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第一章:ドミナント「瑛斗」視点
誰よりも愛しいから、君を支配したい
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長い間秘めていた想いが通じあった喜びは互いに深く、何度も求めあって愛しあった。
東の空が白み始めた頃、うつ伏せで休んでいる陸久の背中を、瑛斗は温めた蒸しタオルで拭こうとした。これまで付き合ってきた女性に対して、そんな風に甲斐甲斐しく世話を焼きたいという欲求が湧いたことはなかった。
ほどよく筋肉のついた陸久の背中にタオルを当てると、陸が驚きの表情を浮かべる。
「先輩、いい。そんなこと自分でやる」
「いいから、陸久はそのままで」
「さすがに恥ずかしい。子供じゃないんだから」
構わずに背中を拭いたら、陸久がのっそりと身体を起こした。
「シャワーしてくる」
「……そうか」
穴の開いた風船のように、幸福が萎んでいく気がした。ドミナントの瑛斗は陸久をかまいたくて仕方ないのに、サブではない陸久はそんな時間を望んではいないのだ。できるなら、温かなタオルで陸久の全身を優しく拭いて、清潔な洋服を自らの手で着せて、寝入るまで小さな頭を撫でてあげたかった。「Good Boy」というコマンドを音にして、それを聞いた陸久が嬉しそうに目を細める様を見たかった。
ドミナントというダイナミクスが趣味趣向などという生易しいものではなく、生まれ持った性であることを嫌というほど実感する。食欲や睡眠欲が意識と関係なく湧き上がってくるように、ドムに目覚めた瑛斗はコマンドを発して相手の心を支配したくてたまらない。
「支配……?」
自分の中に見つけたその欲求に愕然とした。
これまで、周りの人とは出来る限り対等な人間関係を築こうと心掛けてきた。相手の権利を尊重し、不要な揉め事が起らぬよう調整し、そうやって居心地の良い世界を築いてきたはずだった。
それなのに今、誰よりも愛しい相手に対して抱いたのは、「支配したい」という醜い感情だった。
頭では分かっている。ダイナミクスは先天的なもので、それは誰からも責められるべきではない個性だ。
それでも瑛斗は、自身のドミナントとしての欲求を嫌悪した。陸久がシャワーを浴びる音を聴きながら、二人の体液で濡れたベッドに顔を埋め、奥歯をぎゅっと噛みしめた。
ーーー
ドムやサブの欲求を満たすために、現在では複数の有料サービスが提供されている。ドムサブのプレイ動画は手軽にプレイを疑似体験できるものだし、子供騙しではあるが、アプリの中のアバターがパートナーの役割を果たしてくれるものもある。
陸久とのコミュニケーションではドミナントとしての本能を満たせない瑛斗は、色んなサービスを試しながらドミナントという性とうまく付き合っていく方法を模索していた。
しかし、画面越しに実際の人間がプレイを提供してくれるサービスや、ドムサブ専用のマッチングアプリを利用するのは躊躇われた。陸久という恋人がいながら、プレイだけのために生身の人間と接点を持つことは陸久に対する裏切りだと思ったからだ。
そこで瑛斗が利用するようになったのは、AIがコマンドに反応してくれるというドム専用のアプリだ。機械相手なら、陸久に対する罪悪感を感じずにプレイを行うことができた。正直に言えば、無機質なAI相手に満足などできるわけがない。けれど、陸久と会っているときにドミナントとして振る舞ってしまわぬよう、定期的にガス抜きをする必要があった。
陸久と会う予定がある日の前日は、必ずアプリを立ち上げた。
スマートフォンのアプリアイコンをタッチすると、陸久に似せて作ったアバターが現れる。
「Kneel」と発すると、アプリが音声を認識し、陸久に似せたアバターが画面の中でぺたんとお座りをする。しばらく放っておくと、そわそわとアバターが身体を動かし始めるので、「Stay」と瑛斗は次のコマンドを出す。再び大人しくお座りの姿勢を取った陸久に、「Strip」と新しいコマンドを命じる。
座ったまま、アバターの陸久がゆっくりと衣服を脱いでいく。
上半身のシャツを脱いだ陸久に向けて、次は「Stand Up」と命じる。のろのろと恥ずかしがるようにプログラムされたアバターに、もう一度「Stand Up」とコマンドを出す。
瑛斗はそうやって次々にコマンドを与え、服を脱がせ、意のままにアバターの陸久を動かしながら自慰をする。
とても虚しく、ほんの少しだけ満たされるその時間は、陸久との関係を続けていくために必要不可欠なものだった。コマンドを出して陸久に言うことをきかせたい、陸久を支配したい、そんな想いが陸久を困らせないように、瑛斗は自分ひとりでドミナントとしての欲求を満たさなければならないのだった。
東の空が白み始めた頃、うつ伏せで休んでいる陸久の背中を、瑛斗は温めた蒸しタオルで拭こうとした。これまで付き合ってきた女性に対して、そんな風に甲斐甲斐しく世話を焼きたいという欲求が湧いたことはなかった。
ほどよく筋肉のついた陸久の背中にタオルを当てると、陸が驚きの表情を浮かべる。
「先輩、いい。そんなこと自分でやる」
「いいから、陸久はそのままで」
「さすがに恥ずかしい。子供じゃないんだから」
構わずに背中を拭いたら、陸久がのっそりと身体を起こした。
「シャワーしてくる」
「……そうか」
穴の開いた風船のように、幸福が萎んでいく気がした。ドミナントの瑛斗は陸久をかまいたくて仕方ないのに、サブではない陸久はそんな時間を望んではいないのだ。できるなら、温かなタオルで陸久の全身を優しく拭いて、清潔な洋服を自らの手で着せて、寝入るまで小さな頭を撫でてあげたかった。「Good Boy」というコマンドを音にして、それを聞いた陸久が嬉しそうに目を細める様を見たかった。
ドミナントというダイナミクスが趣味趣向などという生易しいものではなく、生まれ持った性であることを嫌というほど実感する。食欲や睡眠欲が意識と関係なく湧き上がってくるように、ドムに目覚めた瑛斗はコマンドを発して相手の心を支配したくてたまらない。
「支配……?」
自分の中に見つけたその欲求に愕然とした。
これまで、周りの人とは出来る限り対等な人間関係を築こうと心掛けてきた。相手の権利を尊重し、不要な揉め事が起らぬよう調整し、そうやって居心地の良い世界を築いてきたはずだった。
それなのに今、誰よりも愛しい相手に対して抱いたのは、「支配したい」という醜い感情だった。
頭では分かっている。ダイナミクスは先天的なもので、それは誰からも責められるべきではない個性だ。
それでも瑛斗は、自身のドミナントとしての欲求を嫌悪した。陸久がシャワーを浴びる音を聴きながら、二人の体液で濡れたベッドに顔を埋め、奥歯をぎゅっと噛みしめた。
ーーー
ドムやサブの欲求を満たすために、現在では複数の有料サービスが提供されている。ドムサブのプレイ動画は手軽にプレイを疑似体験できるものだし、子供騙しではあるが、アプリの中のアバターがパートナーの役割を果たしてくれるものもある。
陸久とのコミュニケーションではドミナントとしての本能を満たせない瑛斗は、色んなサービスを試しながらドミナントという性とうまく付き合っていく方法を模索していた。
しかし、画面越しに実際の人間がプレイを提供してくれるサービスや、ドムサブ専用のマッチングアプリを利用するのは躊躇われた。陸久という恋人がいながら、プレイだけのために生身の人間と接点を持つことは陸久に対する裏切りだと思ったからだ。
そこで瑛斗が利用するようになったのは、AIがコマンドに反応してくれるというドム専用のアプリだ。機械相手なら、陸久に対する罪悪感を感じずにプレイを行うことができた。正直に言えば、無機質なAI相手に満足などできるわけがない。けれど、陸久と会っているときにドミナントとして振る舞ってしまわぬよう、定期的にガス抜きをする必要があった。
陸久と会う予定がある日の前日は、必ずアプリを立ち上げた。
スマートフォンのアプリアイコンをタッチすると、陸久に似せて作ったアバターが現れる。
「Kneel」と発すると、アプリが音声を認識し、陸久に似せたアバターが画面の中でぺたんとお座りをする。しばらく放っておくと、そわそわとアバターが身体を動かし始めるので、「Stay」と瑛斗は次のコマンドを出す。再び大人しくお座りの姿勢を取った陸久に、「Strip」と新しいコマンドを命じる。
座ったまま、アバターの陸久がゆっくりと衣服を脱いでいく。
上半身のシャツを脱いだ陸久に向けて、次は「Stand Up」と命じる。のろのろと恥ずかしがるようにプログラムされたアバターに、もう一度「Stand Up」とコマンドを出す。
瑛斗はそうやって次々にコマンドを与え、服を脱がせ、意のままにアバターの陸久を動かしながら自慰をする。
とても虚しく、ほんの少しだけ満たされるその時間は、陸久との関係を続けていくために必要不可欠なものだった。コマンドを出して陸久に言うことをきかせたい、陸久を支配したい、そんな想いが陸久を困らせないように、瑛斗は自分ひとりでドミナントとしての欲求を満たさなければならないのだった。
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