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封じ込められていた一目惚れ

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「すまない……うぬぼれてしまいそうだ」
「ベリアス様? 一体何を?」

 すべてを持っているベリアス。もうすこしうぬぼれたとしても、許されるに違いない。
 その言葉の意味を図りかねて、ルナシェは首を傾けた。

「――――もしかしたら、君も俺のことを好きでいてくれたのではないかと」

 ベリアスの腕の中で、ルナシェは完全にその動きを止めた。

(――――私は、ずっと……)

 気がつかないように蓋をしていた。
 もちろん、ルナシェはベリアスのことが好きだった。
 でも、この気持ちがまさか三年も前の、あの瞬間から続いていたなんて、認めたくなかった。

 次の瞬間、パッとベリアスがルナシェから体を離した。

「うっ……すまない。気持ちが悪いよな? 俺は、君を無理に婚約者にしたような重い人間だ。――――俺の一方的な思いだってことを理解しているつもりだったのに」
「………………っ、ベリアス様!」

 たった三日間の記憶。
 婚約者に対する義務感で、きっと優しくしてくれたのだとルナシェは思い込んでいた。
 いや、あの日ベリアスが帰ってこなかった瞬間から、そう信じ込んでいた。

 あふれ出した感情は、滴になってルナシェの瑠璃色の瞳を沈めていく。
 まるで、深海に光る大粒の真珠みたいに、こぼれ落ちては地面を濡らす。

「そ、そんなに……嫌だったか?」

 ショックを受けたようなベリアスに、今度はルナシェからしがみつく。

「――――一目惚れって、こんなに長く続くんですね」

 涙で、ベリアスのシャツが汚れてしまう。そのことすら思い至らないまま、ルナシェはベリアスにすり寄っていた。

「…………俺は、ルナシェを泣かせてばかりだな。――――それなのに、もっと」
「死なないでください! 帰ってきて!」
「――――っ、ルナシェ?」

 蓋をしていたベリアスと過ごした時間が、勢いよく流れ込んできて、ルナシェの心を水浸しにしてしまう。

 ベリアスが、婚約式に来なかった日、こんなにも恋い焦がれたのは、自分だけだったのだと思い知らされるみたいだった。
 たった三日間、優しくされるたびに、うれしくて、申し訳なくて、義務感なのだと言い聞かせて。
 ベリアスが、帰ってこなかった日、すべての思いに蓋をして、壊れかけた心を守って。

 断頭台にひざまずいた瞬間、もしかしたら、これでもう一度会えるのではないかと、でも会いたいのはルナシェだけではないかと思って、そっと胸元のネックレスを握りしめて。 

 やっと顔を上げたルナシェ。
 でも、涙でベリアスの顔が見えない。

「お願い……。もう置いていかないで? せめて、一緒に連れて行ってください」

 もう一度抱きしめられた胸の中で、押さえ込んでいた記憶と感情が一度にあふれかえってしまったルナシェは、そのまま意識を失ってしまった。
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