『【スパチャ感謝】バイト先の塩対応な彼が、私の正体を知らずにガチ恋してくる件』

みぃた

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第18話 偽りの祝福と、影からの狼煙

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『これからは二人で最高のエンターテイメントを皆さんにお届けします。僕たちの新しい門出を祝福してください!』

ナイト様の声がヘッドセットを通して私の頭にこだまする。
配信画面は祝福のコメントで白く埋め尽くされていた。おめでとう、最高、神ユニット爆誕。その熱狂の渦の中で私の意識だけが急速に現実から乖離していく。
違う。
これは違う。
私が望んだ未来じゃない。
けれどマイクはオンになったままだ。画面の向こう側では数万人の視聴者が私の次の一言を待っている。
ここで何を言えばいい?
『そんな話聞いていません』と言うべきか。
いやできない。そんなことをすればこのお祝いムードに水を差すだけだ。ナイト様の顔に泥を塗ることになる。そして私は業界の異端児として孤立するだろう。
彼の完璧な笑顔。その下に隠された冷たい計算。
私は公衆の面前で逃げ場のない金色の鳥かごに閉じ込められたのだ。

「……はい! 皆さんこれからもナイトさんと一緒に頑張りますので応援よろしくお願いします!」

私の口から出てきたのは完璧な模範解答だった。
声は震えていなかっただろうか。顔は笑えていただろうか。
もう何も分からない。
ただ早くこの時間が終わってほしい。
ナイト様がにこやかに最後の挨拶をして配信が終わる。
画面が暗転した瞬間、私は糸が切れた人形のように椅子に崩れ落ちた。

部屋は静まり返っている。
けれど私のスマートフォンは狂ったように震え続けていた。
祝福のメッセージ。関係者からのお祝いの連絡。その一つ一つが私を縛り付ける鎖のように重い。
どうしてこんなことに。
私はただ自分の力で前に進みたかっただけなのに。
彼の力を借りて有名になりたかったわけじゃない。
涙さえ出てこなかった。心が麻痺して何も感じない。
ただ胸の奥にぽっかりと大きな穴が開いてしまった。
その穴を埋めてくれるはずだったセバスチャンさんの名前はもうどこにもなかった。



その頃、相田カイは自室の暗闇の中で静かに怒りの炎を燃やしていた。
ナイトの一方的なユニット結成宣言。
そしてその後のルルの凍りついた表情。
彼女が無理やり笑顔を作って肯定の言葉を口にした瞬間、カイの中で何かが完全に壊れた。
守る。
そう決めたはずだ。
ファンとして陰から見守るだけではもうダメだ。
同僚として不器用な優しさを見せるだけでも足りない。
彼女が本当に助けを求めている時にその手を掴むことができなければ何の意味もない。
カイはクローゼットの奥から一つの埃をかぶった箱を引きずり出した。
それは彼がかつてほんの少しだけ足を踏み入れた世界の遺物。
箱を開けると中には配信用のマイク、オーディオインターフェース、そして一枚の仮面が入っていた。黒く艶やかなカラスを模した仮面。

彼はもうセバスチャンではない。
彼はもうただの観客ではない。
彼女が戦うそのステージに自分も立つのだ。
対等な演者として。
カイは手際よく機材をパソコンに接続していく。そして新しいSNSアカウントを作成した。
名前はどうする。
ナイト(騎士)の対極に立つ存在。
光を喰らう影。
彼はアカウント名にただ一文字打ち込んだ。

『Kage (カゲ)』

アバターは必要ない。黒い背景だけ。
そして彼は初めての投稿を打ち込み始めた。
ナイトを直接攻撃してはダメだ。それはただの嫉妬深いファンの遠吠えになる。
狙うはただ一点。
ルルの心。そして彼女の本当のファンたちの心。
言葉を選ぶ。慎重に的確に。

『@Lulu_PinkAngel 素晴らしい歌声を聴かせてもらった』

まずは賞賛から。

『だが caged bird (かごの鳥)のさえずりはどんなに美しくともどこか悲しく響く』

比喩を使う。分かる人間にだけ分かればいい。

『一羽の歌姫の本当の輝きは誰かの隣ではなく大空を自由に羽ばたく時にこそ放たれるのではないか』

彼の本心。

『貴女のソロの歌が聴きたい。貴女だけの翼で飛ぶ姿が見たい。そう願っている者がここにいることを忘れないでほしい』

それはナイトへの明確な宣戦布告。
そしてルルへの魂からのエールだった。
カイは投稿ボタンを押した。
もう後戻りはできない。
彼は自ら光の当たるステージへとその身を投じたのだ。



私の鳴り止まないスマートフォン。
その無数の通知の中に一つだけ異質なものが混じっていた。
見慣れないアカウントからのメンション。
名前は『Kage』。
アイコンは真っ黒。
その不気味なアカウントの投稿を私は吸い寄せられるようにタップした。
そしてそこに綴られていた言葉を読んだ瞬間。
私の止まっていた涙腺が決壊した。

『caged bird (かごの鳥)のさえずりはどんなに美しくともどこか悲しく響く』

私の今の気持ちそのものだった。
誰にも言えなかった心の叫び。
それをこの見ず知らずの人物は完璧に言い当てていた。

『貴女のソロの歌が聴きたい。貴女だけの翼で飛ぶ姿が見たい』

そうだ。
私はそうだった。
私は誰かとユニットを組みたいわけじゃない。
私は私自身の力で羽ばたきたかったのだ。
涙が次から次へと溢れてきてスマートフォンの画面を濡らす。
この人は誰?
どうして私の気持ちが分かるの?
その投稿にはまだほとんど反応はついていない。
けれどそのたった一つの投稿が私の暗闇に閉ざされた心に小さな一条の光を差し込んだ。
それはセバスチャンさんとは違う。
彼の言葉はもっと荒々しくそして鋭い。
でもその奥にある温かさは同じだった。
私を信じ私の未来を願ってくれる温かさ。

私はその投稿に震える指で『いいね』を押した。
それが今の私にできる精一杯の反逆の意思表示だった。
その小さな『いいね』がこれからどんな波紋を広げていくのか。
私にはまだ知る由もなかった。
けれど確かなことが一つだけある。
私はもう一人じゃない。
私の戦いはまだ終わっていない。
夜明けはまだ遠い。
でも暗闇の向こうに確かに光はある。
そう信じることができた。
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