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乙女ゲームの呪われた騎士
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ディオ様は「心配だからそばに居たい」と言ったけれど、そこまでお付き合いいただくのは申し訳ないので「やりたいことがあるから」とご帰宅いただいた。
そして私は机の引き出しから日記帳を取り出す。少しめまいと胸の痛みはあるが、聖女の力のせいかそれも次第に落ち着いてきたようだ。
『春の訪れを君に告げる』通称『春君』
この世界が、乙女ゲームの世界だと気付いたのは私が聖女の素質があると認められた7歳の時だった。
その日の夢に、主人公である彼女は出てきた。そして私は乙女ゲームに関する記憶を思い出したのだった。
オープニングには、ピンクブロンドに蜂蜜色の瞳の主人公と、攻略対象者たちが出てくる。
(その中に、ディオ様はいない)
聖騎士と聖女はとても深い関係だ。聖騎士は聖女を守護する役割を持つはずなのに、攻略対象にならないことをずっと不思議に思っていた。
今でもその事については違和感しかない。
「ましてやディオ様は全てにおいて最高スペック。攻略対象者でなくモブのはずないよね」
もし『春君』にディオ様が出ていたら、間違いなく推していた。
そうなると、ディオ様が言っていた通り物語が始まる以前の18歳の誕生日に……。
「ヒントになるのは王太子ルートの王家の呪いと、ファンブックの中に載っていたリアナの手記ね」
聖女としての資質は、主人公よりも上ではないかという意見がファンの中にも多かった悪役令嬢リアナ。
それなのに途中から王太子と主人公の関係に嫉妬し、陰湿な嫌がらせを繰り返し、最後には呪いに蝕まれ真のラスボスとして討伐されてしまう。
残念なことにその他のルートすべてで、呪いで自滅するか、呪いで世界を滅ぼそうとして断罪されるか、修道院に向かう先で殺される……。とにかく18歳の誕生日に必ず死んでしまうリアナは不憫すぎる。
乙女ゲームでのリアナの行く末を憂いて、何とかフラグを回避しようと無理やり聖女しか入ることができない塔に引きこもった7歳の私。
世界樹の魔法の力で、塔の中には限られた人間しか入ることができない。出来るだけ人との関わりを避けたい私にとって、一番安全な場所。
世界樹に認められた聖騎士ディオ様だけは簡単に入ってきてしまうけれど……。あと、たぶんこれから出会うヒロインも。
(でも、引きこもっている生活は終わりにするしかない)
ディオ様のドラゴンに掛けられた呪いもすべて解くことができなかった。
このまま私が18歳で死んでしまったら、責任感の強いディオ様は、どうなってしまうかわからない。それは、自分の行く末よりも大きな不安因子だった。
私は7歳の時に思い出せる限りを書き留めた日誌を紐解いていく。
公爵令嬢リアナは、7歳の誕生日に聖女としての資質を見出された。
(ここまでは、私の経験と一致する。いきなり庭の薔薇が一面に咲き誇ったのには我ながら驚いたわ)
その日、咲き誇った薔薇の花。それは世界樹の祝福とされた。そして、リアナは王太子殿下の婚約者に内定し、聖女候補としての道を歩み始める。
その中にも、ディオ様の名前は出てはこない。しかし、王太子が王家の呪いに蝕まれ、それを肩代わりした騎士がいたことが王太子による回想で語られていた。
王太子ルートでは、王家の呪いから王太子を守ることで好感度が上がっていく。
ゲーム内容的には黒い呪いの蔦を処理していくミニゲームを繰り返す作業ゲームだったけれど。
ミニゲームの後、脳裏と網膜に焼き付いてしまった黒い蔦にずいぶん悩まされたものだ。
それから、リアナの手記の中では、王家の呪いで魔女になっていくリアナが叫んでいた台詞があった。
「王太子の婚約者になりたかったわけじゃない。どうしてあの人が代わりに死ななければならなかったの?!」
ファンの間で、あの人が誰なのかについての論争がおこったが、その中の一つに呪われた騎士だったのではないかという意見があった。
「間違いない……ゲームが始まる少し前、18歳の誕生日にディオ様は呪いで命を落とした。そして、悪役令嬢リアナとは、どこかで面識があったのかも」
ディオ様と初めて出会ったのは、7歳の誕生日だった。私はまだ、その時は『春君』のことを思い出していなかったが、そのお茶会に参加した中にすでに聖騎士として見出されていたディオ様がいた。
「ベルクール公爵家長男、ディオと申します」
「ディオ様……?私はリアナです。よろしくお願いいたします」
たった3歳しか違わないとはとても思えない大人びた礼をしたディオ様。ディオ様の周りだけが、別世界のように煌めいていた。
挨拶をうけた当時の私も、あまりの煌めきにしばらく放心するほどだった。
(もしかすると、その後も乙女ゲームの中では密かな親交があったのかもしれない)
それから、引きこもっている私も参加させよと王命を受けてしまった父が涙ながらに頼むので公爵令嬢として夜会に出ることはあった。
そんな時のエスコートは、いつもかろうじてそんなことを頼める存在である、ディオ様が買って出てくれていた。
ちなみに引きこもって、聖女の役割に殉じる姿勢を見せ続けた結果、今は王太子の婚約者は空席になっている。
目論見通り、今の私はほんの時折だけ貴族社会に降り立つレアキャラみたいなものだ。
(なぜか、夜会に出ることになるとディオ様の方から進んで役割を申し出てくれたのよね。まったく、なんて心配りの素晴らしい方なのかしら。さすがに公爵令嬢が壁の花というのは醜聞だもの……きっと、エスコートの相手などたくさんいるでしょうに)
塔の最上階。窓を開けると優しい風が吹き込んでくる。18歳でその生涯を終えるというのは、運命ではなく必然なのかもしれない。
「それでも、ディオ様を救うことができたなら。引きこもっていた事にも意味があるのかな」
ディオ様が責任を取ると言い出さないためにも、まだあきらめるつもりはない。結局、王家の呪いと魔女について『春君』の中で完全に語られることはなかった。
きっと、その謎を解くことが鍵になる。
舞台となるのは、王立学園と神殿だ。
聖女の仕事が忙しいと言いながら、それを盾に引きこもりを決め込んでいた私は、王立学園に行くつもりはなかった。
でも、そうもいっていられない。
たぶん、王家の呪いと魔女についての謎を解くことだけが、私の心臓に絡みついた呪いを何とかできる可能性があるのだから。
少しだけふらつく身体で階段を急ぎ足で降りていく。久しぶりに実家に帰らなければならない。
王立学園の試験は明日に迫っている。この間、夜会に出た時に父からもぎ取った『なんでも一つ叶えてくれる券』を今使わなくていつ使う。
「なんとかして、試験を受けられるようにしてもらわないと」
私は決意を固めて実家であるディルフィール公爵家へと急いだ。
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