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第05章 浮遊大陸編

04 竜が仲間に

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 この世界にある魔法は【火】【水】【土】【風】【光】【闇】【神聖】【特殊】の八つだ。過去、世界では大きな争いがあり、これ以外の魔法を伝える者がいなくなってしまっていた。今蓮太が使っている雷魔法も失われた魔法の一つであり、どうやらこの雷魔法が青い竜の弱点のようだ。

 ちなみに以前ヴェスチナ王国軍を壊滅においやった時にも一度使っているが、あの時の目撃者はもう残っていない。ノイシュタット兵は崖崩れでおきた土煙で視界を奪われ見えていなかった。今目の前にいる青い竜が唯一の目撃者だ。

《当たるっ当たるってば!》
「ちょこまか躱わしやがって。いっそトールハンマーで消し炭にしてやろうか」
《ぐぬぬっ、致命的に相性が悪いわっ! 雷魔法の使い手は一人残さず潰したってのにぃぃぃっ!》

 どうやら雷魔法が伝わっていない理由はこの青い竜らしい。青い竜は空を旋回しながら器用に雷を回避していた。

《なんで雷魔法なんて使えるのよっ!》
「俺は特別なんだよ。雷が躱忘れらなら今度はこれにするか。大気よ、凍えて眠れ【ブリザード】」
《んきゃあぁぁぁぁぁぁぁっ! さ、寒いぃぃぃぃぃっ! こ、氷る氷るっ!! なんで氷魔法までぇぇぇぇぇぇっ!?》

 蓮太は青い竜の見た目と使っていた技、そして雷魔法を嫌う事から相手が水属性だと結論付けた。そして放っても躱わされる雷魔法から氷魔法へと切り替え、今度は青い竜を氷らせにかかる。

《に、人間なんかに負けるくらいなら相討ち狙いでっ! 奥義!【タイダルウェイブ】!!》
「うぉっ!?」

 青い竜はヤケクソになり奥義を放った。湖の水が高波となり、物量で氷を凌駕し、蓮太に襲い掛かる。

「甘いな、【飛行】」
《んなっ!? 空を飛ぶなんてズルいわよっ!》
「お前は最初から飛びまくってんじゃねぇか!?」
《私は竜だから良いのよっ!》

 津波が何事もなかったかのように蓮太のいた場所を通り過ぎていった。そして濡れた地面は蓮太の氷魔法により端から氷っていく。

《さ、ささささ寒いっ! 早く氷魔法止めなさいよ!》
「んじゃ俺の勝ちな」
《はぁっ!? 負けてないし!》
「ならこのまま氷漬けにしてやるよ。最後に砕いて竜のバラバラ死体の完成だ」
《この猟奇殺人者!》
「お前人じゃねぇじゃん」
《ぬぐぐぐぐぐっ!》

 口で蓮太に勝てる者などいない。蓮太は喧嘩とつく言葉で負ける事が嫌いで、口喧嘩でも負けないようにひたすら相手をこけ下ろす知識を高めていた。

「ほら、もう負けちまえよ。もう打つ手がないんだろ?」
《バカにしないでくれる? だてに数千年も生きちゃいないっての。人間なんかに負けてたまるもんですかっ!》
「ならよ、下に降りて殴り合いで決着つけようぜ。魔法は禁止でな」
《やったろうじゃないっ!》

 そして二人は地上で対峙する。

「死ぬか降参で決着な。ルールを破っても負けだ」
《ルールは魔法禁止だけ? スキルは?》
「お前、肉弾戦で人間がバカみたいにでかい竜に勝てるわけねぇだろうが!」
《あぁ、人間ってチビでノロいもんねぇ~。忘れてたわ》
「竜はデカいだけで脳ミソは小さいみたいだがな」
《ぶっ飛ばすわよっ!?》

 なんとも挑発に乗りやすい竜だった。

 これから始まる戦いのルールは、魔法を使ったら負け。スキルの使用は可。そして相手が死ぬか降参で戦いは終わる。それまでひたすら殴り合うだけの勝負だ。

《一撃で沈めてやるわっ!》
「んじゃ始めるか。あの太陽が雲で隠れたらスタートな」
《ふんっ》

 この空間は生物がいないだけで他は地上と何も変わらない空間だった。そしてここには木が生えているが、次元が違うためシルファ達でも探知は不可能だ。

「そろそろだな、覚悟は良い──っおいっ!」
《ちっ、躱わしたかっ》
「お前なぁ、ちょっとズルくね?」
《なにがよ、ちゃんとの一部じゃない》
「子どもか!? ったく、もう良いや。始めるぞ、スキル【巨大化】」
《んなっ!?》

 蓮太はスキル【巨大化】を使い竜より数倍大きくなった。

《な、なによそれっ!?》
「……声が遠くて何言ってるかわかんねぇな。おら、潰れちまいなっ」
《ひぃぃぃぃぃぃぃっ!?》

 蓮太は地面にいる竜を足でスタンプ攻撃を開始した。それだけで地面は激しく揺れ、竜はまともに立っている事すらできない。

《地面はダメだわっ! 空に逃げるっ!》
「蝿がいるなぁ。喰らえっ、蝿叩きっ!」
《うきゃあぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?》

 青い竜は蓮太の蝿叩きをくらい、激しく地面に叩きつけられた。今青い竜は無茶した事で有名な男と同じ格好で地面に倒れていた。

「デカいから強いんだろ? よりデカい相手に叩き潰された気分はどうよ」

 口喧嘩で負けはしないが苛立たないとは言っていない。蓮太は青い竜が見せたドヤ顔に苛立っていた。

《ま……まだまだぁぁぁっ!》
「まだやんのかよ。どう見ても勝ち目ねぇだろ」
《う……るさいっ! 戦わずに負けるなんて竜のプライドが許さないんだからっ! 喰らえっ、目潰し!》
「狙いは良いが先に口で言ったらダメだろ」
《躱わすなこのぉぉぉっ!》

 青い竜はボロボロになりながらも巨大化した蓮太を殴り続けていた。だが巨大化した蓮太には青い竜の攻撃など蚊に刺されたほども効きはしない。

「はぁぁぁ……。おい、負けは嫌なら引き分けは?」
《は?》
「引き分けだよ引き分け。何か可哀想になってきたわ」
《同情なんていらないわよっ! ほら、殴ってきなさいよっ! 竜は負けたら終わりなんだからっ!》
「無駄にプライドたけぇなぁ~……」

 どうやら引き分けでは納得しないらしい。青い竜は自分の攻撃が全く効いていないと知り戦いを放棄した。そして今地面に大の字で寝転んでいる。蓮太は巨大化を解除し、青い竜の腹に乗った。

「負けを認めろ。これが最後だ」
《私は死んでも負けないっ!》
「そうか、なら殺してやる」

 蓮太から凄まじい殺気が放たれる。冷たい視線が青い竜を射抜き、拳が構えられる。青い竜は死を覚悟し、目を瞑った。

 だがいくら待っても攻撃がこない。青い竜は恐る恐る目を開いた。

「ビビってんじゃねぇよ。殺るわけねぇだろ」
《なっ!》
「殺っちまったら仲間にできねぇだろうが。あ~右手の甲を見てみ」
《え?》

 言われて青い竜は右手の甲をみる。

《な、なによこれっ!?》
「奴隷紋だ。これでお前はもう俺に逆らえない」
《ふ、ふざけんじゃないわよっ! 消しなさいよっ!》

 青い竜は怒り蓮太に掴み掛かる。だが触れる直前で身体が硬直した。

「だから俺に逆らえないんだって。学習能力がねぇのか?」
《こ、こんなのあんまりよぉぉぉぉぉぉぉっ! いっそ殺してぇぇぇぇぇぇっ!》

 青い竜はあまりの情けなさに号泣した。

「泣くなよ。別に奴隷でも良いじゃん。ちゃんと飯は出すし命令した時以外は自由にしてていいからよ」
《うぐっ、ぐすっ……。い、一日五食》
「何食でも好きに食え」
《睡眠は一日八時間……》
「はいはい」 
《……なら許す! 【人化】!》
「うぉっ!?」

 ようやく納得したかと思った瞬間、青い竜は急に光出した。やがて光が収まるとそこには竜ではなく、人の姿があった。

「仕方ないからあなたに従うわっ。ただしちゃんと食事と睡眠をとらせなさいよねっ!」
「ふ……服を着ろこのバカ竜がぁぁぁぁぁぁぁっ!」
「バカとはなによっ! そんな物持ってるわけないでしょ!」

  蓮太は呆れながら青い竜に向け服を創造してやった。人間の姿になった青い竜は青く長い髪に尖った耳を持ち、バランスのとれた良い身体をしていた。

「なにこのペラペラな服~」
「うっさいな。裸よりマシだろうが。それは武道着で破壊不能と浄化を付与してある。好きなだけ暴れても破れないようにな」
「ふ~ん……。ま、いっか。それより、あんた名前は?」
「あん? 俺はレンタだ。お前は?」
「私は水竜よ。名前はないわ。好きに呼んで良いわよ」
「ふむ……。なら……」

 蓮太は頭をひねり水竜に名前をつけた。

「お前のは水を使うんだっけ。ならこれからお前の事を【アクア】と呼ぶ」
「アクアね。まぁまぁ良いんじゃない? じゃあさっそくご飯にしましょ。動いたからお腹空いたわ。あ、あと今私人間の姿だから生肉は止めてよね」
「……」

 なんともわがまま放題な竜だった。 
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