断罪後の悪役令嬢に転生したので家事に精を出します。 え、野獣に嫁がされたのに魔法が解けるんですか?

氷雨そら

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夫婦間の問題です。※ただし王国中を巻き込む可能性あり。

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 気まずい沈黙。
 冷めていく紅茶。
 溶けていくアイスクリーム。

「……頼むから」
「うぅ」

 お兄様には、記憶を取り戻してから迷惑ばかりおかけしているので、頼まれると弱いのだ。

(でも、アイリ様の許可なく、プライベートなことを、話すなんてダメだと思います)

 私は、必死になって首をブンブンと横に振る。

(早く誰か、お兄様を迎えに来て下さい……)

 私は、冷めてしまった紅茶を口に含む。
 香りが薄れた紅茶は、渋みが強く感じられる。

「……逆に、お兄様は、どんな夢を見たんですか」
「質問に対して質問で返すか。だんだん、ベルンに似てきたな。だが、それは隠し事があると言っているようなものだぞ」

 お兄様は下を向いて目を閉じた。
 その時、ふと窓の外を見ると、木の下に無邪気な笑顔のアイリ様が手を振っていた。

「ひょぇ」

 相変わらず怖い。乙女ゲームで、ヒロインがどこにでも入れることに、違和感なんてなかった。でも、現実となれば、話は別だ。何度見たって、怖いものは怖いのだ。

「……セリーヌ?」

 アイリ様が、自由自在に正門以外から敷地内に入ってくることができるのは、ヒロインチートなのだろうか。
 私は慌てて、水色のカーテンを閉める。

「私から話すことは、何もありませんっ!」

「えっ。どうしたんだ急に」

 逆らってはいけない人というのが、世の中には、いるのだ。それがヒロインであり聖女様なら尚更だ。

「その理由は、あと少しでわかります」
「あっ! ……急に抜けて来たからそろそろ」

 来訪者の存在を察したらしいお兄様。
 私は必死で、お兄様の腕に縋り付く。
 行かせてなるものか。

 軽く揉み合っているうちに、ドアが開く。

 なぜかセバスチャンすら、アイリ様のことは素通りさせてしまう。

(確かにゲーム内でも、ほとんどの場所に自由に入ることが出来たものね?)

「セルゲイ……」

「あっ、アイリ。あの……」

「あなたが逃げるなんて、珍しいですよね。セリーヌ様が、ピンチというわけでもなさそうですし、逃げたという認識でいいですか?」
「はっ、はい。あの……」

 ツカツカという、靴音が聞こえそうな勢いで、アイリ様がお兄様との距離を詰めた。

「私としても、言いたいことがたくさんありますが、あなたにもあるでしょう? これは、夫婦間の問題だとは、思いませんか?」
「……ですよね」
「ですよね、じゃないです! 急にいなくなったから、どれだけ心配したと……」
「アイリ?」

「……っ!」

 しばらく俯いていたアイリ様の、耳がみるみる赤く染まる。そのまま、プルプルしている姿が、可愛すぎるのですが。

「……心配なんてしていないんだからっ。セルゲイなんて、知らないんですからっ! もう帰りますよ!」
「ふむ、そうだな。アイリの方が、色々把握していそうだ。そうだろう? 愛しい奥さんは、俺に隠し事なんてしないだろうから」
「……うぇ」

 お兄様が、相手を問い詰めるときの笑顔になった。
 アイリ様が、赤らめていた頬を途端に青白くさせる。
 この笑顔の時に、お兄様が貴族たちに負けた姿を見たことがない。

 たぶん敵わない。平和な日本で、一般市民として暮らしていた記憶がある私たちには。

 連れ去られていくアイリ様を見送りながら、夫婦の問題は夫婦内でと、心の中で祈るのだった。
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