海嶺の花

箕冬

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 「時に光風こうふう君よ、海の側うみ そくってあると思うかね?」

 僕の1学年上の先輩、大学4年のたちばな 凛花りんかは講義室203の教卓に手をついて‘単位を与えない’で嫌われ者のはずれ教授Sの物真似をしながら聞いてくる。

今は動物も寝静まるような深夜だ、当然僕ら以外に人は居ない。講義室の電気をつけず僕らは月明りで照らされていた。

「どうですかね」

彼女の正面、横長机の真ん中に座る僕は答える。彼女の感性は独特だ。普通は海の側面に考えを及ぼすことなんてない。僕だってそうだ、だからどうですかねと曖昧に返すのだ。

彼女は僕の何も明確ではない答えに不満気な表情をつくる。

「君は無気力だ、あぁ対話が恋しい私は」
「僕に対話を望まないでください。貴女ほど学がない、きっと満足させられませんよ」

彼女は不満気な表情からすねた表情へと進化した。テレビでよく見るぶりっ子タレントのように頬を膨らます。

「すみませんってすねないでくださいよ」

彼女は頬をへこますと言う。

「…言葉が足りなかったね、私は君との対話が恋しいんだよ」

大変可愛らしい人だ。

「…あんまり難しい話題はやめてくださいよ」

彼女の表情が晴れる。

「じゃ海の底に何があるのかについてだね、私の考えは…」
「ちょっと、難しいですよ」

彼女は橘 凛花は一通り笑うと艶やかな藍髪を月に照らし窓から夜空を見上げた。
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