破滅フラグから逃げたくて引きこもり聖女になったのに「たぶんこれも破滅ルートですよね?」

氷雨そら

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入学試験

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 ✳︎ ✳︎ ✳︎

 試験当日は、桜のような薄桃色の花が蕾をつけていた。この世界の暦は前の世界と同じものなので、私の誕生日は3月20日だ。つまり卒業式当日に18歳になる。

 正門をくぐると、なぜがディオ様が立っていた。

「あれ?ディオ様どうしたんですか。お仕事は」

「うん、一年間休んでいたんだけど、三年生に復帰することにしたからその手続き」

 聖騎士の仕事が忙しいという理由で休学したそうだが、真の理由は違うのだと今の私にはわかってしまう。

「そうですか。三年には兄もいるのでよろしくお願いします」

「ああ、フリードもSクラスだからクラスメイトになるな」

 さすが、ディオ様はSクラスらしい。聖騎士として剣技も魔法もすでに王国最高クラス。しかも努力家のディオ様のことだ、学業だって優秀な成績を修められているに相違あるまい。

(うれしいな。ディオ様が奪われていた青春を取り戻せると良い)

 私はディオ様に微笑みかける。すると、ディオ様は急に深刻な表情になった。

「リアナが助かる道を必ず探して見せる。できる限りそばにいるから」

「え?ディオ様。学年違うんですよ」

「二年生までで三年までの学業は修めている。テストだけ受ければ問題ない」

 つまり、いつでも卒業は可能な状態での休学だったわけだ。さすが、ディオ様。

「そんなことより、学園を楽しんでほしいです」

「そんな…………ことより?」

 私は失言に気が付いたが、すでに遅かった。なんだか、ディオ様から冷気を感じる。

「リアナはわかっていない。俺は君に生きていてほしい。だって、リアナのことをずっと」

 その時、兄の声がした。

「リアナ!送る約束をしてたのに置いていくなんてひどいじゃないか」

「お兄様……」

 兄は、ディオ様に目をやると少し険しい表情になった。

「ディオ・ベルクール公爵令息殿。神殿や騎士団内ならいざしらず、少々妹との距離が近くはありませんか」

「フリード殿。失礼しました。新学期からは同じクラスですね。よろしくお願いします」

 ディオ様の天使のような笑顔を前に、怒りを持続させるのは不可能なのだろう。

「あ、よろしくお願いします」

 直前まで険しい顔をしていた兄が、毒気を抜かれたようになっている。うん、わかる。この笑顔にはなんだか逆らえないよね。

「それでは、愛しいリアナ。新学期に会いましょう」

 呆然としている私たちを置いて、ディオ様は職員棟へと消えてしまった。

(また聞き間違いだろうか)

 しかし、兄は拳を震わせてつぶやいた。

「あいつ……愛しいって言った」

(あ、聞き間違いじゃなかった)

 結局、なぜディオ様が急にそんな態度をとり始めたのか訳が分からない。
 責任感を感じているんだろうけれど、私は自分が18歳までしか生きられないかもしれないというのは覚悟してきたから、そこまで心配頂かなくても大丈夫なのに。

「なあ、ディオとは仲がいいのか。そういえば、夜会でもいつもあいつにエスコートしてもらってたな」

「お兄様でも良かったのですが。だってお兄様の隣はご令嬢たちの予約で埋まっているでしょう?」

 兄が長いため息をつく。少しだけ微笑んだ今日の兄は、いつもに比べてずいぶん表情豊かだ。

「お前のためならいつでも空けるさ。それに、ディオの隣のほうが……いや、今度から絶対に俺に頼めよ?さ、時間が無くなるな。行ってこい」

 微妙にはぐらかされた気がしたが、兄に促されて私は試験会場へと足を運んだ。

 ✳︎ ✳︎ ✳︎

 静まりかえった教室に、ペンを走らせる音だけが響いている。

 一番初めは、座学でのテストだった。チラリと主人公のピンクブロンドを探してみたが、同じ教室ではないようで見当たらなかった。

 数学は日本人のレベルのほうが高いようだ。自分がどんな生活を送っていたのかという記憶はないのに、勉強したことやゲームの内容は鮮明に思い出せるのが不思議だ。

 魔術学は、前の世界にはなかった学問だったこともあり、学び始めた当初は苦戦したが……。

(そういえば、ディオ様が部屋に来た時にいつも教えてくれていたっけ)

 自分の命があと少しなのに、引きこもった聖女にまで気を配るディオ様。その心が尊い。

 すべての教科が終了したときに、私は確かな手ごたえを感じていた。むしろ満点でも驚かないくらいの出来栄えだ。

 次の魔法の実技試験は、魔力量の測定だった。
 光魔法を持っているとはいえゲーム内では人並みだったはずの魔力。
 しかし、毎日世界樹に祈りを捧げ続けていたせいか、限界値まで上がっていたようで測定器を壊してしまった。

「――――請求は父に」

 そう言い残して、私はそそくさとその場を去った。ごめんなさい、父。たぶん測定器はすごーく高いと思うけど公爵家なら大丈夫ですよね?

 実技試験では、アッシュブラウンにエメラルドの瞳の王太子の姿があった。実技試験は試験官と模擬戦を行い、点数がつけられる。

 周囲からざわめきがおこる。王太子の剣の腕は一流で、さすがメイン攻略対象という印象を受けた。
 入学前にも関わらず、すでに試験官と互角に戦っている。

(たしかにすごい実力だわ。でも、ディオ様と比べるとまだ荒削りね)

 聖騎士を現役でこなしているディオ様と比べてはいけないのかもしれない。
 でも、本当であれば王立学園を卒業したばかりの年齢であの技量。やはりスペックが高すぎないか、ディオ様。

 そんなことを思っていると、ピンクブロンドの髪をした少女が現れた。

(……間違いない主人公だ)

 主人公は魔力量と座学で高得点を出して、Sクラスに入るはずだ。この時点では、身体強化は使えても実技はそこまででなかった……なかったはず。

(なんだか身体強化の光がオーラみたいになってる)

「はあああああっ!まだ、限界突破できるはず!」

 少年漫画の主人公みたいな台詞で、主人公が試験官に突っ込んでいく。その体術は荒削りだ。
 荒削りだが、試験官が会場の端まで吹っ飛ばされていった。

「うわぁぁぁ……」

 気の毒なものを見るように、受験生たちが試験官を見つめている。次、私の番なんだけど試験官復帰できるんだろうか。

 そう思っていたら、特別審査員の副団長が代理の試験官として私の前に立ちふさがった。

「お久しぶりです聖女殿。しかし、試験は公平なもの。手を抜くことはしませんよ」

「望むところですわ」

 結論から言うと、さすがに副団長は強すぎた。全く歯が立たなかった。秒で倒された。

 実技試験でも満点を狙っていたのに……そう思いながら、私の意識は闇に沈んでしまった。

 ✳︎ ✳︎ ✳︎

 試験が終わって、学園長と副団長が内密の話し合いをしている。

「アレはなんなのですか」

「うーん。活きのいいのが複数来たよね。聖女候補のあの子もだし。ところで世界樹の聖女って剣技もすごいのかな?」

 首を振った副団長を見て、学園長が笑みを深める。

「聖女殿とは遠征を共にしたことはありますが、回復魔法や呪いを解呪する姿しか見たことがありません。しかし、あの底知れぬ力。おそらくまだ本当の実力を出し切っていない。この私が手を抜くことができず思わず全力でかかってしまいました」

 楽しそうな様子の学園長。おそらく今年はいつもよりも学園は賑やかになるだろう。

「ふーん。現役聖女っていうだけでも話題だったのに、思わぬ逸材が紛れ込んできたね。試験を受けさせてほしいっていうディルフィール公のお願い聞いてあげて良かったな。ディオも復帰してきたし今年は楽しみだ」

 そんな会話がなされていたことを、私はもちろん知らない。
 そしてなぜか目が覚めると塔の最上階のベッドに寝かされていた。夢ではなかったと信じたい。

 それでも、少なくとも合格はしているだろうという手ごたえは感じていた。
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