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新章 溺愛編
スノーフォレストとフルール王国
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スノーフォレストがレッドキングダムの傘下に入って、幾久しい。
一応、国王であるマシューは、医師でもあり科学者でもある。
資源の少ないこの国では、技術で勝負するしかない。
今や、この国は、各国から高度な治療を求めて人が集まる医療大国であり、原材料を仕入れて高度な機械を製造し輸出する機械大国になった。
最初のうちは、PRのためにもマシュー自らが各国に出向いて、直接医術を施したりなどしていたが、今は、よほどの間柄でなければ、部下を派遣している。
各国にも、スノーフォレスト系列の病院が出来、最新の医術を学ぶ学生も増えてきたので、そのうち、標準化すると思っている。
そのときに売りを失わないためにも、スノーフォレストは常に進化し続けなければならない。
「ふー。」
業務の合間にコーヒーを飲みながら、目頭をマッサージする。
もうすぐ40代に差し掛かるマシューは、日夜国のために働き詰めだが、跡取りどころか伴侶さえいない。
かつてこの国に巣食っていた女王に、婚約者を惨殺されたからだ。
本当に、心の底から愛している女性だった。
あれから何年も経過して最近では思い出になりつつあるが、彼女を失った悲しみで、とても結婚のことなど考えていられなかった。
多くのカップルにかかわって、多くの子を取り上げたのに、自分の子はいない。
それでもいいか、とマシューは思っていた。
そのうち王制を廃止して、国民の選挙で代表を選んでもいいな。
どのみち、自分の他の王族も皆殺しにあっている。貴族も全滅だ。
自分だけが、意地汚く生き残った。
いつか、あの女王を倒すために。
「さて、今日はフルールの使者が来るんだったな。新しい特選品のための技術支援、か。」
応接間に行くと、豪奢なブロンドヘアーの落ち着いた美女が座っている。
「はじめまして。私、バイオレット=フルール。フルール王国の第15王女です。」
ブロンドヘアーに緑の目。
表情に知性が宿る、意志の強い顔。
どことなく、失った婚約者を思い出させる。
「我が国にどのような支援をお求めですか?」
「それでは、こちらを召し上がって。さきほどこちらのキッチンをお借りして、作ってまいりましたの。」
王女がスッと差し出したそれは、白い、ひんやりとした丸いもの。
透明なグラスに盛られている。
スプーンを入れ、口に入れる。
甘い。
冷たい。
「おいしいですね。」
「アイスクリーム、と申します。我が国は酪農国。こちらも牛の乳でできていますの。きっと、どこの国の方にも喜ばれると思うのですが、問題があって。」
「凍らせて作ったものだから、すぐ溶けてしまうんですね。これじゃあ店頭に販売するのはしんどいな。」
「医療用に、凍らせて保存する容器をお持ちなのでしょう?それの、アイスクリーム版を作っていただきたいの!」
王女は知的な人だ。
話が合う。
聞けば、母親は地域の医師だったという。
だから、私の話す医療の話も、興味があるように楽しそうに聞いてくれた。
医師の母は平民だったから、王位継承も関係ない。
城での立場も悪く、一時期は馬鹿な娘を演じていることもあったらしい。
だが、頭角を現してからは、相変わらず王位とは無縁だが、父親の信頼も得られるようになって、今では、国と国との商売を任されているのだそうだ。
「まあ、それでは将来は王制を廃止しようと?」
そう打ち明けると、王女は感心してくれた。
「良いと思いますわ。」
春の菫の花ような笑顔が、私の心の雪を溶かしていく、そんな気がする。
一応、国王であるマシューは、医師でもあり科学者でもある。
資源の少ないこの国では、技術で勝負するしかない。
今や、この国は、各国から高度な治療を求めて人が集まる医療大国であり、原材料を仕入れて高度な機械を製造し輸出する機械大国になった。
最初のうちは、PRのためにもマシュー自らが各国に出向いて、直接医術を施したりなどしていたが、今は、よほどの間柄でなければ、部下を派遣している。
各国にも、スノーフォレスト系列の病院が出来、最新の医術を学ぶ学生も増えてきたので、そのうち、標準化すると思っている。
そのときに売りを失わないためにも、スノーフォレストは常に進化し続けなければならない。
「ふー。」
業務の合間にコーヒーを飲みながら、目頭をマッサージする。
もうすぐ40代に差し掛かるマシューは、日夜国のために働き詰めだが、跡取りどころか伴侶さえいない。
かつてこの国に巣食っていた女王に、婚約者を惨殺されたからだ。
本当に、心の底から愛している女性だった。
あれから何年も経過して最近では思い出になりつつあるが、彼女を失った悲しみで、とても結婚のことなど考えていられなかった。
多くのカップルにかかわって、多くの子を取り上げたのに、自分の子はいない。
それでもいいか、とマシューは思っていた。
そのうち王制を廃止して、国民の選挙で代表を選んでもいいな。
どのみち、自分の他の王族も皆殺しにあっている。貴族も全滅だ。
自分だけが、意地汚く生き残った。
いつか、あの女王を倒すために。
「さて、今日はフルールの使者が来るんだったな。新しい特選品のための技術支援、か。」
応接間に行くと、豪奢なブロンドヘアーの落ち着いた美女が座っている。
「はじめまして。私、バイオレット=フルール。フルール王国の第15王女です。」
ブロンドヘアーに緑の目。
表情に知性が宿る、意志の強い顔。
どことなく、失った婚約者を思い出させる。
「我が国にどのような支援をお求めですか?」
「それでは、こちらを召し上がって。さきほどこちらのキッチンをお借りして、作ってまいりましたの。」
王女がスッと差し出したそれは、白い、ひんやりとした丸いもの。
透明なグラスに盛られている。
スプーンを入れ、口に入れる。
甘い。
冷たい。
「おいしいですね。」
「アイスクリーム、と申します。我が国は酪農国。こちらも牛の乳でできていますの。きっと、どこの国の方にも喜ばれると思うのですが、問題があって。」
「凍らせて作ったものだから、すぐ溶けてしまうんですね。これじゃあ店頭に販売するのはしんどいな。」
「医療用に、凍らせて保存する容器をお持ちなのでしょう?それの、アイスクリーム版を作っていただきたいの!」
王女は知的な人だ。
話が合う。
聞けば、母親は地域の医師だったという。
だから、私の話す医療の話も、興味があるように楽しそうに聞いてくれた。
医師の母は平民だったから、王位継承も関係ない。
城での立場も悪く、一時期は馬鹿な娘を演じていることもあったらしい。
だが、頭角を現してからは、相変わらず王位とは無縁だが、父親の信頼も得られるようになって、今では、国と国との商売を任されているのだそうだ。
「まあ、それでは将来は王制を廃止しようと?」
そう打ち明けると、王女は感心してくれた。
「良いと思いますわ。」
春の菫の花ような笑顔が、私の心の雪を溶かしていく、そんな気がする。
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