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幸せ夫婦と精霊石 1
しおりを挟む精霊が落としたのは、王位継承を示す精霊石だった。先々代国王陛下以来、精霊石を手にすることができた者はいなかった。
だから世代を超えて受け渡されてきた国王の証。
初代国王陛下の精霊石、あるいは自ら手に入れた精霊石を持つ者が王位につくのが慣わしだ。
青い大きな精霊石をマークナル殿下が拾い上げると、魔法陣が生み出す色とりどりの光は、まるで海の底みたいに全て青色に塗り替えられた。
粉々になってしまった精霊石の代わりに、マークナル殿下は新たな精霊石を手に入れた。
「どうしてマークナル殿下は精霊石を持っていたのですか?」
「曾祖父である先々代国王陛下は、自分と同じ瞳を持つ俺を王位につけたかったのだろう。自分がかつて手に入れた精霊石を俺に授けたんだ。だが、父王はこの場所に入ることが出来ない。精霊との繋がりよりも、実利を優先していた」
「そんなに大切なものをなぜ私に……」
「精霊に従うことが全てではないのだと、ウェルズに教えられたから……かな」
けれど、その言葉とは裏腹に、今新たな精霊石はマークナル殿下の手の中で眩く光り輝いている。
まるで新たな王位継承者を祝福するように……。
『ガウッガウッ!』
アイリス殿下に抱きしめられた白い狼が自分の存在を主張するように鳴く。
マークナル殿下は、精霊様の前に膝をついた。
「ただの犬だな」
『グルルル!!』
精霊様は怒りをあらわにした。
もちろん犬に例えられるのは我慢ならないということだろう。
次の瞬間、精霊様はアイリス様の方に前脚をのせて頬に鼻先を当てた。
次の瞬間、白い狼は美しい少年の姿になった。
「「「……は?」」」
間が抜けた声は、いったい誰のものだっただろう。
「狼ちゃんが男の子になった!?」
アイリス殿下が子どもらしい叫びを上げる。
その声に美麗すぎる少年が唇の端をニヤリとつり上げた。
「やはり……私の魔力を継いでいるな」
「えっと、あの??」
「我が名はディアード。我が子孫よ、この世界にいる間、魔力をわけておくれ?」
「……ええ!! いいわ!!」
そっと手を握り合って微笑む見目麗しい姫と少年。それはあまりに可愛らしい光景だ。
「さて、契約は成った」
「今の契約なの!?」
私の叫び声は地下牢に響き、そして消えた。
慌てて手を繋ぐ二人のそばに走り寄る。
「それはそうだろう。精霊と人が結びつく術、それは契約以外にない」
「で、でも子どもが決めたことで、そんな重大なこと」
「いや、この少女は賢い。理解しているさ……それに……わからないか?」
その言葉にアイリス殿下の顔をジッと見つめる。
変化なんてなくて、私にはまったくわからない。
助けを求めるように後ろを振り返れば、マークナル殿下とウェルズ様が瞠目していた。
二人にはわかったらしい。アイリス殿下に視線を向ければニッコリ微笑まれた。どうも私だけがわかっていないらしい。
「それにマークナルと言ったか? お前もその精霊石があれば」
「……精霊様に感謝を捧げます」
結局私だけが理由がわからないまま、とりあえずマークナル殿下の執務室へと向かうことになったのだった。
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