破滅フラグから逃げたくて引きこもり聖女になったのに「たぶんこれも破滅ルートですよね?」

氷雨そら

文字の大きさ
4 / 109

兄は攻略対象者

しおりを挟む

 ✳︎ ✳︎ ✳︎

 ディルフィール公爵家王都の屋敷、避けていたこの場所を訪れるのは本当に久しぶりだ。

 速攻で、父であるディルフィール公爵に何とか入学試験を受けさせてほしいと懇願してみたところ、泣いて喜ばれ、なんとしても試験を受けさせることを約束してもらえた。

 私が引きこもりであることを思ったよりも心配されていたのかもしれない。申し訳なさすぎて良心が傷んだ。物理的にも胸は痛いけど。

 一緒に食事をと引き止める父を振り切って、エントランスへの階段を降りる。
 そこには、私と同じブロンドに青い瞳の少し冷たい印象をした男性が立っていた。

「リアナ。お前が家に来るなんて珍しいな」

 用件を終えたため、さっさと塔に帰ろうとしたのに。会いたくなかった……。
 いつも王立学園に行っているため油断していた。今は春休みだから、家にいたのだろう。

 一応公爵令嬢としての礼儀作法は教育を受けている。自然と優雅な礼をとっていた。

「お兄様。お久しぶりです。お元気そうで何よりです」

「ああ、なんだか雰囲気が変わったか?」

「しばらく会っていなかったのですから、そんなこともあるでしょう」

 たしかに、わがまま金髪ドリルヘア令嬢だった私は7歳の時に記憶を思い出して以降、髪の毛を毛先だけ緩めに巻いて引きこもりにジョブチェンジしている。

 兄をはじめ家族全員はさぞ驚愕したことだろう。

「そうか。そういえば父上がリアナが学園の入学試験を受けると聞いて泣いて喜んでたぞ」

 親不孝娘で申し訳ない。でも、兄のことが嫌いなのではない。
 それでも兄とこれ以上関わるのは憚られる。

(だってお兄様、フリード・ディルフィールは攻略対象なのだもの)

 王子の学友で、王立学園屈指の秀才。次期宰相候補と目されている兄はもちろんSクラスで主人公が入る生徒会にも所属している。

 リアナと同じブロンドに青い瞳、もちろん顔だって抜群にいい。

 私も乙女ゲームの世界では、すべての結末を見るためにもちろんフリードルートを攻略した。
 いや、見た目といい努力家なところといい、攻略の謎といい、フリード様はむしろ私の一推しだった。

 でも、今は兄なのでその思い出は封印したい。

 兄のあんな台詞やこんな台詞。今となっては兄と恋人との逢瀬を妹が隠れて聞いてしまったようで居た堪れない。

「ふふ。面白いな。一年間可愛い妹と一緒に登校できると思うとうれしいよ」

「えっ?聖女の仕事もあるから塔から通いますよ」

「そんなこと言うなよ。明日の試験は送っていくよ。ところで試験対策は大丈夫なのか?」

 たしかに、王立学園は高位貴族という理由では入ることができない。貴族の中でもエリートが通う場所だ。

「光魔法は確実にSランク。学業はすでに卒業可能なところまで終えております。たくさん本を贈ってくださったお兄様には感謝してますわ」

 引きこもっている時間、暇すぎたからお兄様が与えてくれた本は何度も読み返した。

 公爵家のしがらみで夜会に参加しなくてはいけない時には、兄からドレスや宝石、靴まで届いた。あと、時々美しい花束も。

 本については暇潰しにありがたいくらいの気持ちだったのに、ここで役立つ日が来るとは。

「剣の実技もあるが……まあ、それが最低点でもその様子ならSクラスに引っかかりそうだな」

「剣技も自信があります。でも実戦はしたことがないので、少しだけお手合わせいただける?」

「お前から俺に絡んでくるなんて珍しいな。俺は剣技も学年で5本の指に入るんだが?」

 もしも、フラグを折るのに失敗して断罪されても、逃げ出して生き延びるために剣技も磨いてきた。
 幸い、塔の中にはトレーニングルームというかゲームで言う体力や剣技をあげる場所がある。
 そう、ゲームではそのミニゲームでの作業を毎回クリアしない限りハッピーエンドはなかった。

 光魔法で身体強化をしてみせると、兄が今までのからかうような表情を一変させる。

「リアナ。お前、どうしてしまったんだよ」

「ただの、時間だけはある引きこもりですわ」

(ただし命がけの……ね)

 兄に手を引かれて、騎士団の訓練場に行く。何回か遠征を共にした騎士たちが驚いたように私たちを見ている。
 いつもは、精霊たちが幻影を出してくれてそれと戦っているのだけれど。

「生身の人間と戦うのは初めてなのでお手柔らかに」

「はっ。その強化をかけて初めてとか……加減しろよ。俺の方が怪我しないようにな」

 ドレスは女騎士の制服を借りて着替えた。身体強化をかけると、体が羽のように軽くなる。

「はっ」

「うわ、見た目と違って一撃が重!」

 ✳︎ ✳︎ ✳︎

 結果として、兄には勝てなかった。これで学年一番ではないのか。私もまだまだ修行が足りなかったようだ。

「お手合わせありがとうございました」

「お前……試験では自重しろ」

 兄に一礼して去ろうとすると、腕をつかまれる。怪訝に思って振り返ると、いつもは無表情なことが多い兄が微笑んでいた。

「……リアナ。どうしてそこまでお前が頑張るのかわからないが、何かあった時は力になるから俺のことを頼れ」

「――――っ――お兄様?!」

 その台詞は妹に言ってはいけない台詞です兄!

(好感度が上がった時に努力を続ける主人公にかける台詞、妹に言ったらダメ――――!!)

 妹相手に決め台詞を言ってしまった兄の行く末が心配だ。いろんなご令嬢にその台詞を言っていたらと思うと不安だが、たぶん兄の性格ならそれはないと信じたい。

 気づいたら、塔の最上階にいた。もう、どうやって帰ってきたか思い出せない。

「もう寝よう……」

 考えることを放棄して、明日の試験に備えて今日は寝ることにした。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

【完結】聖女召喚の聖女じゃない方~無魔力な私が溺愛されるってどういう事?!

未知香
恋愛
※エールや応援ありがとうございます! 会社帰りに聖女召喚に巻き込まれてしまった、アラサーの会社員ツムギ。 一緒に召喚された女子高生のミズキは聖女として歓迎されるが、 ツムギは魔力がゼロだった為、偽物だと認定された。 このまま何も説明されずに捨てられてしまうのでは…? 人が去った召喚場でひとり絶望していたツムギだったが、 魔法師団長は無魔力に興味があるといい、彼に雇われることとなった。 聖女として王太子にも愛されるようになったミズキからは蔑視されるが、 魔法師団長は無魔力のツムギをモルモットだと離そうとしない。 魔法師団長は少し猟奇的な言動もあるものの、 冷たく整った顔とわかりにくい態度の中にある優しさに、徐々にツムギは惹かれていく… 聖女召喚から始まるハッピーエンドの話です! 完結まで書き終わってます。 ※他のサイトにも連載してます

異世界から来た娘が、たまらなく可愛いのだが(同感)〜こっちにきてから何故かイケメンに囲まれています〜

恋愛
普通の女子高生、朱璃はいつのまにか異世界に迷い込んでいた。 右も左もわからない状態で偶然出会った青年にしがみついた結果、なんとかお世話になることになる。一宿一飯の恩義を返そうと懸命に生きているうちに、国の一大事に巻き込まれたり巻き込んだり。気付くと個性豊かなイケメンたちに大切に大切にされていた。 そんな乙女ゲームのようなお話。

【完結】異世界転移したら騎士団長と相思相愛になりました〜私の恋を父と兄が邪魔してくる〜

伽羅
恋愛
愛莉鈴(アリス)は幼馴染の健斗に片想いをしている。 ある朝、通学中の事故で道が塞がれた。 健斗はサボる口実が出来たと言って愛莉鈴を先に行かせる。 事故車で塞がれた道を電柱と塀の隙間から抜けようとすると妙な違和感が…。 気付いたら、まったく別の世界に佇んでいた。 そんな愛莉鈴を救ってくれた騎士団長を徐々に好きになっていくが、彼には想い人がいた。 やがて愛莉鈴には重大な秘密が判明して…。

【完結】偽物聖女は冷血騎士団長様と白い結婚をしたはずでした。

雨宮羽那
恋愛
 聖女補佐官であるレティノアは、補佐官であるにも関わらず、祈りをささげる日々を送っていた。  というのも、本来聖女であるはずの妹が、役目を放棄して遊び歩いていたからだ。  そんなある日、妹が「真実の愛に気づいたの」と言って恋人と駆け落ちしてしまう。  残されたのは、聖女の役目と――王命によって決められた聖騎士団長様との婚姻!?  レティノアは、妹の代わりとして聖女の立場と聖騎士団長との結婚を押し付けられることに。  相手のクラウスは、「血も涙もない冷血な悪魔」と噂される聖騎士団長。クラウスから「俺はあなたに触れるつもりはない」と言い放たれたレティノアは、「これは白い結婚なのだ」と理解する。  しかし、クラウスの態度は噂とは異なり、レティノアを愛しているようにしか思えなくて……?  これは、今まで妹の代わりの「偽物」として扱われてきた令嬢が「本物」として幸せをつかむ物語。 ◇◇◇◇ お気に入り登録、♡、感想などいただければ、作者が大変喜びます! モチベになるので良ければ応援していただければ嬉しいです♪ ※いつも通りざまぁ要素は中盤以降。 ※完結まで執筆済み ※表紙はAIイラストです ※アルファポリス先行投稿(他投稿サイトにも掲載予定です)

治療係ですが、公爵令息様がものすごく懐いて困る~私、男装しているだけで、女性です!~

百門一新
恋愛
男装姿で旅をしていたエリザは、長期滞在してしまった異国の王都で【赤い魔法使い(男)】と呼ばれることに。職業は完全に誤解なのだが、そのせいで女性恐怖症の公爵令息の治療係に……!?「待って。私、女なんですけども」しかも公爵令息の騎士様、なぜかものすごい懐いてきて…!? 男装の魔法使い(職業誤解)×女性が大の苦手のはずなのに、ロックオンして攻めに転じたらぐいぐいいく騎士様!? ※小説家になろう様、ベリーズカフェ様、カクヨム様にも掲載しています。

『身長185cmの私が異世界転移したら、「ちっちゃくて可愛い」って言われました!? 〜女神ルミエール様の気まぐれ〜』

透子(とおるこ)
恋愛
身長185cmの女子大生・三浦ヨウコ。 「ちっちゃくて可愛い女の子に、私もなってみたい……」 そんな密かな願望を抱えながら、今日もバイト帰りにクタクタになっていた――はずが! 突然現れたテンションMAXの女神ルミエールに「今度はこの子に決〜めた☆」と宣言され、理由もなく異世界に強制転移!? 気づけば、森の中で虫に囲まれ、何もわからずパニック状態! けれど、そこは“3メートル超えの巨人たち”が暮らす世界で―― 「なんて可憐な子なんだ……!」 ……え、私が“ちっちゃくて可愛い”枠!? これは、背が高すぎて自信が持てなかった女子大生が、異世界でまさかのモテ無双(?)!? ちょっと変わった視点で描く、逆転系・異世界ラブコメ、ここに開幕☆

「白い結婚最高!」と喜んでいたのに、花の香りを纏った美形旦那様がなぜか私を溺愛してくる【完結】

清澄 セイ
恋愛
フィリア・マグシフォンは子爵令嬢らしからぬのんびりやの自由人。自然の中でぐうたらすることと、美味しいものを食べることが大好きな恋を知らないお子様。 そんな彼女も18歳となり、強烈な母親に婚約相手を選べと毎日のようにせっつかれるが、選び方など分からない。 「どちらにしようかな、天の神様の言う通り。はい、決めた!」 こんな具合に決めた相手が、なんと偶然にもフィリアより先に結婚の申し込みをしてきたのだ。相手は王都から遠く離れた場所に膨大な領地を有する辺境伯の一人息子で、顔を合わせる前からフィリアに「これは白い結婚だ」と失礼な手紙を送りつけてくる癖者。 けれど、彼女にとってはこの上ない条件の相手だった。 「白い結婚?王都から離れた田舎?全部全部、最高だわ!」 夫となるオズベルトにはある秘密があり、それゆえ女性不信で態度も酷い。しかも彼は「結婚相手はサイコロで適当に決めただけ」と、面と向かってフィリアに言い放つが。 「まぁ、偶然!私も、そんな感じで選びました!」 彼女には、まったく通用しなかった。 「なぁ、フィリア。僕は君をもっと知りたいと……」 「好きなお肉の種類ですか?やっぱり牛でしょうか!」 「い、いや。そうではなく……」 呆気なくフィリアに初恋(?)をしてしまった拗らせ男は、鈍感な妻に不器用ながらも愛を伝えるが、彼女はそんなことは夢にも思わず。 ──旦那様が真実の愛を見つけたらさくっと離婚すればいい。それまでは田舎ライフをエンジョイするのよ! と、呑気に蟻の巣をつついて暮らしているのだった。 ※他サイトにも掲載中。

【連載版】ヒロインは元皇后様!?〜あら?生まれ変わりましたわ?〜

naturalsoft
恋愛
その日、国民から愛された皇后様が病気で60歳の年で亡くなった。すでに現役を若き皇王と皇后に譲りながらも、国内の貴族のバランスを取りながら暮らしていた皇后が亡くなった事で、王国は荒れると予想された。 しかし、誰も予想していなかった事があった。 「あら?わたくし生まれ変わりましたわ?」 すぐに辺境の男爵令嬢として生まれ変わっていました。 「まぁ、今世はのんびり過ごしましょうか〜」 ──と、思っていた時期がありましたわ。 orz これは何かとヤラカシて有名になっていく転生お皇后様のお話しです。 おばあちゃんの知恵袋で乗り切りますわ!

処理中です...