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人魚姫、婚約破棄される。
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カヌレ王国には、王子が二人いる。
一人は正妃の息子である王太子リチャード。
もう一人は側妃の息子である第二王子トール。
リチャードは、正妃譲りの金髪で、青い目の王子様。成績も優秀で、剣の腕も抜群。みんなに慕われ、カリスマ性のある存在。
トールは、側妃に似た黒髪と黒い目の王子様で、リチャードほど顔の彫りは深くなく、優秀ではあるが、図書室にいつも籠って何か研究じみたことをしているような地味な王子だった。
昔からこの二人を知っている人は、みな首を傾げる。
どちらかというと、幼少期。
活発でよく物事をはっきり言い、利発さでいつもみんなの中心にいたのはトールで、リチャードは体が弱く、いつもトールの影に隠れていたのだから。
そして、この二人の王子には幼馴染が一人いた。
艶のない赤毛を無造作に垂らし、前髪でいつも顔を隠して俯いている、陰気で一言もしゃべらないマリーン=ミルポット公爵令息。
そして、なぜかこの令息が、リチャードの婚約者なのだった。
18歳になり、リチャードは、なぜ一言もしゃべらない、顔も見せない、この男が。
いくら幼馴染で公爵家の者とはいえ自分の婚約者なのだろうと、疑問に思うようになっていた。
一緒にいても、とてもつまらない。
そして、うっすらと記憶に残る、初恋の少年のことが頭を離れなかった。
きらきらしていて、すごく声の綺麗な子だった。
歌が上手くて、トールと2人で取り合っていた。
そんな時、他国へ声楽の留学にいっていたグレイシャス侯爵の次男のビビアンが帰国し、城で歌ってくれることになった。
ハニーブロンドの巻き毛がふわりと柔らかそうで、白い肌と緑色の瞳が吸い込まれるように美しい。
そして何より、甘い蜜のような歌声を聴いて、リチャードは初恋の君が彼に違いない、と思うようになったのである。
「マリーン=ミルポット公爵令息。私はお前との婚約を破棄し、ビビアン=グレイシャス侯爵令息と婚約する!」
貴族の通う学園の最終年。
城で行われた卒業パーティで、リチャードはマリーンに婚約破棄を告げ、ビビアンの腰を抱いた。
「………。」
マリーンはうつむいたまま、何も言わない。
「お前はいつも何も言わない。私を見ない、会話をしない。亡霊のようにたたずんでいるだけのお前とは結婚できない。」
リチャードの腕の中のビビアンと、袖にいて王のそばに控えている宰相はほくそ笑んでいる。
マリーンは黙って、パーティ会場を出ようとした。
「待って!」
そこへ、奥からもう一人の王子が現れた。
トール王子!?
彼がこんなに走って慌てている姿も、こんなに大きな声を出している姿も、誰も見たことはなかった。
マリーンも驚いて、トールを見る。
「待たせたね、マリーン。やっと。やっと君にかけられた魔法を解くための薬が出来たんだよ。」
トールは胸ポケットからきらきらと輝く美しい試験管を取り出すと、マリーンに頭からふりかけた。
試験管の中に入っているキラキラは、宙を舞って、マリーンを優しく包んで溶けていく。
光の中、マリーンは【本当の自分】を取り戻していた。
「ああ…!トール、ありがとう!!」
鈴の音のように透き通る美しいボーイソプラノ。
背筋はしゃんと伸び、体型もスラリとして見栄えよく見える。
そして何より、艶のなかった赤毛は、さらりとして美しく。
顔をあげたその顔は、誰よりも華やかで美しかった。
マリーンの声に聞き覚えがあった。
リチャードは気が遠くなるのを感じた。
自分の初恋の人。その声に間違いなかった。
一人は正妃の息子である王太子リチャード。
もう一人は側妃の息子である第二王子トール。
リチャードは、正妃譲りの金髪で、青い目の王子様。成績も優秀で、剣の腕も抜群。みんなに慕われ、カリスマ性のある存在。
トールは、側妃に似た黒髪と黒い目の王子様で、リチャードほど顔の彫りは深くなく、優秀ではあるが、図書室にいつも籠って何か研究じみたことをしているような地味な王子だった。
昔からこの二人を知っている人は、みな首を傾げる。
どちらかというと、幼少期。
活発でよく物事をはっきり言い、利発さでいつもみんなの中心にいたのはトールで、リチャードは体が弱く、いつもトールの影に隠れていたのだから。
そして、この二人の王子には幼馴染が一人いた。
艶のない赤毛を無造作に垂らし、前髪でいつも顔を隠して俯いている、陰気で一言もしゃべらないマリーン=ミルポット公爵令息。
そして、なぜかこの令息が、リチャードの婚約者なのだった。
18歳になり、リチャードは、なぜ一言もしゃべらない、顔も見せない、この男が。
いくら幼馴染で公爵家の者とはいえ自分の婚約者なのだろうと、疑問に思うようになっていた。
一緒にいても、とてもつまらない。
そして、うっすらと記憶に残る、初恋の少年のことが頭を離れなかった。
きらきらしていて、すごく声の綺麗な子だった。
歌が上手くて、トールと2人で取り合っていた。
そんな時、他国へ声楽の留学にいっていたグレイシャス侯爵の次男のビビアンが帰国し、城で歌ってくれることになった。
ハニーブロンドの巻き毛がふわりと柔らかそうで、白い肌と緑色の瞳が吸い込まれるように美しい。
そして何より、甘い蜜のような歌声を聴いて、リチャードは初恋の君が彼に違いない、と思うようになったのである。
「マリーン=ミルポット公爵令息。私はお前との婚約を破棄し、ビビアン=グレイシャス侯爵令息と婚約する!」
貴族の通う学園の最終年。
城で行われた卒業パーティで、リチャードはマリーンに婚約破棄を告げ、ビビアンの腰を抱いた。
「………。」
マリーンはうつむいたまま、何も言わない。
「お前はいつも何も言わない。私を見ない、会話をしない。亡霊のようにたたずんでいるだけのお前とは結婚できない。」
リチャードの腕の中のビビアンと、袖にいて王のそばに控えている宰相はほくそ笑んでいる。
マリーンは黙って、パーティ会場を出ようとした。
「待って!」
そこへ、奥からもう一人の王子が現れた。
トール王子!?
彼がこんなに走って慌てている姿も、こんなに大きな声を出している姿も、誰も見たことはなかった。
マリーンも驚いて、トールを見る。
「待たせたね、マリーン。やっと。やっと君にかけられた魔法を解くための薬が出来たんだよ。」
トールは胸ポケットからきらきらと輝く美しい試験管を取り出すと、マリーンに頭からふりかけた。
試験管の中に入っているキラキラは、宙を舞って、マリーンを優しく包んで溶けていく。
光の中、マリーンは【本当の自分】を取り戻していた。
「ああ…!トール、ありがとう!!」
鈴の音のように透き通る美しいボーイソプラノ。
背筋はしゃんと伸び、体型もスラリとして見栄えよく見える。
そして何より、艶のなかった赤毛は、さらりとして美しく。
顔をあげたその顔は、誰よりも華やかで美しかった。
マリーンの声に聞き覚えがあった。
リチャードは気が遠くなるのを感じた。
自分の初恋の人。その声に間違いなかった。
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