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王家の地下牢と狼 5
しおりを挟む『ガウッ!』
問いただそうとしたけれど、それよりも早く何かを見つけた白い狼は一目散に駆けていった。
そこにいたのは息を切らせたアイリス殿下だった。
『ワッフゥ!!!!!!』
「カティリア……無事で良かっ……わわ!?」
白い狼に押し倒されたアイリス殿下は、ベロベロと顔中を舐められている。
手足をバタバタしていたけれど、途中で抵抗してモフ無駄だと思ったのか、アイリス殿下は笑いながら舐められている。
「くっ、くすぐったい! わんちゃん!」
その声音は年頃の少女のものだ。
けれど、尻尾を千切れんほどに振っていた狼は、その言葉にピタリと動きを止めた。
『キュウウゥン!!』
「……え、あの?」
『ガウッ! ガウウッ!』
「……あれ? 紫色の目をしているのね、私と同じ……精霊様?」
『ガルゥ!』
「ということは、犬じゃなくて狼なのね」
『ガッルゥ!!』
狼は再び尻尾を振り始めた。
言葉を喋ることもできないし、先ほどの場所で見た空前絶後の美男子と同じ存在だとはとても思えない。
「……本当に精霊なのか? 先ほどまで感じていた力の欠片も感じないが……」
ウェルズ様が、よろよろと立ち上がった。
足下がおぼつかないのは、私を助けようと魔力を全て使ってしまったからなのだろう。
(自然回復するとともに火花に包まれていた……もし、もっと早く魔力が回復していたら)
以前私を助けようと伸ばされた手が、酷く傷ついていたのを思い出して私は身震いする。
『……ガルゥ』
精霊様はウェルズ様をしばらく不機嫌そうに眺めたあと、あからさまにそっぽを向いた。
「精霊様に嫌われたようだな……いや、今はなんの力も持たないただの犬にしか見えないが」
『……ガルルル』
普通の狼と明らかに違うのは、私たちの言葉を理解していることだろう。
何が起こったのかわからないけれど、確かに狼は精霊様に違いない。
「……あのときも、今も、精霊様が助けてくださったのですよね」
『ガルゥ』
「……深く感謝いたします」
『……』
ウェルズ様は膝をつき剣を掴んだまま地面に立てた。そしてそのままもう片方の手を胸に当て頭を深く下げる。
それは普段であれば国王陛下相手にしか見せない尊きものに対する騎士の最上の礼だ。
『はあ……』
「!?」
一瞬だけ精霊様が人間のようなため息をついた気がした。けれど目をこらしてみてもその姿はやはりただの白い狼だ。
白い狼はウェルズ様の頭にお手をするように前脚をのせた。何とも締まらない光景だけれど、よくよく見れば精霊様がウェルズ様に祝福を与えているように見えなくも……ない。
ウェルズ様は今度こそユルユルと起き上がると私のそばにより、抱きしめてくる。
「あれからまた、1週間経っている」
「そんなに……? ほんの一瞬だったのに」
「……会いたかった」
「私もです」
ずっとそばにいたような気がするけれど、こんなふうに抱きしめられれば温かく、ようやく再会できたようにも思えて、不覚にも涙が流れてしまうのだった。
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