26 / 26
悪役令嬢の運命が変わった日 4
しおりを挟むそれから、結婚式は速やかに行われた。
この短期間にどうやって用意したのだろうというくらい豪華に、華やかに行われた。
リーフ前辺境伯とは、結婚式をしなかった。
(あの日、大切に取っておきなさい、と言った旦那様は、こうなることを予測していたのかしら……?)
ベール越しに見る魔術師団の白い正装を着たレザール様は、あまりに麗しくて、隣の花嫁がかすんでしまいそうだ。
白いドレスを彩る、淡い水色の薔薇と宝石。
そのきらめきに負けないくらい甘く、レザール様が微笑んでいる。
「――――でも結局、シナリオは完全には覆せないってことなのかしら」
これから私たちは、新たにウィールリーフ領として与えられた北の地に向かう予定だ。
それは、明らかに悪役令嬢が、末の王子ハッピーエンドで送られてしまう場所に違いない。
五十歳年上の辺境伯との結婚。
そして、北の地への追放。
だってどちらも、乙女ゲームのシナリオに描かれていた未来にとてもよく似ている。
「……レザールきゅん」
「あなたが話してくれた、その場所に、害を与える魔獣はいませんよ?」
「そうですわね……」
不安になってしまった私に、レザール様は余裕の表情で答えてくれる。
可愛かった王子様は、もうここにはいないのだろうか。
いや、やっぱり私の背を越えてしまっても、その笑顔はとても可愛らしい。
二人が出会ったあの日から、乙女ゲームのシナリオは、ほんの少しの変化から大きく形を変えている。
だからきっと、北の地にも、幸せが待っているに違いない。
「ところで、結婚式の準備、いつの間にすすめていたのですか?」
結婚の申し込みを正式に受けてから、まだ一週間。
再会してからだって、ほとんど月日が経っていないと思うのに……。
目の前の王子様、改めウィールリーフ公爵は、にっこりと微笑む。
そこには、かつての可愛らしかった乙女ゲームの末の王子の面影はない。
目の前にいるのは、少し意地悪な年下公爵様だ。
「三年間、準備していましたからね」
けれど、私は知っている。
レザール様が、私のために背伸びしてくれていることも、甘い物がやっぱり今でも大好物だってことも。
ブラックコーヒーよりも、やっぱりミルクティーが好きなことも。
「私、コーヒーよりも紅茶が好きなんです。とくに甘いミルクティーが」
「……あなたがそういうなら、二人きりの時には、いつでも甘いお菓子とミルクティーを用意しましょう」
「ふふ。可愛いですね」
「――――可愛いのは」
ベールが取り払われる。
目の前には、まぶしいほど輝いている水色の色彩。
「……あなたのほうだ」
(世界一可愛いのは、レザールきゅん!!)
そう告げようとした推しを愛する私の言葉は、誓いの口づけにかき消されてしまったのだった。
応援ありがとうございます!
1
お気に入りに追加
1,488
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(4件)
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。
hiyoさんこちらこそ感想ありがとうございます〜!
おこさん
感想ありがとうございます。
逃げた聖女については、設定はあるのですが……。
いつか、イチャイチャ北の地編を
書きたいです(*´ω`*)
八さん
感想ありがとうございます。
そう、イケオジが書きたかったのです!!
それでは、イケオジルート是非ご覧下さい。