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第04章 魔族殲滅編

04 次の魔族

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 四天王最弱の魔族が倒し、階段を上がった先にはいくつもの扉が並んでいた。サーチで調べた所、どの部屋も同じ作りになっていた事から、部屋の中には次の魔族がいるだろうと予測がつく。どの扉を選んでも行き先は同じ。ならばと蓮太が選んだ扉は一番近くにあった真ん中の扉だった。

「さて、次も笑わせてもらえるのかねぇ」

 蓮太は特に怯みもせず、扉を開いた。

《ようこそ私の領域へ、歓迎いたしますわ》
「……次は女魔族か」

 扉を開いた先はパーティー会場のような装いとなっており、一番奥に階段、その手前に一段高いステージがあり、そこに女魔族が立っていた。その女魔族はなぜかドレス姿でワイングラスを片手に持っていた。

「おいおい、とても戦う格好には見えないが」
《ふふっ、戦いなんて野蛮な事はしませんわ。この空間では物理、魔法、スキルにより相手を傷付ける行動はできないようになっていますの》
「はぁ? それじゃどうやって戦うんだよ。それとも降参して俺を先に行かせてくれるのか?」

 すると女魔族は優雅にドレスをひるがえし蓮太にこう言った。

《ふふっ、おバカさんね。この空間は一度入ったら出られないのですよ。私は魔族、その寿命は人間とは比べ物にならないくらいあります。私が何もしなくてもあなたはいずれ飢えて死ぬか、寿命で死にます。この空間に入った時点であなたの負けは確定しているのですよ》
「……なるほどな」

 相手を倒せる手段もなく、空間から出られる方法もない。ステージ上の女魔族は戦わずに勝つつもりだった。

「そりゃまた何とも気の長いこった。攻撃できないんじゃどうにもならんな」
《ふふっ、この空間の中にいる私は無敵よ。魔王でさえこの空間では私に勝てないわ。さあ、あなたはどうするのかしら? ふふふふっ》

 そう笑い、女魔族はグラスと中身を飲み干した。

「ま、仕方ないな。ここはじっくり座って考えるとしよう」

 蓮太は椅子に座りアイテムボックスから食べ物を取り出し並べた。

《あら、アイテムボックスを持ってるのね》
「まぁな」

 女魔族は警戒する事なく蓮太の正面に座り頬杖をついて蓮太を見る。

「食べるか?」
《結構よ。このスタイルを維持するのって案外大変なの》
「そうかい」

 蓮太が譲ろうとした食事には魔力を枯渇させる錠剤が入っていた。この方法が唯一攻撃と判断されない一手だったが、そこは空間の主。簡単には誘いに乗らないようだ。

「スタイル気にするわりには普通に酒飲むんだな」
《ふふっ、これはお酒じゃないわ。人間の血よ》
「うぇ……マジか。よくそんなん飲めるな」
《あなた達人間だって蛇の血を精力剤だとか言って飲むでしょ? それと同じよ。魔族にとっては人間の血がなによりの精力剤なのよ》
「ほぉ~ん。そんなの飲んでムラムラしちゃったりしないわけ?」
《……興味あるの?》
「興味って言うか……魔族の生態とか全くわからないからな。例えば……なんでわざわざ地上世界に来たとかな」

 女魔族はボトルからワインを注ぐようにグラスに血を注ぐ。

《私は来たくなかったんだけどね。魔王がどうしてもって言うから仕方なく付いてきただけ》
「その口ぶりだとあんたはあまり魔王をよく思ってないように聞こえるが?」
《当たり前じゃない。私達はバベルの塔にいれば食事には困らないもの。それなのにわざわざ塔を封印して強さを求めるとか……バカのする事よ》

 どうやら目の前の女魔族と魔王とでは考えが違うらしい。蓮太はそこにつけ入る隙がないか探りを入れる。

「なら魔界にいれば良かったじゃん」
《それだと人間の血が飲めなくなるじゃない。バベルの塔は封印されたのよ。私の楽しみは地上世界に来る事でしか満たされなくなったのよ》
「……そういう事か。あんたは魔王に従っているわけじゃなく、ただ人間の血が飲みたいから地上に来たんだな」
《ええ、そうよ。じゃなきゃこんな面倒な事したくないもの。私はバベルの塔に部屋を作ってそこで迷いこんでくる人間を食事に人生を楽しんでいたの。いい迷惑だわ、ホント》

 蓮太は正直目の前の女魔族が羨ましかった。なので自分より先にのんびりまったりライフを満喫している女魔族に尊敬の眼差しを向けてしまった。

「羨ましいな。できるなら俺もそんな生活を送りたかったわ」
《あら、過去形にしてしまうの? 別に今からでも遅くはないわよ?》
「そりゃどういう意味だ?」

 女魔族はグラスを空け蓮太にこう言った。

《私と契約すれば良いのよ》
「契約?」
《そう。けど、魔族との契約は禁忌とされている。その禁忌と言われている理由はわかる?》
「さっぱりだ」

 女魔族はくすりと笑った。

《あなた、もう少し勉強した方が良いわよ》
「あいにくまだ十三年しか生きてないんでね」
《あら、若い。なら仕方ない……かな。お姉さんが教えてあげましょう》

 女魔族は前屈みになり蓮太にレクチャーを始めた。

《なぜ魔族との契約が禁忌とされているか。それは人間が魔族と契約すると寿命が魔族と同じになるからなの》
「寿命が?」
《そう。そして契約した魔族が死んだ場合、人間も死ぬの。ただし、逆はないわ。契約した人間が死んでも魔族は死なない》
「それってズルくね?」
《それが魔族との契約なの。そして契約した人間は主である魔族の力を使えるようになるわ。この場合、あなたが私のスキル【空間創造】を使えるようになるの》
「お、それは嬉しいかも」

 女魔族は自らスキルを口にした。蓮太を相手にこれは悪手だ。

「質問。例えば俺があんたと契約したとして、同じスキルが使えるようになったとするだろ? そしたらこの空間を俺の意思で書き換えられるんじゃないか?」
《無理よ。空間では支配者は常に一人。同じスキルを持っていてもそれは不可能なのよ》
「なぁるほどね。なら……スキル【空間創造】」
《……え? なっ!?》

 蓮太は万物創造をつかいスキル【空間創造】を作り出した。そして女魔族の空間は書き換えず、女魔族の空間内にさらに違うルールの空間を創造したのだ。わかりやすくいえば、箱の中に少し小さい箱を作った感じだ。

《あ、ああああなたも空間使いだったの!? 迂闊だった! アイテムボックスを使えた時点で気付くべきだった!》
「ははは、もう遅い。あんたの説明はわかりやすくて助かったよ」
《くっ……、しゃべり過ぎた……! この空間のルールは? 私のスキルが使えないようだけど……》

 蓮太は席から立ち上がり女魔族に言った。

「教えてやろう。この空間内のルールはだな、俺以外の生物はスキルを使えなくなるだ」
《ぐっ……! やってくれるわね……。でも例えスキルが使えなくても私はまだ戦えるわよ。そして……あなたは私を倒さなければ先に進めないわ》
「はっはっは。戦える? そんな細い身体で肉弾戦か? それとも魔法か? この空間内にいる俺はいつも通りの俺だ。スキルも使えるし、攻撃もできる。あんたに勝ち目はない。立場が逆転しちまったなぁ?」
《くぅぅぅぅっ……!》

 女魔族は椅子から立ち上がり、蓮太から距離をとった。

《わ、私を殺すのっ!?》
「そうしなきゃ先に進めないからな」
《わ、わかった。空間は解除するわっ! それで手を打ちましょう! あなたが先に進むのを止めないし、魔王を倒して塔の封印を解いてくれたら魔界に帰るわっ!》
「そんなの信用できるか。俺が先に空間を解除しない限りあんたも空間を解除できない。あんたは俺が空間を解除した瞬間にルールを書き換えちまうだろ」
《し、しないわっ》
「だから、しないって保証がないんだって。だが……俺も鬼じゃない」
《……え?》

 女魔族は蓮太のセリフにわずかな希望を見出だした。

《な、なんでもするわっ! 私まだ死にたくないのっ!》
「なら契約だ」
《え? け、契約?》
「そうだ。俺が9であんたが1の契約だ」
《それじゃ奴隷じゃないっ!》
「そうだが? 奴隷でも生きていられるんだ、ただ俺に逆らえなくなるだけでな。命に比べたら安いもんだろ」
《……うぅぅぅ……っ。ち、ちょっと考えさせて……》
「いくらでもどうぞ。言ってなかったが、この空間内は時の流れが違うからな。この空間内の一日は外での一分だ。好きなだけ考えな」

 蓮太は再び椅子に座り、女魔族の答えを待つのだった。
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