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恋におち愛が芽生えたとき

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母さんと2人、いつかこの家を出ていこうと思ってた。
出ていけたら何とかなるって。

だって、母さんは隣国シュヴァイツァー王国の貴族だったし、何より俺たちには才能があったから。

だけど、シュヴァイツァー王国とタリスマン王国との間で戦争が始まってしまって、俺たちは隣国にいる叔父さんたちを頼れなくなってしまった。



何でも第二王子のイスリス殿下がシュヴァイツァー王国の境界線を開拓して、そこをねぐらにしているモンスターが怒り、隣国に多大な被害を出してしまったらしい。


俺は細々と冒険者稼業で小銭を稼いでいたけれど、少し腕が立つといってもソロではたいして貯められず、ただでさえ情勢が不安定な中、成人後に自力で母さんと2人生きていくのは、リスクが高いと感じられた。



だから俺は………。

態と変装を解き、抑制剤を断って婚約者の前に出たのだ。



婚約者のスパイス=ビリヤニは、俺の『運命の番』で、優し気な青年だった。

だから…………。



「君は何もしなくていいんだよ。」

「ずっと僕の側にいておくれ。」

「君を誰にも見せたくないよ。」


最初はこそばゆいくらいに愛されていると思った言葉が、段々恐怖になっていく。

俺はただ愛されて、抱かれて、子どもを産めばいいの?

スパイスの隣でほほ笑んでいるだけでいいの?

余計なことはしちゃだめって、何が余計なの?

出入りの業者や使用人と話をしているだけで、髪を掴まれ部屋に閉じ込められて折檻された。

スパイスは俺とお母様を引き離し、お母様をシュヴァイツァー王国に引き渡した。
それで、王国とのパイプを得て、もしこの国がだめになったら向こうに移住しようという。

お母様は俺がこんなふうに扱われていることを知らない。


ある時、黒髪の男の人が家の庭で倒れているのを見つけた。




「…………うっ、」


「だ、だいじょうぶ、ですか……。」

男の人は深手を負っている。
このままでは死んでしまう。

思わず、納屋に連れ込んだ。


「俺……回復魔法は苦手だけど……傷を塞ぐくらいなら…。」

よく見ると、菫色の瞳の素敵な人。

着ている服は汚れているけど、上物だ。


この人は一体……。



「戻らないといけないけど、ここに水と果物を置いておきます。起きたら食べてくださいね。そして見つかる前に出て行ってください。うちの夫は嫉妬深いので………。」


言い残すと、頷くように少し手が動いた。




翌朝、彼は納屋からいなくなっていた。





でも、時々、こっそりとスパイスが仕事に出た後に来るようになった。


「今は連れていけない。でもきっと、迎えに来る。君を助けに来るから。」



俺たちは夢を語り、愛を語るようになっていた。






でも、彼は迎えに来なかった。

迎えに来ることが出来なかった。




ああ、アーサー。アーサー!アーサー!!!!!!愛してる!!








「もう君は逃げられない。逃げる足がない。離さないよ、ローゼ。僕の妻。」


違う。


ここは幻。



「お前は俺の運命じゃない。俺の運命は俺が決める。」





「そうだよ、ローゼ!」

決意した瞬間、愛するアーサーの声が聞こえた。




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