉっ! ふぉぉぉぉぉぉぉっ!」
その後、扉を閉めた室内から邪神の歓喜する叫び声が漏れ続けるのであった。
「脇が甘いさねっ! そんなんじゃ戦場で真っ先に殺られるよっ!」
「ひぎぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!?」
「何度言えばわかるんだいっ! そんな握りじゃ剣に力が乗らないって言ったじゃないかいっ!」
「ほぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」
「あんたはやる気あんのかいっ! フル装備で訓練場百周っ! 倒れたら尻に剣をぶっ刺すからね!」
「らめぇぇぇぇぇっ!」
物凄いスパルタだ。そして生き生きしてやがる。
「ああ、ジェイドかい。アタシの領地はどうだった?」
「ああ、うん。良い土地だったよ。ブラウン領だった場所とここを結ぶ中継地点としちゃ最高な条件の場所だった。ミューズ領で三つの領地の民が交流できるようにしたよ」
「そうかい。ま、難しい事はあんたに任せるさね。ほらそこっ! 誰が休んで良いって言った! 死ぬまで走らせるよっ!」
可哀想だが信者が強くなるなら受け入れよう。
「おや? あんたは筋が良いねぇ。それに中々良い男じゃないか。無愛想だがね」
「はぁっはぁっ……。ふぅっ……」
「コルド? お前も訓練受けてたの?」
蒼騎士は大量の汗を布で拭いながら俺に言った。
「ああ。俺は今までスキルに頼りきった戦い方しかしていなかったからな。彼女から学ぶ事は多い。聖神教徒との戦いでは大して役に立てなかったからな。こうして自分を磨き直しているのさ」
「……本音は?」
蒼騎士は剣を握り締め叫んだ。
「……妹がっ! 俺の天使がだ! 「お兄ちゃん、私ジェイドのお嫁さんになる~。だって強いでしょ? ジェイドなら私を一生守って優しくしてくれそ~」などと……! 俺は決意した! お前より強くなり妹を守ると! お前に妹はやれんっ! 俺は必ずお前より強くなって見せるっ!」
相変わらずのシスコンぶりだった。
「ほう、熱いねぇ。そんな表情もできるんじゃないか。よし、あんたにはアタシの全てを叩き込んであげるさね。アタシについてこられるかい?」
「はいっ、師匠っ!」
「よし、なら体力作りからさね。疲れた状態で訓練場百周! 行ってきなっ!」
「はいっ!」
蒼騎士はどこに向かってるんだろうな。
「いやぁ、ここは良いねぇ。アタシの血が疼くさね」
「ははは。っていやいや!? いつまでいるんですか!? まさかずっといる気じゃ……」
「ん? いちゃ不味いのかい? 領地はあんたにくれてやったんだ。アタシは帰る場所もない。そんな老人を追い出そうとでも言うのかい? およよ……」
「……本音は?」
「若者を剣で叩き潰すのが楽しくて帰りたくない!」
最悪だった。
「……ほどほどにして下さいよ? 絶対壊しちゃダメっすからね?」
「かっかっか。壊したら遊べなくなるだろう? 壊さないようにギリギリ痛めつける。それが武人よ。いやぁ、楽しい楽しい」
爵位が上の相手には迂闊に逆らえない。残る二人の貴族の件もあるし、ここは信者に涙を飲んでもらうとしよう。
「本当に頼みますよ? では俺はこれで」
「あいよ」
俺は涙目で救済を訴える信者を尻目に、邪神の所へと向かった。
「デルモート」
「ん? ジェイドか。どうしたのじゃ?」
俺は会うなり邪神に頭を下げた。
「デルモート、頼みがある」
「なんじゃ、急に」
「最近あちこちに飛び回る事が多くてさ、ろくに狩りをする時間もない。そこでだ、こう……あちこち往き来できるスキルなんてものが欲しいなぁと」
「ふむ、スキルか。あちこち往き来するとなると……【転移】か。欲しいか?」
「欲しい! なんとしても移動時間を短縮したい!」
邪神はニヤリと笑みを浮かべる。
「そうじゃな~、妾はそろそろ新しいスイ~ツが食べたいの~う。最近ラインナップがマンネリしてはおらんかの~う?」
「スイーツか。そう言えば最近増やしてなかったな」
邪神は言った。
「新しいスイーツで妾を満足させたら【転移】を与えようではないか。信者の数も大分増えた。妾のスキル【スキル付与】も使用可能となっておる。欲しければ妾を満たしてみせよ! 何でも簡単に手に入ると思ったら大間違いじゃぞ」
結果、簡単に手に入った。
「ふぉぉぉぉぉぉぉっ!? こ、これはなんじゃっ!」
「フルーツパフェにございます。旬のフルーツをふんだんに用い、下からフレーク、チョコソース、生クリーム、バニラアイスを重ねていきました。また、これには異なるバージョンもあり、飽きさせない工夫も可能となっております」
「はぁっ……はぁっ……! な、なんという……。いかん、いかんぞジェイドォォォォォッ! またあの運動地獄が見えてしまうっ!」
「はははは、これは大きいサイズです。小さいサイズにすればそれほど気にしなくても大丈夫でしょう。ああ、でも食べ過ぎは禁物ですが」
「くぅぅぅぅっ! 持っていけぃ! スキル付与【転移】!」
俺は邪神からスキル【転移】を付与してもらった。これで移動が大分楽になる。
「作り方はシェフに仕込んでおきます。それではごゆっくりと御堪能下さいませ」
「ふぉっ! ふぉぉぉぉぉぉぉっ!」
その後、扉を閉めた室内から邪神の歓喜する叫び声が漏れ続けるのであった。
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