破滅フラグから逃げたくて引きこもり聖女になったのに「たぶんこれも破滅ルートですよね?」

氷雨そら

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18歳の破滅フラグからは逃げきれない

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 ✳︎ ✳︎ ✳︎

 額に冷たいものがのせられた。

(熱くて痛いよ。どうしてこんなに胸が締め付けられるの)

「リアナ」

 優しい声がした。この声をまた聞くことができて、なぜかわからないけれどひどく安堵した。

「…………ディオ様」

 薄目を開けると、目の前の椅子にディオ様が座っていた。相変わらず、腕や首に黒い蔦が絡まっているのが見える。それでもその数は減っている。それは、聖女と聖騎士にしか見えない呪いの蔦。

「良かった……」

 顔色も良くなっているし、すぐに命が取られるようなことはなさそうだ。

 ホッとした私は、一瞬だけ胸の痛みを忘れて思わず微笑んだ。

「ディオ様って、呪いに随分好かれやすかったんですね?」

 ――――何度目ですか?

 なぜそんなことを思ったのか不思議だったけれど呪いが私にうつったのは間違いなさそうだ。
 焼けつくような胸の痛みは相変わらず続いていたけれど、そのことをディオ様に知られるのは、とても嫌だった。

 ディオ様からの返事はない。代わりに強く抱きしめられる。

「ディオ様?!」

 胸が痛いほど、高鳴った。でも、ディオ様からはいつもの余裕が感じられない。

「……今回の呪いは、ドラゴンが死に際に放ったものだ。でも、俺を蝕んでいたのはそんなものじゃない」

「……一番深く絡み付いていた呪いは、無事解除しましたよ?」

 少し離れて私の瞳を覗き込んだディオ様は、今にも泣きそうな顔をしている。泣かないで欲しい。

「確実に18歳で死ぬ呪いだから……誰にも解除なんてできるはずなんてない。知ってた?俺の誕生日」

(もちろん知ってました。贈り物がしたいと思ったけど、引きこもりにはハードルが高くて買えませんでした)

「明日が18歳の……誕生日でしたよね」

「正確にいうと二日前だ。リアナは三日間も眠り続けていたんだから」

「えっ!」

(大事な一日が終わってしまった!せめて一人でディオ様生誕祭を開催しようと思ってたのに!)

 ディオ様は、抱きしめたまま私の背中に手を当てた。肩に顔を埋めてくるから、柔らかい髪が首筋に当たってくすぐったい。

「呪い……。今ここにあるんだね」

「なんでそう思うんですか。無事に解除しましたよ」

「ウソだ……。解除なんて出来るはずない。俺も代わりに受け継いだからわかるよ」

 そんな顔して欲しかったんじゃない。ただ、笑顔をこれからも見たかっただけなのに。

「愛しい人」

「え……」

 あの暗闇の中で、誰かが紡いだ言葉がディオ様の口からもう一度紡がれた。

「――――ディオ様、急にどうしたんですか。はっ?!もしかしてドラゴンの呪いの影響ですか?」

 ディオ様が、そんな言葉を私に向かって言ってしまうなんて、呪いの影響が残っているに違いない。

 そもそも、私がこの呪いに蝕まれたのは物語の強制力な気がする。ディオ様のせいじゃない。

 どのルートでも18歳で死んでしまう悪役令嬢リアナの破滅フラグ。結局は引きこもったところで逃げられなかったのだ。

 きっとこれは、悪役令嬢リアナの隠し破滅フラグ。

 複雑な顔をしたディオ様が、耳元で囁く。そんなに泣きそうな顔、しないで欲しい。

「リアナに最後に一目会いたかった。だから、ドラゴンも秒で倒してきたんだよ。あと一日あると思って甘く見てた。ごめん、こんなことになるなんて」

「ドラゴンを……秒で」

 たぶん、驚くところはそこじゃない。ん?あれあれ?なんだかあり得ない言葉を聞いてしまった?

「さっきのもう一度、言ってもらえませんか」

 私の恥ずかしい聞き間違いだと思うので。

「……ドラゴンを秒で」

「ちっちが……」

 少しだけ口の端を釣り上げて笑うディオ様は、無理に笑っているようにしか見えない。

「リアナに、会いたくて」

 そんなはずない。無理に笑わないで?

「……会いたかったなんて。そこまで責任感じて言ってくれなくても大丈夫ですよ?この運命が決まっていること、私ずっと前から知っていましたから」

 ディオ団長は、一度俯いて再び顔を上げ、決意を込めたような表情でもう一度呟いた。

「そんなこと言わないで。愛しい人」

 もうすぐ、乙女ゲームの物語がはじまる。プロローグは悪役令嬢リアナと主人公の十五歳の誕生日。

 二人はその日生まれた子どもが世界樹の聖女に選ばれるという予言の日に生まれ、聖女になるために競い合う。

 スタート地点は完全に変わってしまったはずなのに、物語が動き始めたのを私は感じていた。
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