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伯爵領レーゼベルグと魔獣の森

就任式と帝国

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 レーゼベルグ領主としての就任式が、盛大に行われる。今日もリリアとレオン団長は、お揃いのマダムシシリーの盛装に身を包んでいた。

 落ち着いた紺色のドレスは、金色の刺繍で夜空のように煌めいている。

 所々にあしらわれたチュールが夜空に浮かぶ雲のようだが、そのチュールだけを光に透かすとまさかのピーコックブルーだった。

(隠しピーコックブルー?!だんだん巧妙に……)

 そして、すぐにでも出立したい勢いのレオン団長を押し留めるのは少し大変だった。

(動揺して言ってしまったとはいえ、そこまで私と買い物に行きたいのかしら?最近はいつも一緒に、いるのにね?)

「就任式にマダムシシリーが持たせてくれたドレス、まだ着てません」
「……それを着たリリア。見たい!!」

 本当にこの人は領主としてやっていけるのだろうか。かなり不安になってくるリリア。その不安を、敏感に察したらしいカナタが背後からボソリと呟く。

「大丈夫だろ。姫でポンコツになる以外は我が主、完璧超人だから」
「えっ?心でも読んだの?」
「姫に仕えるものとして、これくらいは当然ですよ」

(……そうなの?)

 仕事モードになれば、カナタもだいぶ完璧人間だと思うわ。そうなると、不安要素は私の方か……。

「姫の方も、黙って笑顔でいれば完璧な聖女様だよ。黙っていれば……な」
「……カナタさんのいじわる」

 やっぱり心を読まれていると感じながらもリリアの緊張は解けて自然と笑顔になる。

「でも、ありがとう。少し緊張していたの」
「まあ、背後は守ってやるからさ」

 少しだけ、眉を寄せたレオン団長がエスコートの手を差し伸べてくる。その顔には珍しく緊張の色が見えた。

「どうしたの?」
「帝国からの使者が式典に参加したいと」

 帝国といえば、レオン団長が戦ったあの戦争の相手国。カナタを使ってリリアとレオン団長を窮地に追い込んだ……。

「カナタ。顔色が悪い、心当たりがあるか」
「……その使者ってさ、目が覚めるような青い髪してなかったか」

 前髪をかき上げ、長いため息をついたレオン団長が返答する。

「していた」
「じゃあ、俺と同じ皇帝直属の騎士だろう。俺が抜けたから……」

 ふ。と口の端を緩めてレオン団長が、カナタの髪をガシガシと撫でる。

「そもそも、お前がよこされた時点で俺たちは目をつけられている。いや、先の戦争から俺は。……あんな奴にカナタは返すつもりがない」
「子ども……扱いするなって言ってるだろ」
「まだ、俺からすれば子どもだよ」

 少しだけ不満そうだが、ホッとしたように見えるカナタ。帝国での扱いはきっと辛いものだったに違いない。

「行きましょう。レオン」

 たぶん、今回リリアは聖女として、レオン団長の婚約者としての立場を示す必要があるのだろう。帝国の思惑はわからないが。

「ああ、リリアが隣にいるのは心強いな」

 一人でずっと戦ってきたレオン団長、その隣がリリアの戦場だ。リリアは聖女としての微笑みのまま、レオン団長と歩き出した。
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