【完結】白い結婚成立まであと1カ月……なのに、急に家に帰ってきた旦那様の溺愛が止まりません!?

氷雨そら

文字の大きさ
3 / 33

白い結婚成立直前に旦那様が帰ってきました 3

しおりを挟む

 翌朝になってもウェルズ様は帰ってくることがなかった。
 やはり放置されるのかと半ば諦めて職場に向かう。
 しかし、第三王子の執務室が異常なほど騒がしい。

(……既視感。嫌な予感がする)

 そっと覗いてみると、なぜかウェルズ様がマークナル殿下の胸元を掴んで宙に浮かせていた。
 私は慌てながら二人のそばに駆け寄る。
 いくら永きに渡った隣国との戦いに終止符を打った英雄とはいえ、王族に対する不敬が許されるはずもない。

(どうして……!? ウェルズ様はとても物静かで、誰かに暴力を振るうような人ではなかったのに!!)

 私が間に入ると、ウェルズ様は悪いことをして見つかった子どものような顔をした。

(そんな顔をするぐらいならしないでほしい)

 そう思いながら床に尻餅をついたマークナル殿下のそばにしゃがみ込む。

「マークナルの味方をするのか」
「え?」

 なぜか私のことを責めるような口調になったウェルズ様。
 このような現場を見れば、怪我をしたかもしれない第三王子殿下を誰もが心配するに違いない。

「そうさ。君がいない3年、俺と彼女の距離は近づいた」
「ま、マークナル殿下!?」

 マークナル殿下まで根も葉もないことを言いだしたことに驚き、私はうろたえた。

「……っ」

 ウェルズ様が私に縋るような目を向けた。
 彼がこんな顔をすることがあるなんて想像もしていなかった私は再び内心うろたえた。

「……少し頭を冷やしてくる」
「……ウェルズ様?」

 うなだれて部屋を去っていったウェルズ様。気がつけば彼の背中を追いかけていた。

 ――王宮の外れに彼は一人で立っていた。

(この場所は……)

 この場所は私とウェルズ様が初めて出会った場所だ。
 魔力がない私は実家でいないもののように扱われていた。
 ようやく王立学園を卒業し、下級事務官として勤め始めた私と、当時はまだ隊長の職に就いたばかりだったウェルズ様。
 男らしく素敵な騎士様に私は一目惚れをした。
 そんな騎士様が私に結婚を申し込んでくれた日は、夢の中にいるのではないかと思ったものだ……。

「カティリアには、帰って早々情けないところばかり見せているな」
「……ウェルズ様」
「だが、こんなにも会いたかったのは俺だけか」

 その言葉に私は衝撃を受けた。そして同時に、それならどうして手紙の一つも寄越してくれなかったのかと詰め寄りたくなる。
 けれど、私が口を開くよりウェルズ様が私の肩を掴んで口を開く方が先だった。

「……1カ月だ」
「え?」
「残り1カ月でもう一度俺に振り向いてもらう……。覚悟してくれ」
「はい?」

 肩を掴まれて額に落ちてきたのは、夫婦と言うにはあまりに遠慮がちな口づけだ。

 その時、遠くからウェルズ様を呼ぶ声がした。
 目を向けると、遠くで副団長がウェルズ様を探しているのが見えた。

「戦後処理を終えたら帰るから、屋敷で待っていてくれ」
「は……はい」

 あまりに深刻なウェルズ様の表情に、私は先ほど告げようとした言葉を忘れてただコクコクと頷いた。

「良かった」

 ウェルズ様がこちらに春の日差しのような笑顔を向ける。
 私は呆然としながら額を押さえてその場にしゃがみ込む。

(どうなっているの!?)

 去って行くウェルズ様は、私が知っている彼とはあまりに違う。
 私はその背中が見えなくなるまでぼんやりとその姿を追っていた。

 ***

 屋敷に帰ると、使用人が総入れ替えされていた。

(あら……? 入れ替わる前にいた使用人たちよね)

 私がウェルズと結婚するために挨拶に行った時に出迎えてくれた使用人たちが全てとはいかないが揃っていた。
 そしてあっという間にバスルームに連れ去られ、至れり尽くせりの待遇を受ける。
 本来であれば侯爵家夫人として当然の扱いだろう。
 けれど、子どものころから自分のことは自分でするのが当たり前だった私にとってはとても恥ずかしいことだった。

 抵抗しても無駄だと言うことに気がつき、身を任せる。
 ぐったりしている私に、淡い花の香りの香油が塗りたくられ、気がつけば少々心許ない薄さの部屋着へと着せ替えられていた。

 白い結婚認定まであと一ヵ月……。
 粛々と迎えようと思っていたその日が、ずいぶん遠く感じるのだった。
 
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

年下の婚約者から年上の婚約者に変わりました

チカフジ ユキ
恋愛
ヴィクトリアには年下の婚約者がいる。すでにお互い成人しているのにも関わらず、結婚する気配もなくずるずると曖昧な関係が引き延ばされていた。 そんなある日、婚約者と出かける約束をしていたヴィクトリアは、待ち合わせの場所に向かう。しかし、相手は来ておらず、当日に約束を反故されてしまった。 そんなヴィクトリアを見ていたのは、ひとりの男性。 彼もまた、婚約者に約束を当日に反故されていたのだ。 ヴィクトリアはなんとなく親近感がわき、彼とともにカフェでお茶をすることになった。 それがまさかの事態になるとは思いもよらずに。

【完結】騎士団長の旦那様は小さくて年下な私がお好みではないようです

大森 樹
恋愛
貧乏令嬢のヴィヴィアンヌと公爵家の嫡男で騎士団長のランドルフは、お互いの親の思惑によって結婚が決まった。 「俺は子どもみたいな女は好きではない」 ヴィヴィアンヌは十八歳で、ランドルフは三十歳。 ヴィヴィアンヌは背が低く、ランドルフは背が高い。 ヴィヴィアンヌは貧乏で、ランドルフは金持ち。 何もかもが違う二人。彼の好みの女性とは真逆のヴィヴィアンヌだったが、お金の恩があるためなんとか彼の妻になろうと奮闘する。そんな中ランドルフはぶっきらぼうで冷たいが、とろこどころに優しさを見せてきて……!? 貧乏令嬢×不器用な騎士の年の差ラブストーリーです。必ずハッピーエンドにします。

【完】夫から冷遇される伯爵夫人でしたが、身分を隠して踊り子として夜働いていたら、その夫に見初められました。

112
恋愛
伯爵家同士の結婚、申し分ない筈だった。 エッジワーズ家の娘、エリシアは踊り子の娘だったが為に嫁ぎ先の夫に冷遇され、虐げられ、屋敷を追い出される。 庭の片隅、掘っ立て小屋で生活していたエリシアは、街で祝祭が開かれることを耳にする。どうせ誰からも顧みられないからと、こっそり抜け出して街へ向かう。すると街の中心部で民衆が音楽に合わせて踊っていた。その輪の中にエリシアも入り一緒になって踊っていると──

殿下が好きなのは私だった

恋愛
魔王の補佐官を父に持つリシェルは、長年の婚約者であり片思いの相手ノアールから婚約破棄を告げられた。 理由は、彼の恋人の方が次期魔王たる自分の妻に相応しい魔力の持ち主だからだそう。 最初は仲が良かったのに、次第に彼に嫌われていったせいでリシェルは疲れていた。無様な姿を晒すくらいなら、晴れ晴れとした姿で婚約破棄を受け入れた。 のだが……婚約破棄をしたノアールは何故かリシェルに執着をし出して……。 更に、人間界には父の友人らしい天使?もいた……。 ※カクヨムさん・なろうさんにも公開しております。

私が嫌いなら婚約破棄したらどうなんですか?

きららののん
恋愛
優しきおっとりでマイペースな令嬢は、太陽のように熱い王太子の側にいることを幸せに思っていた。 しかし、悪役令嬢に刃のような言葉を浴びせられ、自信の無くした令嬢は……

【完結】どうやら時戻りをしました。

まるねこ
恋愛
ウルダード伯爵家は借金地獄に陥り、借金返済のため泣く泣く嫁いだ先は王家の闇を担う家。 辛い日々に耐えきれずモアは自らの命を断つ。 時戻りをした彼女は同じ轍を踏まないと心に誓う。 ※前半激重です。ご注意下さい Copyright©︎2023-まるねこ

【完結】墓守令嬢は黒幕貴公子の溺愛に気付かない

三矢さくら
恋愛
結局のところ、貴族令嬢の運命など後ろ盾次第だ。 幼くしてお母様を亡くし、公爵だったお父様を12歳で亡くして5年。 わたし、公爵令嬢フェリシア・ストゥーレは、よく持ちこたえた方だと思う。 婚約者の第3王子に婚約破棄を突きつけられ、お飾り同然の結婚をしたわたし。 嫁ぎ先から向かったのは、亡き両親の眠る辺境の地。 3年ぶりに眼鏡をかけ、大好きな本に囲まれて過ごすうちに、どうやら、わたしは夫に溺愛されているらしい。 けれど、生憎とわたしはまったく気付かない。 なぜって? 本が面白くて、それどころじゃないから! これは、亡き両親の墓守をしながら、第2の人生を謳歌しようとした公爵令嬢の物語。 ......え? 陰謀? 何か企んでるんじゃないかって? まさか、まさか。 わたしはただ、静かに暮らしたいだけですのよ?

いくら政略結婚だからって、そこまで嫌わなくてもいいんじゃないですか?いい加減、腹が立ってきたんですけど!

夢呼
恋愛
伯爵令嬢のローゼは大好きな婚約者アーサー・レイモンド侯爵令息との結婚式を今か今かと待ち望んでいた。 しかし、結婚式の僅か10日前、その大好きなアーサーから「私から愛されたいという思いがあったら捨ててくれ。それに応えることは出来ない」と告げられる。 ローゼはその言葉にショックを受け、熱を出し寝込んでしまう。数日間うなされ続け、やっと目を覚ました。前世の記憶と共に・・・。 愛されることは無いと分かっていても、覆すことが出来ないのが貴族間の政略結婚。日本で生きたアラサー女子の「私」が八割心を占めているローゼが、この政略結婚に臨むことになる。 いくら政略結婚といえども、親に孫を見せてあげて親孝行をしたいという願いを持つローゼは、何とかアーサーに振り向いてもらおうと頑張るが、鉄壁のアーサーには敵わず。それどころか益々嫌われる始末。 一体私の何が気に入らないんだか。そこまで嫌わなくてもいいんじゃないんですかね!いい加減腹立つわっ! 世界観はゆるいです! カクヨム様にも投稿しております。 ※10万文字を超えたので長編に変更しました。

処理中です...