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第1章
兄と夫と朝食
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翌朝、支度を終えて食堂に行くと、なぜか兄が席に着いていた。
「カインお兄様……!?」
「やあ、おはよう。今日も可愛らしいな、フィリア」
「朝から冗談を言うのはやめてください……。えっと、なぜここにいらっしゃるのですか?」
「なぜと問われれば、妹の危機に後先考えず駆けつけたため、宿泊場所に困って……かな」
兄は明るく微笑むと私に向かって手招きをした。
しかし、宿泊場所に困るはずがない。フォルス辺境伯家は、王都にも大きなお屋敷を持っているのだ。
「……」
「そんな顔をするなよ」
兄は立ち上がると、私の手をグッと握りしめて引いた。
「宰相殿が仕事を手伝った礼に招いてくれたんだ」
「アシェル様のお仕事を……カインお兄様が手伝ったのですか?」
「少しだけな。それにしても、以前から宰相殿は働き過ぎではないかと思っていたが……」
アシェル様が働きすぎという言葉を聞いて、もう少し詳しく聞きたいと思ったとき、食堂の扉が開いた。几帳面さを感じる規則正しい足音はアシェル様のものだ。
「おはようございます。カイン殿」
「おお、おはよう」
「ところで昨日いただいた報告書に改めて目を通しました。確かに、国境の視察が必要そうですね」
「そうだな」
兄が眉根を寄せたのを見て、心配になってアシェル様に視線を送る。
アシェル様は私を見つめ、心配いらないとでも言うようににっこりと微笑んだ。
「おはようフィリア、よく眠れたか?」
「ええ、ぐっすりと」
「それは良かった」
確かに、あのあと私はぐっすりと眠った。
アシェル様はどうだったのだろうか。けれど、聞くまでもなく目元に薄ら浮かんだ隈が事実を物語っている。
(あまり、眠っていないみたい……。仕事を持ち帰ってきていたのかしら)
昨日、アシェル様は様子がおかしかった。
屋敷を遅く出てみたり、途中で一度帰ってきたり……。
やはり、アシェル様はお疲れなのだろう。それ以外に思い浮かぶ理由がない。
「さて、一緒に食事するとしよう。さあ、フィリア、座りなさい」
兄が自分の左隣の席を引いて私を座らせた。
「もちろん、アシェル殿も朝食を食べるのだろう?」
「ええ」
「んん? どうしてそんなに離れて座るんだ。俺たちは家族だろう、もっと近くに座った方が良いと思うが」
「カインお兄様!」
辺境伯家では、家族は仲良く並んで、あるいは向かい合って食事をする。
けれど、このお屋敷に来てから並んで座るなんてことは一度もなかった。
「ほら、貴殿の席はここだ」
それだけ言うと兄はさっさと元の席に座って、アシェル様を促す。
しばらく立ちすくんでいたアシェル様が、おもむろに私の左隣に座った。
三人並んで席に座ると、私とアシェル様の分の食事が運び込まれる。
カチャカチャと小さな音が響く……。
チラリと横目に見たアシェル様は、今日も優雅に食べている。
いつも寂しく感じていたけれど、誰かが近くに座っているだけで食事がおいしく感じる。
アシェル様は食事を終えると立ち上がった。
私も一緒に立ち上がり、そのまま後ろについて行く。
(見送りをしてほしいと言っていたものね)
アシェル様は、玄関に着くと振り返って私の髪を一房持ち上げた。
そして、口づけする仕草をした。
「!?!?!?」
「……いってくる、フィリア」
嬉しそうに微笑んだアシェル様の笑顔は、今まで見たどの笑顔とも違う……気がした。
「フィリア?」
「あっ、あの!? いってらっしゃいませ!!」
「ああ……今日こそ早めに帰るから」
それだけ言うと、アシェル様は足早に出掛けていく。
私はいつもと違うアシェル様の様子に混乱しながらその背中を見送るのだった。
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