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妹はそんな兄に怒っている
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あっという間に毎日が過ぎていく。
冬が来た。雪が降る。
その後は春が来る。私にとっては最後になるのかもしれない春の訪れ。
そして私は今、めずらしいことに猛烈に怒っていた。
「お兄様。そろそろ帰ってきませんか」
「おぉ?!どうしてこんなところにいるんだよリアナ」
兄は、ブラックな仕事ばかりこなしているのに、最近は修行に明け暮れているのでここ一カ月近くディルフィール公爵家に帰って来ていない。
あんまりなので、今日は兄を探し当てて迎えに来た。兄は、高ランクの魔獣ばかりが出現するという、いわゆる最終ダンジョン近くの森にいた。
「――――え?一人で来たのか、リアナ!ディオやライアス殿下は、いやせめてフローラは」
「ええ、お兄様が一人でいらしているように、私も一人で来ています。なにか?」
「……怒ってるのか?リアナ」
兄が少しばかり恐る恐るという雰囲気を出して上目遣いに聞いてくる。
「怒ってなどおりませんわ。お兄様」
私は愛剣を抜いた。最近は、味方に補助魔法をかける戦い方ばかりしていたので、ここでは自分だけを強化して戦うことにする。負けてばかりは性に合わない。
まあ、このあたりの魔獣はとても強いけれど、いつもソロで狩っている兄なら私の助けなどいらないだろう。全力で身体強化を自分にだけかける。
聖女の最上位魔法、魔力の自動回復がない?
魔力を増やす修行をして魔力量の絶対値を増やしてしまえばそんなの関係ない!
兄が蒼白になって「リアナがなぜが本気で怒っている?!」とか「え?この顔になったリアナはたいがい何かやらかすぞ」などブツブツ言っているが、知らない。
知らないったら知らない!
兄が帰って来ないことを毎日心配しながら待っていたのが馬鹿らしい。
「では、私はソロで戦ってまいりますので、ごきげんようお兄様?」
「えっ一緒に……」
知らない!一カ月近くも帰って来なかった兄に私は怒っているのだから。
兄に勝てる気はしないけど、強化魔法を本気でかければスピードだけなら私が勝つ。
魔獣相手なら私の方が数多く戦えるんだから。
「実戦経験が足りないからドラゴンに負けるかもって思う自分とか」
私は勢いをつけて魔獣を倒していく。
「ディオ様なら守ってくれるから強化を解いても大丈夫と思う自分とか」
そのまま、次の魔獣に向かって駆け出す。
兄の声が後ろから追ってきている気がするけれど、そんなの知らない。
「いつのまにか、お兄様の帰りを待っているばかりの自分とか!」
全部そんなの私じゃない。最近の私はずいぶん聖女であるという枠組みにはまってしまっていたみたいだ。
(ああ、兄を理由にして自分のふがいなさにいら立っていたんだわ)
私は戦う。誰よりも強くなるという思いをいつの間にか忘れていた自分にカツを入れる。
この森の奥にはドラゴンがいるのだと、ミルフェルト様から聞いたことがある。
ドラゴンソロで倒してやろうじゃない!
「ドラゴンスレイヤーに私はなる!」
しかし、ドラゴンはとても強く少し時間をかけているうちに、兄に追いつかれてしまった。
なんだか兄が珍しく半泣きになっていた。
「頼むから、一緒に戦わせてくれ」
兄が頼んでくるので、仕方なく一緒に戦うことにした。
倒したドラゴンからは、運がいいのか悪いのかめったに手に入らないという竜の血石が手に入ってしまった。
もう、この竜の血石を噛み砕いて口から血を流す兄とか、私の身代わりになろうとした兄とか、あとあんな兄とかこんな兄とかトラウマや思い出したくない兄の台詞など……。
一気に私の脳裏は兄でいっぱいになってしまった。
「……それ、俺にくれる?」
性懲りもなく兄が竜の血石を欲しがる。兄がたとえ18歳を過ぎたのだとしても、なにが破滅フラグになってしまうかわからないのが兄なのに!
「お兄様のバカ!鈍感!死にやすいんだからフラグ立てないで!!」
「だからフラグって何なんだよ……。でも、俺はリアナが好きだ。リアナのために強くなりたいんだ。わかってほしい」
そんなのずるい。兄にそんなこと言われたら、怒っていても私には兄を許す選択肢しかない。
「帰ってくるって言ったのに!」
「悪かった。今日から休暇取るから」
「……何日」
「そうだな。リアナの冬休みはあと三日か。じゃあ、三日休暇をとってずっと一緒にいる。……一緒にいてもいいか?」
本当に兄は私の扱いに長けていると思う。
「……あのアップルパイがおいしい店に連れて行ってくれますか」
「あの店に行きたいのか。予約しておくから」
仕方がないから機嫌を直すことにする。
兄と三日も一緒にいられると浮かれているのは絶対秘密だ。
魔獣の森の最深部まで来てしまったけれど、帰りは兄と二人で戦いながら帰ったので楽勝だった。
ちなみに、以前私に竜の血石をくれたランドルフ先輩に、兄には渡さないという約束をしてもらったうえで今回の戦利品は押し付けておいた。
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