19 / 22
手がかりと焦げた香り
しおりを挟む***
「しばらく、戻ってこられない」
「え!?」
どんなに真夜中であろうと、必ず家に帰ってきていたディル様から、その言葉は、その日突然告げられた。
「やらなければいけない執務がある」
「そ、そうなんですね」
この状況での外出は危険だからと、一人の時には図書室にこもってばかりいる。
このままでは、今日も心臓のあたりでうごめきながら、明らかに育ちつつある黒い蔦を解決するどころか、私に移すことすら出来ないのではないかと、焦りばかりが募っていく。
「――――私」
「そんな顔して、そんなにさみしいの?」
私を見下ろすディル様は、余裕の表情だ。
夜会に参加したり、ディル様と一緒に最低限の社交をこなしているうちに、二ヶ月が経ってしまった。
あと、四ヶ月しかない……。
「さみしいですけど、そうじゃなくて」
「俺の余命のこと?」
「……それは」
本人に面と向かって言われてしまえば、頷くことすら出来ずに鼻がツーンッとしてしまう。
「……進展がないわけではない」
「えっ!」
「大丈夫、ちゃんと守ってみせるから」
「え?」
今日も額に口づけが落ちてくる。
一瞬、聞き逃してしまいそうになったけれど、自分の呪いを解決するのではなく、なぜか私を守ろうとしているように聞こえてしまった。
「ルエダを護衛に置いていくから」
「あの、ディル様!」
「……もう、行かないと。何かあったら、王城にいるから、ルエダに取り次ぎを依頼して」
「わ、分かりました……」
少しの拒絶を感じてしまい、大人しく部屋に戻ろうとした時、ルエダ卿が執務室に入っていくのを見た。
護衛をしてもらうのだから挨拶をしなくては、と思い追いかけていく。
「ルエダ卿……!」
振り向いたルエダ卿は、一冊の本を手にしていた。
「……それ」
「ああ、見られてしまいましたか……。我が主が、ここに隠していたようですね」
「神殿で見つけた本……」
火事のせいで持ち出せなかったと思っていた本は、なぜかルエダ卿の手の中にあった。
「主は隠したかったようですが……。俺も、忠誠を捧げた身としては、なんとかして守りたいのです」
「……それ、私にも見せて貰えませんか」
「俺に主を裏切れと?」
「そ、それは……。でも、私、どんな方法を使ってもディル様を助けたいんです!!」
しばらくの間、私たちはまっすぐ見つめ合っていた。
でも、命をかけたって、何をしたってディル様を守りたい。それしか考えられなかった。
「……主に殺されてしまいそうですが、負けました」
「えっ! それでは!!」
「主の不在は三日間だけと伺っています。その間だけですよ?」
「もちろんです!!」
ルエダ卿から受け取ったその本は、ほんの少し焦げ臭い匂いがする。
そんなことを気にする余裕もないまま、ようやく手に入れた手がかりを私は抱きしめたのだった。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
789
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる