78 / 96
伯爵領レーゼベルグと魔獣の森
就任式と帝国
✳︎ ✳︎ ✳︎
レーゼベルグ領主としての就任式が、盛大に行われる。今日もリリアとレオン団長は、お揃いのマダムシシリーの盛装に身を包んでいた。
落ち着いた紺色のドレスは、金色の刺繍で夜空のように煌めいている。
所々にあしらわれたチュールが夜空に浮かぶ雲のようだが、そのチュールだけを光に透かすとまさかのピーコックブルーだった。
(隠しピーコックブルー?!だんだん巧妙に……)
そして、すぐにでも出立したい勢いのレオン団長を押し留めるのは少し大変だった。
(動揺して言ってしまったとはいえ、そこまで私と買い物に行きたいのかしら?最近はいつも一緒に、いるのにね?)
「就任式にマダムシシリーが持たせてくれたドレス、まだ着てません」
「……それを着たリリア。見たい!!」
本当にこの人は領主としてやっていけるのだろうか。かなり不安になってくるリリア。その不安を、敏感に察したらしいカナタが背後からボソリと呟く。
「大丈夫だろ。姫でポンコツになる以外は我が主、完璧超人だから」
「えっ?心でも読んだの?」
「姫に仕えるものとして、これくらいは当然ですよ」
(……そうなの?)
仕事モードになれば、カナタもだいぶ完璧人間だと思うわ。そうなると、不安要素は私の方か……。
「姫の方も、黙って笑顔でいれば完璧な聖女様だよ。黙っていれば……な」
「……カナタさんのいじわる」
やっぱり心を読まれていると感じながらもリリアの緊張は解けて自然と笑顔になる。
「でも、ありがとう。少し緊張していたの」
「まあ、背後は守ってやるからさ」
少しだけ、眉を寄せたレオン団長がエスコートの手を差し伸べてくる。その顔には珍しく緊張の色が見えた。
「どうしたの?」
「帝国からの使者が式典に参加したいと」
帝国といえば、レオン団長が戦ったあの戦争の相手国。カナタを使ってリリアとレオン団長を窮地に追い込んだ……。
「カナタ。顔色が悪い、心当たりがあるか」
「……その使者ってさ、目が覚めるような青い髪してなかったか」
前髪をかき上げ、長いため息をついたレオン団長が返答する。
「していた」
「じゃあ、俺と同じ皇帝直属の騎士だろう。俺が抜けたから……」
ふ。と口の端を緩めてレオン団長が、カナタの髪をガシガシと撫でる。
「そもそも、お前がよこされた時点で俺たちは目をつけられている。いや、先の戦争から俺は。……あんな奴にカナタは返すつもりがない」
「子ども……扱いするなって言ってるだろ」
「まだ、俺からすれば子どもだよ」
少しだけ不満そうだが、ホッとしたように見えるカナタ。帝国での扱いはきっと辛いものだったに違いない。
「行きましょう。レオン」
たぶん、今回リリアは聖女として、レオン団長の婚約者としての立場を示す必要があるのだろう。帝国の思惑はわからないが。
「ああ、リリアが隣にいるのは心強いな」
一人でずっと戦ってきたレオン団長、その隣がリリアの戦場だ。リリアは聖女としての微笑みのまま、レオン団長と歩き出した。
あなたにおすすめの小説
存在感のない聖女が姿を消した後 [完]
風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは
永く仕えた国を捨てた。
何故って?
それは新たに現れた聖女が
ヒロインだったから。
ディアターナは
いつの日からか新聖女と比べられ
人々の心が離れていった事を悟った。
もう私の役目は終わったわ…
神託を受けたディアターナは
手紙を残して消えた。
残された国は天災に見舞われ
てしまった。
しかし聖女は戻る事はなかった。
ディアターナは西帝国にて
初代聖女のコリーアンナに出会い
運命を切り開いて
自分自身の幸せをみつけるのだった。
助けた騎士団になつかれました。
藤 実花
恋愛
冥府を支配する国、アルハガウンの王女シルベーヌは、地上の大国ラシュカとの約束で王の妃になるためにやって来た。
しかし、シルベーヌを見た王は、彼女を『醜女』と呼び、結婚を保留して古い離宮へ行けと言う。
一方ある事情を抱えたシルベーヌは、鮮やかで美しい地上に残りたいと思う願いのため、異議を唱えず離宮へと旅立つが……。
☆本編完結しました。ありがとうございました!☆
番外編①~2020.03.11 終了
冷酷騎士団長に『出来損ない』と捨てられましたが、どうやら私の力が覚醒したらしく、ヤンデレ化した彼に執着されています
放浪人
恋愛
平凡な毎日を送っていたはずの私、橘 莉奈(たちばな りな)は、突然、眩い光に包まれ異世界『エルドラ』に召喚されてしまう。 伝説の『聖女』として迎えられたのも束の間、魔力測定で「魔力ゼロ」と判定され、『出来損ない』の烙印を押されてしまった。
希望を失った私を引き取ったのは、氷のように冷たい瞳を持つ、この国の騎士団長カイン・アシュフォード。 「お前はここで、俺の命令だけを聞いていればいい」 物置のような部屋に押し込められ、彼から向けられるのは侮蔑の視線と冷たい言葉だけ。
元の世界に帰ることもできず、絶望的な日々が続くと思っていた。
──しかし、ある出来事をきっかけに、私の中に眠っていた〝本当の力〟が目覚め始める。 その瞬間から、私を見るカインの目が変わり始めた。
「リリア、お前は俺だけのものだ」 「どこへも行かせない。永遠に、俺のそばにいろ」
かつての冷酷さはどこへやら、彼は私に異常なまでの執着を見せ、甘く、そして狂気的な愛情で私を束縛しようとしてくる。 これは本当に愛情なの? それともただの執着?
優しい第二王子エリアスは私に手を差し伸べてくれるけれど、カインの嫉妬の炎は燃え盛るばかり。 逃げ場のない城の中、歪んだ愛の檻に、私は囚われていく──。
全力でお手伝いするので、筆頭聖女の役目と婚約者様をセットで引継ぎお願いします!
水無月あん
恋愛
6歳から筆頭聖女として働いてきたルシェルも今や16歳。このままいけば、大聖女様のあとを継ぐことになる。が、それだけは阻止したい。だって、自由にお菓子が食べられないから! ということで、筆頭聖女の役目と婚約者をまるっとお譲りいたします。6歳から神殿で、世間から隔離され、大事に育てられたため、世間知らずで天然のヒロイン。ちなみに、聖女の力はバケモノ級。まわりの溺愛から逃れ、自由になれるのか…。
ゆるっとした設定のお話ですので、お気軽に楽しんでいただければ嬉しいです。
巻き込まれではなかった、その先で…
みん
恋愛
10歳の頃に記憶を失った状態で倒れていた私も、今では25歳になった。そんなある日、職場の上司の奥さんから、知り合いの息子だと言うイケメンを紹介されたところから、私の運命が動き出した。
懐かしい光に包まれて向かわされた、その先は………??
❋相変わらずのゆるふわ&独自設定有りです。
❋主人公以外の他視点のお話もあります。
❋気を付けてはいますが、誤字脱字があると思います。すみません。
❋基本は1日1話の更新ですが、余裕がある時は2話投稿する事もあります。
完結 愚王の側妃として嫁ぐはずの姉が逃げました
らむ
恋愛
とある国に食欲に色欲に娯楽に遊び呆け果てには金にもがめついと噂の、見た目も醜い王がいる。
そんな愚王の側妃として嫁ぐのは姉のはずだったのに、失踪したために代わりに嫁ぐことになった妹の私。
しかしいざ対面してみると、なんだか噂とは違うような…
完結決定済み
【完結】断頭台で処刑された悪役王妃の生き直し
有栖多于佳
恋愛
近代ヨーロッパの、ようなある大陸のある帝国王女の物語。
30才で断頭台にかけられた王妃が、次の瞬間3才の自分に戻った。
1度目の世界では盲目的に母を立派な女帝だと思っていたが、よくよく思い起こせば、兄妹間で格差をつけて、お気に入りの子だけ依怙贔屓する毒親だと気づいた。
だいたい帝国は男子継承と決まっていたのをねじ曲げて強欲にも女帝になり、初恋の父との恋も成就させた結果、継承戦争起こし帝国は二つに割ってしまう。王配になった父は人の良いだけで頼りなく、全く人を見る目のないので軍の幹部に登用した者は役に立たない。
そんな両親と早い段階で決別し今度こそ幸せな人生を過ごすのだと、決意を胸に生き直すマリアンナ。
史実に良く似た出来事もあるかもしれませんが、この物語はフィクションです。
世界史の人物と同名が出てきますが、別人です。
全くのフィクションですので、歴史考察はありません。
*あくまでも異世界ヒューマンドラマであり、恋愛あり、残業ありの娯楽小説です。
花言葉は「私のものになって」
岬 空弥
恋愛
(婚約者様との会話など必要ありません。)
そうして今日もまた、見目麗しい婚約者様を前に、まるで人形のように微笑み、私は自分の世界に入ってゆくのでした。
その理由は、彼が私を利用して、私の姉を狙っているからなのです。
美しい姉を持つ思い込みの激しいユニーナと、少し考えの足りない美男子アレイドの拗れた恋愛。
青春ならではのちょっぴり恥ずかしい二人の言動を「気持ち悪い!」と吐き捨てる姉の婚約者にもご注目ください。