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カルテ25:カチこむ
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「雉野先輩、それじゃ俺。しばらく店休みます。」
『おお。惚れたオンナ取り戻してこい。』
「これで店の方はよし、と。大学の方は桃井、頼んだ。」
「オッケー。他の学生にも頼んで二人の分のノートも取っとくよ。」
「向こうではワシの本体と狛が合流した。狛に結界が譲渡されるのを遅らせられるよう粘ってみよう。さあ、ワシに権限があるうちだ、行くぞ!」
気合い入れた白の特攻服。メリケンサックも念のため持った。
飛行機と船を乗り継いでしか行けない島は、狐太郎にとっては一瞬で行ける場所だ。
「わしに捕まっておれ!岐里!文!」
狐太郎がぐっと踏み込み跳ねる。
「うわ、ああ。わあ!」
「ははは、手を離すと危険じゃぞ!お姫様抱っこされたくなくば、しがみついておれ。なあに、あっという間じゃ。」
何もないように見える海岸線。
手で三角を作った狐太郎が覗くと、一瞬にして鳥居が現れた。
「さあくぐるぞ、文!ついてまいれ!」
「あ、あああ!」
薄暗い部屋―――――――。
狭い格子戸から見える外の景色と光。
その中に、赤い袴と金髪のその人はいた。
「狐太郎様?」
「狛。すまないね。」
「俺、後継だって…、もう、アヤに会えない…?いやだ、そんなの、いやだよぅ…。」
ぽろぽろと涙がこぼれる。
「狛、泣かないでおくれ。きっと、大丈夫じゃから……。」
「狐太郎様。早く長さまに引継ぎを。」
暗闇に白装束が現れる。
「牙狼。少しの間くらい待てぬのか。長になったら、家族にすらもう会えぬ。ワシも長になった時はまだ18になったばかりの子どもじゃった。年上の黒波に甘えて……。母の凶行にも気づかず…。黒波の願いだからと他の妻と子をもうけて黒波に抱かせてやろうと。今思えば、なんと幼く、愚かで、不義理な男だったのじゃろうか。狛はワシより幼い。せめて親に会う時間くらい与えてやりたい。」
「ならば、祝言の時に呼びましょう。引継ぎはその後にでも。」
「なっ!」
「狛様は人間の男に心残りがあるご様子。ならば、なるべく早く忘れていただかなくては。」
牙狼がパチンと指を鳴らせば、見栄えのいい男が現れた。
「彼はかのアヌビス神の一族です。狛様にお似合いの婿でしょう?」
褐色の肌にエキゾチックな長身の美形。
惚れ惚れするほどのイケメンだけど……。
「やだ!俺のアヤの方がカッコいいもん!」
「アヤ?そんな人間より俺の方がいい男だろう?今夜分からせてやるよ。俺じゃなければ嫌だ、ってくらいに。」
「牙狼!」
「元長は黙っていてください!とっとと譲り渡せ。その後で、私が殺してあげますよ。早く死にたかったのでしょう?黒波も待っていますよ…。」
「牙狼……。」
いやいや、と泣き叫ぶ狛を白装束が運ぶ。
―――――――くそっ。
自分の足を見る。
結界に紐づけられ、拘束された光の環。
分身ならば飛べるのに。
分身ならば自由なのに。
分身を生み出せるようになったのも、1000年生きたくらいの頃だった。
そして、結界に力の殆どを使っているために、生み出せる分身も1体のみ。
狛を救えない自分を歯がゆく思い、本体は分身に想いを託す。
『おお。惚れたオンナ取り戻してこい。』
「これで店の方はよし、と。大学の方は桃井、頼んだ。」
「オッケー。他の学生にも頼んで二人の分のノートも取っとくよ。」
「向こうではワシの本体と狛が合流した。狛に結界が譲渡されるのを遅らせられるよう粘ってみよう。さあ、ワシに権限があるうちだ、行くぞ!」
気合い入れた白の特攻服。メリケンサックも念のため持った。
飛行機と船を乗り継いでしか行けない島は、狐太郎にとっては一瞬で行ける場所だ。
「わしに捕まっておれ!岐里!文!」
狐太郎がぐっと踏み込み跳ねる。
「うわ、ああ。わあ!」
「ははは、手を離すと危険じゃぞ!お姫様抱っこされたくなくば、しがみついておれ。なあに、あっという間じゃ。」
何もないように見える海岸線。
手で三角を作った狐太郎が覗くと、一瞬にして鳥居が現れた。
「さあくぐるぞ、文!ついてまいれ!」
「あ、あああ!」
薄暗い部屋―――――――。
狭い格子戸から見える外の景色と光。
その中に、赤い袴と金髪のその人はいた。
「狐太郎様?」
「狛。すまないね。」
「俺、後継だって…、もう、アヤに会えない…?いやだ、そんなの、いやだよぅ…。」
ぽろぽろと涙がこぼれる。
「狛、泣かないでおくれ。きっと、大丈夫じゃから……。」
「狐太郎様。早く長さまに引継ぎを。」
暗闇に白装束が現れる。
「牙狼。少しの間くらい待てぬのか。長になったら、家族にすらもう会えぬ。ワシも長になった時はまだ18になったばかりの子どもじゃった。年上の黒波に甘えて……。母の凶行にも気づかず…。黒波の願いだからと他の妻と子をもうけて黒波に抱かせてやろうと。今思えば、なんと幼く、愚かで、不義理な男だったのじゃろうか。狛はワシより幼い。せめて親に会う時間くらい与えてやりたい。」
「ならば、祝言の時に呼びましょう。引継ぎはその後にでも。」
「なっ!」
「狛様は人間の男に心残りがあるご様子。ならば、なるべく早く忘れていただかなくては。」
牙狼がパチンと指を鳴らせば、見栄えのいい男が現れた。
「彼はかのアヌビス神の一族です。狛様にお似合いの婿でしょう?」
褐色の肌にエキゾチックな長身の美形。
惚れ惚れするほどのイケメンだけど……。
「やだ!俺のアヤの方がカッコいいもん!」
「アヤ?そんな人間より俺の方がいい男だろう?今夜分からせてやるよ。俺じゃなければ嫌だ、ってくらいに。」
「牙狼!」
「元長は黙っていてください!とっとと譲り渡せ。その後で、私が殺してあげますよ。早く死にたかったのでしょう?黒波も待っていますよ…。」
「牙狼……。」
いやいや、と泣き叫ぶ狛を白装束が運ぶ。
―――――――くそっ。
自分の足を見る。
結界に紐づけられ、拘束された光の環。
分身ならば飛べるのに。
分身ならば自由なのに。
分身を生み出せるようになったのも、1000年生きたくらいの頃だった。
そして、結界に力の殆どを使っているために、生み出せる分身も1体のみ。
狛を救えない自分を歯がゆく思い、本体は分身に想いを託す。
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