夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら

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第1章

薔薇の庭

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 * * *

「うーん、手紙に目を通すだけでもこれだけの数があると大変ね」

 昼ごはんもそこそこに、手紙に目を通し続けた。

 今までセバスチャンが仕分けてくれていたけれど、これからは自分で何でもできるようにならなくては、と密かに決意する。

「……少し外の空気を吸おうかしら」

 薔薇の香りに誘われて庭園を歩く。
 白に淡いピンク、濃いピンクに赤、そして黄色にオレンジ。
 庭は色とりどりの薔薇であふれていた。

「美しいな」

 声がかけられたことに驚いて振り返る。
 そこにはアシェル様がいた。

「アシェル様」

 思わず駆け寄りそうになったけれど、思いとどまる。

「お仕事はどうされたのですか? 隣国との国境の件、兄から聞き及んでます」
「片づけてきた」

 アシェル様はなぜか少しだけ私から視線を逸らした。
 いつも自信ありげに真っ直ぐ見つめてくるのに珍しいこともあるものだ。

「そうですか。こんなに早くお帰りになるのは、初めてではないですか?」
「……そうだな」

 アシェル様が、ますます視線を逸らす。

「……?」
「あー、少しお茶でもしようか」
「喉が渇いたのですか? では、中で用意させましょう」
「……いや、せっかく薔薇が美しく咲いているし」

 そういえば、アシェル様は薔薇の花が好きなのだ。

「ここに用意させますね」

 薔薇の花を楽しむのに、私がいてはアシェル様も落ち着かないだろう。
 2週間前なら遠慮なくご一緒しようとしただろう。けれど、私はもう邪魔をしないのだ。

「では、ごゆっくりなさってください」
「……フィリアは」
「せっかく早く帰ってくることができたのに、貴重な休息時間をじゃましてはいけませんから」
「それは!」

 そのとき、聞き慣れた忙しない足音が聞こえた。

(この足音は……)

 振り返ると、そこにいたのは兄だった。

「カインお兄様!」
「二人で過ごそうとしているところ申し訳ないが……緊急会議の途中だ」
「えっ!?」

 眉根を寄せたアシェル様が不機嫌そうに口を開く。

「国王陛下から退室のお許しは得たはずだ」
「そうだな。貴殿が陛下の耳元でなにかささやいた途端、お許しが出たな。何を言ったんだ」
「……黙秘する」
「どちらにしても貴殿がいないと会議がまったく進まない。ところで、なぜ全員が貴殿に頼りきりなんだ?」

 色鮮やかな薔薇が咲き乱れる庭は、重苦しい空気に包まれた。
 どうしてそんなに大事な話し合いがあるのに、アシェル様は陛下にお許しを得てまで戻ってきたのだろう。

「アシェル様、朝から様子がおかしかったですよね? やはり具合が悪いのでは」
「いや、至って元気だが……」
「それでは、行かれたほうが良いと思います。後ほど、軽食を届けさせますから」
「だが、俺は君と……!」
「はあ、気の毒な気もするが行くぞ」

 アシェル様は背が高いけれど、騎士団長をしている兄に力で敵うはずもない。
 諦めたのか心なしか肩を落として去って行く。

(とてもお疲れなのかしら……)

 私はそんなことを思いながら、アシェル様に軽食を届けるように指示して、今度はベルアメール伯爵領についての理解を深めるためセバスチャンに教えを請おうと、自室へと戻るのだった。

 
 
 
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